SAOー紅玉を貫く大樹ー   作:明石

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新・攻略組

 どこまでも広がっているかのような草原を抜けると日差しが遮られて昼でも薄暗い森が顔を出すが、ホルンカまでの正しい道程をしっかりと覚えていたアスナのお陰ではじまりの街を出てから2時間足らずで村に辿り着いた。

 そこのNPCレストランで簡単な昼食を取ってから時間がさほど掛からないものや役に立つ装備が報酬となっているクエストを軒並み受けてまた森へ繰り出す。

 

 そうして夜になってくると好戦的なモンスターが増えたり犯罪者プレイヤーが1層のどこに隠れているか分からないし、何より精神的な疲れと空腹が襲い掛かってくるという理由で俺達は村に戻る。

達成したクエストの報告とそれに伴う報酬を貰ってから実体化させたユイを含めて皆でNPCレストランにて夕食を取っていた。

 

「いやー、効率主義の黒の剣士様と閃光様のお陰でもう全員レベル4になりそうね」

 

「2年前の自分の苦労は何だったんだ、って感じですね~」

 

「俺だってこの村に入った時はまだレベル2か3くらいだったし、パーティならこなせるクエストの数も多いからこうもなるよ」

 

 以前は攻略組に所属していなくて、中層ではそこそこなレベルだったリズとシリカ。

 それでも自分と出会ってからこれまで着々と経験を積んでいる2人は充分に強くなっていっているので、俺としてはまだまだ負けられないと対抗心まで出てきてしまった。

 

 そういや、パーティを組んでこんな長時間を仲間と過ごすのは実にあの時以来だよな。

 

 月夜の黒猫団、2年前に1層から続いていたアスナとの暫定的コンビを26層で解消して彼女が血盟騎士団に入った直後から本格的に孤独になって人恋しくなった俺が入ってしまったことで全滅したパーティ。

 それが原因で自暴自棄になって更に孤独の道を突き進む俺を心配したアスナに八つ当たりして、そこからお互いムキになって攻略会議で本気の口喧嘩や決闘までしたこともある。

 

「ふふっ」

 

「何が可笑しいんですか、ママ?」

 

「んーん、何でもないわ」

 

 そんな俺の事情を知っているアスナは先程からずっとリズやシリカ、エギルと順調に会話を弾ませている俺を満面の笑顔で見守っている。

 何故かそれがあまり友達もいなくて馴染めなかった小学校の授業参観に来た自分の母さんの姿と重なってきてはさまい、無性に恥ずかしくなって彼女の吸い込まれそうな暖かい視線を我慢していた。

 

「そっ、そういえばエギルはまたあのぼったくり商売始めないのか?」

 

「おい、キリトよぉ。

 ウチは高く買って安く売るのがモットーなだけでぼったくりなんて人聞きの悪い事言うな。

 

 今はスキルスロットに商売に必要なスキル入れてる余裕も無いがいつかは再開するさ」

 

「やっぱそこがネックになるのか」

 

 このSAOはスキルスロット制を採用しているため、レベルを上げなければ数え切れないほど種類がある多種多様なスキルを好きなように複数取ることが出来ない。

 普通のゲームならば序盤からでも戦闘用スキルだけでなく趣味スキルも習得出来るのだが、このデスゲームではそんな余裕も無いのが実情だ。

 

 以前、攻略組でもトップの実力を持つアスナが戦闘には全く関係のない料理スキルをコンプリートしたと聞いた時は大いに驚いたものだ。

 それにリズのような職人クラス、エギルの商人クラスであれば戦闘用スキルだけをスロットに埋めている俺のような純戦闘職みたく戦闘に爽快感や精神的な余裕は感じられないはずだろう。

 

「そう言うお前は最終的には二刀流を目指すんだろうな?」

 

「そうしたいのは山々だけど習得条件がはっきりしてなくて困ってんだよ」

 

 そう、かつて俺1人が習得していたユニークスキルである二刀流は熟練度リセットどころか取得可能スキル欄からも完全に消去されてしまったせいでもうお手上げ状態なのだ。

 ヒースクリフが正体を看破された時に『二刀流スキルは全プレイヤーの中で最大の反応速度を持つ者に与えられる』との言葉を漏らしたが、それが事実だとして反応速度なんて具体的に何をどうすれば良いのかと密かに悩んでいた。

 

 もしひたすら敵の攻撃を回避すればいいとしても、どれくらいの数と時間を掛ければ習得できるのか不明というのが一番困る。

 前にいつの間にか条件を満たしていた時は50層台の攻略中だったけど、そこまでが今のところは長過ぎる道程だと感じるのであまり考えたくはない。

 

「あたしもまた48層で鍛冶屋する為に稼がなきゃな~」

 

「あの物件っていくらくらいだったんだ?

 48層は俺も気に入ってたけどかなり高いだろ」

 

 48層主街区のリンダースという街にはかつてリズが経営していた武具店がある。

 あの街は縦横に透き通った綺麗な水路が流れていて、そこかしこに水車さえもあるその欧州の運河沿いにある町みたいな雰囲気は個人的にもなんとなくお気に入りだった。

 

「そりゃもうキリトがうちの店に初めて来た時にぶっ壊してくれた当時の最高傑作100本以上よ」

 

「ええっ!?

 お店の商品壊しちゃダメですよ、キリトさん!」

 

「うっ…。

 そのネタまだ引っ張るのかよ」

 

 自分よりも確実に年下であるはずのシリカにまで真面目に決して故意ではなかったあの件を叱られてしまって、申し訳なさそうに縮こまる俺を傍目にそれ以外の皆は笑いの渦に包まれていた。

 

 

 

 

 その後、夕食を終えた俺達はまた明日中に次の村へ進む為に早めに休もうと宿屋でそれぞれ部屋を借りて寝床に就く。

 今朝ユイとした約束の通り家族3人で寝ようと借りた部屋の2人で使うには少し大きいベッドに腰を下ろし、俺とアスナは今日の戦利品を整理していた。

 

「キリトくん。

 軍のシンカーさんとユリエールさんに聖竜連合のリンドさんがメンバーを募って明日には攻略開始するってメッセージ来たよ」

 

「そっか。

 はは、なんか前と同じみたいだ」

 

 2年前も1層攻略に参加していてその後一大ギルドと呼ばれるまでに成長したギルドが本格的に攻略を開始するという情報はとても心強いものだ。

 全てが振り出しに戻ったからこそ今まで攻略組にはなれなかったがそれに加入することを目標に目指していたギルドがこぞって参加してきたら統制や連携が取りづらいだろうな、との懸念はどうやら杞憂だったかもしれない。

 

「クライン達もすぐに追い付いてくるって言ってたし、ボス戦のメンバーは顔も分かってるしやりやすいかもな」

 

「でもシンカーさんによると今日はじまりの街で攻略組に入りたいギルドを募ったら聞いた事もないギルドが来た、って話よ。

 そのギルド『ティターニア』って言うらしいけど私も聞いた事無いのよ」

 

「う~ん……。

俺もそんなギルドは知らないぞ」

 

 ほぼソロだった俺はギルドなんかには興味も無かったから覚えているのは以前の攻略組の一部か犯罪者ギルドくらいで『ティターニア』なんてギルドはそれでも聞き覚えもなく、首を横に振る。

 

 攻略組の人数が徐々に増えていっているのは勿論喜ばしい事だ。

 それなのに嫌な予感が働いてしまうのは正体不明のギルドが名乗りを上げたからだろうか。

 

 いや、このデスゲームが振り出しに戻ったり滅茶苦茶になってしまったというのに早速攻略組に参加してくれるんだから一応歓迎はしなきゃな。

 

 

 

 

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