SAOー紅玉を貫く大樹ー   作:明石

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家族

 攻略組最強の男、ヒースクリフ。

 一大ギルドである血盟騎士団を率いるリーダーであり、そのカリスマ性は絶大なものだった。

 今や閃光と呼ばれる素早さや正確さではトップのアスナや他実力者プレイヤーを自ら直接ギルドに勧誘して作ったとも言われている。

 

 圧倒的な攻撃力でレイドパーティーを蹂躙した50層ボス相手になんとおよそ10分間も彼は一人でボスを引き付けて戦い、瓦解しかけたレイドを立て直す時間を稼いだのだ。

 そんな数々の伝説から二つ名は様々ある。

 

 奴のユニークスキルである神聖剣、詳細は分からないがその凄まじいまでの防御力に苦戦して殺されかけたのが今日の昼だというのは我ながら驚きだ。

 

「…とにかく開いてみるか」

 

「そうだね。

 開けてみてよ」

 

 今日の昼、俺との決闘中に消えた奴からのメッセージだとすれば無視は出来ないだろう。

 このゲームのGMであり開発者としてカーディナルについてやこれからのことを説明してくれる可能性もあるのだから。

 

『キリト君、アスナ君。

 君たちには久しぶりのようにも思えるだろうが、あのボス戦や決闘、カーディナルの暴走も正真正銘本日11月7日午後に起こったことだ。

 

 さて、本来であれば私はあそこで2人に負けてこのデスゲームを終わらせていたはず。

 だが結果的にはカーディナルの暴走によりデスゲームは振り出しに戻されてしまっただけでなく、私の管理者権限も剥奪されとあるエリアに幽閉されている。

 

 カーディナル、いや彼の企みとこの城を征服しようとしていることについて私はそれを一ヶ月程前から予見していた。

 それからは自分ではどうにもならない時の為にキリト君の実力を試したり他にも出来ることはしたつもりだ。

 

 君たち2人はもう私を越えている。

 君たちならば成し遂げられると願っているよ。

 健闘を祈る。

 

 P.S.

 こうなることを予見していた訳では無かったが、私は半年前に外の世界に種を蒔いてきた。

 それらは既に芽吹き新たな世界を創造している。

 もしその世界からやってくる勇者達がいれば私の代わりに歓迎してくれたまえ。

 

 そして君たちが救ったMHCP001はもうカーディナルに検知も削除も出来ないように今朝、細工をしておいたので安心して実体化させてあげるといい』

 

 相変わらず思考も読めず分かりにくい言い回しをする奴ではある。

 しかしまだこの世界のどこかで生きているらしい。

 

 メッセージの中には難解な内容もあってそれについて血盟騎士団副団長のアスナに聞いてみたいとも思ったのだが、何よりも最後の一文に俺達は目が釘付けになってしまった。

 

「ユイちゃんと会える…?」

 

「アスナ、ネックレスを出してみてくれ!」

 

 また家族3人で過ごせる、そんな粋な計らいを奴がするなんてとても信じたくはなかった。

 それでも心のどこかでは信じたい気持ちの疼きは抑え込めないでいる。

 

 メッセージを閉じたアスナは逸る気持ちを隠し切れないといった様子で直ぐ様メニューを操作してストレージ画面から『ユイの心』というアイテムをオブジェクト化させる。

 すると彼女の手には白く淡い光が瞬く涙型のクリスタルが付けられたネックレスが出現した。

 

 そのクリスタルに指を触れると『MHCP001を実体化させますか?』というシステムメッセージを記したポップアップメニューが表示される。

 いつもアイテムを使ったり装備をしたりする時となんら変わりないポップアップからYESを選択すると、ネックレスはたちまち白い輝きを強くさせてアスナの手を離れた。

 

 かつて俺とアスナはコンビを組んでいた。

 その時、彼女は武器の強化を鍛冶屋で依頼するとなると「バフ頂戴」と実際は有り得ないはずの理由を付けて俺の手を握っていたことがある。

 

 今まさにその時と同様に、しかしあの時よりもずっと強い絆と愛を胸に手を繋いでいた。

 

「ママ、パパ…」

 

 部屋全体を包み込む白い光が収束するとその中心には一人の小さな女の子が立っていて、俺達と目が合うと同時に彼女はにこやかな表情を浮かべて駆け寄ってくる。

 

「おかえり、ユイ」

 

「また会えたね、ユイちゃん」

 

「私も会えて嬉しいです!

 2人共、ありがとうございます」

 

 外の世界で俺のナーヴギアに保存されているユイをどうにかネットワーク上に展開するまでは会えないとずっと思っていた。

 けれども予想よりずっと早く3人一緒になる事ができたお陰で目に涙が滲みそうになる。

 

 

 

 

 ユイを迎える場所が22層の家ではないのが大いに残念ではあった。

 それでも3人で過ごすかけがえのない時間は疲労した身体や心を洗って癒してくれるようだ。

 

 俺とアスナは彼女に今日の出来事を話してユイのAI権限で何か分かればと調査を頼んだが、ほぼ完全にカーディナルシステムとの交信をロックされている為に何も分からないようだ。

 

 出来た娘であるユイはシステムへのアクセス権が無いことを申し訳なさげなようだった。

 しかしそんな事は気にしないしユイが悪い訳ではないのだから、と2人で抱き締めると浮かない顔だった彼女は笑顔を取り戻す。

 

 

「こうなったらまた攻略するしかないわ。

 ユイちゃんとまた会えたけどいつかは現実世界で一緒に歩きたいもの」

 

 母親らしい面持ちでユイの頭を優しく撫でながらも攻略組全体を取り仕切る『閃光』のアスナとして俺へ向かって宣言する。

 その目には確かに守るべきものの為に戦うという覚悟にも見える輝きが宿っていた。

 

「ああ、俺も一緒に行くよ。

 アスナとユイを守る為にな」

 

 何もしなければあと2年の命。

 しかしまた一からでも抗いこのゲームを終わらせられたらその何十倍もの時間を家族で過ごすことができる。

 

 ならば前に進もう。

 たとえ苦しく長い道程であっても。

 

 

 ここまで手を尽くしてくれたあいつに素直に礼を言うのは癪だが、ユイとの再会で不安や迷いが払拭されていく気もしたから複雑な心境だ。

 

 




どうも。

ユイとの再会によって2人はまた攻略を始めることを決めました。
最初は自分達だけでも道を切り開けばいつかきっと皆が後を追ってきてくれると信じて。

一応この作品内では、ヒースクリフはキリトと闘う中で自らが負けることは薄々勘づいていました。
ただし、それは2人の絆によってもたらされた奇跡によるものですので決着が着いた訳ではありません。

まだまだ遠い未来かもしれないけどキリトはまた彼と相対するはずです。
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