SAOー紅玉を貫く大樹ー   作:明石

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[過去編]date with Sachi part.1

 ノックされた扉を開けると、部屋の前にはいつもの戦闘用装備とは違った女の子らしい可愛い私服に身を包んだサチが立っていた。

 彼女曰く、「お金が貯まってずっと欲しかった服を買いに行きたいけどひとりじゃ心細いから」と俺に同行を頼みに来たのだという。

 

 心なしか私服姿のサチは一段と明るく見えて思わず見惚れそうになるのを我慢して俺はその頼みに応えようと頷いて一度部屋に戻り、戦闘用装備のため片手剣を背中に背負っていたがそれを解除してこれまた黒ずくめの私服へと着替えた。

 

 これって、まさかデートとかいうやつなのか…?

 ゲームにのめり込んでた現実では女友達なんていなかったし、妹と2人で遊びに行ったのも低学年くらいまでだったっけ。

 

 人生初の女の子とのデートが仮想世界の中とか何の冗談だよ!?

 

 

 

 

「ねえ、キリト。

 これとこれ、どっちがいいかな?」

 

 それから準備をして合流した俺とサチは7層主街区へと向かってその街にある女性プレイヤー達の口コミで絶賛されているらしいNPC洋服店へ足を踏み入れた。

 この層で狩りをして1日に稼げるであろう総額コル以上という若干高めの値段設定のために、人がごった返している訳では無いけれどもちらほらと他の買い物に来た女性も見受けられる。

 

 今までで一番と言っていいほど楽しげな雰囲気のサチは右と左それぞれの手に陳列棚に掛けられていたワンピースを持って俺に選択を迫ってきた。

 

「赤か青か~…。

 う~ん、サチなら青が似合うと思う」

 

「む~…。

 私だって少しは派手な服でお洒落したいんだよ、ふふ」

 

 左手には薄い赤地の丈が短め、右手には青地の丈が長めのワンピースを手に持ち目をきらきらと輝かせて俺の答えを聞いたサチはちょっとふて腐れたようにも見えながらもにこにこと笑っていてこちらもついつい釣られてしまった。

 

 やべぇ、デートスポットなんか知らんぞ!

 などと先程まで頭を抱えていたけど彼女のリードによってなんとか体裁は保っているはずなのだが、話題を作る時にうっかり攻略中の面白エピソードを漏らしてボロを出さないよう話を続けようと必死になってる自分もいる。

 

 そして買うと決めた服の支払いをしようとサチは「少し待ってて」と言いながら店の奥に立つNPC店員の元へ駆けていったので、俺は店の前で彼女を待つことにした。

 こんなことなら攻略に役立つレベリングスポットばかりではなくて観光スポットも覚えておくんだったな、と後悔が早くも生まれつつある。

 

 暇があれば攻略をしてダンジョンなどに籠ってたツケがこんなところで来るとは人生本当に何があるか分からない。

 

「なっ…!?」

 

「うげ…」

 

 なんとなく空を仰ぎ見ながら時間を潰していると、聞き覚えがあって随分と懐かしくも感じる声が耳に留まり店の入口を見ればなんとアスナさんが俺の顔を見ながら目を見開いて驚いていた。

 

 お前もこの店来てたのかよ。

 とか他にも色々思うこともあったが、彼女の身に付けていた紅白のド派手なギルド制服と思われるその服に目が釘付けになると同時に笑いを堪えるのに精一杯になる。

 

 ダメだ、面白過ぎる…!

 どっちかと言えば似合ってるとは思うけどその色合いのチョイスなどなど様々な面でツボに入ってしまい、込み上げる笑いを誤魔化そうと彼女から目を逸らす。

 

「キリト、お待たせ。

 次はどこ行こっか?」

 

「え、ああ…!

 なんかお腹空いちゃったからさ、早くレストランでも行こうぜ」

 

 すると会計を終えて満足げな面持ちのサチが店の入口からひょっこりと出てきたところで何故か命の危機を察した俺は、さっさと逃げようとアスナとは一言も話さずサチを連れて足早にこの場を去った。

 

 修羅場っていうのがこのことを言うならヤンデレストーカーと化した女の子に刺されるのがテンプレの展開だけど、俺は別にアスナとはそんな関係じゃなかったぞ?

 

 でも背中に刺すような殺気が向けられているのを曲がり角に差し掛かったところまで感じたのは気のせいではないはずだ。

 

 

 

 

 この1週間見てきた黒猫団のメンバーを客観的に評するならば、現実でも仲良しなグループであることの危うさといざという時の統率力といったところかもしれない。

 やはりと言うべきか仲良しグループが故にどこか閉鎖的な空気のある彼らには他のギルドに知り合いはいないようで、横の繋がりが無いのは情報を得るのと攻略組に名を連ねる点で痛いのだ。

 

 ソロプレイヤーであっても少しは他の攻略組ギルドとの協力関係を築いていかなければボス戦に呼ばれることも難しくなってしまうし、このアインクラッドでは情報を得る手段が現実よりも限られているので横の繋がりがあればあるほど役に立つ。

 いつか攻略組に入りたいのならばそれは改めるべき課題である。

 

 そしてもう1つ、全体的なプレイヤースキルの低さだ。

 最近になってから黒猫団が狩り場としている層を攻略していた当時の攻略組プレイヤーを思い出してそれと比べてもまだまだ差は埋まっていない。

 

 サチは今まで全く手が出せなかった金額の服を買った。

 娯楽の少ないアインクラッドではたまのお洒落も重要なのだろう。

 

 でも、フィールドに出て狩りをするか生産スキルを鍛えて商売をするかしなければお金は稼げないのだ。

 ゲームの中であってもそこは現実世界と同じように大変な苦労を強いられる。

 

 臆病なサチが戦闘で足を引っ張っているのは事実だけど、だからと言ってケイタ含むメンバー4人だけであっても実力的に狩りは安定しないので彼女を生産職にシフトするのは現時点では好ましくない。

 それに5人揃ってこそ黒猫団のアットホームな暖かい雰囲気が生まれるし、この仲良しグループを引き裂くような真似はしたくない。

 

 そうなれば自ら戦って稼ぐしかないという現実を怖がりな彼女がまだ気付いていないのが心苦しくもある。

 

 

 

 

 

 

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