悟空の登場により流れが変わった。
地球サイドは待人来たりと喜び、ベジータは腕を組み俺らの様子を伺っている。
「クリリン!仙豆だ。早く食べるんだ!」
「う……」
悟空は着くと同時にエネルギー砲を弾き、倒れているクリリンへ仙豆を食べさせた。
「……ご…くう。……貴重な仙豆を」
「気にするな!オラ来る前に食べてきたからな!」
「……すまないな」
「謝ることねえって……クリリンも悟飯も…よくオラが来るまで持ち堪えてくれた」
「うん……」
……クリリンは大丈夫のようだ。
悟飯も元気はないが無事……よかった。
……本当に俺は何がしたかったのだろう?
結局物語と同じ流れになってしまった。もう少し俺が強ければ。もっと鍛錬をしていれば……。
多少は変わっていたのかもしれないのに。
「ああ。……だが……みんな死なせてしまった。……ピッコロもあっけなく……少し強くなったと思ったが……全く歯が立たなかった」
「ピッコロさんは……僕を守るために」
「なに……それじゃぁ、ヤムチャたちは……もう」
クリリンと悟飯は己が無力だったことに悔しがる。悟空もピッコロの死を聞き一気に気が膨れ上がる。
俺の存在に誰も触れないのか?
……どうするか。ドラゴンボールが他にも存在すること伝えておくか?
「その結論に至るのは早すぎるぞカカロット」
「ラディッツ……何故おめぇがここに……こんなになるまで」
悟空は容体を見て質問してきた。……ここにいる理由……それは。
「何……俺にも守りたいものができた。……それだけだ」
「ラディッツは俺たちと一緒に戦ってくれたんだ!すごいんだぞお前の兄貴!サイヤ人の一人を倒しちまったんだからな!」
「そうか……悟飯たちが世話になったな」
「気にするな……助けたと言ってもこのザマだがな」
「ラディッツ」
悟空は俺の容体を見て感謝を言う。クリリンの説明で俺への警戒心はなくなっていた。
本当の悟空は一度心を許してしまうと警戒心がなくなる。
それが美点ではあるが、戦いにおいては隙になる。まぁ、今は何も言うまい。
「話を戻すが……願い玉……お前たちはドラゴンボールと呼んでいるのだったな。それと同じものが別の星にもあるらしい」
「それは本当か!」
悟空は目を見開き驚く。
今その話をしたいが目の前にはベジータがいる。
「だが、それはベジータを倒さないと達成は難しそうだ……詳しい話は全てが片付いてからだな」
「……わかった」
悟空はベジータを真剣な表情で見つめる。それには怒りが混ざっているものの、目の前の強者に挑戦したいというサイヤ人反応が出ているようにワクワクしているように見える。
悟空はベジータから視線を外さずに話し始める。
「悟飯……動けそうか?」
「……ううん…力入らないや」
「そうか。……クリリン、わりぃがラディッツを連れてカメハウスに先に帰ってくれ。悟飯は筋斗雲にのってな」
「……わかった」
「うん」
クリリンは自分は足手纏いだと自覚した。
目の前にいるサイヤ人には自分は力不足だと。
クリリンは俺を支えるため近づいてくる。
「痛むと思うが少しだけ我慢してくれ」
「……世話になる」
クリリンは俺を横抱きにしてくれた。
「悟空よ……絶対に死ぬなよ」
「うん……ああ!」
「何をしている?」
ふと、ベジータが話しかけてくる。早くしろと言わんばかりに苛立ち話しかけにきた。
もう悟空と話す時間はない。
せめて最後に一言。
「カカロット、後は任せたぞ」
俺は最後に悟空に言葉をかけ、この場を後にしようとすると。
「ああ。任せてくれ……にいちゃん」
去り際にそう言われた。
俺は黙って頷く。
悟飯は筋斗雲に乗り、俺はクリリンに横抱きにされその場を去った。
ただ、血が繋がっているだけ。心は別。一度命を奪い合った仲なのに。
そんな俺に対して兄と言ってくれた。
何故か心から温もりがこみ上げてきた。
「理解できんな」
「何がだ?」
ラディッツたちが立ち去り悟空とベジータの2人になる。
悟空は戦闘が始まる前にベジータから突然話しかけられた。
「何故ラディッツを庇う?……何故殺さなかった?」
「にいちゃんは悟飯やクリリンを守り、地球のために戦ってくれたんだ。……何故殺さなきゃいけないんだ?」
「あのクズを生かすとは……随分と甘い考えをしている。……つくづくサイヤ人の恥晒しだな」
「オラはにいちゃんを誇らしいと思うが?」
悟空は迷いなく答える。
「ふん……やはり理解できんな。所詮は落ちこぼれの考えか……お似合いじゃないか……兄弟揃って」
「にいちゃんと一緒か……嬉しいねぇ」
「戯言を」
悟空はラディッツを認めている。
一度敵対したがラディッツは悟空にとって大切なものを守るため、命を張ってくれた。
悟空はそんな兄を誇らしく思っている。
「喜べ、超エリートである俺様が直々に貴様のような落ちこぼれの相手をしてやるんだからな。精々兄のように生き恥を晒さんようにな」
「あまり甘く見てっと……足掬われるかもよ?」
「ふ……面白い冗談だ……なら努力だけでは越えられない壁を……教えてやろう」
ベジータの言葉を最後に……戦闘は始まったのだった。
「大丈夫か?」
「……一度手足を固定してほしい。……近くに降ろしてくれ」
「ああ。わかった」
飛び始めて数分が経った。
悟空とベジータの戦いに火蓋が切られた。
二人の気は常軌を逸していた。
悟空の界王拳にベジータの全力。
遠くからでも身体が勝手に震えてしまうほどだ。
俺がどれだけベジータに手を抜かれていたのかわかる。
本当によく生きていたものだ。運がいい。
そう思えてならなかった。
考えてもいまさらだ。
悟空がベジータを倒せなかったら終わる。
「一度地面に寝かせるぞ」
「……ああ」
クリリンはゆっくりと地面に寝かせてくれる。
折られていない左足以外に力は入らないしジンジンと痛む。
「悟飯は先に行っててくれ。すぐに追いかける」
「いえ、僕も一緒にいます。少し休んだら動けるようになりましたし」
「……わかった」
悟飯も一緒にいるのか……。ならクリリンから気を分けてあげたほうがいいかも。
「クリリン……悟飯に少し気を分けてあげてくれ」
「……ああ、そうだな。俺一人元気でも意味ないしな。悪いな。仙豆を俺一人だけ使っちまったのに」
いや、命には代えられないだろ。クリリン多分本気で言ってるわ。
俺がそう言おうとする間も無くクリリンは悟飯に気を分けた。
「ありがとうございます。少し元気が出ました」
「ラディッツにも少し分けておくな……はぁ」
「え?」
いや、俺に気を分けても意味ないだろ……。
「俺に気を分ける必要は」
「みんな公平に分けるべきだろ?」
「そうですよ!ここはみんな平等に、ですよ!」
「お前ら」
一度心を許すと甘くなる。
ドラゴンボールの地球人はみんなそうなのだろうか?それとも地球人は人をたぶらかす何か不思議な力があるのだろうか?
まぁ、くれると言うなら貰っておくが。
「……ならありがたく。……とりあえず、この付近にある木とツルを使って固定してほしい」
「わかった」
その後、クリリンと悟飯は使えそうな木とツルを集め固定をしてくれた。
両腕は木を使って囲うように固定して胴体に縛り、右足は木で固定後無事な左足と一緒に縛ってもらった。
「これでどうだ?」
「……大分楽になった」
「ならよかった!」
これで大丈夫だろう。このままベジータと悟空の戦いはどうなるかわからない。だが、正直悟空が勝てるとは思えない。幾ら戦闘力が倍になる界王拳があったとしても……。
「?!……なんつう気だ!」
……はじまったか。この気はおそらくベジータだろう。
急激に上がった気。……地面が揺れ、大地震だ。……あれ?もう一つ気が上昇した?
上から感じるのはおそらくベジータの気で……それを上回っているのは……悟空の気か?
だめだ。ここからだとわからない。
「クリリン、悟飯。……申し訳ないがここから様子を伺おう。この戦い……どういう結末になるかわからない。……できることをするため待機しておきたい」
「そうだな……そうした方がいいかもしれない」
「そうですね」
戦えるのは二人だけ。
俺にできることはないだろう。動くのは左足だけ。それでも何かできるはず。
可能な限りのことはする。だが、今できることは悟空の勝利を祈るだけだ。
補足説明。
悟空がクリリンに仙豆を一つ食べさせたのは焦っていたから。分けるという選択肢が思い浮かばなかった。
気を分け与えた件について。
悟飯、クリリン、ラディッツの3人に仲間意識が生まれ、平等に分けた。
悟空がラディッツを兄と呼ぶ件について
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そのままでいい
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ラディッツ呼びの方がいい