鬼子   作:亥露

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今回はギャグ回です。当たり前の様にモブキャラを出す癖。


第參訓 夫婦喧嘩は猫も食わないし美味くも無いからよそでやれ

 春の暖かさとはこの事を言うのだろうかと、私は縁側に座りながら思った。雲一つ無い青空と一緒に咲き誇っている桜が私の心を癒してくれる。お茶を飲みながら縁側でのんびりしている図は、誰が如何見ても還暦を過ぎたお婆さんだろう。然し其処に居るのは三十路手前婚期を逃している女だった。悲しい。

 京の田舎の方に私達は居た。先日の麻薬事件で幕吏にバレた私達は逃げる様に此処にやって来たのだ。別れ際にヅラと二人でうどんを食べに行ったが、食べた後に「俺は蕎麦の方が好きだ。」と吐かしていた。因みにヅラはきつねうどんで、私はネギ抜き素うどんだった。美味しかったなぁ。最後ので台無しだけれど。

 そんなこんなで、私は早急に空き家を見つけ、此処に身を潜めているというところだ。庭も広いし、眺めもいい。うん、我ながらいい場所を見つけた。私の横に居る猫も、気持ち良さそうに寝ている。私も少々うとうとしてしまうが、其処をグッと堪えて外を眺めた。何もする事も無いし、隊士達は皆んは出腹っているので、寝てしまっていいのだが、まぁ、何かあった時の為に起きておくのが得策だろう。

 「そんな所で日向ぼっこか?紅葉。」

 背後から声がし、吃驚して振り返って見ると、柱に寄り掛かって立っている晋助が居た。猫は丁度起きて、晋助の足に擦り寄って行った。猫はとても晋助に懐いている様で、晋助が来た時は、必ずと言って良いほど足に擦り寄るのだ。晋助も満更では無いようで、猫を愛でている。

 晋助は横に座り、猫は私の膝に乗って来た。私は猫を撫で、猫もごろごろと喉を鳴らしている。

 「良い日だよね。天気も良いし、華も綺麗だし。暖かいし。」

 「そうだなぁ。」と晋助は煙管を吹かせる。私は横に有った饅頭を差し出して「食べる?」と聞いた。私と晋助が縁側でまったりとしている姿は他の隊士が見たら珍しい光景だろう。晋助は抑もそういう隙を見せないし、私は日々船内を走り回っている。

 「他の奴らは何処に行ったんだよ。」

 「また子ちゃんは近くに山があると気付いたらいなや一般隊士を連れて冒険に行ったし、武市も其れに着いて行って、万斉は「なんか良いメロディが降りて来そうで御座る。」って言って街の方へ赴いて行ったし。皆んな元気だよねぇ。」

 勿論皆んなには帽子と飲み物を持たせた。春だろうと、こんな天気じゃあ気を付けて置く事に越した事は無い。晋助は「全員自由だな。」と笑った。他の人には見せない顔だ。

 すると外から声が聞こえて来た。誰かと言い争っている様で、とても聞いてて気分の良いものじゃあ無かった。猫は一目散に其の方向に行き、私は後を着いて行くと、玄関の門付近で若い男女が言い争いをしていた。晋助も付いて来たらしく、「騒がしいな」と顔を覗かせている。

 「五月蝿い!浮気男!最低!」

 「だからちげぇっつてんだろうが!耳に糞でも詰まってんのか!此の貧乳が!」

 瞬間、女性が男の股間を思いっきり殴り、泣きながら「酷い!」と言ってその場を走って逃げた。男はその場に蹲り、「おおおぉぉぉ………。」と唸っていた。此の状況で被害者は男で加害者は女に見えるだろう。私も見える。私達は面倒事に巻き込まれる前にそそくさ家に入ろうとしたが、其の願いは虚しく、男と目が合ってしまった。

 其の目は絶望に似た目をして、たった一雫、涙を流した。

 「俺、金玉付いてる?」

 

 私達は其の男を家に上げ、茶菓子を出した。男は暫く悶絶したままだったが、何とか痛みが和らいだのか、「いやーすいませんねぇ。」と煎餅を容赦無くバリバリ食っている。よもやすいませんという態度では無い。

 「おう。申し訳ねぇと思ってんだったらもう少し潮らしくしたらどうだよ。」

 「本当に助かりましたよ。あの時助けてくれなかったら俺は男と女のハイブリッドになっていた所でした。」

 「人の話聞けよ。」

 其の男は晋助の前だろうと怯む事なく自分のペースで喋り続けた。

 「俺の名前は竹達康太と申します。実は先程の様に彼女と喧嘩をしてしまって、別れる寸前なのです。一体全体如何したものか……。」

 「知るか。」

 晋助バッサリ。本当心底如何でも良さそうにそう言った。まぁ、此の人達が別れようが和解しようが、ぶっちゃけ如何でも良いのだ。然し、此の竹達と言う男は、そんなの関係が無いらしく、此方に案を迫って来た。

 「何か良い案は有りますか?」

 「本当に人の話を聞かねぇな。此の男。」

 再度自分のペースで話す彼に晋助は頭を抱える。晋助をこう困らせるだなんて。竹達、恐ろしい。

 「まぁまぁ晋助。一寸だけ仲直りのお手伝いしてあげようよ。乗り掛かっちゃった船だし、ね?」

 私がそう言うと、「沈没しそうだけどな。」と目頭を抑えた。

 「おお!手伝ってくれるのですか!それは有難い!」

 竹達は目を輝かせてそう言った此の男、こう言う時だけ耳が良いのか。だから喧嘩になったんじゃ無いのか?

 「因みに、何が原因で喧嘩さたのです?なんか浮気者と彼女さんは仰って居られたのですが…‥。」

 私がそう問うと、竹達が急に涙ぐんで話し始めた。私達は其の姿にギョッとして、目を見合わせた。感受性豊かなのか、何なのか。

 「実は彼女に贈り物をしようとして、買ったは良いのですがそれを彼女に見られてしまって、何を勘違いしたのか浮気だと疑われてしまい…‥。聞く耳を持ってくれないのです。。」

 「如何してこんな事に……。」と涙ぐんで喋る彼に、私と晋助は少し同情の気持ちが出て来た。それは哀れな……。折角好きな人に贈り物をしようとしていたのに、そんな風に疑われたら、誰でも悲しいだろう。勿論私も悲しむ。

 「其の贈り物って、一体どんな物なんだ?」

 晋助は少し協力しようと、そんな事を聞いた。そしたら、懐から包装された細長い箱を差し出して来て、私達は其れを受け取り中を開けた。

 「本当に如何しましょう。結構可愛い物を買ったんですけど。否、可愛い物だったから誤解をされたのか?喜ぶと思ったんだけどなぁ。色物ブラジャー。」

 「喜ぶかぁぁぁぁぁぁ!」

 私は其の箱を其奴の顔面に投げつけて叫んだ。晋助は想定した物とは斜め上の物が出て来た衝撃で、思考が停止している。

 「何で如何にもネックレスが入ってそうな箱にブラジャーを広げて入れてんのぉ⁈お前もしかしてそれ脱衣所で箱から出して置いてたんじゃないだろうな!」

 「おお、よく分かりましたね!其の方がデザインも一発で分かって一発ベットで……。」

 「最低だよ!最低な思考回路しているよ!。」

 全ての点と点が線になった瞬間だった。これは女性は全く悪く無い。と言うかよく此の男と付き合おうと思ったな。

 「お前、正気か?どんな顔でレジに並んだんだよ。」

 意識を取り戻した晋助が竹達に聞いた。其の顔は、本当に訳が分からないと言う顔で、頭の上にははてなマークが沢山浮かんでいる。

 「何も疾しい事じゃ無いので、堂々と女性のレジに並びました。」

 「可哀想!」

 絶対気不味かったよ!絶対困ったよ!其の店員さん!如何したら良いか分からなかったよ!

 「付き合ってられねぇ。帰れ。」

 そう言い、晋助は席を立とうとしたら、竹達は晋助の腰にしがみつき、「そんな事を言わねぇで下さいよぉ旦那ぁ。」と咽び泣いていた。晋助は「邪魔だ。」と竹達を引っぺがそうとするも、竹達は一向に引こうとせず、晋助の着物を涙で濡らしていた。おい、其れ洗うの誰だと思っているんだよ。止めてくれ。

 「分かった!分かったから離れろ!気色悪りぃ!」

 一向に離れる気配を見せない竹達に痺れを切らし、とうとう協力宣言をしてしまったのだ。竹達は鼻水を垂れ流し、「有難う御座います〜!」と全ての文字に濁点が付きそうな程感謝をしていた。晋助は無理矢理引っぺがし、そそくさと部屋を出て行く。

 「へ?何方へ?」

 「決まってんだろ。街だよ。街。」

 

 「だから何で此れを女が喜ぶと思ってんだよ。今すぐ返品しろ。」

 「えぇ!此れも駄目ですか?可愛いじゃないですか!」

 「テメェの好みは聞いてねぇ。」

 私達は今、田舎から少し離れた街に来ていた。其処は沢山の人が純粋な気持ちで楽しめる様な物がお手頃サイズで沢山売られている。晋助曰く、問題は此の人のセンスにあるのだろうと、共に街へ繰り出したのだ。今だってこけしを買っていた。誰が喜ぶねん。そんな物。子供じゃあるまいし。晋助もそんな彼に再度頭を抱えた。彼のセンス上、何でもいいから選んでしまえと言う十八番が通用し無いタイプなので真剣に選別するしか道は無いのだ。

 かと言ってこのまま手当たり次第に見ていったら文字通り日が沈んでしまうというのも事実。私が如何したものかと悩んでいると、晋助は面倒臭そうに口を開いた。

 「もう俺が選んでやろうか?」

 晋助は我慢の限界が来た様で、もうヤケクソになっている。まぁ確かに延々といつ来るかも分から無い出逢いを待つよりマシなのを誰かが選んだ方が手っ取り早いだろう。然しそんな事は彼には許せ無い様で、「駄目です!」と必死な顔になって訴えかけた。

 「此れは俺が彼女の為に選ばなきゃ駄目なんです!そうしないと俺からのプレゼントじゃ無い!」

 そうしないと意味が無い。

 そう言い、死に物狂いでプレゼントをまた選び始めた。晋助もそれに折れたのか溜息をついて見守っている。晋助も其の気持ちがよく分かるのか、親身になって一緒に選んでいる。こういう真剣な所が彼女さんは好きになったのだろうと初めて理解をして納得した。

 別の誰かが選んでしまえば意味が無い。贈り物で一番重要なのは()()に贈ったのかという事だ。人によるが。少なくとも私はそう思う。

 そんなこんなで選んで居ると、背後から聞き慣れた声がした。

 「おや?そんな所で何をしているで御座るか?」

 万斉だった。そういえば街に行っているんだったな。良いメロディは思いついたのだろうか。生憎私には其の様には見えないが。

 其れは彼の周りに群がっている若い女の子が物語っていた。

 「おい、何やってんだ?テメェ。」

 「何って、アイディアを模索している途中で御座るよ。」

 「ほう、テメェは女と一緒に居る方が滞るのか。」

 「いやぁ、意外な発見で御座るな。」

 万斉は悪びれる様子も無くそう言った。いや、悪びれる事は何もしていないけれども。何かなぁ。

 「お前、女に贈り物する時は何を選ぶ?」

 晋助は使える物は何でも使う質で、万斉にも同じ事だった。然しこんな事言うのも何だが、人選ミスでは無いのか。此の子に聞いてもきっと碌な返事は返ってこないな。

 「そうで御座るな。拙者はオリジナルソングを送るな。矢張りナンバーワンよりオンリーワンで御座ろう。」

 ほら。やっぱりね。晋助は「分かった。もう良い。」と言って話をぶった斬った。やっと理解したのか。

 「然し、贈り物で重要なのは、相手が何を欲しているかを十分に理解しているか如何かだと思うがな。一般論だが。」

 要は使用用途が不明だったり、必要の無い物だったら、どんな高い贈り物でも価値は下がるという事らしい。成る程。確かに一般論だ。珍しく真面な事を言ったな。

 「出逢って早々で悪いが、拙者はもう行かなくては。此の子達にタピオカなるものを買ってやらないといけないで御座るからな。」

 そう言い、足早にその場を去っていった。数秒の出来事だった。もう此れは語らないでも良かったのでは無いか?此の中身の無い会話を一体誰が欲すると言うのだろうか。全く参考にもならなかったし。

 「そうだ!御嬢さんは何が良いと思いますか?女性の意見を少しでも聞いた方がヒントになるかも!」

 竹達はくるりと私の方へ向き直りそう聞いて来た。何が良いと訊かれてもなぁ。人の好みなんて人其々だし。

 「私が貰って嬉しい物と言えば、調理器具や掃除道具等の日用品ですが……。然し彼女さんが貰っても嬉しい物でも無いでしょう。まるで家事をしろと言っている様な物ですからね。」

 そう言うと、「そうですよねぇ。ていうかばばくさ……。」と項垂れた。何だテメェ。聞いて来てばばくさいだなんて。贈り物は便利性が大切だろうが。お前の顔面真っ白になるまでたわしで擦ってやろうか。

 ふと私は自分の髪を結っているリボンの事について思い出した。

 そういえば……。

 「あの、こう言うのは如何でしょう。」

 

 「何よ。こんな所に呼び出して。言っておくけれど、私は未だ貴方の事を許していないから。」

 そう言い、ふんぞり返っている彼女こそ、竹達の彼女だった。名は聞いてはいないが。

 一方の竹達は自信満々に立っている。最早謝る姿勢では無いし、その姿勢も見られない。こういう所なんだよなぁ。

 何方も胸を張っているという異様な光景を前に、私達は近くの大樹の後ろに身を隠している。先程までは此れで仲直りが出来るだろうと思っていたが、竹達の態度を見て其の自信も半分まで消え失せた。残りの半分は奇跡を願う保険だ。もう祈るしか無い。頑張ってくれよ。此処できめなきゃ私達の頑張りも水の泡だ。

 「実はお前に渡したい物があるんだ。受けたってくれるか?」

 「渡したい物?」

 竹達はそう言い、懐から箱を取り出して彼女に差し出した。彼女が受け取り中を開けてみると、其処には花柄のかんざしが一つ入っていた。

 「何……これ。」

 「お前に渡したくって。今日、付き合って一ヶ月の記念日だろう?」

そう、それを渡す様に提案したのは私だった。いや、正確には髪飾りを買ってやってはどうかという提案だけだったが。

 「お、覚えていてくれたの?」

 当たり前だと彼は笑う。

 彼女は顔を真っ赤にして「そ、そう。」と言っていた。

 「大正解だな。」

 「不正解中のね。」

 私と晋助はほっと胸を撫で下ろした。彼女も彼女で割とチョロいのか、もう先程のことは気にしていない素振りを見せていた。

 「つーか。何でお前は急に髪飾りを見に行こうって言い出したんだ?」

 晋助の問いに、私は当然の様に、其の答えを提示した。

 「万斉の言葉を借りただけだよ。贈り物で重要なのは、()()()()()()()()()()()。」

 それを怠って仕舞えば、最早押し付け以外の何者でも無い。それを大前提としなければ意味が無い。

 中身も無い。

 「彼はそれを怠っていた。否、考え付かなかったと言ってしまった方が良いのかな?」

 「だから何でそれでお前は髪飾りを選んだんだ?女が欲する物なんて他にも沢山あるだろ。」

 「彼女の今している髪飾りだよ。。」

 私は彼女の髪に刺してあるかんざしを指さしてそう言った。其のかんざしは薄汚れており、少し玉の部分も欠けている。

 「女性としてはそういう小物は綺麗でいたいじゃない。そして彼女の住んでいる所は確か三丁目の公園の真横。其処の奥さん曰く経済的余裕が無いと言っていた。なれば買い換える余裕もない。然し彼女には彼氏がいる。彼氏の前では綺麗でいたいじゃない。其処で彼から贈ればいい。彼は記念日を祝えて、彼女は新しいかんざしを手に入れられる。如何?素敵でしょう?」

 「利害の一致だな。」

 「利は害されていないでしょう?」

 私は髪を結っているリボンに手をやった。もう一つ理由があるのだ。

 其れは晋助に貰った此のリボンだ。十年前、私が髪が中途半端に伸びていた時に、まだ万斉達と出逢う前に、晋助から贈られた物だ。当時飛び上がる程に喜んだのは私のみが知る過去だ。

 ふと竹達の方に目をやると、彼女とイチャコラやっていた。此奴、私達がいる事を完全に忘れているな。晋助も死んだ目をしている。

 そしてその彼女がモジモジしながら口を開いた。

 「あのね、一つ伝えたい事があって。あの、貴方がくれたブラジャー。今着けているの。」

 アナタガクレタブラジャー。イマツケテイルノ。

 咽せた。二人同時に。私は頭の理解が追いつかず、必死に脳の動きを巡らせた。

 今なんて言った?着けてる?ブラジャーを?何で?

 「ほ、本当か?なら其処の宿屋で休憩していかないか?四時間ほど……。」

 「もう、エッチ。」

 そう言うと二人は宿屋に向かっていった。

 否、向かおうとした。

 其れを邪魔したのは晋助だった。晋助は足元に転がっている石を手に持つと、竹達の脳天に向かって投げつけた。竹達はその場に倒れ込んで動かない。彼女は「たっちゃーん!」と叫んでいた。タッチか。

 「帰るぞ。やってられっか。」

 「うん……。」

 私達はきびつを返して帰って行った。私達のあの苦労は一体何だったのか。夫婦喧嘩は何とやら。

 「帰りに団子を食べて帰るか。」

 「そうだね。」

 そう言い、竹達達を置いて団子屋に向かった。

 

 後日談と言う程でもないが、その後の事を語らせて貰おう。私達は団子屋に言って一服。其処の団子はとても美味しく、其れは晋助も認める程だった。店主もいい人で、万斉達にもと思い、複数お持ち帰りも頼んだのだ。

 私達が帰ったのは夕暮れ時だった。また子ちゃん達はもう既に帰っていて、虫籠いっぱいに虫を詰めていた。成る程、これが蠱毒というものかと感心した物だ。

 武市は珍しい薬草を見つけたと言い、私に見せてきた。

 私は武市に「皆んなと仲良く食べてね。」と預けて、万斉の所に向かった。

 万斉も帰ってきていた様で、別室で作曲をしていた。部屋には無数の紙が散らばっている。どれもこれも五線譜に音符が描かれていた。此の短時間でよくこんなに書けたなぁ。

 私は頭の中で其の音階を想像して聞いてみた。

 「結構いい曲じゃあないか。」

 私が其の紙を順番にまとめて横の机に置いた。やっと其れに気付いたのか、ヘッドホンを外して此方を向く。

 「少しは休憩してね。」

 私はコーヒーを万斉に渡して隣に座った。万斉は「有難う。」と言い一口飲んだ。

 「此方こそ有難うね。今日のアドバイス、役に立ったよ。」

 「其れは良かった。」

 「贈り物は相手が何を欲しているのか、か。結構貴方も考えているんだねぇ。」

 ——楽曲提供もそうで御座る。

 万斉はそう言いまた一口。そして此方をじっと見て「其れは主も同じ事で御座ろう。」と私に言ってきた。私は何の事か分からず、頭にハテナを浮かべていると、万斉は続けて口を開いた。

 「いつも拙者達を支えてくれて、拙者達を助けてくれて。とても感謝をしている。有難う。」

 そう言い、引き出しから包装された箱を私に差し出して来た。中を開いてみると、CDが入っていた。

 「何時もの御礼で御座る。後で聞いてみろ。」

 私は一瞬ポカンとして、吹き出した。わざわざ私に御礼をする為に作曲をするなんて。嬉しくて、可愛くて笑ってしまった。「笑うなら返せ!」と恥ずかしそうに言っていたが、「やーだよ。」と懐に入れた。もう何回目かも分からない感謝を伝え頭を撫でた。万斉は恥ずかしそうにしていたが、満更でも無さそうだ。

 「ねぇ、万斉。今作っている曲、途中までてもいいから聴かせてくれない?」

 万斉はベンっと弦を鳴らし、「いいで御座るよ。」と言った。

 もう日は落ち、コウロギも外で鳴っている。其れに合わせて万斉が演奏する曲が、闇夜に消えていった。まるで鈴の様に、優しく。

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