音楽チートで世に絶望していたTS少女がSIDEROSの強火追っかけになる話   作:鐘楼

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エピローグⅡ

『私の、SIDEROSの新しい夢──優菜を迎えに行くこと!』

 

『今の貴方がどれだけ遠くても、必ず同じ場所に立てるようになってみせる。だからそれまで……私のそばで待っていてくれる?』

 

『ゆ……優菜? なんで泣いてるの? なっなんかまずいこと言った!?』

 

「ふへ……へへへ……」

 

瞳を閉じれば、瞼の裏にU7のライブの日のヨヨコちゃんの言葉が思い起こされる。自覚はある。あの日から、私はおかしい。

 

バイオリニスト、歌手、ギタリスト、作曲家、編曲家、作詞家、トラックメイカー。方向性は様々だが、前世からずっと、私の存在の全ては音楽でできていた。

 

それが変わったのは、初めてヨヨコちゃんと言葉を交わしたあの日。……初めてだったのだ。私の心に、他人が入ってきたのは。それから、私の中でどんどんと彼女の存在は大きくなっていった。それでも、私の心では音楽と彼女が50:50で均衡を保っていた。

 

……そんなところに、あの言葉だ。

 

ライブを終えて、身勝手にも不安を感じていたあの時の私にヨヨコちゃんは最高の言葉をくれた。その言葉で、私の心の均衡は決壊。

 

つい彼女を視線で追ってはぼーっと眺めてしまうし、彼女と通話をしていると作業が手につかないし、作詞をしようとすればつい彼女のことを歌った詞を書いてしまう。

 

U7として、数々の恋愛ソングを書いてきたけど、今では自分で書いたその詩達に後ろから刺されているようだ。

 

「あ……そろそろ準備しないと」

 

今日は、ヨヨコちゃんと一緒に自動車教習所に行く約束をしている日だ。あるに越したことはないからと、夏休みを使って免許を取る予定なのだ。

 

「これで……いいのかな……変じゃないよね?」

 

なけなしの私服を着て、鏡の前で唸る。今まで気にしたことなんてなかったから、服なんて全然分からない。でも、ヨヨコちゃんはお洒落だし、私もちゃんとしたい……幽々に相談するのがいいのかな。

 

------------------

 

「えっ! 結束バンド……」

「あれ! 大槻さんに池も……あれ、池揉さん……だよね?」

「近い」

「どっ、どうも……なんか最近ずっとこうなのよ」

 

受付を済ませ、中に入る。すると、驚くべきことに虹夏さんとリョウさんが先客だった。堂々と腕を組んでいる私達に好奇の目を向ける二人。

 

「え、えっと……あ、この前のライブ! 本っ当にすごかった! にしてもあのU7が池揉さんだったなんてびっくりだよ〜!」

「ふふ、ありがとう」

「それで、もしかして二人も機材車用に免許取りに来たの?」

「うちはマネージャーが運転してくれると思うけど、あるに越したことないから」

「ヨヨコちゃん」

「なに?」

「合格したら、高級車買ってあげよっか」

「優菜は私をどうしたいの!?」

「私ありきの生活を送ってほしい……」

「重いわ!」

 

預金ばっかり貯まっていくし、ヨヨコちゃんが喜ぶことなら私はいくらでも使えるのに、なんてことを考えてながら渋っていると、ヨヨコちゃんが私の肩を掴んできた。

 

「っていうか! それよりまず自分の生活見直しなさい!」

「え……わ、私のことはどうでも……」

「良いわけないでしょ! 楓子がまた食事抜いてたって怒ってたんだから!」

「そ、それは……」

 

心当たりはある。前とは違って、今は何がなんでもヨヨコちゃんと同じところに進学したいから作曲と並行して勉強に打ち込んでいる。前世の頃から、集中力だけは自信があるので、自分でも順調だと感じている。

 

ただ、FOLTのバイトを辞めることになってから家に篭りがちになって余計に生活リズムが狂ってしまっている自覚はある。集中しすぎでいつのまにか半日経っていた、なんてことはザラだ。

 

ちなみに、バイトを辞めることになったのはバイト中の私にU7目当てのお客さんが殺到したから。名残惜しかったけど、これ以上の迷惑はかけられない。

 

「病気で勝ち逃げなんてしたら承知しないんだから! ずっと私のそばでって約束でしょ!」

「……んっ……わ、わかった……ごめん……」

さらりとすごいことを言いながら、強めに迫ってくるヨヨコちゃんに、思わず視線を逸らす。……顔、赤くなってるよね……。

 

ともかく、ヨヨコちゃんの言う通りだ。前……まだ家族と暮らしていた頃、作曲に集中しすぎて倒れてしまったことがあった。その時は親がいてくれたから良いものの、今同じことをしでかしたら冗談では済まない。まして、“才能”の適用外である勉強では勝手に体調が良くなったりはしないし……反省だ。

 

「な、なんかすごい進展してる……!」

「ゆ、U7が……“あの”U7が……色ボケ……」

「……リョウ、現実見なよー」

 

それから、みんなで教習を受けた。何故かリョウさんはマンガを読んでたけど。軽く止めたんだけど、格上だからとヨヨコちゃんはMTコースを選んでいたが、最初の技能で躓いてATに移ったので私もそれについていったり、虹夏さんとレーベルの話をしたりと色々あった。別れ際に、虹夏さんも同じ大学を志望していることが分かって吃驚だ。

 

「ヨヨコちゃん」

 

電車に揺られ、慣れ親しんだ新宿へと帰る道のりの中、私は改まって彼女の名を呼ぶ。

 

「なに?」

 

隣に座るヨヨコちゃんが、聞き返しながら私を覗き込む姿が、差し込んでくる夕陽と重なる。かわいいなぁ、と二度目に会った時とは同じようで違うことをぼんやりと考える。

 

「これからも、よろしくね?」

 

笑って、そんなことを言うと、彼女は恥ずかしそうに顔を逸らして、口を開く。

 

「……こちらこそ」

 

追いついて、迎えに行くと、そう約束してくれたから。私はここで、君の隣でずっと待っている。

 

というか、私の方が追っかけている立場なんじゃないかなぁ。なんて、取り留めのないことを考えながら、私は彼女の手を握った。

 




というわけで最終回にして新キャラの完堕ち優菜さんです。

……えー、というのもですねぇ、現在刊行中の原作ぼっち・ざ・ろっく!5巻では結束バンドの新たな挑戦レーベル編が描かれているわけなんですが、SIDEROSの出番が大体六割減していて、優菜さんがヨヨコ先輩にべったり&我々ほど結束バンドに興味がないせいで非常にプロットが組みづらいです。

なので、今後はしばらく未回収の話(ライブ感想スレ、焼肉、SIDEROSチャンネル)をやりきって、その先がどうなるかは6巻の内容次第ということになります。

義憤で書き始めた話でしたが、ここまで付き合っていただきありがとうございました。

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