その苦戦中の5人パーティは見るからにバランスが悪かった。
前衛となる壁役は盾とメイスを持った男、あとは短剣装備のシーフ型とクォータースタッフ持ちの棍使いに両手用長槍装備の男女が2人だ。
この編成だと前衛がスイッチして後退すると壁役がいなくなるために長期戦となり、万が一他のモンスターを引っ掛けてしまえば棺桶に片足どころか全身を突っ込むことになりかねない。
見捨てることだってできたのに、気付けば俺は様子を見ようと隠れていた物陰から出て、彼らのリーダーらしき棍使いに声を掛けた。
「ちょっと前、支えてみましょうか?」
「すいません、お願いします。
やばそうだったらすぐ逃げていいですから」
突然物陰から音を立てて顔を出したのがモンスターではなくて黒ずくめのプレイヤーだったのだから驚いたのだろうが、一瞬の迷いの後に彼はすぐに頷いた。
そして頷き返した俺は背中に帯びていた愛剣を抜き放って、無理矢理彼らとモンスターの間に割り込む。
そのモンスターは先程からドロップアイテムを狙ってソロで狩っていた武装したゴブリンの集団だった。
最前線で死闘を繰り広げて自己強化をしてきた分、このレベルのモンスターならばソードスキルであっという間に蹴散らすこともできる。
しかし、俺の脳裏ではここ最近になって噂を耳にしたプレイヤーから浴びせられた『ビーター』の罵声がこだまするように反響していた。
折角助けてあげた彼らにさえも罵られるのは避けたくて、俺は意識的に手加減をしながらそのゴブリンを相手にして、俺が入ったことで態勢を立て直したメイス使いと数回のスイッチを繰り返してそのモンスター群を倒した。
すると彼らはまるで攻略組がフロアボスを討伐した時のような、ただのゴブリンの群れを倒しただけにしては少々大げさ過ぎると思うほどの喜びの歓声を上げる。
加勢した助っ人である俺は戸惑いつつも彼らと喜びと感謝の意を示すハイタッチを次々と交わすと共に、つい最近まで行動を共にしていたパートナーの事を思い出して胸がちくりと痛む。
アスナともこんなテンションは高くなかったけどハイタッチしてたっけな…。
「ありがとう…、ほんとにありがとう。
凄い、怖かったから……、助けに来てくれた時ほんとに嬉しかった。
ほんとにありがとう」
ハイタッチの最後に両手で俺の手を取った紅一点の女の子である槍使いが目に涙を滲ませて心からの感謝の言葉を繰り返す。
そんな彼女の涙ぐむ様子を目の当たりにした俺は、自分でも経験したことの無い未だによく分からない感情が沸き上がっていた。
それでも彼女らを見捨てず助けた自分の行動は間違ってなかったと直感したし、助けられるだけの実力を得ているとが誇りに思えた。
俺は彼らの放つそのアットホームな雰囲気が、寒さに震える中で用意した焚き火に手を当て暖を取っているかのような安らかな心地良さに感じられた。
最前線での戦いやパートナーとのコンビ解消で磨り減った心を癒してくれそうなその心地良さをもうしばらく堪能したいと思った俺は「ポーションが足りそうにないから一緒に戻りませんか?」と嘘を付いたのだが、それに気付くことも無かった彼らの帰途に同行する。
その後、なし崩し的にお礼と称して街の酒場まで連れ込まれた俺は彼らと自己紹介をしながら自分にとってはもう遥か昔にも思える歳も変わらなさそうな人達との談笑を楽しんでいた。
その中でケイタと名乗るリーダーの棍使いは、恐る恐るといった口振りで俺のレベルを尋ねてくる。
その質問をされるという事は先程の帰り道から予見して答えを考えていた。
だから俺はアスナとの自分が理想像としていた抜群のコンビネーションで鍛え上げた本来のレベルである40を大幅に下回り、安全マージンを保ってあの層の迷宮区を回っていた彼らの推測での平均レベルよりは少し上である21と偽ったのだ
それはソロで迷宮区をうろちょろ出来るのも効率を無視してモンスターが1体しかいないことを確認してから、それを倒して隠れながら少しずつ進んでいるとの汚い嘘を更に塗り固めるものだった。
そこから話題は俺へのギルド勧誘へと切り替わる。
先の戦闘の通り、彼らには現在壁役が1人だけでその現状を打開するためにサチという槍使いの女の子を盾持ち片手剣の前衛に変更させて壁役の負担を減らそうとしているのだが、怖がりな彼女は前に出てモンスターと戦うにはあまり筋が良くないようだ。
だから盾は無いが同じく片手剣を得物とする俺をその教授役としたいのと、あれだけ強いプレイヤーを逃すのは惜しいという気持ちもあったのだろう。
彼らと出来ることならもっと一緒にいたい。
そう思い始めていた俺はそんな願ってもない勧誘に嘘を付いた罪悪感とそれよりも大きかった興奮と嬉しさなどで胸がとくんとくんと鳴るのを感じながらも素直に応じることにした。
今にして思えば、俺はただコンビ解消からずっと孤独感に苛まれて人恋しさが生まれていたのと、弱者から尊敬の眼差しを受けながらそれを守ることのできる強者の自分に酔いしれていただけなのだ。
それが許されないことだという意識は彼らの死からただの一時も忘れず今も心の内にしっかりと刻んでいる。