SAOー紅玉を貫く大樹ー   作:明石

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異変

 このデスゲームが始まった当初は皆、誰もが早く現実に戻らなければと躍起になって攻略に励んでいたはずだ。

 でも、およそ1年が経った辺りからほとんどの人がこの仮想世界での生活に慣れてしまって攻略ペースはどんどん落ちていき、攻略組の人数も死亡とはまた違った意味で減っていった。

それにもし現実に戻れたとしてもその先の社会復帰のための保証が自分達には知る由もないのだ。

 そんな理由から一生この世界に閉じ込められてもいいや、との考えが蔓延していたのは紛れもない事実だ。

 

 かつてまだ幼かった俺は血の繋がった家族だと思っていたのが実は違い、顔も声も名前すら知らなかった故人が自分の本当の親だったという事を知ってから自分や他人という存在が分からなくなった。

 現実を放棄して偽りの仮面を被ることのできるMMOにハマったのはそこからだ。

 

 現実から逃げて仮想世界に閉じ込められていたい。

 その考えは俺には到底責められない。

 

 だが、この瞬間から事態は変わってしまったのだ。

 カーディナルの宣告が事実ならば既にナーヴギアは俺達の頭に結び付けられた時限爆弾となっている

 

 それでもいきなり過ぎるその宣言をも信じず、馬鹿らしいと嘲笑いながら数分前に中央広場を後にした一般プレイヤー達もいる。

 

『カーディナル』

 

その単語をこのゲームのAIであるユイから聞いたことのある俺とアスナだけが今の宣告を鵜呑みにしているようにも感じた。

 

「おい、転移門が機能しないぞ!!」

 

 すると、背後でそれこそ馬鹿らしいと笑いたくなる言葉を叫ぶ者がいた。

 振り返ってよくよくそのプレイヤーを見れば、先程早々とここから去っていった集団だ。

 

「んな馬鹿なことあるかよ。

 試しに転移結晶使って75層行ってみっか」

 

 その叫びを一笑に付したクラインはメニューを開こうと右手を縦に振る。

 75層ボスは文字通り死闘を繰り広げて倒したのだが、状況がころころと変わってしまったので76層の転移門はまだ有効化させていない。

 だとしたら迷宮区をまた上っていかないといけないのが面倒だな、と思う。

 

「んだこりゃ!?

 所持金0になってやがるしアイテムも減ってんじゃねえか!」

 

 そういえば75層ボスのラストアタックボーナス取ったの俺だっけ。

 クォーターポイントのLAボーナスだからさぞかし素晴らしいものだろうな。

 そんな場にそぐわない妄想を遮るクラインに呆れてついついため息を漏らす。

 

「何言ってんだよ、ボス戦で消費したアイテムもあるしちゃんと見てみろよ」

 

 見るからにズボラそうなクラインのことだ。

 どうせ普段からアイテムの整理をあまりきちんとしてなかったところにボスドロップが混じって余計にストレージがごちゃごちゃになったのだろう、と推測して落ち着くように促す。

 

「アイテムだけじゃなくてステータスもおかしくなってるぞ!」

 

「俺のも!」

 

「これって初期値じゃない?」

 

 それこそにわかには信じられないような現象が周りのプレイヤーに起きているらしく、再びこの中央広場は困惑気味の声が次々と重なっていき騒がしくなっていった。

 

「俺がコツコツ稼いだ金が…」

 

「せっかく料理スキルコンプリートしたのに…」

 

「ああっ、二刀流スキルが消えた!?」

 

 次々と明らかになるバグらしき現象がまさか自分にも起きていたらと不安感が頭をよぎったエギル、アスナ、俺がメニューを開いて色々な項目を確認したらこの有り様だった。

 

 所持金は0、アイテムは完全に無くなったものや無くなりはしなかったが所持数が減ったもの、スキルはスロットや熟練度、現在取得可能のものまで基本スキル以外は全消去、レベルは1。

 周りのプレイヤーから上がる現象は間違いなく俺にも起きている。

 

 装備はどうなっているかと言うと、現在装備していないものも含めて武器も防具も全てがこの第1層はじまりの街で店売りされているものと同スペックにまで性能が落ちている。

 装備まで消えてたら皆全裸になっていて、更にカオスな状況に陥っていたかもしれないから不幸中の幸いだろう。

 

「……マズイぞ」

 

 カーディナルの宣告通りたとえ振り出しに戻ったとしても装備やスキルが整っているのだから他のゲームでいう2週目、強くてニューゲームになると思ってどこか楽観視していたさっきまでの自分が恥ずかしい。

 

「アスナ、あれはあったか!?」

 

「うん、ユイちゃんのペンダントは消えてないよ。

 でも結婚状態も解除されてるね…」

 

 カーディナルシステムから切り離して今はアイテムに変換されているユイが気になってみたものの、それは無事だったようだ。

 

「あのカーディナルってのが本気ならこりゃ最悪だろ…」

 

 もうお手上げだと言わんばかりに地面に座り込んだクラインの独白が胸に深く突き刺さる。

 

 事態は深刻だ。

 ほとんどが0になった状態で振り出しに戻ってしまい、更に明確な時間制限まで付けられた。

 

 こんな状況で以前よりも早いペースで100層を目指さなければならないのだ。

 

「いや、他のプレイヤーからも情報が欲しいから手分けして聞き込もう。

まだ全員がこうなったと決め付けるのは早いと思う。

 

この先のことも確かに大事なんだけど何はともあれ現状を把握しないと先には進めないからさ」

 

 そう考えた俺はアスナには血盟騎士団、クラインは風林火山、エギルは商売で知り合ったプレイヤー達に聞き込みをするよう頼んだ。

 まだ混乱の渦中にある3人だったが、意図は伝わったようで取り敢えずは了承してすぐに俺の傍を離れる。

 

 さて、俺はソロだから聞き込める人も少ないんだよな。

 でも何もしない訳にはいかないし、ここに転移されているはずの数少ないフレンドを当たってみようか。

 

 




どうも。

ただ振り出しに戻されタイムリミット追加だけでは無く、ステータスなどもリセットされてしまいました。

一応変更点を既出も含めてまとめて列挙すると
・所持金は0
・ステータスはLV1
・ストレージの中にあるものは高価なレア物を優先してランダムに消去
・装備は現在身に付けているものもストレージ内の物もプロパティをはじまりの街の店売り品と同程度に下方修正
・スキルは次のお話しで登場する例外もあるが、それがユニークスキルであっても全消去&熟練度リセット
・結婚状態は解除され、共有化されたストレージは分割されアイテムはランダムで自動分配されている
・ギルドは解除されていないが上納金やホームの倉庫のものは全消去
・犯罪者フラグのリセット
・転移門の行き先をリセット
・クエストフラグのリセット

と、こんなところですね。
1層の敵と公平になるようにシステムが数値で判断して調整してしまったのですが、数値では測りきれないものもあるので実際はプレイヤー側が上回ることもあります。

そしてキリトはユニークスキル二刀流を失ってしまってめちゃくちゃ落ち込んでいます。
彼はもう一度そのスキルを手にすることができるのでしょうか?

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