SAOー紅玉を貫く大樹ー   作:明石

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エルフの城へ

  2024年12月26日 ー残り681日ー

 

 この9層迷宮区の最奥に鎮座しているボスは《キング・ザ・ロイヤルハウンド》という巨大ながら素早い狼型ボスで、その取り巻きが《ダークエルブン・クイーンガード》と《フォレストエルブン・クイーンガード》だ。

 取り巻きが黒エルフと白エルフになっているのは、プレイヤーが行っているキャンペーン・クエストのこの層での展開に影響されるためである。

 

 この先の展開がどうなるかというと、これまで敵対してきた黒or白エルフとの争奪戦から勝ち取った6つの聖堂の鍵をエルフ女王陛下に献上すると、7人いる護衛の中の1人が裏切って鍵を持ち去ってしまう。

その後に裏切った護衛だったエルフを城の地下まで追い掛けていくと、その聖堂の鍵で封じられていた狼を解き放ち反旗を翻すというシナリオだ。

 

 その狼とエルフとはその場で決着は着かないのだが、クエスト補正によって攻撃力が激減されたボスとの言わば予行練習が行える。

 城の地下での戦いで削ったボスのHPゲージは迷宮区最奥の戦いに持ち越せるので、補正で弱くなっている内に削っておくと素早さには悩まされるけれど比較的ボス戦が楽になる。

 

 でも俺とアスナが気にしているのはボスではなく、裏切る護衛のエルフの方だ。

 

 

 

 

 クリスマスを休日として充分に英気を養った俺達は中断していたキャンペーン・クエストを再開すべく、この層の南端に置かれているエルフの戦士達の陣地へと向かってリリーと合流した。

 そこから東側に存在するエルフ達の城へと聖堂の鍵を持ちながら向かっていくのだが、とあるひとつの懸念がある俺とアスナは足が重く戦闘でも集中が出来なかった。

 

 本来はキャンペーン・クエストを受け直すことはできないからそれは有り得ないはず。

 でも、下層の黒エルフ達の話だとキズメルは女王の護衛に昇格しているらしいからクエストの影響を受ける対象になるのか…?

 進めてみないと2回目になるこの先の展開がどう変わるのか分からないのが何とも歯痒い。

 

 この9層は主街区がある西とエルフ陣地の南側が樹海エリア、城がある東と迷宮区がそびえ立つ北側が平原エリアとなっている。

 マップが無ければあっという間に迷子になりそうな樹木が鬱蒼と生い茂る樹海を北東方面に抜けると、それまでの木々で覆い隠された光景が嘘のように視界が開けて平原エリアが顔を出す。

 

 黒と白エルフが手を取り合った状況を示すかのような灰色に塗られた大きな城は陽光が反射して煌めく湖畔に囲まれた孤島の上に佇む。

 透き通った綺麗な湖畔には侵入者を妨害する為の跳ね橋が掛けられていて、絵本やゲームでしか見たことのないその風景はたとえ仮想世界であっても感動ものだ。

 

「では、ここで待っていてくれ。

 今、門番に通行許可を取ってくる」

 

 景色に見入られながら城への一本道を通って跳ね橋の傍に立つ屈強な門番が見えてくると、同行してくれている黒エルフのリリーが俺達を一旦制止させて8層で貰った城への通行証明書を見せに行った。

 1ヶ月ほど彼女と一緒にいたのだが、やはりユイやピナやキズメルといった特別なAIは持ち合わせておらず他のNPCと同じに見えてしまう。

 

 なんでこうも個体によってAIの性能が違うのか?

 そこら辺さえも茅場の仕業だとしたらあいつはこの世界で何をしたかったんだろう。

 

 そう考えている間にリリーと門番の話は終わったようで、上がっていた跳ね橋が客人を迎え入れようと木の歯車が回る大きな音を響かせながら徐々に下がっていく。

 そして数分の後に完全にそれが下がったのを見届けてからエルフ式の敬礼をして歓迎する2人の門番の間をリリーを先頭にして俺達は通り過ぎていく。

 

 この城に来たのが初めてであるリズやシリカ、リーファは高揚感を抑え切れず無邪気にはしゃぎながら景色を堪能しての冒険を楽しんでいた。

 そんな微笑ましい様子を俺とアスナは最後尾で静かに見守りながら目を合わせて互いに無言ではあるが言いたいことは伝わってきたので頷く。

 

 まだ気を抜くな、ってことだろ。

 最悪の展開がすぐそこにあるかもしれないんだ。

 

 

 

 

 およそ200mはあったであろう跳ね橋を渡り切って城が建つ孤島へ足を踏み入れると、橋の正面にそびえる巨大な正門がゆっくりと開いて中から案内人らしきエルフがこちらに近付いてくる。

 

「久方ぶりだな。

 キリト、それにアスナ」

 

「キズメル!

 ひさしぶりね」

 

 以前行動を共にした時よりも豪華な装備に身を包んでこちらを見ると穏やかな笑みを浮かべたキズメルに会えたことがよほど嬉しかったのか、アスナは颯爽と彼女に駆け寄り抱き着く。

 

 攻略の鬼として攻略組プレイヤーを厳しく導いていた頃のやさぐれていたアスナは村にいるNPCを囮にしてフィールドボスを倒すという作戦を展開しようとしたが、「NPCであっても命には変わりない」とそれに反対した俺との決闘に負けてその作戦は中止となった。

 結果的にはその囮にしようとしたNPCから攻略のヒントを貰うことが出来てなんとか事なきを得た。

 

 そんなことがあったのはもう半年以上前だろうが、そんな愚かな考えを一時でも抱いた自分をどうか許して欲しいと言いたげな悲痛な表情で彼女はキズメルを強く抱き締める。

 

 いや、それだけじゃない…。

 でも危惧した通りの展開であってもそれは彼女の意志ではなくシステムが物語を進ませようと操り人形にするだけで、今ここで何を言っても未来は変わらないかもしれない。

 

「キズメル、元気だったか?」

 

「ふふっ、勿論だとも。

 君達に救われたこの命はここで有意義に使わせてもらってるよ」

 

 本当に今でもこのエルフが本物の人間ではなくてデータの集まりだとは思えない。

 至るところで見せる仕草や動きが自然過ぎるのだ。

 

「ところで、君達は左手の薬指に結婚指輪をしているがようやく結婚したのか?」

 

「うん、そうなの。

 でもようやくってどういう意味?」

 

「あの頃からアスナはキリトに好意を持っていたように見えたが違ったのか?」

 

 自分の妹であるティルネルに似ていると言って何かと気遣っていたアスナの頭を優しく撫でながらキズメルは俺達の薬指にされている指輪へ視線を移して首を傾げる。

 

「え…。

そうだったのか!?」

 

「ち、違うよっ!?

 あ、いや、違くはないというかなんというか…」

 

「あははっ、君達は変わらないな。

 

 さて、女王陛下に謁見したいのだろう。

 私についてきてくれ」

 

 そんな爆弾発言から真相が気になった俺はアスナを問い詰めようとするが、彼女が顔を真っ赤にしてそれ以上の追及を逃れるかのようにキズメルの背後に隠れてやり過ごそうとするその様は本物の姉妹にも見える。

 

 懐かしいな、こういうの。

 キズメルと出会ったのもちょうど2年前の12月だったっけな。

 

 また彼女とは一緒に冒険をしてみたいとずっと思ってたけど、ここで再会してより一層その思いは強くなる一方だ。

 

 今度はキャンペーン・クエストとか関係無しにさ。

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