シンカーさんからラフコフ他犯罪者プレイヤー失踪についての情報を貰った俺はリズを連れながら、聞き込みを依頼したアスナ達と合流して情報交換を行った。
更に驚かせるのと不安を煽ってしまうのは心苦しかったのだが、情報を秘匿しているビーターと中傷された経験のある者の今更な反省としても貰った情報は話して共有しなければならないことだ
「…血盟騎士団メンバーも風林火山のメンバーと同じくやっぱりステータスとかおかしくなってたけど、皆それよりも団長の裏切りが堪えてるみたい。
だから明後日まではギルド活動の全面停止とこの先の活動の強要はしないことと、脱退の意志も出来るだけ尊重することを全員に伝えてきたわ」
流石とも言うべきかギルドリーダー亡き今でもしっかりとリーダーシップを取っているアスナの姿は「閃光」の二つ名に相応しい眩しさを感じる。
これでエギル、クライン、アスナが集めたステータスなどの異変についての情報は共有出来たし、それが紛れもない事実だということも認めざるを得ない。
この手の武器防具のバグは一度解除してから装備し直すと戻る時もあるのだが、エギルの話ではあるプレイヤーがそれを試してみたが変化は無かったらしい。
「これからどうすっかね~…」
腕を組んだまま大きなため息を吐くクラインに皆無言で俯いてはいても同意しているように見えた。
再び攻略するしか助かる道は無いのは勿論分かっているのだが、また同じ道を2年も掛けて歩くというのにはどうしても最初の一歩が途方もなく重くて踏み出せないのだと思える。
「今日はここまでにしときましょ。
皆ボス戦で疲れてるから頭が回んないのよ」
俯き加減で立ち尽くしこの先の意見が全く浮かばないでいた俺達3人を気遣うリズ。
確かにもう気を緩めるとたちまち襲ってきそうな疲労感と眠気で倒れてしまいそうなところを、無意識に踏ん張っていたのをその言葉でようやく自覚した。
休息を取ってからこれからの結論を出そうと俺達は中央広場を去って近場の宿屋を目指そうとしたのだが、所持金も全て無くなって宿泊が出来ない事に気付いてすぐNPCショップで今は使い道の無いレア物を含むアイテムを売却した。
その時にギルドに所属していなくて以前犯罪者プレイヤーに狙われた経験があってまだ自分よりも年下の女の子であるシリカのことが気掛かりになり、万全を期してアスナとリズとエギルに彼女の特徴を伝えて中央広場に迎えに行ってもらいそれを待っている途中である。
シリカを狙ったタイタンズ・ハンドと呼ばれる犯罪者ギルドのメンバーは俺が牢獄エリアに収容させたが、シンカーさんの情報通りなら奴らも同様に失踪した訳だから彼女を一人にはさせられない。
犯罪者プレイヤーが街を堂々と闊歩している可能性があるという事で、はじまりの街はどこもかしこも軍の連中と思しき似たような防具を付けたプレイヤーが警備に当たっているようでどうも息が詰まってしまう。
「なあ、キリトよぉ。
お前さんはやっぱり前に進むつもりなんだろ?」
「…ああ、皆の考えを変えたくないから黙ってたけどな。
でもついて来てくれなんて無理強いはしたくない」
この絶望的にも思える状況の中、後から皆が追い掛けてくることを信じて誰かが最初の一歩を歩まなければいけないのだ。
それを他でもない自分が務めようとしているのは、運命の悪戯と言うべきだろうか。
「馬鹿野郎!
またお前は一人で行っちまう気なのか!?」
そうだ、何故かクラインの放った言葉が懐かしいと思ったのは、2年前にも同じようなやり取りをしたからだ。
あの時も俺は他人の命を背負うことの重圧から逃れるように彼やその仲間達を置いて一人でただひたすら前へ進んだ。
すべては、自らの強化の為に。
それはただ内にある自己顕示欲を満たすものだったけれど、今は少し違う気がする。
あの孤独だった2年前とは違って、俺にはこの世界から解放してあげたい人達がたくさんいるのだ。
こんな俺なんかを支えてくれる良い人達がこんな世界で何も遺せずに死ぬなんてあってはならない。
もっと大勢の人が待つ現実世界へと必ず戻ってもらいたいのだ。
「悪い、そうだよな。
ヒースクリフとのデュエル前にあの時の事謝ったんだっけ」
「おうよ、もう何日も前みたいな感じするけどお前さんが謝ったのはほんの2~3時間前なんだぞ。
ったく、忘れんなよな」
今もあの時の事は後悔しているのだがクラインの親身でどこか頼りがいもある口調に、いつもの調子と笑顔を少しずつだが取り戻せたような気がした。
「おっ、来たみたいだぜ。
しっかし、何でキリトのとこばっか女の子がいんだよ…」
「いや、そんなつもりは…」
シリカの頭の上で休むピナ、その隣に並び立つ3人の姿が目の前に映ると同時にクラインは妬みにも似た独白を漏らし背もたれにしていた壁を叩く。
そして俺はまだ数mも離れているはずのアスナからの無言の圧力とも閃光様の眼力とも取れる冷たい視線に屈しそうになるのを必死に耐えつつ弁明をした。
こうして一応合流した俺達は近くにあった宿屋でそれぞれ部屋を借りてくたくたな身体と心を癒すべく、寝床に入った。
これまで散々犯罪者プレイヤーの恨みを買ってきた俺やアスナ達女の子の護衛としてここまで一緒に来てくれたクラインとエギルはこれからそれぞれの仲間と話し合いをするようで、明日またこの宿屋に集まることを約束してから別れた。
「ふぅ…」
「はぁ…」
部屋代の安さもあってとても狭いが2人用の部屋を借りた俺とアスナは部屋に入ってすぐお互い向き合いながら自分のベッドに倒れ込んだ。
夕暮れの濃いオレンジの光が差し込むのを見てやっと長かった一日の終わりを感じて疲れがどっと溢れてくる。
本当に長かったし、できることなら22層の家に帰って休みたいものだ。
「今日はお疲れ様、キリトくん。
団長と戦ってた時はずっと不安だったけど無事で良かった…」
懸命に堪えようとはしていても涙目になっている彼女に、一瞬でも自らの死を覚悟してしまったことが深く胸に突き刺さる。
ベッドに横たわりながらお互いに見詰め合うと、あの75層の死闘から生き残った安堵感がようやくじわじわと生まれつつあった。
「ごめん、アスナ。
もうあんな無茶はしないよ」
「うん、約束だよ」
とても狭い部屋故に隣り合わせになっているベッドのお陰で手の届く距離に寝そべった彼女のその何よりも暖かな手をもう二度と離れないように強く確かに握る。
愛しい彼女の手から伝わる温もりはただのデータが演算されたものに過ぎないはずなのに、長く苦しい闘いで心に空いた穴を癒してくれるようだ。
俺にはやっぱりアスナがもう理屈抜きで必要なんだな…。
「ん?
緊急メッセージ?」
「俺にも来てるな」
すると、急に視界の中央にメニュー画面に似たディスプレイに『緊急メッセージを受信しました』というログが流れる。
初めての現象に驚きつつも何気なくそのメッセージを開いて差出人を確認するやいやな俺もアスナも驚愕を隠せず思わず跳ね起きる。
「ヒースクリフだと!?」
「団長から!?」
どうも。
所持金が0になったので皆ストレージに残った今は使えないレアアイテムやら装備を売り払いました。
かなり迷ったと思いますが、致し方ないと売却ボタンを渋々押したはずですね。
なので、キリト達は各々の特徴を残しながらもほぼ初期装備に近い状況です。
それと、キリトとクラインのずっとお互いに引きずっていた問題はやっと解消されました。
奇しくもあの日と似たような夕暮れの中で。
これでようやくキリトは今まで目を逸らし続けてきた他人の命を背負っていくことの決意を固められたでしょう。
そしてアスナとの一幕。
イチャイチャシーンは好きなのでこれからも書いていきたいのは山々ですが、彼らには最大のお祝い事というかイベントがあるのでそれまでは控えめでいきます。