2024年11月12日 ー残り725日ー
迷宮区にほど近いためこの1層の最終的な拠点になる谷あいの町であるトールバーナに着いたのは昨夜のことだ。
ホルンカ村からは風林火山やエギルの仲間達、果てはシンカーさん率いる軍の精鋭と合流したり別れたりしながらようやくここまで辿り着いた。
これまでパーティメンバーの入れ替わりが激しくコミュ障の俺には気疲れもあったが、それでもはじまりの街からずっと一緒にパーティを組んでいるアスナとリズとシリカには助けられている。
レベルの方は昨日の時点で各自7~8まで上がり、連携も徐々にスムーズなものとなりつつある。
リズの鍛冶スキル上げ兼自分達の武器強化で、それぞれのクエスト報酬やレアドロップで手に入れた武器は迷宮区でも充分渡り合えるほどにプロパティが上がっている。
そして今日の昼過ぎから以前の攻略でも攻略会議が行われた石畳ブロックに囲まれた集会場で顔合わせを兼ねた会議が開かれるのだが、それよりも早く『ティターニア』以外のギルドに所属するプレイヤーが揃ったので各ギルドリーダーによって攻略日数のペース配分について話し合われていた。
何故かリーダーではないのにクラインに無理矢理同席させられた俺はアスナの後ろでこっそりと所在無さげに話を聞くことに徹していた。
「今日と明日を使って20階ある迷宮区を踏破するのは無理でしょう。
それに全体的にもう1、2レベル上を目指していく方がいいはずです」
「そうは言ってもボス部屋までの道程は一度通ったはずよ。
宝箱は後続に譲る形で極力無視して明後日にはボス戦に持ち込まないとその先のペースが上がって苦労するわ」
シンカーさんはその穏やかな性格の通りに慎重論を唱えるが、逆にアスナは刻一刻と迫るタイムリミットに急かされているのか以前の攻略の鬼に戻りつつあるように思えた。
確かに俺達には時間が無いのは事実だし、計算上は7日でその層を攻略しなければ2年で100層には辿り着けないのは皆が理解している。
以前の攻略で迷宮区構造、ボス情報も揃っている序盤だから多少の無茶をしてでも7日に1層のペースを早めて終盤に余裕をもたせたい気持ちも痛いほど分かる。
「聖竜連合もアスナさんに同意だ。
ここのボスはHPがレッドゾーンまで下がった後のスキルパターンにさえ気を付ければ問題は無い。
迷宮区突破であと1レベル程度は上がるとみてこのままでもいけるだろう」
俺達とは別のルートで昨夜この町に着いて合流した聖竜連合を率いるリンドさえも、無茶は承知で攻略を推し進めるというアスナの意見に賛成する。
元々はとある男が率いていた軍とよく衝突していたために、そのギルド全体への悪印象がまだ残っているであろうリンドはあまりシンカーさんを信用していないようだ。
それに、自分達を最初に導いてくれたものの1層ボスに殺されたディアベルの仇を取るチャンスとあって血気盛んになっている可能性もある。
確かに以前はβテスターであった自分以外の誰もが初見の刀スキルに翻弄されはしたのだろうが、あれから2年経ちそのスキルを持った敵との戦闘経験は豊富にあるのだ。
「俺はシンカー殿に同意だぜ。
誰一人死人を出さないために危険な賭けはしないって攻略組の大前提を皆忘れてねぇか?」
これはまずいぞ。
シンカーさんに加えてクラインが慎重派、アスナとリンドが推進派と2対2になってしまったのでこのままだと話し合いは膠着状態が続いてしまう。
意見が平行線のままではそれこそ時間をロスする事を、話し合いに熱中している本人達は中々気付けないようだ。
「やあ、お待たせしましたか?
攻略組の皆さん」
すると、集会場の中央の噴水の傍にいた俺達の背後から聞き覚えはないがどうも個人的に警戒心を抱かざるを得ないような声が耳に入った。
声の主は自らの背後に6人のギルドメンバーと思わしき部下を連れながら実に堂々とした態度で歩を進めながらこちらへ近付く。
「こんにちは、ティターニアの皆さん」
『ティターニア』
その謎に満ちていたギルドとは既に面識があったシンカーさんは朗らかに挨拶をしながら、すかさず彼らをこちらへ案内する。
「なんかやけに豪華な装備じゃねぇか、キリトよぉ?」
「振り出しに戻って今までの装備のプロパティが下がったけどお気に入りだから手放したくない、ってとこじゃないか?」
俺達は泣く泣く最低ラインにまでプロパティが落ちた装備品を売って防具を新調したのだが、ティターニアのメンバーは全員そんなこともしていないようにこれまた豪華で派手な装備を身に付けていた。
それを不審に思った俺とクラインは近付いてくるティターニアのリーダーらしき男を一瞥しながら小声で返す。
「こちらが攻略組の全指揮を取るアスナさんだ」
「これはこれは…。
とても美しいお嬢さんだ、私はアルベリヒと申します。
以後、末永くよろしくお願いします」
「…ええ、こちらこそよろしくお願いします」
新規ギルドということだから攻略組指揮官も同然のアスナと握手を交わすのも彼なりの礼儀なのだろうが、妙に嫉妬心が刺激される。
しかし、デスゲーム開始時に全プレイヤーが現実と同じ性別や顔に戻されたというのに、何故かアルベリヒとティターニアのメンバー全員のアバターにはどことなく作り物っぽさが見受けられた。
日本人離れしたっていうよりはやはり仮想アバターっぽい全体的に整い過ぎた容姿だよな。
アルベリヒはアスナの時とは別人のようにそっけなく傲慢な態度と口調で残るこの場にいた者達へそそくさと挨拶を交わす。
こんな場所で揉めても仕方ないと自分を律するギルドリーダーの方々に習って、突っ掛かろうとした俺も喉まで出てきた言葉を飲み込む。
「早速ですが、共に戦うあなた達の事を知る為にもレベルとステータスの確認をします。
画面を可視化させて見せて頂けますか?」
「おお。
アスナさんがこの場を取り仕切る者と聞いていましたが、やはり様になっていますね。
現実ではさぞや美しいご令嬢ではないのですか?
おっと、これはマナー違反でしたかね。
私のステータスはこちらになります」
ティターニアのメンバーを集めて攻略組への参加ノルマを満たしているかを判断しようとするアスナに、彼らはじろじろと粘っこい視線を浴びせる。
一種のアイドルのような扱いをこれまで受けてきたであろう彼女はそんなもので今更動じるはずもなく、可視化されたステータス画面に目を寄せる。
「えっ、レベル14!?」
それでもやはり流石に怒りを抑えられずにいるのは自分が彼女の夫になったからだろうか。
ティターニアのメンバーに注意しようと足を踏み出した瞬間にアスナの驚きを全く隠せないといった声が耳に留まって、俺はその場に立ち尽くす。
なんだと!?
それは今の俺達の倍、以前の攻略では2層到達後の俺と同じレベルだぞ。
「本当かい?」
「何だって!?」
「嘘だろ!?」
毅然とした応対をするアスナの様子を固唾を飲んで待っていたシンカーさん、リンド、クラインもそのにわかには信じられない彼らのレベルを確認するために我先にと前に乗り出す。
その一連の会話を集会場の端で伺っていた他の攻略組の連中にも動揺が広がっている様子だ。
結果、ティターニアのメンバーは全員がレベル14とステータスもこの1層のモンスターなど余裕な数値だということが分かった。
そしてその頼もし過ぎる彼らの参入で先程話し合っていた日数のペースに関する方針はがらっと変わり、アスナやリンドの意見通り今日と明日で迷宮区20フロアを踏破して明後日にボス戦と流れるように決まる。
何よりも驚きなのはボス戦未経験であるはずだが将来性への期待を込めてティターニアをステータス的には問題無いとメインアタッカーに据え、それを軍の精鋭で交代&フォロー。
聖竜連合とエギル達は壁役としてボスのタゲを維持、そして風林火山とアスナ含む俺達が状況に応じて遊撃及び計12匹湧く取り巻き掃除の役割となったことだ。
1層ボス戦は波乱と混乱が生まれそうな懸念がしてならなかった。