音楽チートで世に絶望していたTS少女がSIDEROSの強火追っかけになる話 作:鐘楼
アタシ、吉田銀次郎が経営するライブハウス、『新宿FOLT』で例のバイトを雇ったのも、少し前の話になる。
件のバイトの名は池揉優菜。彼女がSIDEROSのリーダー……大槻ヨヨコ目当てに応募してきたのは明らかで、本当はそういう人間は避けるべきなのだが……直感が、この子を引き止めるべきだと囁き、採用することに決めた。
彼女は少し抜けていて、ヒヤヒヤさせられることもあったが、慣れていくにつれそういったことも減っていった。彼女は勤務態度も良好で……SIDEROSメンバーとの距離の近さに目を瞑れば、並以上の働き手だった。だが、それ以上でもなかった……その日までは。
新生SIDEROS2回目のライブが終わった後、彼女の様子がおかしかった。何か熱に浮かされるような……普段よりも、瞳が輝いていたように見えた。
とはいえ、普段通りに仕事をこなしてくれていたので、その時は気にすることはなかった。
セトリも終わり、SIDEROS含めたバンドマン達が去っていき、バイトの仕事も終わった頃。ふと彼女の姿が見えないと思い、帰ってしまったのかと探そうとして……強烈にして鮮烈な“音”が響いた。
脳髄に染みてくるような、熱のこもったギターの音色。楽曲は、聴きなれたSIDEROSのものだ。そのはずなのに、ギターソロだというのに、まるで全く別のものに昇華しているかのように感じられる、劇的な演奏だった。
演奏を終え、アタシと同じく夢中になっていたのだろう、彼女は、池揉ちゃんはアタシを見て、顔を強張らせた。
「……素晴らしい演奏だったわ。ギターが本職だったの?」
「そういうわけではないんですが……いえ、勝手に機材を使ってすみません……それで、その……この事は……」
暗い表情で、怯えたようにアタシを見る池揉ちゃん。何か理由があって、人前で演奏することを忌避する子は少なくない。詳しい事情までは察せないが、彼女もその類なのだろう。
「大丈夫よ。誰にも他言しないわ。……アナタが望まない限りね……さ、もう帰りなさい!それと、今度からは許可を取るように!」
「っ!……はい!」
そうして、立ち去る池揉ちゃんの背を見ながら、考える。
ああは言ったけど、あの才能を埋もれたままにするのは間違いだと、そう叫ぶ自分も確かにいる。だが、やはり無理矢理ではダメなのだ。その未来を見るには、彼女自身がその道を選ばなければならない。
「なら、それができるのは……」
大槻ちゃん、なのだろう。
銀ちゃんのキャラ、合ってるよな……?