音楽チートで世に絶望していたTS少女がSIDEROSの強火追っかけになる話 作:鐘楼
「わぁ……」
配信での収益が加わり、なんだか今までとは桁が違う額の数字が刻まれた通帳を見て、他人事のような息が漏れる。これだけあっても、使い道がパッと浮かばないのは良いのか悪いのか。楽器やらは昔買い尽くしたのだ。そもそもこれ以上は場所がない。
「あ、優菜先輩」
「おはようみんな……あれ、ヨヨコちゃんは?」
あくびちゃんに声をかけられ、見ればそこにはSIDEROSのみんながいた……ヨヨコちゃん以外の。
「ちょうど良かったっす。ヨヨコ先輩ならこの中ですよ……面倒なんで後はよろしくっす」
「え? どういう……」
「ゆーちゃん先輩、頑張ってください!」
「ふ、ふーちゃん?」
「幽々たちわ〜外で見てますねぇ〜面白そうなので〜」
「面白い……?」
そんなことを言われながら、促されるままに扉の中へ。
そこには、スマホの画面を見つめて動かないヨヨコちゃんが、一人椅子に佇んでいた。私も、ヨヨコちゃん歴は結構長くなる。その経験からすると、今の彼女は、結構な不機嫌だ。それも、トゥイッターでリムられた?時より、若干。
「お、おはよう、ヨヨコちゃん」
「優菜……」
ご機嫌斜めなのは分かったが、その原因は見当もつかない。おそるおそる、私は彼女に向き合う形で椅子に座った。
「ねぇ」
「う、うん」
「U7の曲、配信始めたんだ」
「あ、そうだよ。なんか仲良くなったライターさんに押し切られちゃってさ、その人が親切でいっぱい作業手伝ってもらっちゃって……あれ、ヨヨコちゃん?」
……おかしい。とりあえず世間話を、と思って話したらさらに空気が冷えた気がする……。
「ゆーちゃん先輩……」
「バッドコミュニケーションってやつっす」
……聞こえてくる外野の声から推測するに、これは私が悪いらしい。
「……私もできたけど」
「え?」
「そういう手続き、私もできたんだけど!」
「あ、あー……SIDEROSは曲の配信積極的だもんね……」
これは……そうか。なんの相談もせずに配信を決め、報告も何もなかったことにご立腹なのか。ひいては、自分に頼って欲しかったってことなのかな……。
「その……ごめんね。本当に成り行きだったんだ。そうじゃなかったら、絶対にヨヨコちゃんを頼ってた…………多分」
「……優菜は私の作曲をいつも手伝ってくれるのに、私は優菜の為に何ができるんだろうっていつも思ってて……優菜は事務系が杜撰だから、そこでなら役に立てるんじゃないかって、それで……」
……ヨヨコちゃんは、そこに在るだけで私を照らしてくれているのに。役に立っていないだなんてとんでもない。私が歩けているのは、変わらず私と向き合ってくれる彼女が居てこそなのだから。でも……ヨヨコちゃんはそんな風に思っていたのか。
「あの──」
「で?」
「え?」
「そのライターって奴、どこで知り合ったの?」
「あ、あぁ……ほら、前のSIDEROSの練習の日、私が行かなかった時に結束バンドのライブで」
「私達の練習に来ないで、結束バンドのライブ……!?」
……あ。
「も〜! 今日のゆーちゃん先輩鈍いよぉ!」
「次々地雷を踏みますね……」
ま、まずい……100%正真正銘偶然なのに、言い方がまずかった! それにこの前「私が結束バンドに目移りするなんてありえない」だかなんだかそういった趣旨の話をしていた気がする!
「ねぇ……? 私だけのことを見るって、約束したはずなんだけど……?」
「ぐ、偶然! たまたま! 行ったライブに偶然結束バンドが出てたの!」
「そもそも、練習には毎回来て! 誰も優菜が居て迷惑だなんて思わないから!」
「い、いや、節度とかあるし部外者だし」
「だから! 誰も部外者だなんて思ってないから!」
……この後、あの日の出来事を洗いざらい喋らされたのだった。