「頼んだぞ、キリト君」
「あんたに言われずともその実装テストとやらはさっさとクリアしてやるさ」
左手を縦に振って管理者専用のこのゲームにおける多種多様な設定を唯一変更できるメニュー画面を呼び出してから目の前に立つプレイヤーの座標を任意の座標へと転移させる操作を行った。
すると、目の前であからさまに私に敵意を向けながらも揺らぐことの無い自信を醸し出す若者は青い光に包まれていくと同時にこのエリアから転移した。
彼は決意した。
これまで共に歩んできた仲間を陰からサポートする為に茨の道を突き進むことを。
アインクラッドへ新たな要素を導入する実装エレメント調査はまだ始まったばかりで、この先も難易度の高い試練が待っている。
しかしながら彼の凄まじいまでの力があれば25層ボス戦までには恐らく間に合うはずだ。
攻略組の方も新たな動きを見せようとしている。
今の最前線で戦えるレベルのプレイヤーは100人にも満たないだろうが、門戸を徐々に開きながら後進育成を図る計画を立てているならば自ずと攻略スピードも上がっていく。
一番時間の掛かるであろう広大な迷宮区攻略もハイレベルプレイヤー100人以上にも及ぶ人海戦術を用いてマッピングを行なえば短時間に終わらせられるだろう。
それにあと数ヶ月もすれば年度末ということもあり今の自らの現実世界での社会的地位を一時的に捨ててザ・シード製のVRMMOからステータスをコンバートしたプレイヤーが続々とやって来るかもしれない。
外の世界からやって来た彼らと上手く連携していけば攻略組の戦力は大幅に上がり、それはティターニアや笑う棺桶といった悪意を秘めた脅威にも対抗するには充分過ぎるほどだ。
それから彼を見送った私は再びこのエリア中心に設置されたシステムコンソールに向き直り、中断していたSAOサーバーのセキュリティ監視と強化を再開した。
プレイヤーの負の感情の過負荷によってカーディナルシステムが不安定なこの状況を外の総務省管轄のSAO対策チームが逃すようなことはない。
アルベリヒ改め、須郷君がやったように疲弊しているところで開いたシステムのセキュリティホールを突いてサーバーの内側にこのゲームを脅かす何らかのプログラムを流し込む可能性は否定できないのだ。
今やこの日本が東京五輪や震災復興などで貯め込んだ長年の負債を返済していくには、諸外国を大きくリードする革新的な技術を独占して売り込むことが必要だ。
その為に様々な分野で最先端の研究が行われているが、どれも莫大な予算と時間が掛かると予測されていて手詰まりにも似た状態になっている。
その中で人質を解放してからこのSAOサーバーを手中にして解析すれば、VRやAI技術の技術革新によって生まれる利益をおよそ10年はこの国が独占できるだろう。
セキュリティ監視の為に開いたウィルス検知システムのディスプレイ窓を見守る傍ら、キーボードを操作して別の窓を眼前に映し出しそれを大きく拡大した。
これはこのホロウエリア管理区の地下に存在する開発秘匿エリアの全景図を簡易的に表示したもので、私はこれから彼らの為のお膳立てをしてあげようと画策している。
カーディナルシステムは人間による手動の修正やメンテナンスを必要とせずに長時間稼働を滞ることなく行う為に、2つのコアプログラムによって構成されている。
具体的には、メインプロセスがバランス制御を行っている間にサブプロセスがエラーチェックをするという万全の態勢でこれまでこの世界の秩序を維持してきた。
しかし、ゲームがクリアされてSAOプレイヤーが現実世界に開放される瞬間に自らが作った仮想世界に拉致しようとするプログラムを細工しようとした須郷君がシステムに侵入した。
その際のトラブルで本来ならば2つで1つのコアプログラムが分離され、それぞれが連携せずに役目を果たすようになってしまったのもシステムが疲弊してプレイヤーの負の感情を上手く処理出来なくなった一因だろう。
そのトラブルと1ヶ月前の私を管理者から引きずり落としプレイヤーに宣戦布告した暴走を鑑みると、アインクラッド100層にメインプロセスが、秘匿エリア100層にサブプロセスを形作るプログラムが存在していてそれがラスボスに相当している可能性が高い。
強大な力でもって妨害をしてくるそれを両方破壊しなければ、このゲームは終わらないはずだ。
キリト君、ユージオ君、アリス君の3人でも恐らくはサブプロセスならば勝てると既に確信している私はそのこれからの世界を変えるやも知れぬ若者達の導き手となろう。
「ふっ…」
ここまでは大方私の予測した通りに事態は動いている。
この先はキリト君を中心としたプレイヤー諸君の動き次第で絶望への道にも希望への道にも変わっていく。
さあ、次はどんな奇跡を見せてくれるかな?
どうも。
今回は茅場=作者のこれまでのまとめと解説回でした。
2つのカーディナルに関してはアリシゼーション編を参考としています。
その設定とアインクラッドとホロウエリアの設定をはめ込んでみました。
この物語が原作とは違う展開となったのは今までの解説をまとめると、須郷のSAO→ALOへのプレイヤー転送システムを無理矢理ぶち込もうとした結果カーディナルがマジギレしたことが原因となっています。
でも彼らティターニアがゲーム進行に支障を来すと判断した茅場の「キリトのHPを0にしたら」といったかなり限定的ではありますが確実にそうなると予測していた細工で90層に飛ばされちゃいましたので、しばらくは出て来れないでしょう。
さて、次回からは再びアスナのシンママ奮闘記編……ではなくラフコフ追跡編となります。
関西弁のあの人も登場するかもしれません。