音楽チートで世に絶望していたTS少女がSIDEROSの強火追っかけになる話   作:鐘楼

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Sd.STARRY

「みんらぁ〜」

「げ」

 

下北沢の一画に位置するライブハウス、STARRYにいつものように招かれざる客の声が響く。当然の如く準備中の出来事である。

 

「お前また来たのかよ。仕事の邪魔だ、帰れ」

「せんぱーい、実は良いもの持ってきたんれすよ〜」

「聞けよ」

 

酒瓶を持ちながらずかずかと店に入ってきた客の名は廣井きくり。誰も歓迎していない上に、現在進行形でSTARRYのイメージダウンの元凶となっている彼女を、いつもの通り店長である伊地知星歌が追い払おうとする。

 

そんな星歌をのらりくらりとかわし、廣井きくりは懐からあるものを取り出した。

 

「じゃじゃ〜ん!」

「廣井さん、なんですかそれ……ライブのチケット?」

 

廣井きくりが取り出したのは、ライブのチケット。それも、今話題となっているライブのもの。それに気づいた伊地知虹夏が声を上げる。

 

「ってこれ、U7さんのライブじゃないですか! 良いんですか!?」

「池揉ちゃんがね〜、良かったらどうぞって。私はおつかい」

「池揉さんが……?」

 

あのU7が新宿FOLTでライブをする。それはもちろん知っていたが、何故そこで池揉優菜の名前が出てくるのか、虹夏は合点がいかなかった。そこへ、同じくシフトに入っていた結束バンドのメンバー達が、声を聞きつけ集まってきた。

 

「伊地知先輩、どうしたんですか?」

「廣井さんがU7さんのライブのチケットをくれるっていうんだけど、池揉さんが……」

「あれ〜、池揉ちゃん言ってなかったの? ……実はね〜、U7って池揉ちゃんのネットでの活動名なんだって〜、びっくりだよね〜」

「え──」

 

ここにいる全員が、廣井の言葉を咀嚼するのにかなりの時間がかかった。必然、この場に静寂が訪れる。沈黙を破ったのは、虹夏だった。

 

「そっ、それって! 池揉さんがU7ってことですか!?」

「そうだよ〜? そのライブの準備で銀ちゃんも大忙しで私追い出されちゃったの、しばらくここに居させて〜!」

「家に帰れよ」

 

星歌と問答する廣井を他所に、結束バンドのメンバー達はU7の正体について、各々考えていた。

 

「U7って、私でも聞いたことありますよ! それが、池揉さん……」

「だからFOLTでやるんだ……」

「でも、何か安心しました。普通の人じゃなくて」

「ま、まぁ所々でオーラが出てた気も……」

「それもあるんですけど……それだけじゃないんです。以前、池揉さんとカラオケに行く機会があって……池揉さん、信じられないくらい上手くて、ちょっと自信なくなったことがあったんですけど……なんか、凄い人で安心したっていうか……」

「そんなことがあったんだ……」

 

ゆっくりと心境を語る喜多郁代。

 

「にしても、池揉さん歌も歌えたんだ。じゃあ、U7のライブもいつものバイオリンじゃないのかな」

「あの……」

「ぼっちちゃん?」

 

ライブの内容についての疑問を口にする虹夏に、今まで黙り込んでいた後藤ひとりが口を開く。

 

「この前……SIDEROSのスタジオ練習に混ぜてもらって……その、その時の池揉さんはベースを弾いていたんです」

「えっ、じゃあベースもできるってこと?」

「い、いえ……その、ギターもドラムも同じくらい完璧に弾けるって、池揉さんはそう言ってたんです……」

「そ、それは流石に……」

「でもU7なんだよね……?」

 

後藤ひとりからの新情報で、さらに謎が深まる。U7のライブについて、更に興味が湧いた中、一人ずっとスマホを忙しなく弄っていた山田リョウが口を開く。

 

「に、虹夏。このチケット50倍に高騰してる、売ろう!」

「ダメに決まってんでしょーが!」

 

そんなやりとりを聞きながら、後藤ひとりは目を閉じて、再び『U7の正体が池揉優菜』という事実を噛み締める。

 

後藤ひとりに……ギターヒーローにとって、U7とその楽曲は思い出深いものだった。初めは流行っているからという理由で、ロックでもバンドでもないU7の曲の弾いてみたに手を出した。だが、U7の多彩な曲の中には後藤ひとりの嗜好に完璧に合致するものもあり、その曲に辿り着いた後藤ひとりは早速最大限に気合を入れて弾いてみたにのぞみ、その動画は未だにギターヒーローのチャンネルの中で最も再生数が多い。

そんなU7が、こんなにも近くにいた。その事実に、後藤ひとりは奇妙な縁を感じざるをえなかった。

 

 

 




──これでぼっちの出番は終わりだと言ったら、君は信じるか──
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