音楽チートで世に絶望していたTS少女がSIDEROSの強火追っかけになる話   作:鐘楼

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A15.highlight / Sd.大槻ヨヨコⅡ

ステージに立てば、数多の懐疑の目線が降りかかる。この懐疑は……おそらく、U7のライブと聞いて来て、出てきたのが私のような小娘だったからだろう。最初にやみさんに明かした時の反応を見るに、世間はU7に私とはかけ離れた像を抱いているらしいし。

 

「どうも、U7です」

 

明るく照らされたステージとは対照的な暗闇に、幾つものどよめきが起こる。これは……この空気は、人によっては精神的にかなりキツイものがあるかもしれない。私は気にならないけど。元々『お客さんのことを考えてライブ!』なんてタイプじゃないのもあるけど、何より──どうせ彼らは一小節目で掌を返すのだから。

 

ざわめきを断ち切るように、手元のギターの弦を軽く弾く。

 

「今日のために、U7を最大限に魅せられる最高のセットリストを時間ギリギリまで用意しているので──」

 

“音楽の才能”に、MCの技術は含まれていなかった。だけれど、それを惜しむことはない。私が聴かせたいのは、御託なんかじゃないから。

 

「どうか最後まで、耳を逸らさずに」

 

そこまで言って、スタッフさん達に合図。最初の曲は──この中の何人が知っているだろうか、私の最初の活動である配布BGMのバンドアレンジメドレー。これらの曲のDL数は相当なもの。ということはつまり、それだけ色々な場所で使われているはず。例え私の曲だとは知らずとも、知名度はあると踏んでいたが、どうやら正解だったらしい。声を抑えるよう努める観客の漏れ出るような歓声がそれを証明している。とはいえ、選曲の第一の理由は結局私が楽しく弾けるかどうかなんだけど。

 

足元に並べられたエフェクターの一つを素早く操作して音色を変えながら、思考を次に回す。次の曲は私にとって思い出深い、初めて合成音声を使った曲……世間的には、U7の名を知らしめる一助となった楽曲。必然、ボーカル曲にシームレスに突入することになる。そんなことをノンストップで三時間続けるわけだが、体力的に問題ないことは実証済み。ステージに立った私は常に絶好調だ。

 

そんな思考の後、いよいよボーカルへ。ライブで喉を使うのは、あの日ヨヨコちゃんの代役を買って出たあの日以来。ヨヨコちゃんの顔色ばかりに気を取られていたその時とは違う。今日は堂々と、胸を張ってライバルの姿を見せられる。彼女を見据えることができる。そしてやはり、思う存分歌うのは気分が良い。

 

歌い、弾きながら、一瞬視線を横にずらす。次の楽器の位置の再確認だ。私の立つステージには、手の届く場所に色々な楽器が立て掛けられている。当然全て自前だが、色々弾けた方が私が楽しめるから用意した。次に手に取るのは電気三味線。和ロック調で使う。選出の時に思ったが、手で持てて口を塞がずアンプを使える楽器となると案外選択肢がないものだ。

 

視界に入る最前列の客が、惚けた顔に眼だけを輝かせて私を見ていた。まだ二曲目なのに、きみ。そんなんじゃ、最後まで持たないよ?

 

歌い終え、一時的にスポットライトが消える。スピーカーからアウトロの音源が流れているうちに、素早く楽器の持ち替え。

 

……ふふ。

 

再び私を照らすスポットライトの熱さの、なんと心地の良いことか!

 

ああ、楽しい、楽しい! こんなに楽しいのは、あの子が見てくれているから!

 

今の私を見て、他の誰が折れようと構わない! ただ、大槻ヨヨコに見てほしい! U7を、君の最強のライバルを!

 

---------------------------

 

言葉がなかった。よく知っていたはずの彼女が支配するこの場所が、慣れ親しんだ私達のホーム(FOLT)が、まるで別世界になったみたいだった。

 

アンコール前の最後の曲。慣れ親しんだバイオリンを弾くあの子に見惚れて、そして──理解した。私の焦がれる一番は、あそこにある。

 

その差を、無情なほどに叩きつける彼女はどこまでも楽しそうで──その姿こそ、私が望んだもの。何の遠慮もなくぶつかってくる彼女は、最高の形で私に応えてくれている。

 

そんな姿を、こんなライブを見せられて、私の中に燻る思いがあった。

 

「──あくび、楓子、幽々」

「……なんですか?」

「その……」

 

言い淀んだ私の手を楓子が掴む。

 

「楓子……」

「ヨヨコ先輩……きっと、みんな気持ちは一緒です。ね、幽々ちゃん!」

「幽々わ〜何でも良いですけどぉ〜……先輩の行く場所にならお供しますよぉ〜」

 

……SIDEROSを結成してから、リーダーを辞したいと思うことはなかったけれど。至らない部分ばかりで、向いていないんじゃないかと迷うことは多々あった。

 

だけど、そんな私にみんなは、素晴らしい仲間がついてきてくれている。

 

「夢、増やしてもいい?」

「……ヨヨコ先輩。先輩の夢は、自分らの夢です。どんな夢でも、全力でサポートするっすよ」

「あくび……」

 

ステージの上で、溢れんばかりに輝く優菜に手をかざす。

 

「私は──私達は、あそこに……優菜を迎えに行く」

 

好きな音楽で一番になる、それが私の夢だ。海外フェスの大トリも、未確認ライオットも、その夢の通り道。だけど、それとは別の叶えたい夢。あの子の、U7の立つ場所に立ちたい。追いつきたい、追い越したい! その景色を貴方の独り占めにはさせない!

 

そんな新たな想いが、蒼炎の如く胸の中を渦巻いていた。

 

「今の私は……優菜と比べたら、まだまだ及ばないかもしれないけど……」

「……らしくないっすね。心配しなくても、支えがいならヨヨコ先輩の圧勝ですよ」

「ちょっと! ……で、でもSIDEROSでなら! どこまでだっていける」

 

だから、優菜がどれだけ遠くても必ず届いて捕まえられる。

 

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ライブはつつがなく終わった。アクシデントもなく、予定通り。最高に楽しい時間だった。U7としての全力を三時間。流石に疲れを感じる。

 

アドレナリンが引いていく。冷静さを取り戻していの一番に感じたのは……不安だった。

 

「成長、しないなぁ……」

 

『貴方をファンにした私を信じろ』、そう約束したはずなのに、今も心のどこかでヨヨコちゃんが折れていないか、あの輝きが失われていないかと、不安が収まらない。

 

そんなことを考えていると、ガチャリと楽屋のドアの音が鳴った。

 

「優菜!」

「ヨヨコちゃん」

「聞いてほしいの。私の、SIDEROSの新しい夢──」

 

 

 

 

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