城の中心にあるエルフ女王の玉座が存在する謁見の間に足を踏み入れると、その輝かしいばかりの荘厳さに圧倒されてしまった俺達は自然と息を飲み込んでその光景に釘付けとなる。
この謁見の間を囲む壁は一面がステンドグラスで飾られており、それはエルフが築いてきた歴史を描いているらしくそのひとつに鎖で繋がれた邪悪な様相の狼を6つの鍵で解き放とうとするエルフの姿まである。
ステンドグラスが複雑に乱反射する光は中心に座する女王の元を明るく照らしていて、その美貌と共に厳かで幻想的な雰囲気を醸し出す。
一番前に案内人を買って出たキズメルが、そのすぐ後ろに聖堂の鍵を持ったリリーとそこから数m離れたところに俺達が立つ。
「よく来た、人族の勇者達よ。
聞くところによると、フォールン・エルフが盗み出し下層で燻っていた反乱分子が悪用しようと試みた聖堂の鍵を取り戻してくれたそうだな。
エルフ族を代表してそなたらに感謝する」
白エルフと黒エルフの中間、俺達日本人とさほど変わりない肌色と灰色の艶のある髪を腰まで伸ばしているその姿はまさにエルフの主といったところだろう。
ここまで全てが整然とした美しさを持つ女性は見たことが無いためにプレイヤーである俺達は全員が直視するのを躊躇ってしまうほどだ。
それが男でも女でもこんな人に仕えられるなんて誇らしい。
ここが厳正な場じゃなかったらキズメルをからかいたくなる。
「フォールンの生き残りが蔓延っていたのは驚きではあるが、諸君らの協力によって殲滅することが出来た。
これで我らエルフ族は再び繁栄の道を進むことになる」
古の大切断以前に聖大樹の力を利用して刃にも傷付かない体を得ようとして追放されたというフォールン・エルフは、今ここにいる黒と白エルフの容姿とはかけ離れた黒緑色の肌でどこか悪魔じみた風貌の種族だ。
そのフォールンが女王や城の兵士達の統制が効かない下層で反乱分子を唆して《聖堂の秘鍵》を奪わせ、それを用いて両エルフが統一する現体制を打ち破ると同時に積年の恨みを晴らそうとしていた。
フォールンの主導者を倒してそれを阻止したのが彼らの言う人族であるプレイヤーと3層で助けた方の種族というわけだ。
「諸君らの多大なる働きと比すれば微々たるものではあるが、その貢献を賞して我らの秘宝を授けよう。
受け取れ、人族の勇者達よ」
かの《閃光》をも凌ぐその凜とした言葉が謁見の間に響き渡ると、俺達の前にCUEST CLEAR!!という文字と報酬アイテムと経験値を表示するポップアップが浮き上がる。
この報酬である武器防具の類いはプレイヤー自身でいくつかの選択肢から選ぶことが出来るので、それぞれが自分に合うものを選択するとポップアップは消える。
そういや片手剣と細剣の報酬しか知らないけど短剣とか片手鎚の方はどんなもんなんだ?
スペックは鍛冶以外で現状手に入る武器の中じゃ飛び抜けてると思うけど見た目が気になるから後で触らせてもらおうな。
「……っ!」
装備の更新でテンションが上がっていた俺は十数歩前に立つキズメルの纏う空気が変わったことに気付き、直ぐ様そちらを振り向き怪しい動きを見せればそれをいつでも止められるように構える。
本当は剣で以て制したいところではあるけれど、女王の前で背中に吊った剣に触れれば周りにいる6人の護衛のエルフに俺が制されてしまうだろう。
キズメル、やめろ…。
頼む…!
『何だ!?』
俺の心からの悲痛な叫びも空しくキズメルは自らの腰を影にして煙玉を爆発させて辺り一面を黒っぽい灰色の煙幕で囲む。
謁見の間にいたエルフ達はいきなりの事態に対応出来ず、驚きの声を上げて二の足を踏んでいた。
俺とアスナが危惧した通り、秘鍵を奪ってボスを解き放つ裏切り者は護衛の中で一番の新入りであるキズメルだった。
β時代にこのキャンペーン・クエストを9層まで進めても俺達プレイヤーは城にすら入れなかったし、聖堂が何なのかさえも知ることが出来なかった。
そしてサービス開始と共にそんな設定も変わったのかもしれないけれど、本来はこのクエストを最後まで2回もこなすことは有り得ないのだ。
だからかつて自分が助けたエルフが裏切り者になるシナリオなど誰も知らなかった。
しかし、仮に予想は出来たとしても攻略をいち早く進める為にはクエストを受けて自己の強化に努めなければ自らの命が無いのだ。
今までも度々思ってきた事なのだが、やはりこのゲームの開発者はプレイヤーのエゴを試している節がある。
ボスのLAボーナスやレアドロップを巡った争い、結婚による互いのストレージ共通化及びステータス閲覧可能権で起こるこれまで相手に隠してきた一面全ての強制的な暴露などなど語り尽くせないほどそんな場面はある。
その中でもかなり意地の悪い試練だと個人的には思う。
つまりは寝食を共にして戦いでは背中を預けた者を斬る覚悟はあるか、そう言われている気がしたのだ。