互いの強い意志のこもった鋭い剣閃がぶつかり合って散る火花と共に相手の裏を掻こうと間合いを調整する激しい動きの中で足元には土煙が舞う。
渾身の技の応酬による私とリーファちゃんの決闘は体感時間でおよそ10分近くが経っているというのにも関わらず、雌雄を決する時はまだ訪れていなかった。
「せいっ!」
「ふっ!」
彼女が今にも真っ直ぐ振り下ろそうとする黒剣の刀身の幅が広くなっている中心に視線を集中しながら、私は自らの右手に持った白剣を上段に向けて力の限りに突いた。
すると、目論見通りに私の細剣の鋒が彼女の片手剣のやや幅広い刀身を捉えてその斬撃を止めることには成功した。
かつて、キリトくんがやってみせた武器破壊というシステム外スキルは相手の武器の脆い部分を寸分違わず正確にソードスキルで斬り伏せなければ成功しないが、このテクニックはただ物理法則を利用したものに過ぎない。
細剣というこのゲームに存在する片手用武器としては短剣の次に軽い武器を扱う為に、他の重い片手用武器や両手用武器を相手取ることが多い私はこのようにてこの原理を利用したテクニックを数多の戦闘の中でいつの間にか自然と出来るようになっていた。
「んくっ…」
筋力値優先の彼女のステータスを十二分に活かしつつ重力補正をも味方につけている斬撃を、敏捷値優先ステータスの私にはまだ習得して間もない重突進ソードスキルを使っても防ぎ切れるかは分からない。
それに、この決闘で初めて剣を交わす中で彼女の凄まじく強い意志がその手に握られた得物に乗せられて振るわれていることに気付いた。
大好きな兄を助け出す為に、自らの青春を投げ出すまでのその意志の強さはどんなボスの攻撃よりも重い。
自分も兄を持つ妹だからこそ、その想いは心の奥底にまでしっかりと届いていってそれは更に反響しながら私をも後押ししてくれるようにも感じた。
でも私は彼女とは違って本当の家族がこの世界に囚われている訳ではないし、自分が逆の立場だった時に親の期待を背負って有名進学校に通っているという身分を捨てる覚悟は出来ないかもしれない。
そんな半端な覚悟しかない私がこの子に勝てる道理は無いのだろうし、経験を積めば更なる高みへ羽ばたいていくに違いない。
それこそ、かつて名を馳せた黒の剣士や聖騎士を越えるほどに。
「まだまだですよっ!」
「こっちだって……!」
斬り下しを防がれた彼女はすかさず半歩退いてから次の攻撃で一気に決めようと、ソードスキルの初動モーションを取ると同時に肩の高さまで持ち上げられた黒剣は水色の光を纏う。
だけど、私はこの世界で暖かい家族というものの意味を知った。
それを教えてくれた2人の愛する人達を私は妻として、母として必ず最後まで守り抜いていかなければならないのだ。
「せええりゃあああ!」
「やあああぁっ!」
彼女の放った水平4連撃ソードスキルである<ホリゾンタル・スクエア>に兄妹の共通点を感じてほくそ笑みながらもそれに抗しようと、私はお気に入りのソードスキルのひとつの<スター・スプラッシュ>を繰り出す。
まず計3回の中段高速突きが彼女の連撃技の始めとなる1撃目と、次に私の往復切り払いが2撃目とほぼ同タイミングで重なってヒットしていきお互いのHPが勢い良くごりごりと削られていくが、まだどちらの技もシステムアシストは止まっていない。
相手のソードスキルを相殺した隙に倒すなんてちまちました戦略プランが頭の中から吹き飛んでいたのは私だけではないようで、いかに早く自らの技でHPを削り切れるかの競争となっていた。
更に斜め斬り上げと3撃目の横水平斬りがお互いの身体に刻まれると決闘の終了条件であるHP5割はもう目前といったところで、次の攻撃が先にヒットした方が勝者となるだろう。
私は負けられないの。
自分の居場所を作ってくれた家族を現実世界という空に羽ばたかせるために。
<スター・スプラッシュ>の〆となる2連上段突きと<ホリゾンタル・スクエア>の4撃目が決まると同時に硬直時間を課せられて前のめりになると私達は体の力が一気に抜けて、硬直終了直後にそのまま寄りかかるように地面にばたりと倒れ込む。
「はぁ…はぁ」
「はぁ……。
いやー、疲れましたね」
この世界では肉体的な疲労は無いのだが、激しい運動をすると息が上がったり肩で息をしたりといった動作がどうも癖として身体に刻み込まれているらしく、長時間の戦闘を終えると自然とこんな感じになってしまう。
女の子としては若干はしたなくもありつつも体を大の字にして倒れ込んだ私達は空を仰ぎ見ながら勝利者や勝負時間が表示されるウィナー窓を覗き込む。
「結果は…やっぱしドローかぁ。
まぁ、リーファちゃんの腕なら負けても悔いは無かったよ」
「私なんかまだまだお兄ちゃんにもアスナさんにも追い付けてないですよ。
でも……ちょっとは近付けてきたならこの世界に来た意味がようやく出てきたのかな?」
引き分けという結果に不思議と驚きは無かった。
むしろ、彼女の力を引き出す助けになれたような感覚が清々しくて文字通りの真剣勝負の後だというのにも関わらずお互いに笑いが込み上げてきてしばらくそのまま勝負の余韻や一時の安らぎを楽しんでいた。
「ユイちゃーん!
迎えに来たよ」
リーファちゃんとの決闘の後、急拵えのギルド拠点としているプレイヤーホームに顔を出して既に朝から夕方までの攻略から帰って来ていた部隊から今日の進行度報告を受けてから仕事が一段落した私ははじまりの街のとある教会を訪れていた。
「ママ!」
私の声に即座に反応して駆け寄って来た娘と手を繋ぐと、彼女と一緒に遊んでいた子供達までもがやって来て「今日はどんなモンスターを倒したの?」や「レベル上がった?」など微笑ましくもあるがちょっと対応に困る質問を矢継ぎ早にしてくる。
「みんな、アスナさんも困ってるからその辺にしようね。
今日もお疲れ様でした。
いつもこんな騒がしいお迎えでごめんなさい」
「あ、いえいえ!
こちらこそユイちゃんがいつもお世話になってますし、賑やかなのはいいことですよ」
毎日似たような感じの流れで子供達を窘めているのはサーシャさんという女性プレイヤーだ。
この人は一時期は攻略組を目指していたようだが、街にひとりでいる低年齢プレイヤーの子供達を見捨てることが出来ずに自らが引き取って居場所を作ってあげているのだと以前に話してくれたのは記憶に新しい。
実は今年に入ってからラフコフがまたPKを始めたと聞いてから私は同じことを危惧したのであろうユリエールさんと共にすぐにここを訪問して、サーシャさんにその危険性を説明した。
ここで暮らしている子供達の中の年長組が日々の稼ぎを得る為に低層フィールドに出て狩りをしているならば、いつ奴らに標的にされてもおかしくはないと。
そして攻略組から金銭面の援助をするのであまりフィールドには出ないでほしいという頼みを最初は彼女も遠慮していたのだが、PKギルドの台頭の深刻さを理解したようで了承してくれた。
そんな中で気苦労の絶えない女性3人ということもあってか話題は色々と切り替わっていき、ついついユイちゃんのお世話とギルド運営の両立が大変であることやキリトくんが不在であることを漏らしてしまった。
そこでサーシャさんは攻略組の援助を受ける代わりとしてユイちゃんを日中だけここで預かってくれるとの少し気が引けるような提案を口にした。
ユイちゃんはあまりにも自然過ぎて忘れがちになるけれど本物の人間ではなくAIであるので、普通の子供達と馴染めるのかと一抹の不安が頭を過ぎったのだ。
しかし、そんなことを考えること自体がいつか現実でも触れ合えると信じている娘のユイちゃんに失礼であると悟った私はその提案に乗ってお世話になることを決めた。
そんなこんなでほぼ毎日といった頻度でこのサーシャさんと子供達の家を保育所代わりにしてしまっているのだが、そのお返しにもう少し料理スキルが上がったらお礼をしようと考えてもいるがなんせ攻略とラフコフへの対応の板挟みで最近はほとんど休みが無い。
早く問題を片付けて攻略をさっさと進めなきゃ。
この元気いっぱいな子達だって他のプレイヤーと同じく放っておけばあと2年も無い命なのだから責任は重大過ぎる…。
どうも。
アスナとリーファのガチンコ勝負、どうだったでしょうか。
原作などではMORE DEBAN村の住人なせいでそこまで強いとは思えないかもしれませんがリーファはかなり強いです。
ALOではガチ廃人プレイヤー達にほぼプレイヤースキルのみで渡り合ってシルフの中でも随一の実力を持っているんですよね。
それに「何かを守ろうとする人間は強いものだ」という原作1巻のヒースクリフの言葉を借りれば、兄を必ず助け出すと誓ってこの世界に来た彼女が強い理由にも納得はいくでしょう。
そしてアスナとリーファという妹キャラではありながらも兄の為に自分の全てを捨てて命を賭けられるのかといった面ではやはり違いがあるようです。
アスナも自分の兄はとても大切だけれど、もしリーファと同じ立場になった時に彼女と同じ決断が選べられるかと問われれば母親や名家の令嬢としての呪縛があるために難しいところだと思います。
今のところ、この作品でのプレイヤースキルのみで判断した場合の強さの序列を記すとしたら下記のとおりですかね。
キリト(二刀流)=マザロザ編のYさん>>>ヒースクリフ(チート無し)>>キリト(片手剣)=ユージオ=アリス>アスナ=リーファ≧キリト(振り出し後)
異論はあるかもしれませんがまだまだ皆成長していきますからこれで決定ではありません。