音楽チートで世に絶望していたTS少女がSIDEROSの強火追っかけになる話   作:鐘楼

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A14.preparation

「お疲れ様です、優菜先輩」

「あ、あくびちゃん!」

 

U7としての、初のソロライブ。その日程が決まって告知も終え、今はその日に向けての調整の最中だ。無事決定するまでには紆余曲折……主に店長と色々あったが、『FOLTに恩返ししたい』と言ったらFOLTでのライブを了承してくれた。

 

まぁ、U7として宣伝すると言っても、U7のSNSアカウントがあるわけではないし、いつも通り概要欄で告知しただけだ。これなら、収容人数を超過した人数が押しかけたりもしないだろう。

 

「調子はどうっすか?」

「もうセットリストは決まったから、いつも通りやるだけかな」

 

肝心のライブ内容は、我ながらかなり挑戦的だ。ボーカルもやるが、それも半分ほど。折角ならば様々な楽器を弾きたいと、色々と準備をしている。その方が、よりU7を表現できると思ったのだ。

 

「ゆーちゃん先輩、これなんですか?」

「電気三味線だよ、ふーちゃん」

「どんなライブするつもりなんすか……」

 

あくびちゃんと話しているうちに、遅れてやってきていたふーちゃんが置いてあった楽器の一つについて聞いてきた。家から持参してきたこの電気三味線も、当然ライブで使うつもりだからここにある。

 

「……にしても、本当に良いんですか? 頼んでくれれば自分ら、バックバンドやれますけど」

「そうですよ! U7の初ライブなんですから、私達も力になりたいです!」

 

バックバンド。サポートメンバー。後ろで生演奏をしてくれる、ソロのアーティストが一定以上の規模でライブをするなら必須とも言える鍵。彼女達ほどの実力者がそれを買って出てくれるのなら、これほどありがたい話はない。けれど。

 

「……ありがとう。気持ちは嬉しいけど……やっぱり、みんなには真正面から私を観ていて欲しいな」

 

SIDEROSのみんなは、このライブを一番に届けたい相手。だからこそ、後ろではなく正面からライブを観てほしいのだ。オケ音源は私が予め用意したものを流すいつものスタイルになってしまうが、それだけのことでU7は霞まない。

 

「ほんと、大した自信よね」

「ヨヨコちゃん!」

 

呆れながら褒めているといった風な声に振り返ると、そこには穏やかな面持ちのヨヨコちゃんがいた。

 

「調子はどう? ……って、聞くまでもないか。優菜、前にライブで失敗するはずがないって言ってたし」

「え、そんなこと言ってたんすか」

「あれ、そんなこと言ったんだっけ……」

「言った。私、ライバルの言葉は聞き逃さないから」

 

言ったんだっけ……いや、言ったような気がする。そんな、私にとっては何気ない言葉をヨヨコちゃんは覚えてくれている。私が彼女の言葉を聞き逃さないのと同じように。……ライバルだから。

 

……ライバル。ヨヨコちゃんは私との関係をそう定義するけれど、私はまだ本当の意味で彼女とライバルになれていないと思っている。私の方はまだ、本気でぶつかっていないから。

 

だから、このライブで、U7を見てもらうんだ。

 

「ヨヨコちゃん」

「なに?」

「ライブ、楽しみにしててね。もしかしたら、私をライバルに選んだこと、後悔しちゃうかもだけど──」

「優菜」

 

私の言葉を遮って、ヨヨコちゃんが正面から私を見据える。

 

「それだけは、ありえないから」

「っ……そ、そっか」

 

ヨヨコちゃんの瞳に、リズムを崩されてちょっと間の抜けた私の顔が映る。ちょうど、この前やみさんに囁いた時のような気分だったのが、思わぬ反撃で面食らってしまった。

 

「それより、そんなに余裕そうなら時間はあるんでしょ?」

「え? うん……あるけど」

「そう……幽々」

「ひゃっ!? ゆ、幽々!?」

 

ヨヨコちゃんが名前を呼んだや否や、さっきから姿が見えないと思っていたSIDEROS最後のメンバー、内田幽々が背後から抱きついてきた。

 

「えっ……な、なに?」

「優菜貴女……U7の初ライブなのに、まさかいつもの適当な衣装でステージに立つつもりじゃないでしょうね?」

「え、あー……さすがにみんなの宣伝服は着ないよ?」

「それ、ほぼ普段着みたいな服の方で出るつもりだったってことじゃないっすか」

「アーティスト名乗るならビジュアル面も気にしなさい! 私のライバルでしょ! 幽々、採寸!」

「はぁい。せんぱぁ〜い、動かないでくださいね〜」

「えっ、え!? 幽々が衣装作ってくれるの!?」

 

SIDEROSのステージ衣装を作っているのは幽々だ。そんな彼女の腕なら間違いはない。が、流石に悪い。

 

返上しようとしたが、二人はどうしても譲らないみたいだし……幽々の衣装を着れるのは嬉しかったから、私はそれを素直に受け入れることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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