SAOー紅玉を貫く大樹ー   作:明石

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嫁vs妹

 2025年1月24日 -残り652日-

 

 

 光を遮る雲も最近はずっと見当たらず眩しい陽光が地面に降り注ぐが、真冬の昼下がりということもあってまだまだ吐く息は白くなるばかりであった。

 層によっては今も尚止まない雪が積もっていてしっとりとした幻想的な風景が広がるけれども、足場が不安定だったりより一層寒く感じたりと攻略には邪魔になってしまうものでもあってこの現実の都会の冬を思わせる空には複雑な気分を隠し切れない。

 

 主街区にはプレイヤーが使える修練場のような思う存分暴れられる施設や広場が大体いくつか存在していて、私達2人は13層の主街区に建っている小型の広場で向かい合っていた。

 

 腰に差した自らの愛剣に手を伸ばすと、金属で出来た鞘や柄だけでなく握り手の革で作られた部分さえも冷たくひんやりとしていた。

 私の頭上ではプレイヤー同士の戦いとなるデュエルの待機表示であるカウントダウン画面が映し出され、それは残り15秒を示している。

 

 鞘からゆっくりと音を立てて抜いた剣は今朝リズに磨いてもらったばかりのために、一切の曇りない雪のような白塗りの刀身は艶めいている。

 それを構えながら私は前方数m先に同じく黒の愛剣を構える対戦相手を見据えて溜め込んでいた息をふう、と吐く。

 

 残り5秒。

 その表示画面をちらっと覗いた後に、カウントダウン終了と全く同時に動き出せるよう少しだけ腰を低くして蹴り足である右足に意識を移しながら半歩後ろに退る。

 

 残り0秒。

 

 デュエル開始の合図と共に私と対戦相手の双方が自身の高い敏捷値を最大限に活かしたスタートダッシュをしながら、互いにソードスキルを発動させるべく初動モーションを取る。

 するとシステムがソードスキルの初動モーションを検知して私達の身体をアシストしつつ、互いの剣が特有の光を纏いながら相手に襲い掛かる。

 

「はああぁっ!」

 

「せえええぃっ!」

 

 私の細剣の基本単発突進ソードスキル<リニアー>と、黒の剣士の妹として頭角を現し有名にもなってきたリーファちゃんの片手剣の基本単発突進ソードスキル<レイジスパイク>がちょうど剣の鋒同士で衝突し合い、ライトエフェクトを帯びた火花が辺りに飛び散りながらもその技の勢いは衰えることを知らない。

 

 

 現在の最前線は13層。

 攻略を阻むいくつかの障害はまだ解決の目処は立たないままではあるが、なんとか1週間以内に1層をクリアするというペースを保った攻略が進んでいる。

 しかし、未だ蔓延るラフィン・コフィンによるPK被害は絶えることなく第1層はじまりの街の黒鉄宮1階に鎮座する生命の碑を訪れる人がどんどんと増えているとの報告も届いている。

 

 攻略組としてというよりハイレベルプレイヤー、いや一個人としてどうにかしたい気持ちが日に日に増して溢れていっているのは事実ではある。

 けれども迷宮区攻略や攻略組増強計画を中断してラフコフ討伐に人員を割いてしまっては私達のあと2年も無い命のタイムリミットを削る事と同様であるために、これまで決断が先延ばしになってしまっていた。

 

 極端なことを言えば、目の前で悲しみ困っている人を助けるか先を見据えて何千人を救う為に前へ進むかという決断であったかもしれない。

 でもそんな腰の重い攻略組に新たな、というより懐かしくもある暴風が吹いて流れが変わったのだ。

 

 そこで私を中心に対人戦に特化していたりこれまでにPKギルドとも渡り合ってきたハイレベルプレイヤーを集めて、ラフコフを一網打尽にしようという計画が立ち上がった。

 犯罪者狩りをしていたキリト君に無理矢理付き添っていたらしいクラインら風林火山、PKギルドの調査討伐を担当している軍の精鋭とユリエールさん、そして別のゲームでの豊富な対人戦経験を買って誘ったリーファちゃんといったメンバーの他にも情報屋のアルゴさんなど攻略組以外にも多数の協力者がいる。

 

「やりますね、アスナさん」

 

「リーファちゃんこそね!」

 

 そう言葉を交わした瞬間にお互いの単発突進ソードスキルはライトエフェクトがふっと消えてシステムアシストが終了し、そこから筋力値頼りの鍔迫り合いへと様相を変える。

 しかし私のステータスは敏捷値優先であり、細剣のプロパティは丈夫さに振っていないので筋力値優先ビルドのリーファちゃん相手にここで粘ってしまうのは明らかに分が悪い。

 

 そう判断した私は自らの剣とぶつかり合っていた相手の重い剣を瞬間的に力を強めて弾いてから、その勢いを保ちつつ後退して態勢を整えようとする。

 だが、それを読まれてしまっていたせいなのか剣を弾いてもリーファちゃんの体勢は思ったほど崩されず、逆に私の隙を生む結果となってしまった。

 

「くっ…っ!」

 

 その一瞬とも言える隙を突こうと真っ直ぐ突っ込んできた彼女による縦横無尽な磨きの掛かった剣技の猛攻を、これまでの経験で養われた先読みのプレイヤースキルをフルに活用することでなんとか回避はできる。

 しかしながら、その圧倒的にも感じられる猛攻を掻い潜って肝心の攻勢に出る為の一打を放つことが難しい状況であった。

 

 キリト君とリーファちゃんの戦闘スタイルは剣道をかじったことのある兄妹ということもあるのかもしれないが、そっくりに見える。

 でもキリト君の方はフェイントと猛攻の波の激しさを巧みに利用しながら、相手の虚を突いたり精神的な余裕をじりじりと削っていく道化と修羅の顔をコロコロと変えるスタイルだから命の危険とはまた違った意味で心臓に悪い。

 

 また、このリーファちゃんの場合は兄のキリト君のようなずる賢いフェイントを使うことは余程に追い詰められている時以外に無いはずだ。

 つまり、彼女の性格にも似た真っ直ぐでありながらも恐ろしいほどの猛攻を終始緩めることなく相手よりも早くHPを削るスタイルでいて、キリト君とは被っている部分もあるが若干違っている。

 

 これから私達は本物の人殺し、それも一撃必殺の武器を持つ連中を自らの剣でもって無力化させなければならない。

 その為に対人戦スキルを磨こうとリーファちゃんを修行相手に選んだのだが、今の私ではまだまだ未熟なのがこの防戦一方な状況が物語っているようだ。

 

 この彼女の腕ならばラフコフにあの忌まわしいチート武器を使わせる隙を晒すこともないだろう。

 でも人殺しに一切の迷いの無い相手にはそれだけじゃ足りないのも事実で、以前のラフコフ討伐戦ではその覚悟の無い攻略組の隙を突く形で翻弄されて血みどろの混戦となった。

 

 無論、こちらに人殺しの覚悟を持つことなんて強要したくはない。

 キリト君の大切な妹ということは私にとっても大切な義妹なのだから絶対に死なせたくないし、人殺しもさせたくはない。

 

 ストレアさんに貰ったキリト君からのメッセージが入った録音結晶を聞いたところによると、彼の助けはあと数ヶ月は待たないと見込めないようなので尚更私達で解決させなければ…。

 

 これからどのようにして私達はあの殺人鬼達を捕まえていけばいいのか?

 まだまだ課題は山積みなまま、あと2年も無い命のタイムリミットはまた刻一刻と迫っていく。




どうも。

いきなりアスナvsリーファです。

別にキリトを巡っての喧嘩ではありません。
あくまでも対人戦での立ち回りをもう一度見直す為にお互いを修行相手に選んだのです。

アスナによるキリトとリーファの戦闘スタイル分析は違和感を覚える方もいるかもしれませんが、今作ではこんな感じになります。
キリトからすると、以前の攻略方針を巡った決闘での経験から「アスナはフェイントに弱い」と知ってしまいました。
なのでそれ以後彼女と戦う時は小賢しいフェイントで翻弄して心拍数を上げて精神的な余裕を削るスタイルでいたので、アスナからはそう評されている訳です。
逆に言えばキリトであっても真っ向勝負では速さと鋭さに劣るから厳しいと思わされるほどの実力を彼女は持っています。

以前のラフコフ討伐戦に参加した攻略組は口に出さないながらも自分達は対人戦の経験が少ない為に後手に回され苦戦したことを理解しています。
だからこそ他種族ならPK有りというハードなALOをやってきたリーファにも今回は白羽の矢が立った訳ですが、普通のゲームでのPKとこのデスゲームでのPKはまるで別物であることをリーファ本人もアスナも分かっています。
そこを彼女らはどう区別していくのか?

そして、MORE DEBANさん達の出番はいずこへ…。
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