メインヒロインにTS転生したらしいが、細剣じゃなくて刀握りたい   作:星宮ひまり

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 ――私が、アスナを死なせない。
 親友が言った。

 ――アスナ、キミは強いよ。
 相棒が言った。

 だから――戦おうって、思えたんだ。




『輝く三つ星のオーヴァチュア』

 

 

 状況は、どう考えても絶望的だった。

 AとB二つのタンク隊は、ボスの最初の《(ツムジ)(グルマ)》を喰らったせいで全員HPを半分以下に減らしていた。防御(ブロック)が上手くいったのか耐久が他より優れていたのか、比較的HPの残っているメンバーが二種類の取り巻きコボルドのタゲを取り、他のメンバーがHPを回復し終えるのを待っているが、いかんせん数が多すぎる。

 だが、最大の問題は――ディアベル率いるC隊。ボスが武器を()()()に切り替えた際、メインアタッカーとしてタンク隊のすぐ近くに控えていたため、範囲攻撃である《旋車》に巻き込まれてしまい、全員が大ダメージを負っていた。攻撃特化(ダメージディーラー)たちに比べて堅めの装備であったディアベルですら半分以上持って行かれたのだ、彼より防御力の低い他のメンバーは当然それ以上の被害を負い、一撃で危険域(レッドゾーン)までHPを減らしている。

 彼らのHPが回復するのを待ちつつ守るのは、非常に難しい。当初の取り決め通りならば、HPが危なくなったメンバーは壁際まで避難してゆっくりHPを回復させるのだが、現在はボスにバフを付与した杖持ちコボルド――《コボルド・クワイア》たちが壁際から迫っており、その手段は取れない。

 キバオウたちE隊や残りのアタッカー部隊であるD隊も取り巻きの殲滅に注力しているが、総勢二十体を超える合唱隊(クワイア)に加え、さらに《ルインコボルド・センチネル》の増援が隠し扉から四匹ほど現れたため、手が回っていないようだった。

 支援部隊であるF隊とG隊は、長物装備ばかりであるため、小柄な雑魚敵との直接戦闘には向いていない。指揮官たるディアベルはそれを承知しているため、タンク隊と合流させて守り気味に戦っている。そのリーチの長さを活かした牽制はそれなりに有効なようで、ある程度安定しているようだった。――ほとんど綱渡りな状況に変わりはないが。

 どこかがキャパシティを超えてしまえば、全てが崩れる。そんな、非常に危ない状況。

 しかし――雰囲気は、驚くほどに悪くない。

 むしろ勇気凜々、気炎万丈とばかりに()(たけ)びを上げ、皆、(たけ)(ふる)って戦っている。

 それは(ひとえ)に、彼らに希望を焼き付けた彼女(ほし)のおかげであり――。

 

「キリトくん、スイッチ!」

「あぁ!」

 

 曲刀使いの相棒が叫び、俺が《レイジスパイク》を発動させて飛び込む。アスナのおかげで無防備になったボスの腹へ剣を突き入れると、鋼でも突くような硬い手応えに思わず顔を顰めるが、技後硬直(ポストモーション)が解けると同時、奴の動きに合わせて剣を構える。

 コボルド王の右水平切りに対し、俺は片手剣単発斜め斬り《スラント》を発動。青みがかったライトエフェクトで加速した剣を自身の技量(システム外スキル)でブーストし、鋭く重いボスの野太刀を迎え撃つ。

 甲高い衝撃音と、視界を塞ぐほどの火花。

 ――そして、俺の両脇をすり抜けていく、二つの影。

 

「やぁぁあ――ッ!」

「せぃぁぁあッ!」

 

 アスナの《リーパー》と、ミトの《モーアー》がコボルド王の脇腹をなめらかな軌道で抉っていった。

 確かに削れるボスのHPバーに、しかし俺は舌打ちを零す。

 ボスに掛かっている《防御力上昇》バフがどの程度の倍率かはわからないが、本来レイドを組んで削るような耐久をさらに硬くされて、それをたった三人で削り切るにはどれほど時間が掛かることやら。

 さらに――。

 

「キリトくん!」

「わかってるっ」

 

 コボルド王の振り下ろし攻撃を横にずれて避け、間髪入れずに剣を振るう。片手剣基本技《ホリゾンタル》。だが狙いはボスではなく、奴の忠臣たるセンチネルだ。

 ボスの目の前でヘイトを稼ぐ俺へハルバードを構えて突撃してきた衛兵(センチネル)、やや前傾姿勢のそいつの頭を水色の軌跡は見事に捉え、強烈なノックバックを発生させた。

 転がるように後ろへ吹き飛んでいくセンチネルを追撃するため、俺は足を踏み出す。

 しかし、次の一歩を踏み出す前に、起き上がろうとするセンチネルに向かって斧を振り下ろす人物がいた。褐色肌の大男――会議でキバオウを言葉で抑え込んだ両手斧使い。確か名は、エギル。

 

「雑魚は任せろ!」

「――、助かるっ!」

 

 獰猛に笑ったエギルは、追撃を受けて()()くセンチネルへ勢いよく斧を振り下ろし、打撃かと錯覚するほど鈍重なダメージサウンドを発生させた。……攻撃役(アタッカー)よりも攻撃力が高いのではなかろうか。

 彼の仲間たちも、ボスと戦う俺たちに取り巻きを近づけぬよう、二種のコボルドと戦っている。一定時間ごとに追加が湧くのか、さらに増えたコボルドたちを相手に、一人で二体以上を相手取っているメンバーもいるほどであった。

 

「取り巻きを、ボスと戦う彼らに近づけさせるな! 同時に、巻き込まれないように注意しろ! オレたちではボスの攻撃を耐えられないし、(さば)けないからな!」

 

 意識せずとも耳に入ってくるディアベルの指示は、そのようなものであった。

 俺たちの構成(ビルド)攻撃特化(ダメージディーラー)であり、攻撃をもろに食らえば無事では済まないことは、他のレイドメンバーと変わらない。だが、それでもなんとか持ち堪えていられるのは、ボスの攻撃をソードスキルで迎え撃ち、上手く捌いているからだ。

 しかし、ボスの基礎ステータスの強力さとバフのせいで、システムに弾かれないギリギリまでアシスト外の動きを加えることでブーストしたソードスキルでも、完全には相殺できず、HPはじりじりと減っている。……もとより、少しでもタイミングがズレればボスのカタナを弾けず、隙を晒した俺の体は真っ二つになるのだが。

 この手の《相手の動作を見切って捌く》技術は、対人型エネミーとの戦闘では必須であり、ベータ時代から幾度となく繰り返しているため、現時点で俺は他のプレイヤーたちよりも優れているだろう。

 だが、俺よりも――そして恐らくミトよりも、アスナの技術は一段、上を行く。

 

「ッ、ふ――」

 

 短い吐息と同時、湾曲した刃が赤いライトエフェクトに乗って(はし)る。

 衝突、そして轟音。共に赤いエフェクトを散らしながら、ボスとアスナが睨み合う。

 

「……相殺はアスナに任せて、私たちが削りましょう」

「そう、だな」

 

 ミトの言葉に、俺はやや固い声で応じた。

 アスナ――ベータ時の《めるく男爵Ⅲ世》は、はっきり言ってカタナ狂いの気質があった。

 他のゲームでもカタナに相当する武器種を選択していた覚えがあるし、剣の世界であるこのゲームでは、最初に選択できるスキル欄に載っていなかったものの、「絶対にあるはずだから!」とアインクラッドの隅々を探し回っていたほどである。さらにベータテスト終盤、第十層で本物のカタナスキルを用いる敵と遭遇した時に発狂していたことは俺の記憶に焼きついている。その後、執念で、恐らくプレイヤー初であるカタナスキルを手に入れた時は、俺の手を取り謎の踊りをしだすほどで――。

 そんな、凄まじい執念のおかげでもあるのだろう。

 アスナは、誰よりも早く、そして正確にボスの繰り出すソードスキルを見切り、すぐさま有効な対抗技を合わせられる。

 いや、知識だけではない。彼女の持つ高水準の洞察力、判断力、反射神経――そして強靱な精神力。それら凄まじいシステムに頼らない技量(プレイヤースキル)によって、無限にも思える綱渡りを、完璧にこなしていた。

 アスナが弾き、俺とミトが斬る。

 コボルド王のヘイトが俺たちに移る前にアスナが刃をねじ込み、途切れることなくタゲを取り続け、そしてまた完璧にカタナを捌く。

 まるでダンスを踊るような一体感が、俺の中を満たしていた。

 ふと、素顔を晒したアスナに視線が引き寄せられる。

 いつもの眠たげな眼はそのまま。しかし神様が手ずから創ったような華麗な姿は、その彼女らしい要素を掛け合わせて、神秘さとでも言うべき不思議な魅力を生み出していた。

 そして、その輝くような美貌は、剣舞によって至上のものと()る。

 剣の妖精。

 太陽(ほし)の少女。

 いつまでも続くものではない、むしろいつ途切れてもおかしくない《()(とう)》は――しかし、V字を描く水色の軌跡(バーチカル・アーク)を最後に幕を降ろした。

 

「――、」

 

 赤い巨体が、硝子片となって砕け散る。

 フロア全体に響き渡ったそれは、連鎖するように、やや小さな破砕音をいくつも発生させた。

 王の死と、それに追従する臣下たちの消滅。

 ――静寂が、俺たちを包み込む。

 長い――実際には短い硬直を破ったのは、それぞれの視界に突如浮かび上がった【Congratulations!!】の文字。

 その紫色のシステムメッセージを()って、ようやっと実感した。

 

「……かっ……た……?」

「ぁ――」

「――勝ったぞぉぉぉおぉぉおおおオオオオオオオオオ――――ッ!!」

 

 誰かの叫びを皮切りに、明るい色彩に変貌した部屋を歓喜の絶叫が包み込む。

 こうして、天に浮かぶ鋼鉄の城――その第一層の試練は、突破された――。

 

 

 

 ――だけでは、終わらない。

 

「――待てよ!!」

 

 裏返った声の主は、ディアベルの近くに居る、シミター使いの男。名前はわからない。だが、恐らくC隊のメンバーだろう。

 超難易度の戦いを乗り越えて沸き立っていた皆が、その怒気すら孕んだような声に、一瞬にして静まりかえる。視線を一身に集めることになったシミター使いは、顔を歪ませて俺たちを睨んでいた。

 

「なんで、オレたちを騙していたんだ!?」

 

 彼の言葉を、俺はすぐに理解することができなかった。

 そんな俺の様子を見てか、シミター使いは続ける。

 

「だってそうだろ!? アンタたち……ボスの使う技を知っていたじゃないか! アンタたちが最初からあの情報を伝えていれば、オレたちが……ディアベルさんも、死にかけるようなことはなかったのに!!」

 

 金切り声で紡がれる糾弾に、レイドメンバーたちがざわめき出す。「そういやそうだな……」「知らないソードスキルなのに、全部見切ってたよな……?」「あれ……攻略本にも書いてなかった気が……?」などと声は止まらず、徐々に疑念は広がっていく。

 それらの言葉に答えたのは、俺でも、ミトでも、アスナでもなく――。

 

「オレ……オレ知ってる!! こいつら、元ベータテスターだ!! だから、ボスの攻撃パターンも、変な取り巻きが湧くことだって、全部知ってたんだ! 知ってて隠してるんだ!!」

 

 E隊、キバオウではない――だが彼のパーティーメンバーだった一人が、俺たちに指を突きつけ叫んだ。

 ディアベルを除いたC隊の顔に、憎悪にも似た感情が浮かんだように見えた。

 だが、青髪の騎士(ナイト)は、何も言わない。音が鳴りそうなほど奥歯を噛みしめ、何かを必死に考えている。俺と同じように、現状を乗り切るための手段を探っているのだろう。彼はレイドリーダーであり、そして元テスターであることを隠して先頭に立ったがゆえに、俺以上に行動に制限が掛かってしまっている。だからこそ、顔を歪めながらも、今も動けないでいるのだろう。

 そんなリーダーの様子をどう解釈したのか、シミター使いは何事かを言おうとして――彼が言葉にするより早く、B隊で壁役(タンク)を務めたメイス使いが冷静な声を挟む。

 

「でもさ、ボスの攻撃パターンはベータ時代の情報だ、って攻略本に書いてあったろ? 彼らが元テスターなら、むしろ知識はあの攻略本と変わらないんじゃないか?」

「そ、それは……」

 

 押し黙り、差していた指を反射的に曲げるE隊のメンバーに代わって、憎悪を吐いたのはまたしてもシミター使いだった。

 

「あのガイドブックを作った奴……情報屋が嘘を吐いていたんだ! 元ベータテスターどもは、俺たちに嘘の情報を売りつけたんだ!」

 

 ――この流れは、まずい。

 情報屋アルゴを含む、他の元テスターたちへの敵意が暴走するようなことは、あってはならない。

 刹那に駆け巡る危機感に、全身が麻痺したような感覚を味わう。

 ……この流れを断ち切るためには、どうすれば良い。何か彼らの認識を反らせるもの、いや、それでは意味がない。彼らは命の危機に(ひん)したせいで、酷く感情的になっている。その過剰に膨らんだ憎悪は、ちょっとやそっと誤魔化したくらいで消えはしないだろう。

 犠牲を生んではならない。

 憎悪を溜め込んではいけない。

 敵意をばらまいては、これからの攻略で足を引っ張ってしまう。

 だからこそ、何か、誰か、引きつけられるものが必要……。

 浮かびかけたアイデアは、しかし確かな形を作る前に、耳を掠めた小さな声によって霧散する。「仕方ない、か」――溜息を吐くようなその声は、相棒のもので――。

 

 

「――攻略本の情報に間違いは無かったわ。ベータ時代のボスの第二武器はタルワールだったし、こんなに取り巻きも湧かなかったもの」

 

 

 それはまるで、凍てつく氷のように冷たく、鋭く――。

 凜然と、けれどどこか(はかな)げな悪の華は、冷酷に告げる。

 

「というか、ね……元ベータテスターって、あんな素人連中と一緒にしないでほしいのだけれど。()()()はベータテスト中、他の誰も到達できなかった層まで(のぼ)って、あらゆる知識を、技術を得てきた。それこそ情報屋なんて問題にならないくらいに、ね」

 

 悪役を買って出るつもりだと、少し遅れて察した。

 元ベータテスターたちを、大多数の《素人同然の単なるテスター》と、ごく僅かな《情報を独占する卑怯なテスター》に分け、新規プレイヤーたちの敵意を引き受ける。これにより、もし誰かが元テスターだと露見することがあっても、すぐさま目の敵にされるようなことはないだろう。

 しかし、悪役となったごく少数は、ギルドやパーティーなどに入れる可能性を失ってしまう。いや、ともすれば町の外――犯罪防止(アンチクリミナル)コードが効かない《圏外》で、恨みを募らせたプレイヤーから襲撃を受ける可能性すらあった。

 デスゲームとなったこの世界で、そんな《悪のロールプレイ》を行うのは、自ら安全を捨てることと同義である。ゆえにこそ、そんな役目を彼女一人に背負わせる訳にはいかない。

 ――まだ間に合う。

 この――すぐ俺の後ろに隠れてしまうような弱々しい少女が、独りで全てを背負ってしまう前に。

 歪んだ悪意は、相棒(パートナー)たる俺が受け止める。

 重苦しい沈黙を割るように、俺はわざとらしく大きな溜息を吐いた。

 皆の目が俺に向く。まるで針のような視線に晒されながら、俺は顔に冷笑を貼り付け、言った。

 

「俺たち、だろ? どいつもこいつも使い物にならない初心者(ニュービー)だったけど、俺たちは、どこまでも上っていった。カタナスキルを知ってたのだって、ずっと上の層でカタナ使いのMobと散々戦ったからだしな」

「ねえ、二人で格好付けないでくれる? 私も他の雑魚テスターと一緒にしないでほしいわ」

 

 見せつけるように大鎌を振り、石突きで床を鳴らすミト。ついでに紫のポニーテールを風に流すように揺らせば、完璧なる悪女ムーブの完成だ。なんとなく様になっているのは彼女の普段から微妙に偉そうな態度ゆえか、単に演技派なだけか。

 ちらりと、アスナが俺たちに視線を向ける。その(はしばみ)色の瞳に込められた感情は読めなかったが――たぶん、「ばーか」か「ありがとう」だろう。「余計なことを……」ではないと切に願う。

 次いで、アスナの眼は密かにディアベルを射貫く。流れを止められないレイドリーダーは、その視線を受けて酷く苦々しい顔を浮かべると、ごく小さく頷いた。「あなたは動かないで」、もしくは「わたしたちに任せて」といったところか。

 俺たち三人の不遜な態度に、部屋に充満する憎悪が膨れ上がったような気がした。

 

「…………なんだよ、それ……」

 

 思わず零れたような掠れ声の主は、先ほど俺たちを元テスターだと糾弾したE隊の男。

 

「そんなの……ベータテスターどころじゃねえじゃん……もうチートだろ、チーターだろそんなの!」

 

 彼の叫びを受けて、レイドメンバーから、チーターだ、ベータのチーターだ、という声が聞こえてくる。やがてそれらはどこかで混じり、《ビーター》という奇妙な単語となった。

 

「……《ビーター》、ね。そうだ、俺は……俺たちは《ビーター》だ。これからは、元テスターごときと一緒にしないでくれ」

 

 にやりと――努めて悪く見えるように、俺は笑う。横に並んだミトが小さく鼻を鳴らし、アスナは密かに溜息を吐いた。……もしかして、《ビーター》という呼び方がお気に召さなかったのだろうか?

 二人の女性(レディ)の内心など知る由もないので、俺は後で全力で謝罪することを心に決めつつ、全体を見回す。

 敵意、そして一部の悪意の視線。ごく少数の謝意と呆れ、解っているという目を無視し、俺はおもむろに歩き出す。

 

「二層の転移門は、俺たちが有効化(アクティベート)しておいてやる。上の出口から主街区まで少しフィールドを歩くから、ついてくるなら初見のMobに殺される覚悟をしとけよ」

「お()りはしないから、町の転移門を使うことをお勧めするわ」

 

 ふわりと栗色の髪を靡かせて、アスナは俺の隣を悠然と歩く。そのまた隣には、ミトが澄まし顔で並んでいた。

 狭い螺旋階段を上る間、俺たちは無言で、下から(かす)かに響く怨嗟と、それを宥めるディアベルの声を聞いていた。

 だが、出口――第二層への入り口を開け、その柔らかな緑の香りを胸一杯に吸い込むと、不意に言葉が零れ出た。

 

「……ところで、三人で行く流れになったけど、ミト……さん、あんたも一緒に行くのか?」

 

 俺の問いに対し、返って来たのは溜息。大鎌使いは呆れた表情で言う。

 

「ミトで良いわよ、キリト。勿論、私も一緒に行くわ」

 

 ここまで巻き込んでおいて――自分から巻き込まれに行った気がするが、彼女も恐らくアスナを想っての行動だろう――今更でしょ、と言わんばかりの声色。それもそうか、と俺は納得しつつ、もう一人のパーティーメンバー……《ビーター一味》の曲刀使いに声を掛ける。

 

「良いけどさ……アスナ、キミも良いか?」

「……うん。ミトさんなら……だ、大丈夫。たぶん」

「なんでまたさん付けに戻っているのよ。……あなた、ボス戦での勢いはどうしたの?」

「ぅ、ん……その、つい口が滑ったというか…………すみません頭真っ白で何を言ったのか覚えてないです……」

 

 アスナの別人レベルの変貌に、俺は眩暈のような感覚を味わった。ミトも、額に手を当てて何かを(こら)えるように顔を顰めている。

 

 いくつか疑問が増えた。

 知りたいことができた。

 新たな希望が生まれた。

 そして、役目を負った。

《ビーター》……卑怯な元ベータテスターの名と姿は、すぐに広がるだろう。男である俺はともかく、最前線のプレイヤーで女性は非常に珍しく、またその優れた容姿から、アスナとミトは細かい特徴まで広がって、安全圏である町や村で行動しづらくなるかもしれない。彼女たちと行動するなら――そして自分も敵意を引き受けると決めた以上、俺はそれらの制約を承知の上で、このデスゲームを生き抜かなければならない。

 辛く、大変であることは容易に想像できて――。

 ――それでも。

 

「それじゃ、行こう、キリトくん……ミト」

「えぇ。さっさと門を有効化して、いくつかクエストも受けておかないとね」

「あぁ……そうだな――」

 

 俺は、この胸に希望を抱えて。

 キミたちと、明日へ歩き出す。

 

 






 ソードスキルのライトエフェクトは一部間違っているかもしれぬ。

 誤字報告ありがとうございます。
 ただ、SAOでは《コボルト》ではなく《コボルド》と表記されているので、その点の修正は不要です。
 作品やゲームによってコボルトだったりコボルドだったりするからややこしいねんな……。

 申し訳ないが次話はかなり時間が飛んで、月夜の黒猫団の話です。
 二層の強化詐欺はイッチが遭遇したら掲示板でネタばらしされて一瞬で終わるし、三層からのエルフクエはまだ原作が終わってないから書けぬのだ……。


 Q.なんでイッチはカタナが好きなの?
 A.かっこいいから(中二病並の感想)

 Q.IFみたいにディアベルは攻略組から一時離脱しないの?
 A.彼にはリーダーとして反ベータ派を中心とした攻略組を纏めながら、じわじわと意識改革を進めつつ、全体の攻略スピードを調整して貰います。
  ただ、キバオウは最初(代理取引の少し前くらい)からディアベルと協力関係にありましたが、攻略組を一つに纏めるのは不可能だと判断し、比較的自分と近い思想の人間、またはディアベルについて行くことに疑念を覚えている人間を集め、《ALS》を作ります。結果、反ベータ派の《DKB》、使えるなら誰でも使う《ALS》の二大ギルドに分裂します。
  ただ、トップであるディアベルとキバオウは一応協力関係を続けており、二人で最前線のプレイヤーたちの舵取りをある程度行いつつ、キリトたち三人や、エギルら中立派閥の力を借り、攻略を進めていきます。
  ……25層で《ALS》が壊滅するまでは。

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