君は魔王/勇者であなたは勇者/魔王   作:猫又提督

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第3話

 城の前に広がる平原、その地平線からのぞき始める人間の姿を双眼鏡越しに確認した。

「総員戦闘配置!」

 中隊長が素早く命令する。兵隊たちは古式装備の対人間演習どおり、城門の前に整然と並ぶ。

 少しして双眼鏡を使わなくてもアースト特有の青色が入った鎧の姿が見えてきた。さらにもう少しすれば奴らは眼前までやってきた。彼女は塔から飛び降り人間どもの一番先頭にいる恐らく隊を率いるものの前に出る。

『貴様が魔王であるな』

 自分達の言葉ではない全く違う言語。人間どもが使う言語だ。彼女もそれに合わせた言語で話す。

『いかにも』

『貴様のような小娘が魔王とはな』

『見てくれこそそうであるが、魔王として選ばれた理由がある』

『それもそうか。無駄話をする気はない。早々に始めさせてもらうぞ』

『無論』

 双方引き下がり人間は軍の中に、彼女は塔に飛び乗った。叫んだのはほぼ同時であった。

『総員突撃!』

「総員戦闘開始!」

 人間どもが城門に詰め寄る。同じようにこちらも突っ込んでは一度に対処できる者が少ないため各個撃破される可能性が高い。一度人間どもをこちら側に引き寄せて、地の利を以て逆に各個撃破してやろう。

 彼女は再び塔から飛び降り城門の前で待機する。前もって魔法は準備しておいた。彼女の後ろには魔法陣が4つ回っている。だんだん門がぐらついてきた。もう少しで破られる。

「弓を弾き絞っておけ」

 彼女の命に前列の兵士が応る。どんどんぐらつく城門。たたきつけられるのに呼応して前後に揺れていく。鍵がゆがんで隙間が空き始めた。衝撃で開いた隙間から人間どもの血走った目が見える。彼女は腕を上げた。射撃用意の構え、兵士たちは今一度体制を直す。彼女の魔法陣も回転を強めた。そしてついに鍵が鈍い音を立てて壊れ、城門が開け放たれた。

「放てっ!」

なだれ込む人間どもに彼女の魔法と矢が襲い掛かる。炎であった彼女の魔法は最前列にいた人間の体を燃やし、矢はその後ろの人間どもに襲い掛かる。一部魔法に触れた矢は燃え上がり刺さった人間の体を燃やす。

『あああぁぁあああ!?』

『熱い!熱い!』

 人間どもの悲鳴が跋扈する。彼女の炎に焼かれたものはまだ幸運であっただろう。熱を感じることもなく炭とかした。熱で焼かれ燃え盛る矢に射抜かれたものは熱をもろに体に受けた。たった数秒の間に地獄と化した様相に人間どもはひるんだ。

『ええい、ひるむな!矢も魔法もしばらくは撃てまい!突撃せよ』

 しかし、相手の隊長が突撃を誘発させる。奴の言う通り弓矢は再び撃つのに時間がかかるし、魔法もそうだ。

「近接攻撃に移れ!いいか絶対に孤立するな。多対一を徹底しろ!各個撃破だ!」彼女は中隊長の元へ行き手短に言った。「あとの指揮は任せた。私は相手の指揮官を討ってくる」

「了解いたしました」

 彼女は上空を飛び下を見下ろす。敵の指揮官は鎧の色こそ同じなれど、造形はやはり一般兵とは違う。すぐに見つけた。急降下で指揮官の元へ行く。周りには兵が敷き詰められていたが、奴の前にいた兵は急降下の勢いで踏みつぶし、その他は風圧で飛ばした。

『首をもらいに来た』

『敵陣のど真ん中に来るとは、蛮勇だな』

 相手の顔は鎧で見えない。果たしてその中の表情は畏敬か嘲笑か。声色はどっちともとらえられた。剣を構え相手の動向をうかがう。先に手を出したのは彼女でも指揮官でもない、周りの兵だった。

『死ねぇ!』

 彼女の後ろからの強襲、槍の切っ先が彼女を襲う。彼女は身動き一つしない。その予想外の攻撃に反応しきれないのか。否、反応する必要はない。

 彼女を襲った兵は目前で視界が揺れた。きっと何が起こったのか分からないだろう。血を踏みしめていた感覚も一瞬なくなったのだ。数秒後に彼は落ちたのだと理解した。周りは彼の知らない物がたくさんある。細長い杖のようなものが、先に丸く穴がついている筒がたくさん彼に向けられている。彼はそれが何なのだろうとそのうちの一つに近づいた。小さな穴の中、何かあるのだろうかと目を凝らした瞬間小さな、しかしまぶしい光が見えた。

 

 周りの兵はどよめいていた。指揮官は様子こそ落ち着いているが内心は多少なりとも焦っているだろう。なにせ兵が一人急にいなくなった。魔法陣を踏んだのだ。すると彼は魔法陣に吸い込まれるように落ちていった。崇重病後彼は上から落ちてきた。その姿はまさに凄惨で、顔がつぶれていた。頭がないだとか、そんな単純な表現ではない。頭はある。しかしあるはずの顔はなく、穴が開いていた。その断面はえぐられたような貫かれたような、表現のしにくい有様だった。ただそれは、人間どもが今までに見たことがないはずの死に様だった。

 そう、彼女は虚空の中で一人の人間を銃殺した。虚空の中を見られてはならない。見られなければいい。見たものは殺せばいい。落ちたやつがどのように死んだのかは分からない。銃の引き金を引くタイミングは虚空の”意思”にゆだねた。

 彼女の持つ虚空には一種の自我があり、意思を持つ。ゆえに彼女は虚空をただの鞄として扱い、相棒のように付き合う。

 虚空に落ちたやつの死体を見る限り、相当近い距離で被弾したらしい。初速で出た弾をくらい、肉がえぐれている。ひどいものだ。

『どうした。怖気ついたか』

『…まさか。いくぞ』

 相手は剣を構えなおす。周りの雑兵に手出しする様子はない。転がっている死体を見ればその気も起こらないだろう。一呼吸置き、一瞬の沈黙の後双方動き出す。相手は振りかぶりながら迫ってくる。対して彼女は横に構え立ち向かう。振りかぶったその勢いは目にもとまらぬほどの速さ。素人には無敵であろうその振りを彼女ははじく。横からの衝撃で相手は思わずよろめく。彼女は相手を蹴りつけた。相手は勢いそのまま倒れるが剣は離さない。彼女は倒れた相手にとびかかる。けん制しようと相手は剣を上げようとするがすぐに彼女が手で押さえてしまった。押さえられた手はびくともしない。

『貴様に割く時間はない』

 彼女は相手の首に剣を滑らせた。血しぶきが上がり彼女に降りかかる。死んだ。赤く染まった体で立ち上がり、周りを見る。雑兵どもは呆気にとられたか動く気配がない。

『どうした、かかってこないか。どっちみち皆殺しだ。今死ぬか、後で死ぬか選べ』

 一人がその場から逃げ出した

『よろしい。では死ね』

 魔法陣が6つ彼女を守るように周りを回る。そこから火柱が噴き出した。その火柱に触れたものは鎧ごとすべてが灰になり地面に降り積もる。それを見た他の兵は尻尾を巻いて逃げてしまった。

『逃げるな!』

 誰一人として逃がすわけにはいかない。強大な戦力を伝えてもらいこちらへの攻撃をやめてもらうのも一つの手だが、アーストという国の性質上、その情報を以て戦力を増強し戻ってくるだろう。戦略も練られてしまっては負担が増える。大侵攻の予定日まであと1年を切っているのにこんなところでいらん仕事を増やしたくない。故に全滅させる必要がある。

 魔法を切り替える。雷の魔法は反応する間もなく逃げる背中を突き刺し、一人また一人と倒れる。しかしちまちましていては逃げられてしまう。彼女は一度手を休め、また別の魔法陣を上に展開する。それは今までのとは比べ物にならないほどの大きさで直径10mはあろうか。狙うは集団で逃げる兵の前。彼女は魔法陣に手を添え投げの体制に入る。身をかがめ、右手を後ろに動かし力をためる。魔法陣は彼女の右手にくっついたかのように同じように動く。添えられた魔法陣の上にさらに5つ同じものが重ねられる。そして投げた。投げられた6つの魔法陣は人間の兵の頭上を越え、立ちはだかるように設置された。突然のことに兵は立ち止まり困惑しながら魔法陣を眺める。

「爆ぜろ」

 爆炎が噴き出した。飲み込まれたものはすべて灰燼に帰し、熱風に煽られたものでさえもその熱で焼死する。運よく爆炎からも熱風からも逃れたものが何名かいるらしい。だがどういうわけだか皆その場で立ち尽くしたり座り込んだりして動かない。

「ちょうどいい。試し撃ちをしようかしら」

 動かない的は試し撃ちにぴったりだ。どうせ城内の敷地に入ったやつらは全滅する。入れなかった大半を殲滅した今、だれも我らの新兵器を目撃するものはいないのだ。零式歩兵小銃、初の国産小銃の力見せてもらおう。

 虚空から銃を取り出し、構える。立ち尽くす兵の頭に狙いを定める。距離約100m、風はほとんどない。息を止め引き金を引く。破裂音とともに肩に来る衝撃。人にぶつかった程度の物じゃない。思いっきり殴られたときと同じぐらいの衝撃。耳の中で小さく反響する音。すべてが最高だ。放たれた銃弾はまっすぐ頭へ飛んでいく。見事命中、標的は前につんのめって倒れ伏した。威力はなかなか、命中精度もいい。コッキングし、次弾を薬室に送る。次は座り込む奴だ。距離はさっきの奴よりもう少し離れているだろうか。狙いを澄まし、撃つ。頭を狙った銃弾は風の所為か狙いを誤ったせいか肩に当たってしまった。標的は被弾した衝撃で倒れてしまったようだが、運悪く痛みのせいで正気を取り戻してしまった。叫びながら逃げている。これ以上苦しめるのはかわいそうだ。待っていろ、今楽にしてあげよう。コッキングし、狙いを済ませる。視線は標的の頭に、神経をとがらせ、集中する。彼女には今、すべての音が遠くなった。息を一度吐き、吸い込む。息を止めた。ここで魔法を使う。彼女の眼には魔法陣が発現する。その魔法は彼女が自身で編み出したもの。絶対に外さないための魔法。銃弾は彼女の視線へ必ず飛んでいく。ゆっくりと引き金を引いた。一発の弾丸が発射された音。わずか数秒後標的は頭から血を噴き出して倒れた。

 銃身を下し彼女は息を吐く。コッキングをし、薬室から空薬莢を追い出す。飛び出た空薬莢は虚空に落ちていく。音がもどり、後ろで戦っている声がまた聞こえ出す。城から聞こえるのは果たしてどちらの悲鳴か。日もだんだん落ちていく。真っ暗になると試し撃ちにはあまり向かない。さっさと仕留めてしまおう。

 

 夜になる前には城での戦いも終わった。死者はゼロ。蘇生魔法を使うまでもなかった。戦闘の後片付けは面倒を極める。死体はちゃんと鎧を外さないと処理できない。これが終わらないと帰れないので彼女も一緒になって手伝いたいところだが、そういえば一九〇〇から会議をしなくてはならない。この場を中隊長に任せ彼女は城内へと先に帰っていった。

 一八五〇。なんとか約束の時刻には間に合った。大広間の扉を開けるとそこにはすでに3人の姿があった。昼間に彼女に小銃を届けた第6師団歩兵団長であるの三好少将。三好と同じ緑人であり、戦車部隊長を担っている西村大佐。そして、彼女を含め4人の中で最も大柄な男がいる。彼は鬼人(おにひと)という種族である、古賀技術中将だ。

「すまない。遅れたようだ」

「いえ、どうされますか。もうはじめますか」

「そうだなそうしよう」

 彼女は虚空を開きテーブルと椅子を4つ出した。各々が座ると彼女は提案書のファイルを取り出し例のページを開いた。

「今朝、軍部から新型小銃の開発要求が届いた」

「またか」

「ああまただ。しかも今度は自動小銃ときた」

「自動小銃、ですか。ですがあれは外でもつい最近開発された代物では」

「そうだ、それを我が国でも作れということだ」

「無茶なことを言うな」

「幸い要求性能が四式自動小銃に似ている。こいつをベースにすれば案外行けるだろうよ」

「作るやつの苦労を知らない奴がそんなことを言うんだ」

「…あぁ、まあそれで、問題はこれをどこに作ってもらうかだ。言っておくと上からは軽機関銃に重機関銃も要求されている。おそらくは戦車にも同型のを載せるだろう」

「なるほどだから私が呼ばれたわけでありますね」

「うむ。一応は知らせておいた方がよかろうて」

「だが、工廠はどこも手一杯だぞ。1年で航空機と艦艇を必要数造らんといかん。今任せてる工廠だってやむなくだぞ」

「となると民間に任せるしかありませんな」

「だがどこに任せたものか…」

「山中はどうでしょうか。あそこなら以前に零式拳銃を量産させた経験がございましょう」

「だが量産だけだぞ。設計までは無理じゃないか」

「ですが、どなたか技術将校の方を送れば…」

「じゃあ俺が行くか」

「まあそれが妥当だな。零式歩兵小銃の設計はお前がしたものだし、自動小銃もお願いできるか」

「わかった。ところでそれは大侵攻までに間に合わせにゃならんのか」

「いやその必要はないらしい5年以内になんとかしろと」

「それでもなかなかなもんだが…ふむ、まあでもまだましか」

「機関銃の方はいかがいたしましょう」

「あまり民間を頼りすぎるのもな。やはりどこか一つ工廠を開けてくれないだろうか」

「戦車を作っている工廠ならばあるいは行けるかもしれません」

「あいわかった。それなら俺が交渉しに行こう」

「苦労を掛ける」

「何気にすんな」

「よし、話はまとまった。書類は明日中に用意するから数日後、古賀は本土に行ってくれ」

「了解」

「それでは解散」

 

 




Q.どうしてこんなに魔王サイドの話が多いんでしょう

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