「あんたの言いなりになるつもりは無いぞ。
話を聞いたら早くアインクラッドに帰してくれよ」
奴は未だに気に食わない。
勿論、このデスゲーム主催者である茅場明彦だということもあるけれど何よりもこいつの「さりげなく生き残る為の情報を周りの者に与える」スタンスが自分の黒猫団での失敗をまざまざと見せ付けられているようで胸糞が悪くなってくるのだ。
早く帰ってアスナやユイ、皆に会いたいんだよ…。
「ならば話だけでも聞いてもらおうか。
その後に君がどうしようと構わないよ」
もう既に心の奥底まで見透しているかのような鋭く虚無感もある瞳に見定められてその迫力に息が詰まる俺を他所にヒースクリフは再び上空に並んだウインドウを見上げつつ説明を始めた。
「このホロウエリア管理区を彩る星空、これが何を示すか分かるかね?」
「……さあな。
ただの星空じゃないってことは分かる」
濃紺の空に飾られた数え切れない程の星々は今も尚、きらきらと白く眩い輝きを見せながら瞬いていた。
仮想世界ではあってもそれはや本物にも勝るとも思える儚く幻想的な空間だった。
「これは現在も生きているSAO全プレイヤー、6114人の感情の移り変わりのログをシステムが処理する途中で解析して分かりやすく示したものだ。
白ければ問題は無いのだが、真っ黒に染まったプレイヤーの感情は負に支配されていると言っても良い。
その黒く濁った負の感情をもつプレイヤーの中でも際立って目立つ者が2人いる。
それが君であるのだ」
「俺が……?」
その唐突な説明に頭の中の回路の処理が追い付かず混乱しながらも、上空に浮かぶ星空を見据えながらそっと呟く。
でもその『黒く濁った感情』に心当たりが無い訳ではなかった。
去年の6月22日以来、当時心の拠り所であった黒猫団ごと俺をMPKしようとわざわざアルゴの偽者を騙った奴を炙り出す為に、何十人もの犯罪者プレイヤーを牢獄エリアに追い立ててきたのだから。
関係の無い黒猫団の皆や正確な情報を売買するアルゴを巻き込んで苦しませたことは絶対に許せない。
この世界の中で必ず真犯人を見付けて……殺してやりたいとも思っている。
「先程も言ったが、カーディナルシステムはプレイヤーの負の感情の処理にかなりの過負荷を掛けていてこのままでは許容量をあっという間に越してしまう。
そうなった場合にどのような影響が出るかは私にも正答は導き出せないが、恐らくこの世界を崩壊させかねないのでそれは私自ら干渉してでも阻止せねばならない」
今まで自分のギルドや攻略組を自らはほとんど動かずに導いてきた奴が積極的に介入せざるを得ない程の切迫した状況だということは理解できた。
これまで1万人ものプレイヤーを自分の野望に巻き込んできただけに「ざまあみろ」と思う半面、ユイのように純粋無垢なMHCPといったAIに自分達のせいで負担を掛けていることに胸がずしりと痛む。
「そこで私は現状を打破する為にこれ以上の深い怒りや憎しみ、悲しみといった過負荷になりかねない感情をプレイヤー達から極力取り除くよう、システムを越える奇跡を見せてくれるであろう君に頼ろうと思ったのだ。
だが、私はこのエリアからアインクラッドへは転移出来ないようシステムにロックされていてそれをどうにかできるアクセス権限も無い。
だからカーディナルにGM権限を奪われる前に君のプレイヤー情報に『HPを全損させた場合、ナーヴギアの死亡シークエンスを作動させず直ちに座標をホロウエリアに転送した後にHPを全回復させ、加害者プレイヤーを90層の空中庭園にその層が解放されるまで隔離する』という一度限りの細工をしておいたのだよ」
アルベリヒにチート紛いのステータスをもつ剣で刺されHPを全損させたのにも関わらず俺が今も生きている理由を奴は淡々と明らかにして、そして俺に何かを期待するかのような俯瞰とした目線を一瞬だけ向けたような気がした。
でもヒースクリフの言葉通りならティターニアのメンバーは俺がホロウエリアに移されたのと同時に90層に転送されている。
その層を有効化するまでの間は奴らの脅威に曝される事は無いのならば一先ずこの場では皆に危害を加える可能性は消えたので安心できる。
システムを越える力なんてそんなにわかには信じられないようなものがあるのか?
それを自分が持っているとは全くと言っていいほどに思えず、首を傾げる以外に取るべき反応がなかった。
「もう1人の『黒く濁った感情』を抱くプレイヤーは確実にとあるユニークスキルを取得できるだろう。
しかし、どのユニークスキルをも破る力のあるトランプのジョーカーに相当する二刀流スキルを君がもう一度取得出来る可能性は他の候補プレイヤーがいることを鑑みると五分五分といったところだ。
そこで万が一を考えて、ユニークスキル無しで対抗するには新たなスキルや武器、アイテムが必要になると思って私はこのエリアのNPC達を使って実装エレメント調査を行い新要素をアインクラッドに実装しようとした。
だが、アルベリヒ君にそのNPC操作権が移行してしまっていてね」
「じゃあ……。
あれはNPCだったのか……?」
「恐らく君の見たものは、ナーヴギアが初ログイン時から長時間を掛けて脳波などを解析したプレイヤー情報を元に形作られたホロウAIというものだろう。
彼らは本来ならばホロウエリアで随時テストプレイをしてゲームバランスの調整を担うはずだが、操作権があれば意志を持たない忠実な駒にも出来る」
アルベリヒが引き連れ不死属性を隠す為に盾にしていた俺の見知ったプレイヤー達はNPCだったからといって、彼らを自らの都合のいいように扱うのは断じて許せない行為だ。
攻略の邪魔にしかならないことは最早火を見るより明らかなティターニアの奴らとはいつか必ず決着を付けなければならない。
「そんな予想外の事態もあったのだが、カーディナルシステムに傍観のみを命じられたMHCPの一部を解放することは君達のよく知るコードネーム《Yui》の細工時に行っていたのでそれに協力を仰いで実装テストを開始した。
先程の紫色の装備で両手剣使いのプレイヤーがそれだ。
それでもかなりの時間は掛かる、多くの犠牲とそれに付随する恐怖によってシステムに負荷が強いられるであろうクォーター・ポイントには間に合わないと思っていたところにこれまた予想外の客が現れたのだ」
「さっきの2人……?」
「そう。
名をユージオ君とアリス君といい、彼らは私の預かり知らない場所から何らかの科学では解き明かせない手段でやって来た本物の完璧なAIのようだ。
その彼らは何故か剣士としての君を知っていて、しかも君が苦境に立たされていると感じていたらしい。
だから2人には私の元にいればいずれは必ずキリト君には会える、そして彼の力になるからと実装テストに協力してもらっている」
「ふん、相変わらずあんたもスカウトが上手だな」
今までの仕返しにと皮肉を込めた俺の苦言を不敵な笑みで受け流した奴はこのエリア中心に据えられたシステムコンソールのキーボードをあれこれと叩きながら何かと戦っているようにも伺える。
剣士としての俺を知っている?
ヒースクリフが知らないと言っているならSAO世界ではない場所から来たAIということだとは予測出来るが、その他の仮想世界など俺だって知らない。
どういうことかは分からない。
それでもどうしてかあの2人とは仲良くなれそう、一緒にいたいと願う感情が心の底から溢れ出てくるのが我ながら不思議で仕方ない。
「さて、折角の世界を越えた再会なのだからしばらく彼らと行動を共にしてみないかね?
人手は多いに越したことはないのだからな」
「単刀直入に言えよ。
『自分の計画に乗れ』って」
正直言うと、さっさと帰るか奴の協力をするか迷っている。
奴の説明にあった『黒く濁った感情を持つプレイヤーのひとり』が俺ならばこれまでユイ達を深く傷付けてしまったのは事実なのだからその責任は必ず取らなくてはならない。
新アイテムや装備にゲーマー心が刺激されるのは勿論のことなのだけれど、何よりもあの2人と一緒にいたくなってきたしのだ。
さて、どうするか?
ティターニアの脅威はヒースクリフの細工で現状無いに等しいし皆なら大丈夫と思いたいけど…。
どうも。
本作品でのホロウエリア管理区の星空についての設定はオリジナルです。
デスゲーム開始直後はプレイヤー数と同じくおよそ1万あった星々も今や6千弱となっています。
それがこの先どれくらい減っていくのか?を作中キャラにも読者様にも分かりやすくしようと思って考えました。
それと、キリトと同じで『黒く濁った感情』の持ち主ですが勘の良い方やweb版原作を閲覧した方はなんとなく分かりますよね。
ユニークスキルの方は原作者の川原さんが一応設定上だけはあると言って並べられたものはこの本作品でも登場させていきたいと思っています。
二刀流スキルがトランプのジョーカー、つまりは何にでも勝てる切り札的な存在だというのは独自の設定ですが、実際考えてみても二刀流だけぶっちぎりで強力なスキルでしょうね。
神聖剣はイメージ的に◇のキングかな?
またスーパーアカウント以上の権限ならばホロウAIの自由自在な操作権があるというのはオリジナルです。