SAOー紅玉を貫く大樹ー   作:明石

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「なんで死んだプレイヤーを連れてるんだ!?」

 

 そのあまりにも突拍子過ぎる衝撃に呑まれて沈黙に包まれたこの空間に俺の怒りや混乱を含んだ声が響き渡る。

 この場にいる攻略組の中にはそのティターニアが連れてきたプレイヤーと直接顔を合わせたこともない人もいるはずだが、街中で見掛けるNPCよりも人間らしくない彼らの生気が感じられない虚ろな目や一切の表情が見えない顔からこの世に在らざる者を連想して血の気が引いているようだった。

 

「おや?

 以前に死んだプレイヤー達とは知りませんでしたよ。

 

 町をうろついているソロプレイヤー達に声を掛けてきたつもりですがね…」

 

 この期に及んでもまだ白々しく口上を述べるアルベリヒに腹が立ってきた俺は今すぐにでも首根っこを掴んで真相を吐き出させたくなる。

 過去にどんな因縁があろうとも自分の見知った人間がまるでゾンビを思わせるかのような様相で姿を現したのだから。

 

「……。

 あなた達ティターニアの同盟ギルドとは彼らではない、ということでしょうか?」

 

「ご明察の通りですよ、アスナさん。

 彼らは彼らでギルド運営に忙殺されている立場ですのでこの場に馳せ参じることはないでしょうね」

 

 まだはっきりと現実を認識出来ずに青ざめた顔のままアスナは問い掛けると、ティターニアのメンバーは一様に頷いてみせるが未だ何かを隠しているのには変わりない。

 

 こいつらの同盟ギルド及び協力関係を結んでいるというソロプレイヤーについては1ヶ月前からアルゴを始めとして攻略組が贔屓にしている情報屋に調査を依頼してはいる。

 しかし、これまでティターニアの拠点や攻略組とは10以上離れた圧倒的な高レベルを維持できる狩り場なども含めて全くといっていいほど情報が掴めずにいたのだ。

 

 消去法であのギルドが思い付くけれどもそれは最悪のパターンであるために誰も口にすることはできないのかもしれないし、情報屋も憶測を軽々しく流す訳にもいかないのだろう。

 もしもその予想が当たってしまった時は俺が今度こそ潰さなければならない。

 

「それで、彼らと今回のボス戦に参加したいと?」

 

「ええ、仰る通りです」

 

 こんな得体の知れないプレイヤー達と共に戦うのは御免だと口にするまでもない攻略組の雰囲気を流石に察したのか、ティターニアは皆が肩を竦めながらもボス部屋の扉からは離れようとはしなかった。

 

 いち早くボス部屋を見付けたギルドのリーダーと血盟騎士団副団長のアスナとで全ての指揮を取るという暗黙のルールを今ここでも適用すべきなのだろうか。

 話し合いの通じる相手でないことは火を見るより明らかで、残された手は剣の語り合いしかない。

 

 つまりは決闘だ。

 でもボス戦を前にしてそんな事をして装備の耐久値を減らしたくはないし、間違いなくレベルだけならばトップに立つティターニアに挑戦をするのは万が一も考えて躊躇われる。

 

「……了解しました。

 ティターニアはボス本体へのアタッカー、他のギルドとの連携を強く意識してください」

 

 先頭に立つアスナは背後に並ぶこちらを申し訳なさそうに一瞥した後、彼女も色々と思うことがあるはずなのに毅然とした態度を保ちながらそう宣言する。

 

 こうして、9層ボス戦は始まった。

 

 

 

 

 

「ギャオオオオオ!!」

 

 巨大な狼型ボスの殺意と憤怒のこもった咆哮が部屋一面を震わせる。

 数十m離れているためにその咆哮の『15%の確率で一時行動不能に陥る』という特殊効果の影響はこちらまでは届かない。

 

「あっちは大丈夫みたいよ!」

 

 フロアボスの護衛となってしまったキズメルとの鍔競り合いをしたままの俺に向かって、背後に立つアスナは本体を叩いている女の子達やエギル達壁役プレイヤーの状況をちらりと覗いて伝える。

 

「よし!」

 

 一瞬だけ力を抜いてから自らの剣に一気に力を加えてキズメルを剣ごと押し返す。

 下層の単純なアルゴリズムで動いているモンスターには効果のあるその不意を突いたテクニックが、エリート騎士であったはずの彼女にも通じたこの事実に改めて奥歯を噛み締めながら次の行動を伺う。

 

 こちらからキズメルへ攻撃をすることは絶対にしたくはないので出来る限り後の先を取って迎え撃ちHPを減らさない戦法を展開しながら立ち回って十数分は経ったはずだ。

 剣を交えれば目を覚ますなんて甘い考えはもう諦めた方がいいかもしれない局面に達してきたのだが、俺もアスナもまだどこか諦め切れずに奇跡を待ち続けていた。

 

「来るよ!」

 

 アスナの言葉で頭の中を渦巻く迷いや不安感から我に返ると、キズメルはソードスキルの初動モーションを取って剣は水色の輝きを放っていた。

 そのすぐ後に一切の迷いもない太刀筋を帯びた連撃が俺に襲い掛かろうとするも、すかさず発動した同じソードスキルで相殺を試みる。

 

 水平4連撃ソードスキル<ホリゾンタル・スクエア>の描いた水色の正方形じみた軌跡が互いの背後に剣と剣の本気のぶつかり合いで生じた火花と共に散っていく。

 

「アスナ、スイッチ!」

 

「分かったよ、キリトくん!」

 

 ソードスキルの発動後硬直時間を課せられ隙だらけとなっていた俺の後ろから細剣を携えたアスナが躍り出てから、数秒の硬直時間が解けた直後に俺は飛び退く。

 キズメルとの戦闘に集中していて掴めなかった現在の戦況を確認しようと、目の前で戦う彼女達を視界の隅に置きながらボス本体の方を見据える。

 

 以前の攻略での経験を生かす攻略組の面々に女の子達も引けを取っていない事にほっと胸を撫で下ろすが、その脇で戦うティターニア達の無茶苦茶な戦法に驚愕して思わず凝視してしまう。

 

 なんで盾になってるんだ…?

 

 ティターニアのメンバーがボスの攻撃に曝されそうになると、決まって死んだはずのプレイヤー達が盾となり壁となり代わりに攻撃を受けていたのだ。

 あの中で壁役が出来るプレイヤーなんて重装備のゴドフリーかクラディールくらいだろうにサチやケイタ、コペルといった軽装備のプレイヤーまでもが囮にされている。

 

 ふざけんな…っ!

 

「クライン!

 アスナを頼む、サポートしてくれ!」

 

「え、お前はどうす…ってキリトぉ!」

 

 遂に堪忍袋の緒が切れた俺は返り討ちも覚悟の上でティターニアのメンバー全員を斬ろうと考え、すぐ横で護衛の森エルフと対峙していた風林火山のリーダーであるクラインに一方的にアスナの補助を頼んで彼の反論も待たずにアルベリヒに向かって突撃する。

 

「うおおおおっ!!」

 

 それがかつて愛する人を傷付け、自分を殺そうとした者でも嘘をついていても寄り添ってくれた者でもそんな扱いを認める気にはなれないし耐えられなかった。

 

 だからありったけの力をもって奴の首筋を狙って斬りかかった。

 システムが初動モーションを検知して右手の青白い剣はライトグリーンの閃光を放ちなから単発突進ソードスキル<ソニックリープ>を発動させる。

 

 《Immortal Object》

 

 振り抜いた剣は奴の身体には届かずに見えない透明の壁によって阻止されて鈍い衝撃が剣から右手、やがて全身に伝わる。

 

 《不死属性》とも表現できるそのシステムによって保護されるその状態を持つプレイヤーはこれで2人目だ。

 1人目はこのゲームの開発者である茅場明彦という正体を隠しGM権限を公使していた、攻略組最強プレイヤーであるヒースクリフ。

 あいつは神聖剣という攻防一体のユニークスキルとずば抜けた戦闘力のお陰で不死属性を持つことを暴かれずに済んだが、こいつは他のプレイヤーを盾にしてそれを隠していたのだろうか。

 

 まさかこいつも…!?

 運営側の人間か茅場の共犯か、どちらにせよ上位アカウントプレイヤーであることには間違いない。

 

「気付かれちゃったねぇ。

 

 …まぁいいや。

 君はここで死ぬんだからさ」

 

 ボス本体の猛攻による衝撃音や雄叫びでこちらの出来事に気付いているプレイヤーはいない。

 もしくは後ろにいるアスナやクラインらならば一連のやり取りが見えているかもしれないが、皆にこいつの不死属性などを伝える間もなく俺の胸の中心を奴の剣が貫く。

 

「かはっ…」

 

「ふふ、アーヒャッヒャッヒャッ!!

 

 この剣はプレイヤーに刺すと一気にHPを0にする代物なんだよ!

 君のお仲間、いやほとんどのプレイヤーがこれによって後を追ってくれるんだから安心してよ、キリトくん!」

 

 奴の言う通り、貫通継続ダメージ特化武器以上の信じられないスピードで俺のHPは削られて瞬く間に半分を下回っていく。

 それを抜こうと手を刀身に伸ばすが、身体が痺れて抜くことができない。

 

 くそっ……!

 

 ごめん、アスナ。

 ごめん、ユイ。

 ごめん、皆。

 

 HPバーが危険域を示す赤になってから数秒も経たない内にHPが0となって俺の視界中央には《You are dead》と紫のフォントの文字が広がってそれを映したまま視界は徐々にブラックアウトしていく。

 

 その瞬間に皆が必死に俺を呼ぶ声が聞こえた気がした。

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