音楽チートで世に絶望していたTS少女がSIDEROSの強火追っかけになる話 作:鐘楼
「ライブはどれも一度きりなんだから、いつもベストを出せるようにして。反省会終わり!」
「「「おつかれさまでした〜」」」
ライブの後、SIDEROS恒例の反省会もヨヨコちゃんの号令で解散だ。あくびちゃんもふーちゃんも幽々も、足早に楽屋を出ていく。
「とまあ色々厳しい事は言ったけど……このあと……皆で打ち上げとか……行ってもいいけど?」
「あの……ヨヨコちゃん」
部屋に残されたのは、同席していた私と、いつものように誘い待ちを空振りしたヨヨコちゃんだけだ。
「みんな、もう行っちゃったよ」
「……」
------------------
「幽々ちゃん、たまには皆でご飯行こうよ! 少女漫画に出てきそうなかわいいケーキ屋さんみつけたんだ〜!」
「幽々わ〜処女の生き血があるから大丈夫ぅ〜」
「それ鉄分サプリじゃないすか……じゃあうちでゲームします?昨日面白いゲーム買ったんすよ」
「本当ゲーム好きだねぇ。じゃあはーちゃん家でゲームで打ち上げパーティに決定!」
「ちょちょちょまった!」
自然にヨヨコちゃんを省いて打ち上げに行こうとするメンバー、それを引き止めるヨヨコちゃんに回らない足で追いつく。
「ヨヨコ先輩なんすか?」
あくびちゃんの無慈悲な言葉に、ヨヨコちゃんは固まって震える。このままでは自分で誘えないだろうから、私が助け舟を出す。
「ほら、ヨヨコちゃん打ち上げやりたいんだよ、みんなと」
「……優菜先輩」
すると、あくびちゃんが私の方に寄ってきて、こっそりと耳打ちしてくる。
「打ち上げ行くとまたライブのダメ出し始めるから嫌なんすけど」
「あっ、そういう……」
……ヨヨコちゃん、思ったよりがっつり煙たがられている……たしかに、結構前に打ち上げに行った時もずっと説教みたいなことを言っていたけど。私も、音楽の指摘なら是非何でも言ってみてほしいとなるけど、これがスポーツやらの話だとしたら、食事の席でそれはかなり嫌だ。
いっそ、今日はこのままヨヨコちゃんと二人で……と思っていると、あくびちゃんが再び口を開く。
「……優菜先輩は自分らと打ち上げ、行きたいですか?」
「え? ……う、うん。みんなが良いなら行きたいよ?」
「……しょうがないっすね……」
あくびちゃんはそう言って、未だもじもじと視線を泳がせ続けるヨヨコちゃんの方に向き直った。
「ヨヨコ先輩……打ち上げ、行きましょう」
「ほ、ほんと?」
「じゃあカストとかでいいっすか?」
「わっ、私はいいけど? 行くなら今回は特別におごってあげる!」
「いきまーす!」
ヨヨコちゃんが奢りという言葉を口にした途端、急に乗り気になるあくびちゃん。それに続いてみんなのテンションも上がっていく。
「じゃあカスt……」
「じゃあ幽々JOJO苑がいい〜!」
「おっいいっすねぇ〜」
「え〜! せっかくなら高級ホテルのスイーツビュッフェ行きたいなぁ」
「みんな調子いいなぁ……」
どんどんとエスカレートしていく要求に、ヨヨコちゃんは苦い顔をしている。
「ごちになりまーす」
「久々の屍肉……」
だけれど、こんな空気でヨヨコちゃんが突っぱねられるわけもなく。
「…………行くわよ!JOJO苑!」
「やった〜!」
ということで、高級焼肉店での奢りが確定してしまったのだった。
「……ヨヨコちゃん、大丈夫?」
「だっだだ大丈夫……」
声をかけると、震えた声でそう返して歩き出すヨヨコちゃん。……あの顔は、まぁ大丈夫じゃないんだろう。
「……もう、お金の心配なんかしなくていいのに」
------------------
「肉が! 肉が輝いてるっす!」
「あっあんまり食べすぎないようにね……」
卓上に並べられた、なにか洒落た盛り付けをされた肉の皿に、ヨヨコちゃん以外が感嘆をもらす。食べ物はよくわからないけど、私でも高そうだなとは思わせられる逸品だ。
「やっぱ高い肉は違うっすね」
「フルーツソースでたべたら甘くて美味しい〜!」
「はっ早食いすると満腹中枢が刺激されずに食べすぎちゃうからよく噛んで食べて……」
バクバクと、気持ちいいくらいに遠慮なく食べ進めるあくびちゃんとふーちゃんに、ヨヨコちゃんがベラベラと理屈をつけて止めようとする。
「ちなみに健康にいいとされているのは腹八分目なのカロリー制限によって老化を遅らせる事ができるのよ生活習慣病の予防には腹八分目貴方達の体の事を思ってるだけで食うなってわけじゃな」
「ヨヨコちゃんなんでも知ってるねぇ」
「ヨヨコ先輩、そんなに私達の体を気遣ってくれて……ありがとうございます! もっとたくさん食べて大きくなります!」
「っ〜〜!」
さらに食べるスピードを上げ始めたふーちゃん達に、ヨヨコちゃんが声にならない叫びを上げる。
「ヨヨコちゃんも、もっと食べたら?」
「いっいやちょっと食欲がね断じて会計のことを考えてるわけじゃないんだけどね優菜も遠慮なくほどほどに食べていいんだからね」
「もう、そんなに心配しなくても、ここは全部私が持つよ」
私が当然のことを口にすると、何故か場に静寂が訪れた。
「い、いや……ここは私の奢りって……」
「? 私のお財布はヨヨコちゃんのものでしょ?」
「……」
「……ふーちゃん、ちょっとペース落としましょうか」
「そ、そうだね〜」
ヨヨコちゃんを安心させようと事実を伝えたが、逆にヨヨコちゃんは絶句し、あくびちゃんとふーちゃんは箸の動きが鈍ってしまった。
「え、なんで? 好きなだけ食べなよ」
「いや、自分この前も練習パッド買ってもらったばっかなんで……あと優菜先輩の奢りはなんか……重いっす」
「気づいたらダメになってそうだよね〜……」
「じゃ、じゃあやっぱり私も程々に……」
「ヨヨコ先輩は手遅れなんで毎日奢られたら良いんじゃないっすか」
「どういう意味よ!」
……みんな、どんどんダメになっていいんだけどな。
「幽々は〜、遠慮なく奢られますね〜」
「うん! 好きなだけ食べてね!」
「はい〜、先輩大好きですぅ〜」
なお、幽々だけは食べるスピードに一切変化はないのであった。
半年間さんきゅ
ばいびー