SAOー紅玉を貫く大樹ー   作:明石

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第二章 再攻略始動
攻略開始


 2024年11月8日 ‐残り729日‐

 

 

 毎朝8時に設定しているアラームが頭の中に鳴り響くと同時に意識が覚醒して未だ残る眠気で重たい瞼を開く。

 このSAOには自分にのみ聞こえるそれを設定できる機能があって、俺は現実の学校に通っていた時とほぼ変わりない時刻に起きることができている。

 

 昨日の濃すぎる出来事全てが夢だった、なんてことは…ないな。

 

「ふわぁ~…。

 おはよう」

 

「おはよう、キリトくん」

 

「おはようございます、パパ」

 

 流石は一泊30コルとかなり安価なこの部屋は夕日とは逆に朝日が差し込みにくい設計らしく、起き上がって見渡すと全体的に薄暗かったせいでまた寝たくなってしまう。

 二度寝するとアスナが怒って体をくすぐってくるのは困るので、ぐっと眠気を堪えて欠伸をしながら既に起きていた彼女らに挨拶をする。

 

「2人共早起きだな~」

 

「もう、私のアラームは7時50分だからまだ起きたばっかよ」

 

「私は7時に早起きしましたよ、パパ!」

 

「おお、早寝早起きなんて偉いぞ。

 寝る子は育つぞ」

 

 部屋以外は自分が理想としていたような暖かい家庭の雰囲気を皆で朝から共有出来たのはとても嬉しく思う。

 この一日を頑張る為の英気をしっかりと蓄えられ、死線を潜ったばかりの昨日の事はもう遥か昔のことにも感じる。

 

 

 

 

 

 それから同じ宿屋に宿泊していたリズ、シリカと合流したら一晩で子供を作って産んだと誤解されたのでユイの事情を簡単に説明し、隣に建っていたオープンカフェで朝食を取りながら彼女達のこれからについてを尋ねることにした。

 

 意気揚々とユイにこの店のお気に入り料理をお薦めしていたアスナは、当の彼女がそれとは別の俺が頼んだものと同じ料理を選んでしまい若干落ち込んでいた。

 しかし、機嫌を取ろうと俺が追加で注文したデザートがテーブルに着いた途端に機嫌は直っていき、女の子の複雑さに改めて困惑してしまいそうになる。

 

「昨日部屋でずっと考えたんだけどあんた達はきっと前に進むはずだって思ってたら案の定でなんか安心したわよ。

 

 だから私も行くわ。

 戦闘にも参加するしまた鍛冶スキルも鍛えるつもりだからリズベット武具店をこれからもご贔屓にね」

 

 リズはそう答えるとコーヒーカップをテーブルに置きつつ、俺達に視線を合わせてしっかりと頷く。

 

 アスナとは結構前からの付き合いらしく彼女が俺と反目して荒れていた頃は随分と気遣ってきたようで、そんな世話好きなリズ曰く「アスナを妹にしたい」そうだ。

 来店早々に店一番の剣をぶっ壊してしまった史上最悪な客である俺であっても無料で《ダークリパルサー》という名剣を作ってくれたり、その後も何だかんだでとてもお世話になっているからその申し出は無下には出来ない。

 

「私も一緒に行きたいです!

 もうレベルの差なんて関係ありませんし、今度は私がキリトさんを助けたいんです」

 

 続いてシリカも迷いの無い真剣な眼差しで再攻略をすると答えたが、なんとAIの使い魔でしかないはずのピナまで連れていけと言わんばかりに首を縦に振る。

 

 主人を庇って命を落としたピナの蘇生アイテムを手に入れたたり犯罪者ギルドと一悶着した後も、2人と1匹で冒険する機会は何度かあった。

 

 その度にシリカは表には出さずとも自分と俺とのレベル差にとてつもなく高い壁を感じているようで、それを埋めようと無理を通そうとすることもあって目が離せないのも事実ではある。

 それでもこのシリカとピナのコンビは心から羨ましくなるぐらいの絆で結ばれていて、彼女らを見ていると自らもビーストテイマーになることを本気で考えてしまうほどだ。

 

『足手まといにはならない』そんな強い想いが込められた彼女達の言葉に半ば圧倒されかけたと共に感謝の意を示すべく小さく頭を下げる。

 

「ありがとう、皆の命はちゃんと背負う。

 だから一緒に進もう」

 

 昨日、クラインに言われて気が付いた。

 俺には他人の命を背負って前に進む覚悟が足りないということを。

 

 それを再認識した今、もう自ら独りの道を歩くことは出来ない。

 この先何があろうとも絶対に仲間を死なせやしない!

 

 

 

 

 その数十分後にここへ立ち寄ったクライン、エギルもそれぞれの仲間と共に再攻略をすることを決めたとの報告に来てくれた。

 軍からの逃亡した犯罪者プレイヤーが未だ行方不明との情報も流れてきたようで、トールバーナの町まではエギルが俺達の護衛に買って出てくれるようだ。

 

 それならば善は急げとも言うし、時間も惜しいのですぐにでも出発しようとと話し合いの結論は纏まって一先ずはアイテムの補充をしようとショップが並ぶ区域に足を運んだ。

 

「ねぇ、ユイちゃんはどうする?」

 

「確かにプレイヤーじゃないから圏外には出せないよな」

 

 今は関係無いはずの洋服店に入ってしまったリズとシリカ、1層の攻略情報を仕入れに行ったエギルを待つ間にあらかたの買い物を終えてストレージを整理していたアスナがふと思い立った疑問を漏らす。

 

 圏内である街の中ではシステムの抜け道でも使わなければHPが0になることはないが、街の外の圏外に出ればその限りではない。

 ユイは元々NPCに近い存在であって今でもこの世界ではプレイヤーという扱いにはならないはずなので戦いには参加させられないのだ。

 

「その件については心配いらないみたいです。

 ママのストレージから私をオブジェクト化したアイテムは消えていないので、それを使えば私のデータはまたネックレスに退避できますから」

 

 成る程、奴はそんな設定まで加えてたのか。

 それなら安全は保証されるけれども娘を一時的とは言え、アイテムとして持ち運ぶのは良い気分ではない。

 

「あ、本当だ。

 …でもユイちゃん、街の中にいる時は必ず実体化させるから私にもパパにも遠慮せずどんどん甘えてね」

 

「うん、我慢する必要なんかないんだぞ。

 今日の夜は家族3人川の字で寝ような、ユイ」

 

「はい、楽しみにしてますね!」

 

 とても出来た自慢の娘であるユイはまだ俺達の間にどこか遠慮がちな面がある。

 それは本物の家族よりも一緒に過ごした時間があまりにも少ないからだろう。

 

 せめて圏内にいる時は彼女に寄り添って距離を埋めていこう。

 

 

 

 

 

「よし、じゃあ出発しよう。

 先ずは次のホルンカ村に向かって受けられるクエストで俺とシリカとエギルが武器を更新できるし、その村で売ってる装備ならリズとアスナも迷宮区までは大丈夫だ」

 

 まさかまた使う日が来るとは思いもしなかったアルゴの攻略本の情報によってトールバーナの町までのビジョンは決まった。

 まるで攻略サイトで進行チャートやお薦め装備とその入手法を調べてからプレイするRPGゲームのようで少し楽しくもある。

 

「なあに、レベル1でも今までの経験は残ってんだ。

 俺もいるから緊張すんなよ、若者共」

 

 年長者であるエギルの言葉でどこか固かったアスナ達の表情や俺の頭に過る不安も和らいだようで皆一様に決意を固める。

 

 こうして再び浮遊城アインクラッドの攻略は幕を開けた。

 この先他のプレイヤーがどうするかは分からないけれども、今ここにいる皆や風林火山がフロントランナーの責任を果たすことで希望を持ちいつかまた大勢の攻略組が生まれることを願おう。

 

 

 

 

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