SAOー紅玉を貫く大樹ー   作:明石

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毒の霧

 2024年11月25日 ー残り712日ー

 

 

 この3層で受けられる分のキャンペーン・クエストは1度クリアしていて攻略情報が揃っていたのもあってさくさくと進み4日で終わって、レベルの方も14まで上がって戦力としては十分安全圏となった。

 その間に軍や聖竜連合、風林火山とエギルらその他の攻略組でこの層の北エリアに繋がる山脈の谷間を塞いでいたフィールドボスを倒していたり、迷宮区ボスフロアまでの踏破をしていたようだ。

 

 不思議なことに今回はティターニアによる勝手なボス挑戦も無く、無事に本日午後にメンバーを募ってボス攻略へと向かった。

 この層のボス《ネリウス・ジ・イビルトレント》はこの層の森の巨木から手が生えたかのような出で立ちで、足は無いためにこれまでのボスとは違って護衛も無くほぼ動かない。

 しかし、それを埋め合わせるために若干だが硬く感じる防御力と厄介な特殊能力を持っている。

 

 今までと同じく防御に長けた聖竜連合が壁役としてボス正面に立ちその後ろで状況に応じて交代をするエギル達とその右側で軍の精鋭達が、左側で俺達と風林火山が攻撃役となるフォーメーションは今のところ順調に回っている。

 ヒースクリフの裏切りからようやく立ち直り動き始めた血盟騎士団は彼を心底尊敬していたメンバーが抜けたりまだボス戦に来られるレベルでは無いので今はまだいないのだが、合流すればそのオールマイティーさを発揮してもっと楽になるはずだ。

 

 

 

 

「毒ブレス、来ます!」

 

 俺とリーファが同時に片手剣の単発突進ソードスキル<ソニックリープ>を放った瞬間にボスが深呼吸をするかのように大きく背中側に身体を反らし手を上げると、後方から全員に注意を促すアスナの声が響き渡る。

 

「キシャアアアア!」

 

 鳴き声と共に自分の周囲で攻撃していたプレイヤーへと濃い緑色の息を大きく吐いたボス。

 思わず空いている左手で口や鼻を覆って隠そうとするが、それは意味無く視界左上のHPゲージの隅に毒の状態異常を示すアイコンが点灯する。

 

 そう、ここのボスの厄介な特殊能力というのはHPが5%削られてしまうと吐く毒ブレスのことだ。

 それを放っといていれば勿論こちらのHPは危険域に陥ってたまに来るボスの手による薙ぎ払い攻撃で死んでしまうので、アイテムで回復しなければならない。

 

「アスナ、スイッチ!」

 

「了解!」

 

 解毒ポーションを使う為にボス攻撃範囲外に出ようとソードスキル硬直時間が解けた直後に俺とリーファが後退して後方で待機していたアスナ、リズ、シリカにスイッチをする。

 すかさず腰に装備していたポーチからポーションを取り出してそれを飲むと、毒の状態異常が解除されるのでまた新たにストレージから実体化させた解毒ポーションをポーチに放り込む。

 

「筋がいいなぁ、リーファっちは」

 

「俺の自慢の妹だからな」

 

 俺達の横で風林火山メンバーを2つに分けて指揮をしていたクラインがこちらに近付きながらリーファの実力に感心してうんうんと頷いていたので、妹のお陰で鼻が高くなった俺は彼に向かって威張る。

 

「えへへ、ありがとうございます!

 お兄ちゃんのレクチャーが上手かったんですよ」

 

「だよな~。

 キリトの野郎は意外と教え上手だからこれからもどんどん頼ってやれよ」

 

「なんでお前が兄貴面してんだよ!」

 

 いつ死人が出てもおかしくはないしまだHPゲージは2本目を半分削ったところの折り返し地点にも来ていないボス戦ではある。

 それでも皆の心の中には余裕が生まれているお陰でぴりぴりと張り詰めた空気は和らいでいるように見えた。

 皆で協力して同じ目標を達成しようと頑張ることが楽しく思えるが、ティターニアが来ればそれは崩れるしきっと余裕を保てるのも序盤だけだろう。

 

 

 

 

「グロロロロオオ!」

 

 大体40分が過ぎたところでボスのHPゲージは残り1本となる。

 ここからはHPが4%減ると毒ブレスを吐くようになるので更にペースを上げて攻撃していかないと充分過ぎるほど用意した解毒ポーションが底を尽きてしまう可能性があるのだ。

 

「おおおお!」

 

「やああああっ!」

 

 兄妹で意識はしていないのにも関わらずお互いに同じソードスキルを発動させて着実にボスのHPを削る。

 武器のプロパティはまだ俺の方が上ではあるので与ダメージ量も上回っているが、リーファは早くも自動で体を動かすスキルアシストに自分の力による意図的な加速を加えて威力を上げる高等テクを身に付け始めている。

 

 一歩力加減を間違えればシステムがソードスキルの中断と判断してスキルアシストが止まって硬直時間を課されるという難易度の高い応用技をリーファには特に教えたつもりは無いはず。

 なのに俺やアスナが長年の自主訓練でマスターして使っているそれを彼女は目で観察して自然と覚えているようで、急成長に驚くと共に思わず武者震いが俺を襲う。

 

 すげえよ、スグ。

 

 SAOとは違って自らの運動神経が頼りのALOとかいう別のVRMMOのデュエル大会でも、現実世界での剣道の全国大会でも上位になった彼女は既に頭角を現している。

 その圧倒的にも思える成長幅はまだ経験で差をつけている攻略組全体を刺激しているようだ。

 

「あとちょっと!

 HPに余裕がある人は前進して攻撃に出て!」

 

 凛としたアスナの声に呼応してHPがもうほんの数ドットとなったボスへ全員が総攻撃を仕掛ける。

 それを迎え撃とうとするボスの手による薙ぎ払いや叩き付け攻撃を壁役のエギル達がソードスキルで弾き返すと、その隙に間髪入れず雪崩れ込んだ攻撃役がそれぞれ現時点での最上位スキルを放ってHPを削っていく。

 

「キシャアアァァ…」

 

 あ徐々に小さくなる呻き声が完全に止まったところでボスの身体は青いポリゴンの欠片へと爆散し、それを見届けると皆が勝利を喜ぶ声を上げる。

 周囲を見渡してみると壁役を含めた全てのプレイヤーの頭上に表示されているHPは3分の2以上を残していて死者も出ていない、それは誰もがこのボス戦を上手く立ち回った証拠でもあるので安心した。

 

「初めてのボス戦、お疲れさま」

 

「ありがと、お兄ちゃん。

 は~、緊張したよ~」

 

 LAボーナスを取ったことを確認した俺は心の中でガッツポーズを取りながら勝利の余韻に浸って自らの貢献度や取得コル、経験値が映されるボスリザルト表示をじっと眺めていたリーファをしっかりと労う。

 緊張から解放されたのか胸を撫で下ろしてはにかむ彼女の姿に、ボス戦前から心配していた俺やアスナ達は安堵して皆でハイタッチを交わし勝利の喜びを分かち合った。

 

 

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