音楽チートで世に絶望していたTS少女がSIDEROSの強火追っかけになる話   作:鐘楼

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小話なのでいつもとノリが違います


小話Ⅰ 詰められ魔王

「わぁ……」

 

配信での収益が加わり、なんだか今までとは桁が違う額の数字が刻まれた通帳を見て、他人事のような息が漏れる。これだけあっても、使い道がパッと浮かばないのは良いのか悪いのか。楽器やらは昔買い尽くしたのだ。そもそもこれ以上は場所がない。

 

「あ、優菜先輩」

「おはようみんな……あれ、ヨヨコちゃんは?」

 

あくびちゃんに声をかけられ、見ればそこにはSIDEROSのみんながいた……ヨヨコちゃん以外の。

 

「ちょうど良かったっす。ヨヨコ先輩ならこの中ですよ……面倒なんで後はよろしくっす」

「え? どういう……」

「ゆーちゃん先輩、頑張ってください!」

「ふ、ふーちゃん?」

「幽々たちわ〜外で見てますねぇ〜面白そうなので〜」

「面白い……?」

 

そんなことを言われながら、促されるままに扉の中へ。

 

そこには、スマホの画面を見つめて動かないヨヨコちゃんが、一人椅子に佇んでいた。私も、ヨヨコちゃん歴は結構長くなる。その経験からすると、今の彼女は、結構な不機嫌だ。それも、トゥイッターでリムられた?時より、若干。

 

「お、おはよう、ヨヨコちゃん」

「優菜……」

 

ご機嫌斜めなのは分かったが、その原因は見当もつかない。おそるおそる、私は彼女に向き合う形で椅子に座った。

 

「ねぇ」

「う、うん」

「U7の曲、配信始めたんだ」

「あ、そうだよ。なんか仲良くなったライターさんに押し切られちゃってさ、その人が親切でいっぱい作業手伝ってもらっちゃって……あれ、ヨヨコちゃん?」

 

……おかしい。とりあえず世間話を、と思って話したらさらに空気が冷えた気がする……。

 

「ゆーちゃん先輩……」

「バッドコミュニケーションってやつっす」

 

……聞こえてくる外野の声から推測するに、これは私が悪いらしい。

 

「……私もできたけど」

「え?」

「そういう手続き、私もできたんだけど!」

「あ、あー……SIDEROSは曲の配信積極的だもんね……」

 

これは……そうか。なんの相談もせずに配信を決め、報告も何もなかったことにご立腹なのか。ひいては、自分に頼って欲しかったってことなのかな……。

 

「その……ごめんね。本当に成り行きだったんだ。そうじゃなかったら、絶対にヨヨコちゃんを頼ってた…………多分」

「……優菜は私の作曲をいつも手伝ってくれるのに、私は優菜の為に何ができるんだろうっていつも思ってて……優菜は事務系が杜撰だから、そこでなら役に立てるんじゃないかって、それで……」

 

……ヨヨコちゃんは、そこに在るだけで私を照らしてくれているのに。役に立っていないだなんてとんでもない。私が歩けているのは、変わらず私と向き合ってくれる彼女が居てこそなのだから。でも……ヨヨコちゃんはそんな風に思っていたのか。

 

「あの──」

「で?」

「え?」

「そのライターって奴、どこで知り合ったの?」

「あ、あぁ……ほら、前のSIDEROSの練習の日、私が行かなかった時に結束バンドのライブで」

「私達の練習に来ないで、結束バンドのライブ……!?」

 

……あ。

 

「も〜! 今日のゆーちゃん先輩鈍いよぉ!」

「次々地雷を踏みますね……」

 

ま、まずい……100%正真正銘偶然なのに、言い方がまずかった! それにこの前「私が結束バンドに目移りするなんてありえない」だかなんだかそういった趣旨の話をしていた気がする!

 

「ねぇ……? 私だけのことを見るって、約束したはずなんだけど……?」

「ぐ、偶然! たまたま! 行ったライブに偶然結束バンドが出てたの!」

「そもそも、練習には毎回来て! 誰も優菜が居て迷惑だなんて思わないから!」

「い、いや、節度とかあるし部外者だし」

「だから! 誰も部外者だなんて思ってないから!」

 

……この後、あの日の出来事を洗いざらい喋らされたのだった。

 

 

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