かつて世界を股に掛ける冒険者が居た。道なき道を進み、断崖絶壁の岩山を踏破し、陸地の見えぬ広大な海を渡り、未知なる世界を追い求め旅をした。彼が残した旅行記はベストセラーとなり、多くの人々に親しまれているだけでなく、ポケモン研究の重要な参考文献としても扱われており、オダマキ博士やアララギ博士といった研究者も愛読している。
そんな彼が晩年、もう一度行けるとするなら、どこに行きたいかと聞かれた際、このように答えた。
「あの美しい、藍色の花畑を見てみたい。あの光景は言葉でどう表現しても言い表すことは出来ない、それほど素晴らしい場所だった」
藍色の花畑。それは彼が遺した旅行記の第3巻に記されている。深い霧に覆われた険しい山。そこに住み着く獰猛なポケモンに追われた果てに辿り着いたのは、あたり一面に美しい藍色の絨毯が広がる場所。決して不快ではなく、心地良さを感じさせる薄くも確かに甘い香りを発する花が咲き誇る花園だった。
彼はその美しい場所を、ありとあらゆる語句を用いて讃えつつも、表現しきることは不可能であると断じだ。それほどの光景だったのだろう。
しかし彼は花畑から摘んできたという二輪の花を植えた鉢植えを持ち帰っただけで、その位置については家族や友人に対しても教えることは無かった。もしこの場所が知られれば多くの人間が挙って集まることとなるだろう。そうなればこの美しい場所が持つ空気が失われるのではないか。それを恐れてのことだった。
彼が天寿を全うしてから遥かな月日が経った現在も尚、その花園の場所は現在も明らかとはなっていない。中には花畑の存在そのものが嘘ではないかと勘繰る者も居たが、彼が持ち帰った鉢植えが確かな証拠だ。
彼が望んだとおり、花畑は今も美しい藍色の花を咲かせ続けている。この場所を知るのは、幸運に辿り着いた冒険者と、花畑に住み着いたポケモン達だけだ。
咲き誇る花に紛れ日光を浴びる「チュリネ」。風に揺れながら花の世話をする「フラベベ」。湧き出る泉の近くで眠る「チコリータ」。いずれも大人しく温厚な性格のポケモンである。決して争うことなく、花に囲まれながら暮らす長閑な光景が広がる。
だが一つ疑問が浮かぶ。冒険者が記したように、この花園が存在する山脈には、「グラエナ」、「ドンファン」、「バンギラス」といった獰猛なポケモンが生息しており、日夜、激しい縄張り争いを繰り広げている。しかしそんなポケモン達の姿が、この花園では一切見当たらない。かつて冒険者がこの花畑に辿り着いた時も、彼を追っていたポケモン達はこの花園には立ち入ることは無かった。
険しい山の中でただ一つ、豊かな恵み溢れる地であるにも関わらず、何故多くのポケモン達はこの花園を縄張りにしようとしないのか。
その答えは簡単だ。既にとあるポケモンの縄張りとなっているというだけである。
―……メェ―
そんな花園の番人にして主たるポケモンは、他の草ポケモンに囲まれながら首を大きく伸ばし欠伸をする。その姿だけ見れば、あの凶暴で名高いバンギラスすら警戒するような存在には見えないだろう。
そのポケモンの姿は、ある地域のトレーナーからすれば、どことなくなじみ深く感じるだろう。長い首、二本の触角、どっしりとした四本の脚、そして首元に咲き誇る花。そう、ジョウト地方でよく見られる草ポケモン「メガニウム」である。しかしこの地域に生息するメガニウムの姿は、一般的に知られているものと少し差異が有った。
まず通常のメガニウムの首元の花はピンク色であるのに対し、この花園に住まう
―……ザワッ!?―
何かが地面を踏みしめ、花を踏み荒らす音。突如として花園に踏み入った何者かの気配を感じ取り、小さなポケモン達は慌てたように飛び起きて逃げ出す。
ノシノシという音と共に、花園の中心へと歩いてくる侵入者に、Rメガニウムも立ち上がって警戒を露わにする。
―グウゥ……―
現れたのは、茶色い毛並みに覆われた巨体を持つポケモン「リングマ」だ。どうやら縄張り争いに敗れた、進化したての若い個体のようで、体の至る所に傷が見える。
―グウゥオォゥッ!!―
まだ年若いリングマは、縄張り争いに敗れた苛立ちで気が立っているようだ。花畑の草ポケモン達に向かって咆哮で威嚇する。
―メェガ……―
轟く叫びに小さな草ポケモン達は怯え、草むらに姿を隠すが、Rメガニウムは怯むことなくリングマを睨み、立ち塞がった。
自分の前に立ちふさがる相手。それがこの花園の主だとリングマも直感で理解する。そしてこの恵み溢れた場所を奪い取ってやろうという感情が込み上げる。
まだ年若く、自分の力に絶対的な自信を持っているからこそ、その行為がどれだけ無謀なものか知らない。何故、母親がこの花畑に踏み入らなかったのか、他のリングマの姿がここにないのか、そこに思考を巡らせることすら思いついていなかった。あるのはただ、この花園を独占してやろうという野心のみ。
―グウゥオォゥッ!!―
再び威嚇の咆哮を上げるが、Rメガニウムはただじっとリングマを睨み続けるのみ。それが気に障ったのか、リングマは太い手足で地面を踏みしめ、Rメガニウムへ向けタックルを放つ。
―メェッ!!―
だがリングマの渾身の攻撃は、Rメガニウムの体を僅かに後ろに下がらせる結果に終わる。いくら力を入れようとも、Rメガニウムの体が動くことは無く、ただいたずらに体力を消耗するだけ。
ならばと鋭い爪を振りかざし、Rメガニウムに突き立てようとするが、その前にRメガニウムの首元の花から放たれた
―グウォッ!?―
強烈な閃光に目が眩んだ隙に、Rメガニウムは鞭のように首を大きく振るい、リングマの巨体を吹き飛ばす。
―グゥッ……グッ?―
足を滑らせながら、地面を転がるリングマ。しかしスタミナはまだ十分ある。ここで終わるものかとリングマが顔を上げた……が、その目に映った光景に絶句する。
―……―
それは首を大きく仰け反らせるRメガニウム。それはダメージを受けた姿でも、疲労に喘ぐ姿でもない。膨大なエネルギーを溜め込み、必殺の一撃を放たんとする姿だった。
―メ……―
もし経験を積んだリングマであったなら、これを絶好の好機と捉え、攻撃に移っていただろう。
―メ……―
もしかつてRメガニウムに挑んだリングマであったなら、ここで攻撃しても仕留めきれないと判断し、すぐに回避の体制を取っていただろう。
―メ……―
しかしこのリングマはそのどちらでも無かった。戦闘の経験が少なく、瞬時の判断が出来なかった。ただ目の前のRメガニウムから漏れ出すエネルギーに怯み、呆然と立ちすくむのみ。
―メ……ッ―
そしてついにエネルギーの充填が完了し、Rメガニウムの瞳が照準を合わせるようにがリングマを捉えた。
―メェガアアアァァァッ!!―
―グウゥッ!?―
Rメガニウムの口より放たれたのは巨大な藍色の光球。それは瞬く間にリングマの全身を包み……
――ドンッ!!――
爆音と共に吹き飛ばした。ただ一撃、それだけでリングマの巨体は宙に高く舞い、花畑の外へと飛んで行った。それほどの威力の攻撃をまともに受けたのだ。しばらくは目を覚まさないだろうし、起きればすぐに逃げ出すだろう。かつてこの花畑を奪おうとし、Rメガニウムに挑んだポケモン達のように。
外敵を排除したことを確認したRメガニウムは、一息吐くと、その場に座り眠り始める。その光景を見届けた草ポケモン達も元の場所に戻って、それぞれ思い思いの行動を取る。中にはRメガニウムの胴体の上に乗るものも居るが、その程度で腹を立てることは無い。Rメガニウムが敵意を示すのは、この花園を奪おうとする侵略者だけだ。
普段は温厚ながらも、この花園を踏み荒らそうとする者には一切の容赦をしない。そんな二面性を持つ守護者。それは今日も人知れず、玉座のように花園の中心で佇むのだった。
チコリータ(原種)
↓Lv16で進化
ベイリーフ(原種)
↓Lv32で進化
| メガニウム | |
|---|---|
| ぶんるい | ハーブポケモン |
| タイプ | くさ・フェアリー |
| たかさ | 1.7m |
| おもさ | 98.8kg |
| とくせい | しんりょく(ミストメイカー) |
| 種族値 | |
| HP | 90 |
| こうげき | 72 |
| ぼうぎょ | 100 |
| とくこう | 88 |
| とくぼう | 105 |
| すばやさ | 70 |
| 合計 | 525 |
| おぼえるわざ | |
|---|---|
| レベル | わざ名 |
| 1 | たいあたり |
| 1 | なきごえ |
| 1 | はっぱカッター |
| 1 | アロマミスト |
| 1 | マジカルシャイン |
| 12 | つきのひかり |
| 18 | リフレクター |
| 22 | マジカルリーフ |
| 26 | やどりぎのタネ |
| 34 | あまいかおり |
| 40 | ひかりのかべ |
| 46 | のしかかり |
| 54 | しんぴのまもり |
| 60 | ギガドレイン |
| 65 | ムーンフォース |
| 進化 | アロマキャノン |
| わざ名 | タイプ | 分類 | 威力 | 命中率 | PP | 範囲 | 優先度 | 直接攻撃 | 効果 |
| アロマキャノン | フェアリー | 特殊 | 120 | 100 | 5 | 1体選択 | 0 | × | 1ターン目に自分のとくぼうを1段階上げて、2ターン目で攻撃する。フィールドがミストフィールド状態であれば、溜めずに攻撃できる。 |
Q:どうして「アロマキャノン」で上がるのが、「とくこう」ではなく「とくぼう」なのか。
A:ほぼデメリット無しでとくこうを2段階上げてくるポケモンの劣化になりかねないため。
なお、「アロマキャノン」は「ぼうだん」で無効化されます。