1
「本当に如何しようもない人だったんですね。銀さんは。」
「あっははは。」
新八君の愚痴に私は苦笑いしながら一緒に万事屋に足を運ぶ。別に何か予定があるとかでは無いが、偶々街で新八君と会い、「よければ万事屋でお茶でも。」と言ってくれたので有り難くお誘いを受けさせてもらう事にした。銀時の様子も気になるしね。
新八君はと言うと銀時に不満を抱いている様で、給料も払わずのほほんとしているらしい。銀時らしいと言うかなんというか。後でお灸を据えておこうかな。
新八の愚痴を聞いているうちに万事屋に着いたが、二階から言い争う声が聞こえた。
銀時とお登勢さんだった。
家賃が如何のこうのという内容がまる聞こえだった。また彼はだ家賃を払っていないのだろう。
「はー、またやってんのか。」
新八君は溜息をつき、そそくさと上へ上がっていった。私も続く様にして二階へ。
「ちょっと……あんたら良い加減に……。」
直後真上から銀時が降ってきた。そう、投げられたのだ。お登勢さんに、銀時が。
避ける事は不可能と判断した私は新八君の後ろにまわり、銀時と新八君を支える様にして落ちていく。
まだ傷も癒えていない頭の傷が開いていくのがわかる。
もうここに来るの辞めようかな。
2
「どーすんスか、生活費までひっぱがされて…。今月の僕の家賃ちゃんと出るんでしょーね。頼みますよ。僕んちの家系だってキツイんだから。」
私達は今度こそ二階に上がり、新八君にお茶を出してもらった。その間新八君は銀時に小言を言い、銀時は知らぬ存ぜぬ。仕舞いには「腎臓って二つも邪魔じゃ無い?」とか言い出した。
「銀時あのねぇ、ちゃんと家賃払いなよ。パチンコとか行ってる暇があるなら。」
私はそう溜息をつくと「へーへー」と聞いているのかいないのか。いや、これは絶対聞く耳を持っていないな。
新八君曰く、お妙ちゃんはあれからスナックで働き始めたそう。まぁ、若い女の子が時給高いところで働くんだったら其処くらいだろうな。話に聞く限り、悪いところでは無さそうだし。
然し銀時は話を聞いておらず、「アリ?映りワリーな。」とテレビをバンバン叩いている。
「テメーも叩いたら頭良くなるかな?」
「いだだだだ‼︎ごめん!ごめんて!割れるぅ!液晶どころか俺の頭蓋骨までカチ割れるぅ‼︎」
私が銀時の頭をギチギチと掴んでいると、丁度良くテレビが映り始め、気になるニュースがやっていた。
『現在謎の生物は新宿方面へ向かっていると思われます。ご近所にお住まいの方は速やかに避難する事を……。』
「オイオイ、またターミナルから
「最近じゃなく十年前からずっとそうでしょ。まったく、入国管理局は何やってんだか。」
テレビを見てみると、家は半壊、家事が起こっているのかどこそこで煙が上がっている。
私達がテレビに近づき会話をしていると、新八君が「
とはいえ幕府がなんとかしてくれるだろう。こんな事を言いたくは無いが、かぶき町じゃなくて本当に良かった。言ってしまっているが。
然し、其の思いを打ち砕くかの様に、チャイムがなった。
銀時はお登勢さんだと思ったのか、ドガドガと走って行き、玄関に飛び蹴りをした。
「金ならもうねーって言ってんだろーが腐れババア‼︎」
玄関の扉は勢いよく吹っ飛び、外に居た人に銀時の足がそのままクリーンヒットされる。
然し其処に居たのは大家のお登勢さんでも無く、ましてや新聞のお兄さんでも無かった。
「あれ?」
「局長ォォ‼︎」
「貴様ァァ‼︎何をするかァァ‼︎」
噂をすればなんとやら、入国管理局局長、長谷川泰三だった。
3
「入国管理局の長谷川泰三って言ったら、天人の出入国の一切を取り締まってる幕府の重鎮スよ。それが一体なんの用でしょう?」
「噂に聞くと入婿で妻にハツって言う人が居るらしいよ。なんでもそのハツって人は江戸幕府の官僚の家らしく、まぁ要するに逆玉の輿だね。そんなのが一体なんの用なんだろう。」
「何の用ですか?おじさん。」
新八君、私、銀時の順番でコソコソやっていると、鼻にティッシュを詰めた長谷川が煙草に火をつけて答える。
私達は今車の中にいる。ベンツだ。後ろに私と新八君と銀時が座り、前の方に長谷川が座っているという構図だ。
「万事屋とつったけ?金さえ積めば何でもやってくれる奴がいるって聞いてさ。ちょっと仕事頼みたくってね。と言うかお嬢ちゃんなんでそんな事知ってんの⁉︎え⁉︎誰にも話した事無かったのに‼︎お嬢ちゃん怖‼︎」
そう言い後ろを振り向く長谷川に私は「偶々ですぅ。」とにっこり返した。本当に偶々だ。前に鬼兵隊が殺した幕府の資料を見ていた時に長谷川の事が一寸だけ載っていただけで意図して知ったわけでは無い。
長谷川は「まぁ良いや。」と再び前を向いた。
「というか私従業員じゃ無いんで帰っても良いですか?」
「実はな、今幕府は外交上の問題で国を左右するほどの危機をむかえているんだ。」
「聞けよ。」
長谷川は私の言葉を無視して話を進める。私はイラつき長谷川が座っている座席を後ろから延々と蹴った。
「央国星の皇子が今
「余のペットがの〜居なくなってしまったのじゃ。探し出して捕らえてくれんかのォ。」
「よし帰ろう。」
「オイぃぃぃ‼︎ちょっと待ってェェェ‼︎」
紫色の肌をして、てっぺんハゲの頭から触覚が生えた生物、ハタ皇子の顔と要望を聞いて私達は回れ右をした。
「ヤバいんだよ。あそこの国からは色々金とかも借りてるから
「知らねーよ。そっちの問題だろ。ペットぐらいで滅ぶ国なら滅んだ方がいいわ。」
長谷川と銀時の会話が聞こえていた様で、皇子は此方を向き口を開いた。
「ペットぐらいとはなんじゃ。ペスは余の家族も同然ぞ。主もそう思うじゃろ。肩に乗っている飼い猫が居なくなったら悲しいじゃろ?」
「いや抑も逃げたって事は元からあんたの事はそんなに好きじゃ無かったんじゃ無いですか?」
「そうですよ。まず家族だったらテメーで探してくださいバカ皇子。」
私と銀時が次々にそういうと長谷川は勢いよく私達の口を塞ぐ。
「はぁ。わかったよ。やればいいんでしょ。やれば。ノア、匂い辿れる?」
私がバカ皇子から貰ったペスとやらの匂いがついたものをノアに渡すと、ノアは一点を見つめて動かなくなった。
「ノア?」
「大体そんな問題アナタ達だけで解決できるでしょ。」
後ろで三人が口論をしている様で、新八君がそう言うと、長谷川は「いやそれがダメなんだ!」と焦った様に叫んだ。
私はそれを苦笑いしながら聞いていると、遠くの方でズン…ズン…。と何やら物音が混じって聞こえてきた。それはノアがじっと見ている方角で、私は最悪な事態を想定してしまった。
地球に侵入してきた
まさか……!
ズズン
突然後ろの建物が崩れてはじめ、地面が大きく揺れた。
「おぉーペスじゃ‼︎ペスが世の元に帰って来てくれたぞよ‼︎誰か捕まえてたもれ‼︎」
其処にはデカいタコ型の生物が崩壊した建物の上に居た。
私はすぐさま其の建物の方に行き、中の人の安否を確認する。
不幸中の幸いか、怪我人は居るものの、死人は出ていなかった。瓦礫が瓦礫の支えになっていた様で、私は一人一人外へ連れだし応急措置をする。
後ろの方で銀時がまた口論をしているが知ったことでは無い。
一人、また一人と応急処置が済み、携帯で救急車を呼ぼうとした時、後ろで新八君の「うわァァァァ‼︎」と言うか声に遮られた。
振り向いてみると、其の生物に新八君は巻き付かれており、今にも捕食されそうだった。
「新八君‼︎」
私は走りだし、新八君のところに向かう。
否、向かおうとした。然し、それは此方に銃口を向けた入国管理の奴に阻止されたのだ。そして同じく銀時に銃口を向けている長谷川が口を開いた。
「無傷で捕獲なんざ百も承知だよ。多少の犠牲が出なきゃバカ皇子はわかんないんだって。」
成る程、それで新八君をね。ペスの殺処分の為に新八君が犠牲になれと。国の為に死ねと。成る程そういう事。
ふざけんじゃねぇ。
「銀時ぃぃぃ‼︎」
私は銃口を突きつけた男を長谷川の方へ投げ飛ばし、隙を与えた。長谷川は勢いのまま地面に倒れ、銃は遠くに行ってしまった。
「行け銀時!お前は自分の護りたいものを護ってこい!」
私がそう叫ぶと、銀時は走りだした
「待てェ‼︎たった一人の人間と一国…どっちが大事か考えろ‼︎」
「長谷川さんこそ何が大切か考えな。」
私はそう言い、転がっている長谷川さんの腕を両足で踏み、上に乗る。
「被害なら向こうに出てるんですけど。それに目の前の青年一人救えないで国を救う?笑わせんな。お前が護りたいものは国でも、ましては異国のペットでもねェよ。」
——ただ自分を護りたいだけだろう。
後ろで銀時は
「私達は自分の護りたいものを護り通す。ねぇ銀時?」
「ああそうだよ!幕府が滅ぼうが国が滅ぼうが関係ないもんね‼︎」
そして口の部分に到達すると、新八君の方に飛んだ。
「
口の中に入り込み、内側から攻撃したのか
「あああああペスがァァ‼︎余のかわいいペスが…噴水の如く喀血しておるではないかァァ‼︎長谷川‼︎無傷で捕らえよと申したはずじゃぞどう責任とってくれるか‼︎国際問題じゃこれは‼︎オイ聞いておるのか!」
長谷川はバカ皇子の声を無視して煙草に火をつけた。其の姿は感傷にひったっている様にも見えた。
そしてあろう事か其のバカ皇子をアッパーで殴ったのである。
「おお、あの体型にしてはよく飛んだな。」
私がそう呟くと、此方に来た銀時が「あーあ。」と満面の笑みを浮かべている。
「いいのかな〜んな事して〜。」
長谷川はスッキリした顔で煙を吹く。
「しるかバカタレ。ここは侍の国だ。好き勝手させるかってんだ。」
私はブフっと吹き出してしまった。其れに気付いたのか、長谷川は「んだよ。」と口を尖らせた。
「いや、好き勝手させるかって……其処までやる……?ふふ……。ふふふ………。………ふぅ。長谷川さん本当に思い切った事やったね。これからの人生より今をとるなんて。」
「え?」
「いや本当ですよ。もう天人取り締まれなくなりますね。間違いなくリストラっスよ。」
「え?」
「バカだな一時のテンションに身を任せる奴は身を滅ぼすんだよ。」
長谷川は焦って「え⁉︎だって此奴が…!」と私の方を指差した。
「私知らないよ。貴方が勝手にした事じゃない。あーあ。これで職を失い妻にも逃げられホームレスニートになる未来が見える見える。」
「はあァァァァ⁉︎」
私達の笑い声が空に消えていく。遠くまで響き、反響する。私はこの時間がたまらなく愛おしく、大切だと思った。
4
私が仕事帰りに公園を通りかかると、見知った顔が公園のベンチに腰掛けていた。
「こんな所で何しているんですか?長谷川さん。」
そう、項垂れていたのは先日の入国管理局の長谷川泰三だった。其の姿は前とは打って変わって、甚平姿でどう見てもホームレスだった。
「あぁ、この前の千里眼の嬢ちゃん。」
「え?千里眼?」
「全部お嬢ちゃんの言う通りになっちまったよ。仕事も切腹命じられてクビに、女房にも逃げられこんな所でホームレス。はは、ヤンなっちゃうな。」
「あらら。」
まさか私が言ったことが本当になるとは。末恐ろしい。
私は横に座り、煙草を渡した。
「一本如何?」
「お嬢ちゃん、犯罪は駄目だよ。」
「生憎私はこう見えても三十路手前でね。そういうこと言うのはよしてくれない?」
長谷川はポカンとして受け取った煙草をポトリと落とした。すると豪快に笑い出し、「まいったなぁ!やられたよ!」と言った。
「にしても本当に殴るなんて思って無かったよ。」
「俺も今思うとなんであんな事しちまったんだろうって思うよ。」
「でも後悔はして無いんでしょう?」
そう言うと長谷川は「まぁな。」と笑った。
「まぁいいんじゃ無い?私は今の貴方の方が好きだよ。」
「悪いな。俺は今既婚者なんだ。」
「そう言う事言っているんじゃ無い。じゃあね。頑張れ。長谷川
私はそう言い煙草の箱を弄びながら席を立ち歩いていく。
真っ青な空。其の景色は歪だけれど、今は心を穏やかにしてくれ、私は上機嫌で帰路に着いた。