とある国には、霧が深い大きな谷が存在する。
この谷には昔から「ヒコザル」や「モウカザル」の群れが生息していることで知られ、その数は近くの村の住人よりもはるかに多い。そして彼らが人懐っこい性格であることも相まって、この谷は観光客からも人気のスポットとなっている。
だがこの谷では一つの謎が有った。それはモウカザルが進化した姿である「ゴウカザル」を誰も見たことが無いというものだ。通常であれば、これほど多くの群れであればリーダーとしてゴウカザルが居ても不思議ではない。だが、訪れた観光客も研究の為にやって来た学者も、誰一人としてこの谷でゴウカザルを発見出来ていないのだ。そのため、この谷にはゴウカザルへの進化を妨げる何らかの力が働いているのではないかという説すら出ている。
そんな謎のある谷だが、近くの村には昔からとある言い伝えが有った。それは霧の中には炎を纏う神様が居るというもの。神様は霧の中から人間達を観察し、時に人間に悪戯をして楽しんでいる。しかし、村に災いが訪れた時は、その神様が守ってくれる。だから神様の使いであるヒコザルやモウカザルを決して傷つけてはならない。また、収穫の季節になると神様への感謝として、村の外れに建てられた石造りの祠に木の実を置いていくという風習も有る。
そしてその言い伝えの元となった存在は、人知れず濃霧の中に身を潜めながらも確かに実在していた。
―ヒコッ!―
霧が掛かった急角度の谷の斜面を跳ぶ一匹のヒコザル。素早い身のこなしで木々の合間を駆け抜けるその顔には、焦りの表情が浮かんでいる。その脳裏に映るのは、数分前の出来事。
いつも通り、村外れの祠へ供えられた木の実を取りに行った時だった。村の中が何やら騒がしいが、そんなことを気にせず好物のモモンの実を齧っていると、近くから地響きのような音が聞こえ出す。何事かと思って、モモンの実を抱えたままその音がした方向へと向かう。近づくにつれ木々が折れる音や岩が砕ける音が混じる。その音に恐怖を感じつつも、何が起きているのかを知るべく、足を速める。気付けば他のヒコザルやモウカザルも同じようにその音の方向へと駆けている。
―ギラアァアッ!―
空気を震わせる雄叫びが聞こえたかと思うとすぐ傍の木が倒れ、思わずヒコザル達は動きを止める。そこに居たのは、木々を薙ぎ倒しながら村へと猛進するよろいポケモン「バンギラス」の姿であった。
バンギラス。獰猛かつ攻撃的な性格で、縄張りに入った者は例えどんな相手であろうとも容赦しない危険なポケモン。このバンギラスは体表に幾つか傷が付いていることから、どうやら縄張り争いに負けた個体のようだ。敗北の屈辱、そして新たな縄張りを確保すべく、かなり昂奮した状態に有り、その危険度は通常時よりもさらに高まっている。
普通であれば関わることはせず、逃走すべき相手。だがそのバンギラスの進行方向には、ヒコザル達にとっての憩いの場所にもなっている、あの村が有った。このままでは村がただでは済まない。そう思い至ったヒコザルは一目散にある場所を目指して駆けだしたのだった。
急勾配の険しい谷の斜面を駆け抜け、辿り着いたのはずっしりと聳える大樹の根元に空いた洞。その入り口に立つと、ヒコザルは中へ向けて声を上げる。
―ヒココッ! ヒコッ!―
ヒコザルの懸命な訴えに応えるように、真っ暗だった洞の中で鮮やかな橙色の炎が上がる。それを見てヒコザルが更に声を上げると、炎はより火力を増し、洞の中を照らし出す。あまりにも大きな炎。だが不思議と熱さは感じない。
― ヒコォ……―
その美しさに思わずヒコザルが見惚れた瞬間、一陣の風と共に炎は洞の中から飛び出し、瞬く間にその姿は見えなくなった。
木々をへし折り、地面を揺らしながら霧の中を突き進むバンギラス。その視線の先には、小さな村が映る。既にバンギラスの侵攻を察知していたことで、村人達の避難は完了している。とはいえ、村人達にとっては掛け替えの無い歴史ある故郷。そこから離れなければならないというのは、身を引き裂かれるような思いだったことだろう。
だが、そんなことはバンギラスには関係ない。どれほど村人達の思い出が詰まって居ようとも、どれだけ歴史ある村だったとしても、等しく自身の道の邪魔になる障害物でしかない。このままではバンギラスの手により村は蹂躙されてしまうことだろう。強大な力を持つポケモンの前では人間は無力。それも仕方が無い事なのかもしれない。
しかし、そうはならなかった。
―ギラァッ!?―
突然、側面から大きな衝撃を受け、バンギラスはその場に倒れこむ。それは何かが自分に突進してきたものだと察したバンギラスはすぐに立ち上がり、自分に攻撃を仕掛けた何者かの正体を確かめようと目を凝らす。だがそれはすぐに霧の中へと消え、姿が判別しない。ただ、橙色の炎が揺らめいていたことだけが僅かに見えただけ。
―ギラッ!?―
一体何者だと怒りを感じていたバンギラスだが、今度は背後から衝撃を受け、思わず前につんのめる。足に力を込めて何とか踏ん張ると、尻尾を大きく振って反撃。しかしそれは当たることなく、再び相手は霧の中へと消えていく。ならば、攻撃を仕掛けてきた瞬間にカウンターするしかない。そう考えバンギラスは周囲に視線を巡らせ警戒する。
―ッ……―
そんなバンギラスを嘲笑うかのように、霧の中に居る何者かは縦横無尽に動き回りながら、攻撃すると見せかけてただバンギラスの横を通り過ぎたり、小石を投げて挑発したり、火花を散らして目晦ましをしたり……。
―ギラアアアァッ!―
徐々にバンギラスは苛立ちを露わにし、怒りの雄叫びを上げる。それを好機と見たのか、バンギラスの頭上から橙色の炎が迫る。しかしそれは、バンギラスにとっても待ち望んだ好機であった。炎へ向け大きく口を開いて噛みつきに掛かる。思い通りに翻弄された恨みを晴らさんと言わんばかりに力を込めて、炎に牙を突き立てようとし……
―ボフンッ!―
―ギッ!?―
その瞬間、バンギラスの視界が真っ白に染まった。実はバンギラスが噛みつこうとしていたのは、本体ではなく、炎で形作られた分身。それがバンギラスの牙と触れた瞬間、分身は大きく爆ぜバンギラスの顔面を炎で包み込んだのだ。
一見派手に見えるが、バンギラスの硬い外皮には微々たるダメージ。だがその外皮に覆われていない口内はそうはいかない。爆風と熱で苦しみ咽る。そしてそれは致命的な隙となった。
―ゴオッ!!―
背後から猛烈な熱波を感じ、バンギラスが反射的に振り返ったのと同時、頭から橙色の炎を吹き上げるポケモンが霧を切り裂いて姿を現し、その拳をバンギラスの腹部へと突き刺した。不意を突いて放たれた渾身の一撃。それはバンギラスの急所へと命中し、悲鳴を上げることも出来ずバンギラスは地面に倒れ伏した。
霧の中から突如現れバンギラスを倒したこのポケモンこそ、これまでこの地で確認されていなかったゴウカザル。頭から吹き出た橙色の炎はまるで長髪のように靡き、額と胴体には金色の文様が浮かび、手首と足首には雲のような柔らかい体毛が生えている。通常の個体とは一部異なる姿をしていることから、この谷の環境に適応したリージョンフォームであることが分かる。
かつてこのRゴウカザルがまだヒコザルだった時、村の人々は木の実を分けてくれたり、怪我をした時は優しく治療してくれたりした。そのためRゴウカザルにとって村人達は群れの仲間と同じ存在。それを傷つけることは、何が有ろうとも許さない。
思い出を噛みしめ小さく笑みを浮かべたRゴウカザルは、バンギラスの尻尾を肩に担いで、谷の外へと追い出すべくズルズルと引き摺り、再び霧の中へと姿を消した。
この村とRゴウカザルの共存関係。きっとこれから先も、不思議で暖かなこの絆は決して途切れることは無いだろう。
ヒコザル(原種)
↓Lv14で進化
モウカザル(原種)
↓Lv36で進化
| ゴウカザル | |
|---|---|
| ぶんるい | かえんポケモン |
| タイプ | ほのお・フェアリー |
| たかさ | 1.2m |
| おもさ | 53.8kg |
| とくせい | もうか(いたずらごころ) |
| 種族値 | |
| HP | 71 |
| こうげき | 109 |
| ぼうぎょ | 71 |
| とくこう | 94 |
| とくぼう | 71 |
| すばやさ | 118 |
| 合計 | 534 |
| おぼえるわざ | |
|---|---|
| レベル | わざ名 |
| 1 | ミストトリック |
| 1 | フレアドライブ |
| 1 | なまける |
| 1 | ひっかく |
| 1 | にらみつける |
| 1 | ひのこ |
| 1 | マッハパンチ |
| 16 | みだれひっかき |
| 19 | かえんぐるま |
| 26 | フェイント |
| 29 | いちゃもん |
| 42 | ほのおのうず |
| 47 | じゃれつく |
| 52 | アクロバット |
| 58 | めいそう |
| 65 | だいふんげき |
| 進化 | ミストトリック |
| わざ名 | タイプ | 分類 | 威力 | 命中率 | PP | 範囲 | 優先度 | 直接攻撃 | 効果 |
| ミストトリック | フェアリー | 変化 | - | - | 10 | 自分 | 0 | × | 味方の場を5ターンの間、しろいきり状態にする。その後、控えのポケモンに交代する。 |
モチーフは孫悟空。