1
「ここであってんだよな。」
「うん。」
「大使館……。これ戊威星の大使館ですよ。」
銀時達は目の前にあるでかい建物を目の前に手にある荷物を見た。銀時達は事故をした飛脚の代わりに届け物をしているのである。なんでもこれを届けなくては其の飛脚の男はクビになるかもしれないと。それが戌威族の大使館だ。
然し、銀時は乗り気では無かった。戌威族というのは地球に最初に来た天人なのだ。江戸城に大砲をぶち込んで無理矢理開国してしまった奴らを相手にはどうも気が乗らない。
「嫌なトコ来ちゃったなオイ。」
銀時がそう呟くと、後ろから「オイ。」と喋りかけられた。其処には体格が自分たちより数倍ある犬が警棒らしき物を持って見下ろしていた。
「こんな所で何やってんだてめーら食われてーのかああ?」
そう言い見下ろす犬。いや、見下すの方が正しいか。銀時は其の言葉にイラッと来たのだ。何故余所者の人外がこんなにふんぞり返っているのだろう。其の犬は爆発テロ警戒をしていると言うが、そんなだからテロなんて引き起こされてしまうのでは無いか。自分達が種を蒔き、それを幕府が水をやり、攘夷浪士が摘んでいる。銀時の目にはそう映った。なんともまぁ敵対している同士の共同作業よと銀時は思う。自ら原因を作り被害者面をする。なんと滑稽な事よ。
然しそうは言っても仕事は仕事だ。任された仕事をこなさなければならない。銀時は其の荷物を預ける。柄にも無く。珍しく。
そう、柄にも無いのだ。誰かの言われる儘に行動をするのは、彼等らしくも無い。らしくも無い行動をしたからなのだろうか。自分達が渡した荷物を犬が払い除け、丁度良く敷地内に投げ捨てられた直後。
爆発したのだ。
其の爆発を見ながら、三人はあぁ、自分達が依頼を承った中で、順調にいったことはあっただろうか。いや、無いに等しい。あったとしても片手で数えられる程度だろう。と、まるで走馬灯の様に考えた。
「……なんかよくわかんねーけど、するべきことはよくわかるよ。……逃げろォォ‼︎」
三人は一目散に駆け出した。然し其れは叶わず、新八は犬に腕を掴まれてしまった。すると、先逃げは許さんと、銀時の手を掴み、銀時もまた神楽の腕を掴んだ。まるで命綱。
「新八ィィィ‼︎てめっ、どーゆーつもりだ離しやがれっ」
「嫌だ‼︎一人で捕まるのは‼︎」
「俺のことは構わず行け…とか言えねぇのかお前‼︎」
「私に構わず逝って二人とも‼︎」
「ふざけんなお前も道連れだ‼︎」
そんな目も覆いたくなる様なやり取りを三人がしていると、其の騒ぎを掻き消す様に、犬達が倒れ始めたのだ。
其処には笠を深く被った長髪の人間が居たのだ。一瞬女の人かと思ったが直ぐに記憶の底から出て来た面影に、銀時はハッとした。
俺は此奴を知っている。
「逃げるぞ銀時。」
そう言い笠を上げ、顔が露わになった。其の顔は所謂美形と言うのだろうか。釣り上がった眉に垂れた目尻。如何にも堅物ですよと言わんばかりだ。
「おまっ、…ズラ小太郎か⁉︎」
感動の再会に銀時が驚いていると、飛んできたのは拳だった。
「ズラじゃない桂だァァ‼︎」
「ぶふォ‼︎てっ…てめっ、久しぶりに会ったのにアッパーカットはないんじゃないの⁉︎」
「そのニックネームで呼ぶのは止めろと何度も言ったはずだ‼︎」
先程同様、ギャーギャー言い合っていると、建物から騒ぎを聞きつけた犬達が武器を持って此方へ向かって来る。ズラと呼ばれた男は三人を誘導し、己のアジトに逃した。
其れを
2
『——に続き今回卑劣なテロに狙われた戌威星大使館。幸い死傷者は出ていませんが…え…あっ新しい情報が入りました。監視カメラにテロリストと思われる一味が映っているとの…あ〜バッチリ映ってますね〜。』
「バッチリ映っちゃってますよ。どーしよ、姉上に殺される。」
「テレビ出演、実家に電話しなきゃ。」
テレビでは自分達が此方を見ている図が映し出されている。最悪だと新八は頭を抱えた。あぁ本当にどうしよう。天国の両親に合わせる顔が無い。
「何かの陰謀なんですかね、こりゃ。何で僕らがこんな目に。唯一桂さんに会えたのが不幸中の幸いでしたよ。こんな状態の僕らかくまってくれるなんて、銀さん知り合いなんですよね?一体どーゆー人なんですか?」
新八が振り向くと、余裕そうに寝転がっている銀時がいる。新八は少しイラッとしたが、今怒ってもしょうがないと思い、銀時の返答をただじっと待った。
然し、返ってきた言葉は衝撃な、そして信じ難い言葉だった。
「んー。テロリスト。」
「はィ⁉︎」
「そんな言い方は止せ。」
何処からか聞いていたのか、ズラ……桂小太郎は襖を開け中に入ってきた。沢山の仲間を連れて。その姿から此の集団の長だというのは明らかだった。
「この国を汚す害虫“天人”を討ち払い、もう一度侍の国を立て直す。我々が行うのは国を護る為の攘夷だ。卑劣なテロなどと一緒にするな。」
「攘夷志士だって?」
新八は目玉が飛び出る程に驚いたが、神楽は状況が読み込めず、煎餅を食べながら「なんじゃそらヨ。」と言っている。
攘夷志士……。二十年前の天人襲来時に起きた外来人を排そうとする思想を持ち、高圧的に開国を迫ってきた天人に危機感を感じた侍は、彼等を江戸から追い払おうと一斉蜂起して戦った。然し天人の強大な力を見て弱腰になった幕府は侍達を置き去りに勝手に天人と不平等な条約を締結。幕府の中枢を握った天人達は侍達から刀を奪い彼等を無力化した。
その後主だった攘夷志士は大量に粛清されたと聞いていたが、まだ残っていたとは、と新八は手に汗を握った。
「……どうやら俺達ァ踊らされたらしいな。なァ、オイ。飛脚の兄ちゃんよ。」
其処には、先程店先でバイクをぶつけた男が気まずそうに桂の後ろに隠れている。少しは罪悪感があるのだろう。顔を逸らして、頭に絆創膏を貼ってある。
「あ、ほんとネ‼︎あのゲジゲジ眉デジャヴ!」
「ちょっ…どーゆー事っスかゲジゲジさん‼︎」
二人が問いただしても顔を逸らすばかりで答えようとはしない。因みに彼の本名はゲジゲジではなく、それは神楽と新八がつけたあだ名だった。
「全部てめーの仕業か、桂。最近世を騒がすテロも、今回の事も。」
「そーゆー事さァね。察しが良いじゃないか。銀時にしては。私は嬉しい限りだよ。安心して憎たらしい。」
銀時が桂に言及すると、聞き慣れた声が耳に入ってきた。高過ぎず、かと言って低過ぎない、心地の良い声だった。
「……紅葉。」
「やぁ銀時。今日もまた一段と正義感が輝いているね。」
「紅葉さん⁉︎」
有り得ない光景が目に飛び込んできた。
其処には自分達が万事屋に入る時に一緒に居てくれた、背中を押してくれた恩人、猫山紅葉が出入り口の柱に身体を預けて立っているのだから。
「紅葉。やっと出てきたのか。」
「まぁね。聞き覚えのある声が聞こえてきたから。」
「何でテメェらが一緒に居んだよ!」
銀時は内側から沸々と怒りが湧き上がって来るのが分かった。何故此の二人が?何時会った。何処で遭遇した。何の為に今一緒に居る?様々な疑問が湧いて消える事なく銀時の脳内を支配していった。其れは友人に騙されたからではなく、銀時の、つまらぬ嫉妬だという事は理解はしている。別に紅葉と桂が何処で如何会おうが銀時には関係無い。理解はしている。しているが心では納得は出来なかった。なんかこう、仲間はずれにされた気分だった。自分の知らない所で、仲が良い友達が遊んでいるみたいな。いや、実際そうなのだが。
「そう喚くな銀時。安心しろ。お前が想像している関係性では無い。」
「何が⁉︎別に心配してねぇけど⁉︎というかお前ら二人会ってたら俺にも声を掛けるのが筋なんじゃ無いですかー?」
「どんな筋だ。というか今声をかけているでは無いか。」
「その為に人の店先にバイクを突っ込む奴があるか!」
そんなやり取りを尻目に紅葉は我関せずといった様に、新八と神楽にお菓子を分け与えていた。紅葉は子供が好きなのだ。
「紅葉さん、貴女、攘夷志士だったんですか?」
新八の問いに、紅葉は少し目を逸らした。此の二人には言うつもりは無かったのだ。こんな形でバレるとは思っていなかった。呼ぶのは銀時だけだと思っていたから。いや、抑も銀時を仲間に引き入れると言うのも初耳だったのだ。桂からは『只旧友に会いたいだけだ。』としか紅葉は聞いていなかった。
「まぁ、組織は違うけどね。けど大丈夫。貴女達に危害を加えるつもりは無いから。」
紅葉はそう言い新八と神楽の頭を優しく撫でる。割れ物を扱う様に、赤子に触れる様に、そっと。新八と神楽は甘える様に紅葉の手に頭を擦り付けてきた。紅葉は其れがとても愛おしく感じたのだ。
桂達の方に向き直ると、桂は刀を力強く掴み、銀時に差し出す。その目は銀時を真っ直ぐに射止めていた。
「……銀時。この腐った国を建て直すため、再び俺と紅葉と共に剣をとらんか。白夜叉と恐れられたお前の力、再び貸してくれ。」
3
「天人との戦において鬼神の如き働きをやってのけ、敵はおろか味方からも恐れられていた武神…坂田銀時。我等と共に再び天人と戦おうではないか。」
その言葉に私は時が止まった様に思えた。ズラからはそんな事は一度たりとも聞いた事はないのだ。何を考えているのだ。
私はそんな事の為に手を貸した訳ではない。
「…銀さん、紅葉さんアンタら、攘夷戦争に参加してたんですか。」
「……昔少しね。ズラ、そんな事なら私は手を貸さないよ。折角銀時は平和を手に入れたんだ。其れを壊す様な事はわざわざしなくて良いじゃないか。」
そう言いズラを睨みつける。然しズラは引き下がろうとはしなかった。
「たとえ汚い手を使おうとも、平和が壊れようとも、手に入れたいものがあるのさ。其れはお前も分かるだろう。紅葉。」
その言葉に私は言い返せなかった。解らない訳じゃない。納得出来ない訳じゃない。この国を立て直す為に、銀時がいた方が効率は良い。
然し銀時の気持ちは如何なる。此の二人の気持ちは如何なる。解るからといって、納得できるといって、許せる訳は無かった。
「ズラ、俺ァ派手な喧嘩は好きだが、テロだの何だの陰気くせーのは嫌いなの。俺達の戦はもう終わったんだよ。それをいつまでもネチネチネチネチ。京都の女かお前は。」
「バカか貴様は!京女だけでなく女子はみんなネチネチしている。そういう全てを含めて包み込む度胸がないから貴様はモテないんだ。なぁ紅葉。」
「お前その言葉の後でよく私に話を振れたな。女はネチネチしてんじゃなくて前の事を忘れずに上を向いて歩いていくの。女はみんな坂本九なの。そんなだからアンタらはモテないんだよ。少しはトリートメントでもしたらどうなの銀時。」
「バカヤロー俺がもし天然パーマじゃなかったらモテモテだぞ多分。つーか紅葉、お前自分は違いますって顔知るけどお前が実は天パなのみんな気づいてっから。トリートメントとアイロンで誤魔化してんの知ってっから。ほら今こんなに毛先跳ねてんじゃん。」
「天パじゃなくて癖っ毛って言ってくんない?女はあれだから。癖っ毛の方が可愛いから。愛嬌しかないから。私が癖っ毛じゃなかったらモテ過ぎて社会現象起こしちゃうだろうが。」
「何でも天パの所為にして自己を保っているのか悲しい奴等だ。」
「悲しくなんかないわ。なぁ紅葉。人はコンプレックスをバネにしてより高みを…。」
「アンタら何の話してんの‼︎」
私達がくだらない言い争いをしていると、新八くんが痺れを切らしたのかツッコミを入れてくれる。あぁ、ツッコミがいるって良いな。好き勝手出来る。
「俺達の戦はまだ終わってなどいない。貴様の中にまだ残っていよう銀時…。国を憂い共に戦った
弔い合戦という訳だ。ズラが言うのは、そう言う事だろう。私も銀時も無言で聞いている。確かに思う所はある。今まで共に戦った戦友達は、無意味に、無価値に散っていったのだ。それを気にしていないと言うのは、とても言えない。其れは銀時も同じらしく、何とも言えない顔をしていた。
「天人を掃討し、この腐った国を立て直す。我等生き残った者が死んでいった奴等にしてやれるのはそれくらいだろう。我等の次なる標的はターミナル。天人を召喚するあの忌まわしき塔を破壊し、奴等を江戸から殲滅する。だがアレは世界の要……。容易にはおちまい。お前の力がいる、銀時。既に我等に加担したお前に断る道は無いぞ。テロリストとして処断されたくなければ俺と来い。迷う事は無かろう元々お前の居場所はここだったはずだ。」
「銀さん……。」と新八君は心配そうに見つめる。私もそれは同じだった。
然し、そこに空気が読めず襖が思い切り蹴破られたのだ。驚いて振り返ってみると、そこには黒い服を着た男達が刀を持って立っていた。
拙い。
「御用改めである!神妙にしろテロリストども!」
「し…真選組だァ‼︎」
「イカン逃げろォ‼︎」
攘夷党の叫びと共に私達は外に飛び出す。
真選組……反乱分子を即時処分する対テロ用特殊部隊。恐らくあの戌威大使館で目撃されたのだろう。
「銀時!危ない!」
私は銀時に覆い被さり、向かってきた刀から庇った。少し刀は頬を掠め、顔に熱い感覚が広がった。刀を向けてきたそいつは、恐らく真選組副長である土方十四郎だろう。一筋縄じゃ行かなそうだ。
「逃げるこたァねーだろ。せっかくの喧嘩だ。楽しもうや。」
「オイオイおめーホントに役人か。よく面接通ったな。瞳孔が開いてんぞ。」
「コラ銀時。煽んない。それに面接通ったの丸開きだからじゃない?圧かけたんだよきっと。」
「人のこと言えた義理かてめー!死んだ魚のよーな眼ェしやがって!」
「良いんだよいざという時はキラめくから。それに見ろこいつの瞳を。赤子の様にキラキラしてんだろうが。」
「誰が赤ん坊だ。」
しまったな。まさか鬼の副長に捕まるとは。何とかしなければ。
私がそう考えていると、遠くで「土方さん危ないですぜ。」と可愛らしい江戸っ子口調が聞こえた。振り返る暇もなく、爆発音が響き、あたりが崩壊した。私は再度銀時に覆い被さり上から降り注ぐ破片達を阻止した。
「紅葉!こっちだ!」
隣の崩壊していない部屋からズラが誘導したのでそこに向かった。何とか銀時に怪我は無く、犠牲になったのは銀時の髪のみで安心した。
襖の出入り口に机や箪笥などで簡単なバリケードを作る。直ぐに突破されるだろうが、無いよりかはだいぶマシだろう。此処は十五階。飛び降りて逃げるには少々厳しい高さだな。さて如何するか。
するとズラは何やら懐からボールの様な物を取り出した。
「?そりゃ何の真似だ。」
「時限爆弾だ。ターミナル爆破のために用意していたんだが仕方あるまい。……‼︎」
そう言い終わると同時に、銀時はズラの胸倉を掴み上げ睨み付ける。銀時が何が言いたいのか、私には分かった。分かってしまった。
「……桂ァ、もうしまいにしよーや。てめーがどんだけ手ェ汚そうと、死んでった仲間は喜ばねーし時代も変わらねェ。これ以上薄汚れんな。」
「薄汚れたのは貴様だ銀時。時代が変わると共にふわふわと変節しおって。武士たるもの己の信じた一念を突き通すものだ。」
「お膳立てされた武士道貫いてどーするよ。そんなもののためにまた大事な仲間失うつもりか。俺ァそんなのもう御免だ。どうせなら俺は俺の武士道貫く。」
——俺のの美しい生き方をし、俺の護りてェもん護る。
そう言った銀時の目は嫌に眩しく、そして嫉ましいほどに真っ直ぐだった。
その目を無くさないで欲しい。濁さないで欲しい。そう素直に思ってしまった私は、結局何も変わらないなと悲しくなった。
「銀ちゃん。」
後ろで声がし、振り返ってみると神楽ちゃんがにっこりと笑いながら爆弾を片手に持っていた。何だろう。嫌な予感がする。
「コレ…いじくってたらスイッチ押しちゃったヨ。」
ドゴォォン!と襖を蹴破る。何処に行くのか、否、何処でも良い。まず此の爆弾を如何にかしなければ。あぁホントにやっちゃったよ。嫌な予感的中しちゃったよ。
真選組は「止まれぇ!」と叫んでいるが、止めて欲しいのはこちらの方だった。
「止めるなら此の爆弾止めてくれェ‼︎爆弾処理とかさ…なんか、いるだろオイ‼︎」
銀時があと十秒の爆弾を差し出すと、焦ったのか真選組は雲を散らす様に逃げ出した。役にたたねェな警察わよぅ。
「げっ‼︎あと六秒しかねェ‼︎」
「銀さん窓、窓‼︎」
「無理‼︎もう死ぬ‼︎」
銀時と新八くんが焦った様に言っていると、神楽ちゃんは「銀ちゃん、歯ァ食いしばるネ。」と持っていた傘をまるで野球バットの様に構えていた。
まさか。
「ほあちゃァァァァァ‼︎」
そう叫んだかと思えば、銀時を窓へと投げ飛ばした。銀時はそのまま窓ガラスを破って外へと落ちてゆく。そして爆弾を上へ投げたのか空で爆発音が響き、次に破片が下へと飛び散る。
拙いなコレは。
如何にかして私は後を追い外へと飛び出す。浮遊感が体を襲い、その直後に重力が体を押し私は下へと落ちていった。その下には銀時。
「銀時!手を!」
私の言葉に銀時は手を伸ばして私の手を掴んだ。私は近くに垂れてた幟にしがみつき何とか転落死を防ぐ。
「……。大丈夫?銀時。」
「なん…とか…。ありがとよ。」
「なんの。礼はいいよ。」
窓ガラスを蹴破り中に入る。幸い中に人は居らず、ガランとしていた。一時は如何なることかと思ったが、大事には至らなくて良かった。
「……。なんか、お前に助けられてばっかだな。俺。情けねぇ。」
「え?」
銀時の方を見てみると、近くにあった椅子に腰掛けて俯いていた。
恐らく男のプライドが云々なのだろうか。それはそれでなんか悪い事したかな。私は助けたいだけであって尊厳を傷つけていたら元も子もないのだ。
『みんなを、助けてあげてあげて下さいね。』
私の頭に、嘗ての恩師の言葉が過ぎる。
あぁ、そうだよね。
「銀時。それは違う。」
私は銀時に向き直り、先程銀時がズラにした様に、真っ直ぐ銀時を見つめる。
「私は只単に、あんたらを失いたく無いだけだ。敵になっても、味方になっても。絶対に失いたく無い。それは銀時が大切にしているものも全部。だから残念だね。諦めな。あんたのプライドを傷つけようが、あんたに拒絶されようが、あんたを助けるよ。」
私は銀時の頭にポンッと手を置き其の儘部屋を出る。
そうだ。失いたく無いのだ。彼らを失ったら、私は悲しい。否、それ以上に晋助の心が壊れてしまう。
だから助けよ。救おう。
その先に光があることを信じて。
4
「いやぁ、空の旅は久しぶりだぁ。」
「まったく、今回だけだからねっ!」
「ツンデレはもう古いよ。」
私は今、ズラが所有している小型飛行機に乗っている。あの後真選組にバレぬ様屋上へ行きズラに乗せてもらったのだ。やっぱ高いところは最高だな。人がゴミの様だ。
「で?結局如何すんの?」
「何がだ?」
「銀時を仲間に引き入れるって話。まさか冗談だよね?」
「いや、冗談では無かった。」
「過去形?」
私は何故かズラの部下が持っていた保冷バックの中からアイスを取り出し食べる。
私が問いかけると、ズラは「いや…。」と窓の外を見た。
「昔の友人が変わらずにいると言うのも、悪く無いものだと思ってな。」
その言葉に面食らった後、私は吹き出してしまった。なんだ。結局ズラも昔と変わらないじゃ無いか。
「時に紅葉よ。お前はいつまであの戦い方をするつもりだ。」
「ぅえ?」
突然の変化球に思考が停止する。例えるなら顔をガードしていたら脇腹を狙われた感覚だ。私がポカンとしていると、こちらにも目もくれずズラは話し出した。
「貴様の願いはよくわかる。俺も同じだからな。然し自己犠牲はいただけない。相手を護るという事は、自分を傷つける事と違うのだ。そこを勘違いしたままなら、貴様の願いは叶う事はない。高杉の従順な猫になりたいのなら、今の戦い方はやめるべきだ。」
守ると護るは違う。
ズラが言いたいのはそういう事だろう。肉体だけ守っても、心を護らなければ意味がない。
言いたい事は分かる。けれど私はそれ以外知らない。
それしか出来ない。
「悪いけど、私は心までは護れない。その護り方を知らない。」
「‥‥紅葉。」
「桂さん。猫山さん。つきましたよ。」
攘夷党の新たなアジトに着き、私は飛行機から出た。外の風が顔に当たり少し髪も乱れる。
「ありがとね。ズラ。送ってくれて。」
「ズラじゃない桂だ。それに送ったわけではない。此処は俺たちのアジトだ。」
「ハイハイ。じゃあまたね。」
私はそう言い歩き出した。
『君は強い。恐ろしい程に。だからみんなを守ってあげて下さいね。』
あぁ。わかってるよ。
私が猫山紅葉である以上、先生の弟子である以上、彼等を護らなければいけない。たとえこの身が砕けようとも、絶対に。
私は拳を握りしめて歩き出す。傾きだしだ夕陽が嫌に眩しく、私の視力を奪っていった。
先生の言葉が呪いとなって紅葉を縛る。皮肉ですね。