SAOー紅玉を貫く大樹ー   作:明石

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継承

 スグ、いや別のゲームからデータを移してこの世界に来たリーファによってもたらされた情報はある意味希望でもあるし不安の種にもなる。

 安易に他のプレイヤーにそれらの情報を流して混乱させるのは避けたかったので、アスナ達にはこの件は他言無用だと留意させた。

 

 そして、どうやら外の世界では半年ほど前からいくつかのVRMMOゲームが流行しているらしい。

 しかもその全てが半年前に突然世界中に拡散されたこの世界で使われているのと同様のシステム規格のVR技術を、そこそこ大きいサーバーがあれば誰でも簡単にVR世界を作ることの出来るアプリで作成されたものだというのだ。

 

 その仮想世界の全てではアイテム、所持金以外のキャラデータを流用することが可能で既にリーファは初期スキルスロットに片手剣スキルと軽業スキルをある程度鍛えた状態で持ち込んでこの世界にデータをコンバートしていた。

 それでも、リーファが以前遊んでいたVRMMOは完全スキル制なのでレベルという概念が無いためにレベルは1となっている。

 

 他でもない家族で兄の俺を自らの剣でもって助ける為にこの世界に飛び込んできた彼女は確固たる覚悟を宿らせた眼を光らせながら、現実に帰るための力になりたいと口にしてくれた。

 本当はこんな危険に満ちた世界からは今すぐ帰らせたいのだが、彼女も俺達同様メニューのログアウトボタンが消えているのでここに来てしまった以上は攻略を手伝ってもらう他ない。

 

 それから、今も剣道を続けているという彼女の実力を俺が自ら確かめて攻略に参加できるか判断してみようと、ユイとの主街区探検中に見付けていた開けた空き地で腕試しをすることになった。

 その空き地はまるでプレイヤーが模擬デュエルをする為に作られたかのような造りで、半径50mくらいの足場の安定した平地を観客が座るのに丁度良さげな岩場が囲んでいる。

 

「ほら、これ使えよ。

 そんなに強くない剣だから事故でHPが危険域にはならないし」

 

 そう言って俺はメニューのストレージ画面から取り出したかつての愛剣であるエリュシデータを鞘ごとリーファに手渡し、自分が使う分としてリズが鍛えて強化してくれたアニールブレードを再装備して背中に背負う。

 

 1週間前の騒動で初期装備とほぼ同じぐらいにまでプロパティや剣自体の重さが落ちてしまった黒塗りの愛剣を久しぶりに見たような気がした。

 50層のクォーターボスからのLAボーナスということでその辺りの層の武器屋で売られている片手剣と比べると、笑っちゃうほどに半端ない重さとプロパティを持つが故に要求筋力値も取得当時はえげつないものだった。

 サチのメッセージやシリカとピナとの出会いで多少はペースを落としたものの、毎日のように必死こいてハイリスクハイリターンのレベリングを無我夢中でこなしてようやくエリュシデータを装備できた時の嬉しさは筆舌に尽くし難い。

 

 代わりに、リズと共にはちゃめちゃな冒険をして材料を取ってきてから作ってくれたもうひとつの愛剣のダークリパルサーはまだストレージに残している。

 そちらは彼女がもう少し鍛冶スキルを上げてからその青白い剣と今まさに俺の力となっているアニールブレードと一緒に再びインゴットへと溶かして、新たなひとつの剣として作り直して魂を引き継いでいくこととそれをボス戦で存分に使うことを約束している。

 

「ふ~ん…。

 うん、これなら私が使ってる竹刀と重さ変わんないからやりやすいかも」

 

「確かに家の道場にあった竹刀と長さも重さもほとんど同じだったな。

 んじゃ、申請するぞ」

 

俺自身は幼い内に剣道から逃げて以来、家の離れにある道場の竹刀などほとんど触ってこなかったのでこれまで死線をくぐり抜けてきたエリュシデータにそんな印象など浮かばなかった。

即座にそれに気付く辺り、やはり彼女は俺がこの世界に囚われてからもただひたすらに剣道を究めようとしていたのだろう。

 

 このSAOでの対人戦、デュエルには3種類のルールを設定することができる。

 74層クリア後の1回目のヒースクリフとのデュエルは強攻撃が当たることで勝利の初撃決着モード、75層ボス戦後のデュエルは文字通り生死を賭けた完全決着モード、そしてHPを半分減らすと勝利の半減決着モードだ。

 

 俺とリーファには10以上のレベル差や防具のスペック差もあるので万が一を考えて初撃決着モードを選んでデュエル申請をすると、彼女は特に迷うこともなくそれに応じて自らの目の前に現れている窓のYESボタンを押す。

 すると俺達の間の上空にはKirito VS Leafaという文字と60秒のカウントダウンが始まる。

 

 この世界ではHPが無くなれば死ぬ、それはプレイヤー同士のデュエルでも同じだ。

 初撃決着でもレベル差があって当たり所が悪ければ死ぬ可能性があるというのにも関わらず、彼女が躊躇する様子も見せずにデュエル申請に応えたのは兄であることを抜きにしても不安が頭を過る。

 

 前にやっていたALOというゲームがPK推奨だったらしいから、そこはSAOに於けるPKが何を意味するのかという頭の切り替えがまだ無意識下では完全に出来ていないのかもしれない。

 

 それと同時に岩場に腰を下ろして様子を見守っているアスナ、ユイ、リズ、シリカ、ピナから「2人共頑張れー」や「女の子だからって手抜くなー」などそれぞれが俺への野次も混ざった応援の声が飛び交う。

 

「全力でいくからね、お兄ちゃん!」

 

「舐められたもんだな、俺も。

 そう簡単に妹だからって勝ちは譲らないぞ」

 

 待ち時間が残り5秒になったところで剣を握り直して気を引き締めつつ、攻撃にも防御にも素早く即座に対応することのできる前傾姿勢を取って相手の出方を待ち構える。

 DUEL STARTの合図と共に早速飛び出してくるリーファの剣道そのものな動きに思わず兄として嬉しくてついにやけてしまうが、その攻撃を弾き返そうと右手のアニールブレードを右に薙ぐ。

 

「くっ!!」

 

 剣道で言えば面、この世界で言えば片手剣初級スキルである単発技の<バーチカル>と同じく頭上に掲げた剣の渾身の斬り下しであるのだが、彼女の装備は最弱レベルであるし初動モーションが違うのでソードスキルが発動するはずがない。

 しかし、予想よりもかなり重い斬撃が降り掛かってきて上手く弾き返すことが出来ずに、思わず空いていた左手も刀身に添えることでなんとかそれを防ぐ。

 そこでまだ勢いを殺さずにこちらを捩じ伏せようと迫ってくる自らの頭上にあった剣を筋力値任せに強引な形で押し退けてから、素早くバックステップで5mほど離れて間合いを取り直す。

 

「やあああっ!」

 

「うおおおっ!」

 

 息を整えて態勢を立て直そうとする俺を逃さずに再び襲い掛かる彼女の重く気迫の篭った斬撃に自らも負けじと対抗して斬りかかると、高い金属音と火花を散らしながら兄妹の2年振りとなる剣によるコミュニケーションが幕を開く。

 明らかに対人戦の経験が倍以上はあるであろうリーファに少しずつ押されていきつつも、俺は必死で足掻きながら隙を突こうと一挙一動を凝らさずに観察する。

 

 しかしそれでも彼女の剣撃の重さ、そして的確にこちらからの攻撃を回避して攻撃に転じる反応の速さには翻弄され続けていた。

それでも俺はこの手に汗握る戦いにある種の楽しさを見出しつつも、妹への罪悪感が頭をちらつかせていた。

幼少の頃に祖父から叩き込まれていた剣道から自分だけが逃げられた代わりに、スグをその場に取り残してしまったような気がしていてずっと負い目を引き摺っていたのだから。

これからは兄として妹を守るという責任からは絶対に逃げるわけにはいかない。

 

 

 

 

 本当にすごいじゃないか、スグ。

 もう既に俺をもここまで追い込む強さを持ってるならこれからの攻略はもっと楽になるし、彼女ならもしかしたら二刀流スキルさえも…。

 

 でも!

 

「ここはSAOだからな!」

 

 右手に握られた剣で力強く彼女の剣先を叩いて弾くとようやく生まれたその隙に、すかさず単発の斜め斬りである<スラント>を発動させて彼女の左肩に掠る程度に間合いを調整して当てる。

 そうすることで初めに攻撃を当てた俺の勝利となり、上空に勝利者と敗北者、戦闘時間の表示が点灯された。

 

 兄としてのプライド、家族や仲間からの期待その他諸々を維持しようともちょっぴり思ったのも事実だけどこの世界にはソードスキルというシステムがあることを身を持って教えてやろうと思っただけである。

 それを知ってか知らずか外野から飛んでくる「初心者にソードスキル使うなんて大人げない」などの野次を背に受けながら激闘の余波で俺は尻餅をつく。

 

「いやー、強い強い。

 危なかったよ」

 

「そんなことないよ、私なんか…。

 お兄ちゃんの方が全然強いよ~」

 

 リーファの力であればレベルはあっという間に俺達に追い付くし、攻略には必用不可欠の実力者にもなって攻略組を支えてくれるはずだ。

 

 でも血は繋がっちゃいないが流石は兄妹というか、戦闘スタイルは俺の『攻撃は武器のプロパティや筋力値優先などシステム面で補って、回避は自分のプレイヤースキル頼りの当たならければどうにでもなる』とそんなに変わらない気がした。

 

 その後、リーファの手に予想以上に馴染んでいることを戦いの中に肌で感じたためにかつての愛剣であったエリュシデータはそのまま彼女に譲り渡した。

 その剣は今は弱いが、それを溶かしてインゴットにして新たな剣を鍛冶で作る時の材料のひとつとして引き継ぐことも出来るのだから俺がもしいない時であってもきっと彼女を守ってくれるはずだ。

 

 勿論、自分を助けに来てくれた妹は何が何でも自分の剣で守っていくつもりだけどな。

 

 

 

 

 

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