気がついたら死亡寸前だった件について   作:花河相

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二話目です。

最後まで読んでくださると幸いです。


ラディッツ ……謎の悪役ムーブをかます。

 前世という言葉がある。

 今を生きる自分が生まれる前、別の人間として生きていた人生を表す。

 

 おそらく、俺にはその前世があるのだろう。

 そのおかげで俺は生き延びることができたのだ。

 

 そして自覚した。ここはドラゴンボールの世界だと。

 

 独特な容姿をしている緑の生物ピッコロ、オレンジ色の胴着を着ているギザギザヘアーが特徴、サイヤ人の孫悟空。

 

 この情報で自覚した。

 

 ドラゴンボール。

 鳥山明先生が作者で週刊少年ジャンプでお馴染みの作品。

 アニメは爆発的な人気があり、全世界80ヵ国以上で放送され世界中で絶大な人気を誇る、日本の漫画・アニメを代表する作品。

 

 内容をざっくりいうと、幼少期に山奥に住んでいた主人公……孫悟空が水色の髪と整った容姿をもつ天才メカニックブルマと出会い7つ揃えると神龍が現れどんな願いを叶えてもらえるドラゴンボールの存在を知ることから始まる。

 

 幼少期はドラゴンボール集めの冒険アドベンチャー。その後、三百年の時を生きる武道の神様、亀仙人こと武天老師と同時期に弟子入りするクリリンと出会い、武道の世界一を目指す天下一武闘会で優勝するため、修行をする格闘要素も加わる。

 

 それから悟空は地球を次々と現れる敵から守るために奮闘する王道の物語。

 

 物語はサイヤ人編、フリーザ編、人造人間編、魔人ブウ編と続く。

 

 ……さて、少し語ったが内容はこんな感じだろう。

 大雑把すぎるしお粗末な部分も。

 抜けているところも多いと思うが、大目に見てほしい。

 

 一つ言おう。

 俺はにわかだ。

 ドラゴンボールはアニメで見たくらいだし、原作は未読。

 

 大雑把な流れしかわからない。だが、今その記憶のおかげで命拾いしたところだ。

 

 少し話が脱線したが、今はいいだろう。

 もっと大事なことがある。

 

 今のこの現状。

 

 俺はそんな不朽の名作の話を広げるためだけに存在するキャラ……ラディッツに憑依をしてしまった。

 

 腰まで伸びた黒いギザギザしている髪型。険しい表情。戦闘民族の肩パットがついている黒とオレンジの特徴的な近未来的な戦闘ジャケット。

 何よりサイヤ人の一番の特徴である尻尾。

 

 もう、疑いようがない。

 俺はラディッツになってしまったようだ。

 

 ラディッツはドラゴンボールにおいて重要な役割を担ったキャラだ。

 原作本編で悟空の出自や地球にくるまでの経緯で近未来的な要素を新たに加えるきっかけを与えた重要キャラ。

 しかも悟空の実の兄という設定。

 初めて地球にきた時、地球最強であったピッコロと悟空を相手に圧倒し、次元の違う強さを見せ絶望感を与えた人物でもある。

 

 だが、そんな重要キャラなのだが……もっとも不遇キャラでもある。

 このラディッツというキャラ……物語では早々に退場させられてしまう。

 

 悟空の実の兄という興味を持たれる要素がありながら、その要素が特に活かされることはなく物語からあっさり退場。

 

 弱虫ラディッツ、出来損ない。

 

 ベジータたちからはそういう評価をされてしまっている。

 

 そんな不遇キャラに憑依してしまっているわけだが……。

 

「俺はどうすりゃいいんだろう?」

 

 憑依直後、俺は原作崩壊させるという、神をも恐れぬ行為をしてしまった。

 

 本来の物語ならピッコロの魔貫光殺砲で俺は悟空と共に胸を貫かれ、死にかけている最中にベジータとナッパがこっちに向かうことを伝え、ピッコロに殺害をされる流れであった。

 

 だが、今の状況はこうだ。 

 

 胸を貫かれ「ちくしょう」と言い悔しがっている孫悟空。

 左手がなく、息を切らし俺を睨み続けているピッコロ。

 

 その近くに寝転がっている5歳くらいの子供……おそらく孫悟飯だろうか。

 

 本当にどうしよう。

 

 ……とりあえず、話してみようか。黙っていると余計に怪しまれる。

 

 急に話し方や性格が変わると怪しまれるかもしれないからラディッツに口調を近づかせながら。

 

「今のは危なかったぜ」

「ち……ちくしょう」

 

 ピッコロは悔しがり、俺を睨む。

 本当に怖いからそんな目で見ないでほしいなぁ。

 それを言いたいが俺は怖いのを我慢する。身体中が痛いが、目の前の息を切らしているピッコロ相手ならこのままでも勝てる。

 だから少しだけ余裕なのだ。

 

「……今ので戦闘力をほとんど使ったようだな」

「……クッ!」

 

 ………で、この後はどうしよう。

 俺は死にたくない。 

 そうそう離脱したいが、宇宙船は悟空の息子……悟飯に壊されているはず。

 それに今多分通信はベジータ達に繋がっていたはずだ。

 

 可能ならなるべく原作と同じ流れにしておきたい。

 

 ラディッツに転生してしまい、原作崩壊させてしまったが、せめて俺の役目は達成すべきだ。

 

 一年後にベジータ達がくること、ベジータが地球に興味を持つようにすること。

 

 ……どうするか。

 本当ならこのまま悟空サイドに行きたいけど、急に態度を変えたら怪しまれる。

 

 よし決めた!俺は悪者ですよアピールをしながら原作通りに行くようにする。

 

「……今まで気がつかなかったが……お前……ナメック星人だな?……なぜこんな辺境にいるかはわからんが……都合がいい。……ナメック星人はなんでも願いが叶う特別な玉を作れると聞いたことがあるが……そこにある玉がそうなのか?」

「?!」

「その反応……図星か」

 

 ピッコロは困惑しているのだろう。黙って俺を睨んでくる。自分の正体を知ったことに。

 まぁ、今は気にしないでおこう。

 

「一年後に来る二人にいい手土産ができそうだ。……ふむ」

 

 

 プツン。

 

 ……あれ?なんかスカウターから変な音した?

 とりあえずボタンを……あれ?反応しない。

 

 壊れた?

 

 ……ベジータ達に通信行ったよね?これで来なかったらやばくね?

 

 まぁ、いい。壊れてしまったものはしょうがない。

 そういえばこの俺のスカウター本来の原作ではブルマが修理して使うんだっけな。

 なら、俺は。

 

「くそ!壊れやがった」

 

 イラついたフリしてスカウターを左手で払い地面に落とす。

 スカウターは地面を転がっていき、止まった場所には悟空とよく似た特徴をもつ悟飯が気絶していて、近くにオレンジ色の玉のついた帽子が落ちていた。

 

 そういえば悟飯が被っていた帽子についていた掌サイズの星が4つあるオレンジの玉……これがドラゴンボールなのか。

 俺は興味本意から不思議な玉に近づこうとしてーー。

 

「ご……悟飯。た……頼む、やめてくれぇ」

 

 

 無理して声を出しているのだろう。

 突然悟空に苦しそうに話しかけられる。

 

 どうしよう。

 良心が傷つく。

 

 だが、これも全て原作と同じ流れにするためだ!

 でもこれ以上いたら墓穴掘るかも。

 悟空と少し話して悪役っぽい台詞いってその場を去ろう。

 

 

 そう決意を改め、気絶している悟飯を摘み、倒れている悟空に近づき腰を下ろす。

 

「カカロット……そんなに息子が大切か?」

「……く…くぅぅ…ご……ごはん」

 

 悪役ムーブは心が痛む。

 ……だが、そんな俺にも悪役としての美学っぽいのがあることを見せよう。

 

「ふ……惨めだなぁカカロット……誇り高きサイヤ人がこの様とはなぁ」

「く……くぅぅ」

 

 悔しそうにする悟空。

 やめたいがやめられない。後には引けないのだから。

 

 今のままならば俺はただのクズの悪役。慈悲も与えられない冷徹な存在だろう。

 

 だが、そんな悪役にも感情があることを示そう。

 

「……ふ」

「……な…なにを」

 

 俺は悟空の横に悟飯を放り投げる。

 悟空は俺の突然の行動に理解が追いついていないのか、困惑している。

 だが、それでいい。

 

 教えてやろう!

 

 俺のような悪役にでも、兄弟を想う心が少しでもあるということを!

 

「たった一人の肉親だ……最後くらい頼みを聞いてやろうと思ってな」

「な……なんのつもりだ」

 

 なんのつもりも何も。

 

「単なる気まぐれだ……。後一年で遥か遠い宇宙にいる仲間がくる。お前ら如きじゃ相手にできない奴らがな……多少の慈悲をかけたに過ぎん」

「一年……」

 

 ピッコロは冷や汗をかき短い期間を口にした。よし、言いたいことは全て言えた。

 後はひとこと言って立ち去ろう。空を飛ぼうとして、

 

「俺如きに勝てぬ貴様らでは勝てる可能性はゼロだ。ふん!残り一年、短い余生、悔いが残らないよう過ごすんだな!フハハハハ!」

「ま、まて!」

 

 ピッコロは俺に向けて叫んできたが、無視して空を飛んでその場から去った。

 

 

 なぜ飛べたかはわからない。

 自然とやり方がわかる。気の使い方も。

 

 とりあえずこれでいいだろう。

 

 この後ピッコロはクリリン達と合流して今あったことを話す。

 

 俺のやった行動は謎が多すぎる。

 どういう解釈をするかは原作キャラ達に任せよう。

 

 俺はこれから何もする気はない。とりあえず怪我を治すことを考える。

 

 ピッコロ含めZ戦士達が俺に攻めて来るようなら返り討ちにする。

 

 できれば放っておいてほしいものだが

 




ちなみにですが、転生特典がわかるのは物語が進むに連れてわかってきます。

最後まで読んでくださりありがとうございました。
次の投稿は明日します。

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