1
『それじゃあ、指示通りに動いてくれ。』
「うん、分かっているよ。」
私は電話越しの晋助に向かって返事をした。時折こうして近況報告や仕事の進捗等を話しているのだ。
正直、寂しさはある。江戸に戻って数ヶ月。こんな寂しいとは思わなかった。
『其方で無茶はしてねェだろうな。』
「へ⁉︎いやぁしてないしてない!」
『面倒ごとに首突っ込んだりとかはしてねェだろうな。』
「してないしてない!」
ぎくり。
何故こうもピンポイントで刺してくるのだろうか。銀時と晋助はなぁ、喧嘩別れしてから会ってないし、銀時と会った事は言わない方がいいだろう。
『なら良いが……。其方では如何だ。』
「如何って……。普通だよ。可もなく不可もなし。やっぱりみんなが居ないと寂しいや。」
『は、良く言うよ。』
「何さ。」
『何でもねェ。』
私は早々に会話を切り上げてスマホを傍に置き、畳にごろっと寝そべる。
「此処に来て暫く経つなぁ。」
仕事のみで居る予定だったが、こんなにも人に恵まれるとは。
然し仲良くなったからと言って寂しさが薄れる事はない。毎晩こうやって虚無の感情に浸るのが私の日課と化している。
また子ちゃんは男所帯で大丈夫かなだとか、万斉は作曲活動上手くいってるのかなだとか、武市はちゃんと寝てるかなぁだとか、他の隊士達とか無事かなぁだとか。様々な心配事が頭に浮かんでは消えていく。晋助は……。
晋助は大丈夫だろうか。私が居なくても。今まで私とこんなに離れた事など一度も無いのに。なんて、過保護すぎることを考えてしまう。
ちゃんと朝は起きれているのだろうか。ご飯は三食食べているのだろうか。
きっと今頃素敵な女性と……。
そう思った途端に心臓が跳ね上がり、勢いよく飛び起きてしまった。
「いや無い無い。そんな事はある筈が無い。今まで恋愛とは無縁の人生だったんだぞ。彼は。」
つい声に出して言ってしまった。私がぐるぐると部屋を徘徊しているのをノアはジトーと見ている。
有り得ない……と言う事は有り得ないだろう。可能性は0では無いし、抑も晋助の恋心など、私が知る由も無いのだ。
「恋人かぁ。」
私は敷いていた布団に身を包みボソッと呟く。恋人……。晋助に恋人ねぇ。なんか複雑だなぁ。
晋助の隣とは言わずとも、直ぐ後ろに居るのは私でありたい。晋助が一番に頼れる相手もわたしで有りたい。晋助を護れるのも私でありたい。こんなのはまるで……。
「————っ。」
いけない。
きっと、この先は。
考えてはいけないのだ。
其の思考は、多分まづい。
「と言っても、私が此処まで考える事じゃあ無いよね。うん、寝よ寝よ。」
私はそう言葉にして布団に潜る。
大丈夫。明日にはもう大丈夫。
こんな感情なんて忘れてしまえ。
2
「全っ然眠れなかった……。」
私はフラフラになりながら歩道を歩く。私の顔色が悪過ぎるせいなのか、はたまたフラフラで邪魔なのか。道行く人達は此方をチラチラ見ている。私は人通りの少ない道を行き、少し蹲り、目頭を押さえた。寝不足が続いている為か、頭が痛い。ストレスを溜めすぎたか。
「あの、大丈夫ですか?」
「あぁ、すみません大丈夫です。暫くしたら治り……あれ?新八君?」
上から声がして顔を上げてみると、其処には買い物袋を下げた新八君が心配そうに此方を見つめていた。
「紅葉さん⁉︎大丈夫ですか⁉︎うわ!すごい汗!」
新八君は手拭いで私の額の汗を拭った。
「新八君……。ごめんね、心配かけて。私は大丈夫だから、もう帰りな。重いでしょう、其の荷物。何なら私が持ってあげようか?」
「いえいえ、そんな訳にはいきません!あ、ちょっと待っててください。」
新八君がそう言うと、急に私の体がフワッと浮いた。そういう感覚なのだと思ったが、実際にそうらしい。そして気がつくと新八君の背中の上にいた。
そう、所謂おんぶというものらしい。
「い、いいよ!大丈夫だよ!重いでしょう⁉︎」
新八君は私の言葉に耳を貸さず、ズンズンと歩みを進めた。否応無しという事だろう。私は其の厚意に甘える事にして、彼の背中に身を預ける。
良い部下を持ったなぁ、銀時は。
こんなに人を思いやれる部下を持って。幸せだな。
私はそう感じながら深い眠りについた。
『おはよう、紅葉。』
『おはよう……ございます。』
『何処か痛い所は無いかしら。』
『?ううん。』
『そう、なら良いの。』
『ねぇ、おねえさんはだれなの?』
『私?私は貴女の——————』
はっと目を覚ます。息が苦しく、肺に空気を入れようと大きく深呼吸をした。そして段々意識が覚醒し、目の前に見覚えのある天井を脳が認識し出した。そして次に鼻腔を刺激するお酒の匂い。次々に五感が覚醒して、此処が何処だか予感から確信に変わる。額に汗がびっしょり滲んでおり、あぁ、熱を出したんだなと自覚するにはそう時間を要さなかった。
「おや、起きたのかい。凄い魘されていた様だけど怖い夢でも見たかい。」
横を見てみると、お登勢さんが居た。如何やら新八君の背中で眠ってしまったらしく、お登勢さんの看病を受けているという事だろう。
一気に申し訳なさが頂点に達してしまい、私は慌てて寝かせて貰っている客様ソファーから退き頭を下げた。
「ごめんなさい!ご迷惑をお掛けしてしまって!」
「いや、迷惑だなんて思っていないよ。あんたはもう少し甘えたら如何だい。」
「へ?」
「銀時が言っていたよ。こんな紅葉は見た事ないってね。」
見た事無い……か。自分で無理をしているとは思ったことも無いし、今の状況は充分甘えているとは思っているけれど。
「あれ、銀時達はどちらに……。」
「あぁ、薬とかお粥の材料を買いに行ったよ。まったく、あんたが来てから速攻で買いに行ったからね。そそっかしいんだから。でももう帰ってきても良いと思うんだけどね。」
其の時、店の黒電話が鳴った。お登勢さんが出てる間、私はふうっと息をつきソファーに体重を預ける。まだ頭がガンガンいっている。風邪かなぁ。こんな事が晋助に伝われば体調管理が出来てないって晋助に怒られちゃうな。
私がそんな事をぐるぐる考えていると、お登勢さんが「はぁ⁉︎」と大きな声を出した。
何だ?
微かに聞こえる電話越しの声に、私は耳を澄ました。
『だから!事故っちゃって帰り遅くなるっつてんだろ!耳に垢でも詰まってんのか!』
事故……。
「誰が耳くそババアだクソ天パ!……ってあり?紅葉?」
私は気付いたら走り出していた。熱のせいで身体がふわふわした感覚がする。然し其れも言ってられない。
事故?怪我は?電話していたから重体では無さそう。私のせいだ。私が熱なんて出すから。
私は江戸中を駆け回り探すと、路地裏に見知った銀髪を見かけた。
「銀時!」
「紅葉⁉︎」
はぁはぁと息切れをする私に、銀時は驚いた様に目を見開いている。
「銀時!新八君!事故したって本当⁉︎怪我は無い⁉︎何処かぶつけたりとかは⁉︎」
「落ち着け!俺らは無事だから!つーか、何でオメェが此処に居んだよ!熱は!」
「そんなの如何でも良いよ!」
「良かった〜。」とへたり込むと、ある女の子が「大丈夫アルか?」としゃがんだ。
……誰だ?
「ええっと……そのぉ……。」
「私神楽。こいつらが轢いた美少女アル。」
「ばっか!テメェ言うんじゃねーよ!」
「え?」
轢いた?轢かれたじゃなく?
私は頭を抱えて唸った。心配していた人達がまさか被害者ではなく加害者だったとは。然し、彼女の身体は傷一つついていない。ただ肩の布が丸く穴が空いているだけだった。
「あぁ、これあるか。私を追ってきた奴らに撃たれた跡アル。もう塞がったネ。」
其の言葉を聞いて納得をした。なるほど、それは納得だ。
「ちょっと見せて貰える?」
「いいアルよ。」
私は神楽ちゃんの肩を見て、少し触る。
「ふむふむ。なるほど。此処をこうして、こうやって……。」
パンっと銃声が響く。そして次の瞬間、私の肩に燃える様に熱い感覚が走った。
撃たれたのだ。
「紅葉さん!」
後ろを振り向いてみると、パンチパーマヘアーの男が此方に銃を構えている。多分こいつの所為だろう。
然し、私が倒れる事は無かった。
「こうか。」
何故なら私の破れてしまった皮膚は、跡形も無く塞がって居るのだから。
3
新八は唖然とした。先程撃たれた彼女が敵に向かって走っているのだから。傷は塞がり、いやに白い肌が見えている。瞬時に傷が修復されたのだ。
「あーあ。“記憶”しちまった。」
「如何言う事ですか?銀さん。」
新八は問いかける。此のあり得ない現実を、まだ受け入れられないのだ。
「あぁ、新八はさ、サヴァン症候群って知ってっか?」
「え?」
「まぁサヴァン症候群にも色々あるけどな。彼奴が持ってんのは“瞬間記憶能力”ってやつだ。ただし他の奴と違うのは……。まぁ、ご覧の通りだけどな。」
それが紅葉が患っている
敵が朽ちるのにそう時間は経たなかった。気がつくと辺りは血の海。其処に立っている一人の女。
新八はゾッとした。見てはいけないものを見てしまった感覚だ。否、見たく無かったのだ。何時迄も彼女は女神でいて欲しかったのだ。
こんな裏側は見たくは無かったのだ。
「銀時、今のうちに神楽ちゃんを連れていきな。」
「だーれが連れて行くかっての。自分で入り込んだ世界だ。自分で落とし前つけるのが筋だろうよ。」
銀時は紅葉の手を引き「帰っぞ。」と歩き出した。
ポツンと残される新八と神楽。新八がする事は一つである。
恐らく彼女はこうするだろう。
4
「全く、素直じゃ無いんだから。」
「うるせー。ジャンプ買うついでだっつってんだろ。」
「はて、其のジャンプは何処にあるのかな?」
私達はスクーターに乗りながらそう言った。冷たい風が熱った身体に心地が良い。
「つーか。お前もうあーいうこと辞めろよ。」
「如何言う事?」
「敵に突っ込む事。」
暫くの無言が続く。うん。とは流石に言えなかった。あれはそれ以外に方法が無かったのだ。
誰も傷つかない。そんな方法は。
返事をしない私に、銀時はため息をつく。
「ほら、見えてきたぞ。駅が。」
「あぁ本当だ……ってえ?」
其処にはゴミ箱に詰まっている新八君と神楽ちゃんが、線路に放り出されていた。
「拙い拙い拙い!銀時!もうちょっとスピード上げて!」
「分かってる!」
私達は焦りスクーターのスピードを上げた。そしてそのまま線路の上へ。私は其処で飛び降り出口へ向かう。
ドゴォっと大きな音がして地面が揺れ、近くに居た人達が「何だ何だ」と大騒ぎ。
ホームの方を見てみると、組長らしき人に向かって行っている。
「私、戦うの好き。それ夜兎の本能…否定しないアル。でも私、これからはその夜兎の血と戦いたいネ。」
そして覚悟を決めた真っ直ぐな目で睨みつける。それは戦意にも似た目だった。
「変わるため戦うアル。」
それをかわぎりに、手下達は次々に逃げて行った。然し私はそれを遮る。
「な!ガキが!其処をどきな!」
「まぁまぁお兄さん達。そんな事を言わずに。私と遊ぼうよ。」
今虫の居所が悪いからさ。
私はそう言うと、先程同様に敵に向かって行った。
雑魚だったので、ものの数分でかたがついた。まったく。半端な気持ちで夜兎族を利用しようとするからこんな目に遭うんだよ。
私がホームに向かうと、神楽ちゃんは組長の頭を剃刀で取っており、其の光景に少し笑ってしまった。
「助けに来るならハナから付いてくればいいのに。訳のわからない奴ネ…シャイボーイか?」
「いやジャンプ買いに行くついでに気になったからよ。なぁ紅葉。」
「因みにそれ私が買った奴だからね。」
「ばっか。それは言うんじゃねェよ。」
私はふふっと笑う。其の時、プシュゥっと電車が止まる。
「追って電車来たぜ。早く行け。そして二度と戻ってくるな厄災娘。」
「こら!また銀時はそんな事を言う。」
私がそう言うと、「うるせぇなぁ。」と耳を穿っている。其の儘深追いすれば良いのに。
「うん。そうしたいのはやまやまアルが、よくよく考えたら故郷に帰る為のお金持ってないネ。だからも少し
とんでもない発言に、私たちに電流が走った。此のバイオレンスな娘を……地球に?
銀時も同じ事を考えていたらしく、「いやいや』と首を横に振った。
「じょ…冗談じゃねーよ‼︎何でお前みたいなバイオレンスな小娘を……!」
然し、其の願いは虚しく散ってしまい、変わるは後ろの壁が悲鳴を上げていた。
「なんか行ったのだアルか?」
「……言ってません。」
こうして、彼らの職場はまた賑やかになったのでした。
「げぇ。」
家に帰り、熱を測ると、あり得ない高さに唖然とした。
『八,五度』
矢張り病体で無理をするものじゃあ無いな。
やっと紅葉の体質を書けました〜!やった〜!
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