音楽チートで世に絶望していたTS少女がSIDEROSの強火追っかけになる話 作:鐘楼
「……ヨヨコ先輩、さっきから何見てるんすか?」
「なんか、ずっとひとりちゃんのチャンネル見てるみたい」
唸りながらスマホと睨めっこしているヨヨコちゃんを遠巻きに見ながら、あくびちゃんとそんな話をする。ひとりちゃんの別名義『ギターヒーロー』は、結束バンドでの彼女からは考えられない程上手い演奏動画をアップしているアカウントだ。私はよく知らなかったけど、かなりの知名度があるらしい。
主に廣井さんのせいで、ひとりちゃんのことをやたら意識しているヨヨコちゃんとしては、彼女の10万人という登録者数を見過ごせないんだろう。……私の存在もあって、登録者数のインパクトには慣れていると思っていたけど、そんなことは全くないらしい。
「……私が一番じゃなきゃ……よし!」
「?」
何かを決意したらしいヨヨコちゃんは、私達に得意げにスマホの画面を見せつける。
「とゆーわけで大槻ヨヨコ、オーチューブアカウント開設!」
そこには、そのまま『大槻ヨヨコギターちゃんねる』の名前で先ほど作られたであろうアカウントが映っていた。
「私だって実力では後藤ひとりに引けを取らないわけだし、同じことをすればすぐ10万人行くはず!」
「そんなうまく行きますかね〜」
「いずれは優菜にだって追いつける!」
「……優菜先輩、今何人でしたっけ?」
「えーっと……最後に見たのは500万人ちょっとだったかな……」
「……」
朧げな記憶を頼りに私がそう答えると、あくびちゃんがヨヨコちゃんに哀れむような目を向ける。そんなあくびちゃんの目線にも気づかず、意気揚々と手元を動かす。
「早速シデロス本人が弾いてみた動画投稿よ」
最初の動画に選んだのは、SIDEROSの曲を自分で弾いた演奏動画らしい。
「よ、ヨヨコちゃん、それは……」
「……優菜先輩、お昼いきましょう」
「えっ、あ、うん」
「あっ、ふーちゃんもお昼外で食べませーん?」
最初からそういう動画は……と、思わず口を出そうとすると、あくびちゃんに遮られ、そのままふーちゃんと一緒に外に食べに行くことになってしまった。
一心不乱に画面を見つめているヨヨコちゃんを尻目に、私達は外へ出た。
---------------------------
「どーっすか?」
私達が帰ってくるまで、なんとヨヨコちゃんは微動だにせず画面を見続けていたらしい。時間が止まったんじゃないかと思うくらい表情までそのままだ。
そんなヨヨコちゃんはあくびちゃんの言葉に反応するや否や崩れ落ちた。
「伸びない……!」
「どんまいっす」
「後藤ひとりと私の動画、一体何が違うの……!?」
「あのね、ヨヨコちゃん。本気で伸ばしたいなら再生回数を見てないで一本でも多く動画を作った方がいいと思うな」
「すごい正論っす」
「あと、一時間じゃどんな人でも伸びないよ。私だって伸びるのに一ヶ月もかかったのに」
「なんで一ヶ月しかかかってないんすか?」
「それに……演奏動画のことはあんまり詳しくないけど、いきなりオリジナルの曲はハードルが高すぎるんじゃないかな」
「後藤さんは流行りの曲片っ端から弾いてってるね〜」
ふーちゃんがそう言って、ギターヒーローのチャンネルを見せてくれる。そこには、私の曲も含めてこれでもかというくらいストレートに流行に忠実なラインナップが映っていた。
それに、ヨヨコちゃんが衝撃を受ける。これに関しては、プライドが邪魔をしてヨヨコちゃんでは真似できない部分だろう。
「そもそも、弾いてみたで登録者増やすってのがハードモードっすよね……それなら優菜先輩みたいに作曲で行った方が……」
「後藤さんはかなり昔から投稿してたみたいだしね〜」
「先見の明があったんすね〜」
ふーちゃんとあくびちゃんが、口々にひとりちゃんを褒めちぎる中、ヨヨコちゃんは黙ってゴソゴソと何かを取り出す。
「もうこの際後藤ひとりに勝てるなら何でもいいわ……念の為に面白い企画だって実は考えてきてたし」
「おっ、何かあるんすか?」
そう言って彼女が取り出したのは……何かのお菓子とコーラだった。
「メントスコーラ!」
「うそだろおい……」
「? それで何するの?」
「……うそだろおい」
面白い企画……と言うが、ヨヨコちゃんが持っているのはなんの変哲もないソフトキャンディとコーラにしか見えない。
「〜っ! 優菜、よくぞ聞いてくれたわね! 見てなさい」
そう言って、ヨヨコちゃんはカメラをセットして、テーブルの上に置いたコーラにお菓子を落とした。
すると、一瞬でコーラが泡立ち、ブシャ〜と音を立ててペットボトルから溢れ出した。
「……?」
「お〜……」
「……」
初めて見た現象に、なんとなく手を叩く。が、肝心のヨヨコちゃんは無表情のままコーラを見つめて固まっていた。……これ、動画として面白いのかな?
「……そんな手垢まみれのネタで受けるわけないじゃないっすか。無難にゲーム実況やってれば伸びるんすよ。アカウント借りますよ〜」
「私もオーチューバーなりたーい!」
「幽々も〜〜」
あくびちゃんの言葉を皮切りに、ヨヨコちゃんを置いてSIDEROSのみんなが盛り上がる。
「……ヨヨコちゃん、コーラ、掃除して片付けよっか」
「……うん」
------------------
それから少し後、FOLTではオーチューブチャンネルの話題で持ちきりだった。あくびちゃんのゲームコーナー、ふーちゃんのスイーツコーナー、幽々の霊視コーナー、廣井さんの安酒レビュー、まとまりはないけれど、各々が好きに動画を投稿した結果、登録者はひとりちゃんの10万人に届きそうな勢いになったのだ。
私も、自分で何かをしたりはしていないけれど、あくびちゃんやふーちゃんに呼ばれたりで参加していた。
「わー、ゲーム動画もう5万再生だよ〜!」
「ふーちゃんの動画も伸びいーっすよ。あ、優菜先輩もコメントで人気っす」
「えっ、あ、そうなんだ」
「え〜! 何あんた達面白そうな事してるじゃないの〜! あたしも混ぜて〜!」
そうして、店長も加わり、『大槻ヨヨコギターちゃんねる』はFOLTのチャンネルへ姿を変えて進み続ける。
「わ、私の……私のチャンネル……」
……ヨヨコちゃん一人を残して。
さ え お 0:00/0:43
メントスコーラやってみた
チャンネル登録者 8.7万人
怖い
右の子誰?
↪︎FOLTでバイオリン弾いてる子
BGMとかつけない?
右の子かわいい
この動画だけ異質すぎる
お気に入り10000突破記念コーナー
U7さん畜生発言ランキング未使用部門TOP3
第3位
「でも、私の曲を聴いてファンになるのは当然のことじゃないですか?」
第2位
(なんて言おう……“盛り上がっていこー”……? いや、私が弾き始めれば勝手に盛り上がるだろうしな……)
第1位
「……無駄な努力だなんて思ってないよ。私と比べるのが間違ってるだけ」