SAOー紅玉を貫く大樹ー   作:明石

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亡霊と妖精王

 2024年12月31日 ー残り686日ー

 

 1年の終わりをそれぞれ思い思いに噛み締めるべき大晦日であるこの日に合わせて9層ボス戦は行われることとなった。

 明くる日の元旦くらいは少しだけでも息抜きをして英気を養おうと思って攻略組ギルドリーダー逹はこの日を選んだのだ。

 

 だが、フロアボスとなってしまった戦友のキズメルと互いの剣で命の取り合いをした傷はいくら日を改めても払拭はされないでいる。

 

 攻略会議の場で俺とアスナはボス取り巻きの護衛である《ダークエルブン・ロイヤルガード》を専門に立ち回ることを個人的な都合を優先して進言したのだが、真っ先にそれを反対しそうだと懸念していたリンドは俺逹の気持ちを察したのか快諾してくれた。

 こうして次にボス情報の共有と立ち回りの話し合いが始まって層ボス本体はリンドら聖竜連合とエギル逹が壁役となり、軍とリーファら女の子でアタッカーを務める。

 ボスの取り巻きの内の《フォレストエルブン・ロイヤルガード》を風林火山で、もう片方のキズメルを相手取るのは俺とアスナに決まった。

 

 

 

 

 そして、粗方マッピングを終えている軍を先頭に9層迷宮区の最上階のボス部屋を目指して進んでいく。

 迷宮区に巣食うモンスター群は外のそれよりもいくらかレベルが高く強いのだが、攻略組のほとんどが振り出しに戻る以前からの実力者だったので苦戦はせずに済んでいる。

 それでもボス部屋に近付くにつれて緊張感によって心臓の鼓動は騒がしくなっていくのを抑えられはしない。

 

 ちょうどβ時代の情報が無くなるフロアに入ると更に緊張は増して両手の拳に力が入りっぱなしになる。

 以前にアスナと2人で攻略した時は情報が無い不安感から一気に死が近付いた気がして震えが止まらなくなったところに彼女は優しく俺を包み込んで慰めてくれたことを頭の片隅で思い出す。

 

「キリトくん」

 

「どうした?」

 

 ふと横から声を掛けてきたアスナの方を振り返ると、彼女の方は少しだけ緊張が解れている様子でにこやかに微笑みを浮かべていた。

 

「明日、お正月なんだからユイちゃんと3人で遊ぼうね」

 

「分かってるよ。

 お正月がどんなもんか教えてやりたいしな」

 

「ふふ、そうだね。

 あ、お年玉もあげなくちゃ」

 

 そんな他愛ない談笑で俺を縛り付けていた緊張はいつの間にかふわりと解れていきながら体全体が若干軽くなっていった。

 今回も以前も俺の内心を悟って的確に暖かく包んでくれる我が嫁にはもう一生敵わないな、と思う。

 

 SAOサーバーを介してネットワークから情報を閲覧出来る権限を持っていたことのあるユイはお正月という文化自体は知識として理解している。

 だからこそ、まだ現実には戻れなくとも今出来る範囲内でお正月というものを肌で感じてほしいのだ。

 

 でも確かにお年玉はあげたいな。

 うちは俺もスグも大体2万くらい貰ってたけどユイには寂しい思いをさせている分もう少し多めに5万以上はあげてもいいだろう。

 リーファ伯母さんにも一応後で頼んでおこうか。

 

 

 

 

「ごきげんよう、皆様方。

 お待ちしておりましたよ」

 

 迷宮区最上階では部屋からは出ることができないボスと巨大な石造りの扉を挟んでいるはずなのに、殺気の混じった物々しい雰囲気がフロア全体に蔓延しているのを感じて息が詰まる。

 その巨大な扉の前の安全地帯である大広間で正直顔を合わせたくもないと誰もが思っていた男逹が立っていた。

 

「何の御用でしょうか?」

 

 個人的な感情は一旦置いてすかさず前に躍り出たアスナはリーダーらしい凛とした声を響かせる。

 その頼もしげな口調は攻略組の皆が同時に息を呑み込むほどに様になっていた。

 

「おやおや、何の御用とは…。

 攻略組のお歴々方がボスに挑むと聞いて私達も参戦すべく他のプレイヤー達も引き連れて駆け付けたのですよ」

 

 ティターニアのギルドリーダーであるアルベリヒは不遜にもボス部屋の扉の前に立ちはだかりながら相変わらず堂々としてどこか癪な言い方でこちらを見据える。

 そして彼の合図と共に後ろに隠れていたプレイヤー達がこちらからも見えるように顔を出すが、その顔に見覚えがあった俺やアスナはあまりの衝撃に半歩後退りする。

 

「ゴドフリー…、クラ…ディール。

 …グリセルダさん」

 

 かつて血盟騎士団に所属していて俺の入団試験を監督した豪快な斧戦士のゴドフリー。

 同じく血盟騎士団で副団長をしていたアスナの護衛をしながらもストーカーのように付きまとい、ゴドフリーを殺して俺をも葬ろうとした両手剣使いのクラディール。

 そして、黄金林檎というギルドのリーダーでありグリムロックという現実でも夫だった者とのすれ違いによって死んでしまった中層では実力者のグリセルダさん。

 

「ディアベルさん…!」

 

 以前の攻略での1層にて、元βテスターである事を隠しながらフロントランナー達を率いてボス戦に挑みLAボーナスを狙ったところで不運にも最初の犠牲者となった騎士のディアベル。

 その彼を尊敬してこれまで攻略組に属して走り続けていたリンド他聖竜連合の初期メンバーはその思わぬ再会に目を見開いて驚いていた。

 

「サチ…、ケイタ、皆。

 …コペル」

 

 1年半ほど前に孤独感に耐えかねて嘘をつき続けながら所属して俺のせいで全滅してしまった月夜の黒猫団のメンバー全員。

 それに1層のアニールブレード取得クエストにて、利益を独占したいが為に俺をわざとモンスターに囲ませて殺そうとしながらも自分も餌食となってしまった元βテスターであるコペル。

 

 確かに死んだはずのプレイヤー達が今ここで姿を現したこの事実に混乱と戦慄が生まれる。

 

 なんでだ…?

 

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