3層のテーマは森である。
これまでの層で見掛けられた森エリアとは桁違いの天を衝かんとばかりに高く伸びた古木にフロア全土が覆われている。
この層の主街区となるズムフトの町の建物も直径30m、高さ70mとなる3本の巨木の内部をくり抜いた作りとなっていて、エレベーターなどはないけれど螺旋階段で頑張って上へ登ると中々の絶景だ。
そんな町の転移門前は下の層から開通直後とあって観光に来たプレイヤー達でがやがやと賑わいを見せている。
その隅でティターニアの連中を引き留めていたクラインと合流して、奴らに他の攻略組を待たずにボス戦に挑んだ経緯を聞き取ろうとアスナが問い掛ける。
「皆さん、迷宮区の探索で忙しそうだったので声をかけづらかったのですよ」
すると、リーダーであるアルベリヒからは釈然としない答えが返ってきた。
あっけらかんと罪悪感も抱くことなく実に不遜な態度で聞き取りに来た俺達を相手にするティターニアには全員が辟易としている様子だ。
「あなた方だけでの攻略ではないですよね?
他に参加したプレイヤー達について教えて頂けますか?」
攻略組を率いて導く立場であるアスナはティターニアに対する個人的な感情を表に出さずに淡々と疑問を投げ掛ける。
「ええ、僕達の他にも同盟を結んだギルドと何人かのソロプレイヤーの40人弱が参加しましたかねぇ」
馬鹿な。
俺の個人的な見立てだとこいつらにヒースクリフ、アスナやシンカーさん、リンド、クラインのような大勢の人を率いるリーダーシップは見受けられない。
十人十色と言うようにプレイヤーにはそれぞれ個性があって、ボス戦ともなれば「活躍したい」「LAボーナス取りたい」など様々なプレイヤーの欲望が渦巻く。
同盟を結んだギルドとやらは別として、また最初からやり直しとなったデスゲームでまだソロを貫いているプレイヤーを上手く統制してボスを倒したのは嘘くさく見えるが、今3層に降り立っている事実があるのもあってどうも腑に落ちない。
「そのプレイヤー達は今どこにいる?
攻略組としてはどんなギルドであって所属しているメンバーの数やレベルを把握しないといけないので会わせてもらえないだろうか?」
「それが尊敬する攻略組の皆さんに顔を合わせるにはまだ早い、と下の層に戻ってしまいましてね。
同盟ギルドの機嫌も損ねたくはないのでここは内密のままということで手打ちにして貰えませんか?」
話を聞いていた聖竜連合のリンドの質問をこれまたのらりくらりと回避したティターニアの連中はくすくすとほくそ笑む。
それに対して攻略組側からは怒りを帯びたぴりぴりとした空気が囲み、それを意に介さず平然としている奴らが異常に見える。
「…分かりました。
この件の処遇は次回攻略会議にてお伝えしますのでくれぐれもまた先走らないよう注意してください」
最早問答をしても埒が明かないと判断したアスナは小さくため息を吐きながら奴らに呼び掛けて、颯爽とその場を去ろうとするので俺やリズ、シリカ、リーファと奴らを引き留めていたクラインは彼女についていくことにした。
軍と聖竜連合の面々も彼女とほぼ同意見でこちらを馬鹿にしているような対応をするィターニアの相手をする時間が惜しく思ったのか、再び前線へと行く準備をするために町の人混みに消えていった。
「困ったわね」
「なんなのよ、あいつら!?」
「気味悪いですよね!」
「思い出したらほんとムカつく!」
ズムフトの町にそびえ立つ巨木の宿屋でもある建物のひとつに入り、1階の待ち合わせ場所には絶好なエントランスの一角のテーブルセットに腰を下ろす。
するとこれまで黙って我慢していた女の子達は、もし自分の事であったら泣きたくなってしまうような怒りに満ちた愚痴をこぼす。
「あいつらとこのまま背中合わせて戦うなんて俺はごめんだぜ。
反省なんかこれっぽっちもしてねぇぞ!」
奴らの対応を俺達よりも長い時間続けていたクラインはあまりにも腹が立ってしまったのか、ロビーでちゃっかり頼んだビールを口にしていた。
「俺もあいつらは攻略組からは外した方がいいと思う。
けど、また勝手にボス戦やりそうだからな~…」
「アルゴさんには調査依頼してるけど苦戦してるみたいだしね。
まぁ、ボス倒して次の層を開放してくれるのは有り難い気もするけど」
「何言ってんのよ、アスナ?
手柄を取られたみたいなもんだしあんなキザ野郎共に感謝なんかしなくていいわよ」
確かに時間が無い中で勝手な判断であっても先へ進む手助けにはなってるから余計にもやもやするアスナの気持ちも、それを諭すリズの気持ちも十分理解できる。
1週間以上前から調査を依頼していたアルゴの経過報告によれば、隠蔽スキルによる尾行や聞き耳スキルによる盗聴も何故かいつもすぐに気付かれ、追われはしないもののいつの間にか見失って煙に巻かれてしまうようだ。
数々の情報を収集してきた彼女ではあるが「こんなの初めてだヨー」と本気で困っていると共に意地でも秘密を暴いてやると燃えているらしい。
「あいつらが何をしようがこっちはこっちで先に進むしかないよ。
クライン、俺達の方はキャンペーン・クエスト挑むつもりだからもし前線で何かあったら教えてくれ」
「おうともよ。
そっちも気を付けろよな」
ティターニアに任せてしまうのは簡単な話だ。
でも万が一奴らの手に負えない事態となった場合には75層までではあるが情報を持っているこちら側が有利になる。
こうなればどちらが先に迷宮区を踏破してボスを倒すか、という話にはなるけれど俺達には自己の強化と何よりも優先すべき『いのちだいじに』という使命があるのも事実でそう簡単にはいかないかもしれない。
でも時間は掛かるが強化の近道になるキャンペーン・クエストに挑まない選択肢は無いんだ。
あの子にもまた会いたいしな。