SAOー紅玉を貫く大樹ー   作:明石

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SAO事件

 スグを連れて家族3人で借りている宿までやって来た俺達は、次々と湧いてくる疑問を彼女にぶつけようと頭の中で聞きたいことを整理する。

 その間にも本当に自分の妹なのか気になっていたために俺の生年月日や好きな食べ物、などなど家族なら知っていて当たり前の問いをすると全て正確に答えてみせたので、やはりこの女の子は俺の妹のスグだと確認できた。

 

 その時に俺の個人情報を必死に覚えようとする女の子3人の姿に、何故か背中にゾクッと寒気を感じたのは気のせいなはずだろう。

 

 椅子に腰掛けたアスナもリズもシリカも外の現実世界から来たというスグに色々と質問をしたくてうずうずしているようだったが、兄である俺にまずは先を譲ろうと頷いてみせてくれた。

 

「じゃあ、ここなら落ち着けるからいくつか質問をするぞ。

 まず、現実世界ではSAOについてどうなってるんだ?」

 

「2年前から半年間ぐらいは毎日ニュースでSAO事件の犠牲者が出たって名前付きの報道はされてたよ。

 それで、プレイヤーの皆は病院に収容されてて今は植物状態の人と同じ設備でベッドに寝かされてるよ…」

 

 まず始めに誰もが気になっていたが現実世界との通信手段が無いため、嘘であって欲しいと願っていた『このゲームではHPが0になれば現実でも死ぬ』が事実なのかをぶつけた。

 しかし現実は残酷で、それが事実だと分かると心臓に穴を開けられたような痛みに襲われると共に部屋全体の空気が重くなる。

 

 今までたくさんの人がこの世界で命を落とした。

 けれどもしかしたら万が一でもこの世界で死ぬ=ログアウトして現実に戻ることが出来るのではないか、と考えていたがやはり違うようだ。

 

「…それと、つい1週間前にも何か大きなニュースがあったんじゃないか?」

 

 これまでに死んだ人間は返ってこない、それは理解出来てもそう簡単に納得など出来ずにいた。

 でも、今はスグから色んな情報を教えてもらいたいので胸の内の激痛をぐっと堪えながら彼女を真っ直ぐ見据える。

 

「うん、なんでもSAO事件対策チームのところにシステムメッセージが来て、それを解析したらサーバー内にログインのみが出来るように設定が変わったって久しぶりの大ニュースが出たんだ。

 それから3~4日経ったら、政府から新たにSAOにログインする者にはこれまでの被害者よりも手厚い保証制度を適用化するって発表があったの」

 

「随分思い切ったことするんだな、日本の政府も。

 そんなの世間からの批判は免れないだろ」

 

 カーディナルが突如として変更したこの世界のルールは現実にも伝わっているらしい。

 それにしても外は対策チームやら保証制度やらかなり大騒ぎしてるみたいだな。

 

「お兄ちゃんの言う通り、SAO事件からVR技術の悪用を危険視してる規制派は政府の対応に大バッシングを浴びせてたよ。

 

 でも事件が起きてからずっと解決の目処が立たず日本全体が世界中の国から批判されて、その風評被害っていうのかな。

 2020年の東京オリンピックから増え続けた観光客の数がどんどん下回っていってたり色々な所で悪影響があって、一刻も早く解決する為にプレイヤーを増やしてその人達にも保証を約束しよう、ってなったみたい」

 

 確かに1人の人間が画策した殺人テロの中では、歴史上にも残るほどの桁違いな数の犠牲者が出たはずだ。

 日本人以上に『テロ』というものに敏感で危機感を持っている外国人であれば、いくら日本が好きな国だといっても旅行先には選びにくくなる。

ましてや、このSAO事件の容疑者である茅場がまだこの世界にいるということは警察に身柄を拘束されず何処かに身を潜めているということだろう。

 

 

 それに俺が覚えてる限りだと2021年の日本を訪れた外国人観光客は4千万人を越えていたのだが、その観光のもたらす経済効果ががた落ちしていっているのならオリンピック準備で更に多額の負債を背負った国としては新たな動きを見せないといけない事態なのだろう。

しかも、政府を叩く材料としてはこれほど便利なものも無いはずだ。

与党が何か新たな政策を立てようとすれば、「SAO事件の方はどうなってるんだ!」と文句を付ければそれを有耶無耶にすることさえ可能となりそうなのだ。

 

「スグ、そのSAO事件被害者保証制度ってどんなもんなんだ?」

 

「それ、私も気になる」

 

 俺の問いに便乗して自分の疑問も解消したいらしいアスナの目はとても切実な想いを訴えるかのように輝きを放つ。

 いいとこのお嬢様であって進学校に通って高校受験を控えていたところでこのデスゲームに巻き込まれたことは既に彼女自身から聞いているので、恐らくは学校のことだと思われる。

 

「あ、あくまで中学生だったお兄ちゃんが被害者になったうちの場合なんだけど…。

 対策チームの人の説明では社会人なら以前就職してた所に戻れるように政府として交渉と取り引きを。

 学生だと今まで通ってた学校は最後まで通ってないから卒業資格は無いけど、東京の廃校を使ってSAO事件被害者の為の学校を作るって話だよ。

 

 あと、お金では被害者の年齢にもよるから一概には言えないけどざっと300~500万以上にはなるって聞いたかな」

 

 このデスゲームをクリアしたら自分はその先どんな生活をすればいいのかは人によって程度はあれども皆が気にしていて、先が見えなくて怖いからこの世界を出たくないという考えを持っていた人達はこれなら少しばかり安心できそうだ。

 

学校…か。

これまでの自分の同級生達とはかなりの差が付いてしまったことが劣等感を掻き立てられるようで、帰りたくないほどでは無いけれどもその辺りは少し憂鬱な気分になる。

 

「なんかいやらしい話だけど新しく来た人達はもっと高いお金貰えるんでしょ?

 金目当てで軽く考えてるやつが来ないといいけどね~」

 

「そんな人がいたらキリトさんがガツンと言ってやってください!

 このゲームを甘く見るなって」

 

「俺が言うよりアスナの方が怖いし…いや、何でもないです」

 

 椅子に腰を下ろしたまま腕を組んで考え込むリズやシリカが疑問を解消して少しだけ吹っ切れた様子だった。

そこで俺は調子に乗ってアスナをからかおうとしたら、顔は笑っていたがちくちくと刺すような殺気を感じたのですぐ彼女から目を離す。

 

「わ、私はお金目当てじゃないよ!

 本気でお兄ちゃんを助けに来るために覚悟はできてるから」

 

「ああ、そんなことは分かってるさ。

 迎えに来てくれてありがとな、スグ」

 

 

 

 

 現実世界の情報やSAO事件の詳細など外とは隔絶されたために分からなかった事実を知ったことで安心もできたけれど、それでも自分達の将来には不安が残る。

 でもそれはあと720日あまりのタイムリミットを乗り越えた先の話なので、今は前に進むしかないのだ。

 

 スグを巻き込んでしまった分も俺はもっと頑張って攻略しないとな。

 あんな奴にLAボーナス奪われて落ち込んでる場合じゃないぞ。

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