SAOー紅玉を貫く大樹ー   作:明石

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プロポーズ

 キャンペーン・クエストとは、よくある同じフロアでのお使いクエストなどとは違って層をまたいで物語が続いていくもののことだ。

 今回、俺達が受けたものはこの3層から始まりまだまだ遥か上にも感じる9層まで進めると終了となり最後までいけばかなり豪華な報酬を貰えるものである。

 

 まずは3層主街区ズムフトの南西辺りの深い森の中に入って、そのどこかで戦っている黒エルフと白エルフのどちらかに加勢をする。

 つまりはこのクエストはエルフのどちらかに味方して様々なクエストをこなして時に美味しい報酬を手に入れ、与した方の物語の行く末を見届けろという話だ。

 

 リズ、シリカ、リーファを前衛に配置してその物語の結末を知っている俺とアスナは後ろで彼女らを見守る役目に徹するはずだった。

 だがまたもやこの凛々しくも恐ろしい閃光様は、本来プレイヤーのHPが半分を切ると加勢したエルフがこちらを庇うように敵のエルフを道連れに自爆するイベントなのに、それを忘れてほぼ1人で現時点ではかなりの強敵である白エルフをHPが半分切るか切らないかぐらいで倒してしまう。

 

 しかし俺達が加勢した黒エルフの女性は以前助けて共に戦ったキズメルというNPCではなかったし、今回助けたエルフはそのキズメルのAIとは別なのか反応は町でよく見掛けるNPCと同じだったのがなんだか寂しくもある。

 そうしてエルフを助けた後は敵が隠し持っていた『聖堂の鍵』という重要アイテムをこの層の南にある陣地に届けることとなり、自らをリリーと名乗ってパーティに加入した黒エルフと共にそこへ戻った。

 

 その黒エルフの陣地には寝床や道具屋、鍛冶屋まであるためにいちいち町に補充に戻る必要も無くクエストに集中できるという訳だ。

 街の商店よりも品揃えが良い分、値段も高いのでどちらで買い揃えるかは悩ましい。

 

 この陣地を取り仕切る司令官に『聖堂の鍵』を届けると任務の協力を持ち掛けられてそれに応じると、リリーが使っているという6人前後が入ってもまだ余裕のある広々とした天幕に招待されてそこに全員で宿泊が可能になったのだ。

 だが、さすがにこんな所で男1人は気まずいからと外で野営でもしようと思っていたら皆が「冬だし圏外だから」と猛反対するためお言葉に甘えることにした。

 

 天幕の中央を基準にした国境線破ったら大変なことになるよ、と遠回しに脅されながらではあるけど。

 

 元々は今日の午後に2層ボス戦の予定だったがティターニアの独断専行のお陰でそれは狂ってしまい、俺達は全く労せずして3層に辿り着いてしまった。

 街開きのイベントを心待ちにしていた一般プレイヤー達は転移門がティターニアによって効化されてすぐの時点で2層にいた俺達攻略組に驚いていたり不審がったりしていて、面目がある意味潰れる結果となったのは少々腹が立つ。

 

 この陣地に着いたのがまだ3時過ぎだったので俺は模擬戦と称してリーファやシリカの訓練に付き合い、リズはアスナの使う細剣のウインドフルーレをインゴットにしてから新たな武器を作ったりと各々が自己の強化に務めながら夕食時まで時間を潰した。

 

 

 

 

「ねぇ、ここお風呂あるから皆で行きましょ」

 

 それから、屈強な黒エルフの戦士達に混じって食堂となっている天幕で夕食を取った後にのんびりと寝床で寛いでいるとお風呂大好きなアスナは他の女の子達を誘う。

 この陣地には辺りが戦地なのであまり贅沢も出来ないからひとつではあるけれど、ゆったりとできる風呂場の設けられた天幕が存在するのだ。

 

「俺も行くよ」

 

「はぁ!?」

 

「キリトさん!?」

 

「お兄ちゃん!?」

 

 リリーが用意してくれた布団に寝転がりながらそれを聞いていた俺の「見張りをする」という意味でほぼ無意識に放った言葉にアスナ以外の女の子達が頬を赤らめつつ驚きの声を上げてこちらを凝視する。

 

「あ、いや…!

 違う、ここ一応圏外だし風呂場に鍵も無いから見張りをしようと思っただけだぞ!」

 

 以前ここで寝泊まりしていた時と同じようにアスナが風呂に入っている間の見張りを勝って出ようと何気無しに口から漏れた言葉によって、早くもアウェーに追い込まれてしまった俺は彼女らの外の気温よりも冷たい視線に気圧されながらも弁解する。

 

 なんか最近墓穴を掘りまくってるような気がするぞ…。

 

「キリトくん、罰として皆がお風呂から上がってくるまでこの陣地の内周ダッシュで走っててね」

 

 この世界には肉体的な疲れは無いため、走り続けようと思えばずっと走り続けることも可能だ。

 しかし疲労は無くとも敏捷値が上がることも無いし段々と走ることに飽きてくるので、好き好んで延々とフィールドを走り続ける奇特なやつはいないだろう。

 

 けれど俺は出来れば折角リリーが客人をもてなそうと用意した暖かい布団で眠りたかったので、女の子達の機嫌を損ねて天幕から追い出されないようその罰に甘んじて約1時間半もの間に渡って陣地内周をひたすら無心で走り続けた。

 NPCとはいえこの陣地内にで暮らしている他の黒エルフ達に変なものを見たかのような視線を浴びせられた気がして泣きたくなりそうだったが。

 

 

 

 

 

 

 夜も更けてきて結局暖かい布団でもリリーを含めて女の子5人に囲まれた状況が状況なだけに寝付けなかった俺は、月明かりを頼りに陣地内にあるはずのとある場所を目指していた。

 現実では11月も半ばでそろそろコートでも足りないくらい寒くなる時期だが、それと同様に冬になったアインクラッドの夜はもう上着無しでは出歩けないほどに寒く吐く息も白くなっていた。

 

 夕方のこの陣地に満ちていた活気は嘘だったかのように静まっていて、辺りからは虫の鳴き声や風が木々を揺らす音だけが響く。

 この陣地内は一応圏外エリアであるため、いつ近くの木陰からモンスターが飛び出してきてもおかしくはないぐらいに不気味な闇が周りを包んでいて正直ひとりでは心細くもある。

 

「…あった」

 

 目的としていたものはこの黒エルフ陣地の奥に張られた司令部天幕のさらに奥にある。

 その司令部天幕のちょうど裏手に当たる空間には1本の小さな木とその下に3つの簡素な木材を切り出した墓標が並んでいた。

 

 左端の墓標に近付いてそこの正面に座り込んでから森を探索中だった昼の間に取っていた花をストレージから取り出してそっと手向ける。

 

「キズメルは強くなったよ、ティルネル。

 …今もどこかで頑張ってる」

 

 この墓標はかつて俺とアスナが行動を共にしていたキズメルの双子の妹であるティルネルというここで薬師として働いていた女の子のものだ。

 本当ならキズメルと一緒に来るべきだとは思うが、やはり彼女は別の場所で騎士の務めを果たしているようなので代わりにといったところだ。 

 

 このクエストを進めればまた彼女と寝食を共にしたり背中合わせで戦える日が来るはず。

 その時にもまた彼女を守ってみせる、と姉の事を心配しているかもしれないティルネルの墓前でしっかりと誓ってみせる。

 

 キズメルは以前の俺達がクリアしたクエストでの多大な武勲を認められたお陰でエルフ女王の護衛にまで昇格した。

 それからどうなったのかは分からないし、一応はあれから2年近く経っているので彼女の実力ならば更に出世していたり他の層に派遣

 されて活躍している可能性もある。

 

 もしかしたら彼女の好きな『ジュニパーの樹』がある4層の城にいるかもしれない。

 

 それにしても…。

 なぜ、リリーはキズメルと違って他のNPCと変わらない反応しかしないのだろうか?

 

 あの時と同じく俺達は本来ならば負けイベントとなる場面で敵を倒したのだから考えられる条件は同じなはずだ。

 以前との違いがあるとすれば、茅場がGM権限をカーディナルシステムに奪われてしまう事態が起こっていることや俺とアスナのコンビではなく他に仲の良い友達とパーティを組んでいることだろう。

 

 まさか……な。

 

 

「ここにいたんだ、キリトくん」

 

「…アスナか。

 どうした?」

 

 ティルネルの墓に手を合わせた後に立ち上がって戻ろうとすると、寝間着に薄い上着を羽織った姿で現れたアスナの元へそっと駆け寄る。

 

「ちょっと目を離したらす~ぐ他の女の子と仲良くなるどこかの誰かさんを心配して探しに来ただけよ」

 

「い、いやいや。

 それは違うと思うけどなー」

 

 予想以上の寒さに震えながらも我慢しているアスナに少しは暖かくなるだろうと思って正面から抱き寄せると、彼女もそれに応えようと俺の背中へ手を回す。

 こうしたのは随分と久しぶりのようで愛おしさよりも恥ずかしさが勝ってしまうので、じっと見詰めてくる彼女の視線がくすぐったい。

 

「ねぇ、キリトくん。

 

 ここ最近忙しくて忘れてたけど私達の結婚状態解除されちゃったよね…。

 だからちょっと不安になっちゃったけど大丈夫だよね?」

 

 こんな事は思いたくもないけれど実は俺の方も次から次へと舞い込むアクシデントやら何やらでアスナとの結婚が解除されていたのを忘れてしまっていた。

 

「大丈夫さ、俺は今でもアスナを…愛してるからな」

 

「ふふっ、ありがと。

 私もキリトくんを愛してます」

 

 そして俺達はお互いの愛を確認するように口づけを交わす。

 自分達に残された少ない時間、それを壊して現実での生涯を共にする為にこれからも戦っていく決意をしながら。

 

 

 

「あのさ、アスナ。

 まだ時間は掛かるけど22層の家を取り戻したら皆を招待して結婚式挙げないか?」

 

 それからシステム上での結婚を再び行って寝床の天幕近くまで戻る途中に以前のアスナとの新婚生活から気にしていたことを提案する。

 やはり女の子としてはウェディングドレスを身に付けて皆に祝われながら式を挙げるのが夢なはず、そう思ってはいたものの今まで言い出せなかったのだ。

 

「本当に!?

 楽しみにしてるから約束だよ?」

 

「ああ、任せとけって」

 

 これまで言い出せなかった自分を殴りたくなるぐらい彼女はこの上ない喜びを表すような微笑みを見せてくれたので、こうなれば最高の結婚式を挙げて更に喜ばせてやろうと今から意気込む俺がいた。

 

 まずは22層まで行かなきゃいけないし、アルゴから仕入れた情報だと17層のクエストをクリアすると実用性もそこそこあるウェディングドレスが手に入るらしいからそこまでは突っ走らないとな。

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