メインヒロインにTS転生したらしいが、細剣じゃなくて刀握りたい   作:星宮ひまり

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 今回はミト視点なので初投稿です。

 前回、次は月夜の黒猫団だと言ったな。――あれは嘘だ。
 すみません、幕間的な話です。さすがに必要かなぁ、と思ったので。



『星に出会った日』

 

 

 最初にその目を覗き込んだ時。

 私は、こんなにも美しいものが、この世界にあるのだと感動して――。

 ……けれど。

 それから一年の間に親友となり、五ヶ月の空白を置いて、あの鋼鉄の城で再会するまで。

 私は、あなたの本当のことを、何一つ知らなかったのだと――気づかされた。

 

 

 

 ――(ゆう)()()()()

 私がその名を強く意識したのは、私立エテルナ女子学院の七年生――すなわち中等科一年の最初のテスト結果が張り出された時。

 初等科よりもさらに難易度が上がった中等科初めてのテストは、特別成績を気にしているわけではない私も、多少の緊張とごくわずかな期待を胸に、張り紙に記される己の名前を探したものである。……今思えば、この時無意識に上から探し始めたのは、我ながら自信家だったというか、なんというか……。

 テスト自体は確かな手応えがあったし、なんならいくつかの教科では満点を取ったと確信するものもあったくらいだ。ゆえに自分の名前は、もしかすると一番上に記されていて――学年一位の座を獲得したのではないかと、妄想して。

 ――自分の一つ上に堂々と坐する、彼女の名前を見た。

 平均九十七点を誇る自分より上を行った、誰か。さして成績に拘泥する性格ではないのだが、それでも気になった。

 学校での友人関係は冷めたものであったため、同級生を片っ端から当たって学年主席サマの情報を得るつもりであったが、なんと一人目に声を掛けたところですぐさま件の人物の詳細を入手してしまう。

 どうやら彼女は、私と同じように孤立……いや、孤高でいるらしい。

 他者と最低限の会話しかせず、けれどもそれを疎まれていない。圧倒的なまでに美麗な容姿、特に眠たげな眼と何があっても変わらない氷の表情は、いっそ神秘さすら感じさせる。どこか浮世離れした幻想的な雰囲気は、年頃の少女を魅了してやまないらしい。

 非公式にファンクラブとやらも存在すると聞いた時は、思わず引きつった声が出てしまった――後に自分も彼女と同じような団体を作られていると知り、背筋が凍った――が、およそ同い年の人間とは思えない評価に、なるほど世界にはそんな完璧超人もいるのだと感心した。むしろ、これで身体能力自体は平均少し上程度だと聞いた時、何かの間違いだと疑ってしまったほどである。……まぁ、引き籠もりだから運動はイマイチなのだと後々気づくことになるのだが。

 ともあれ、それから何度か実施されたテストで連敗記録を積み上げ、増えていく銀メダル――無論、実際にメダルが配られることはないが――とともに僅かながらの悔しさを感じながらも、不思議と嫉妬を抱くことはなく、日々を過ごした。

 ……あの天から二物を与えられた超人は、きっと、私みたいに、ゲームなんてしないんだろうな――。

 そんな考えが吹き飛ばされたのは、中等科二年になってしばらくした頃。

 その日、私は行きつけのゲームセンターで大会に参加していた。

 調子よく連勝記録を積み上げ、大会記録更新目前まで行った私は、しかし興奮に湧くギャラリーの中に知っている顔を見つけてしまった。

 頭をガンガンと叩くような轟音に支配された娯楽場などとても似つかないその少女は、私が一年あまり意識し続けた、自分の一つ上を行く存在――。

 学校で天使だの女神だの崇められる彼女を目にした瞬間、私は大会レコードのことも忘れて筐体(ハコ)から離れ、ギャラリーに混じりながらも妙に浮いていた少女を店外に連れ出した。

 エテルナ女子の校則で、この手の施設への出入りは固く禁じられていた。ゆえに私は、このことを黙っているように、軽く脅しつけようとしたのだが――。

 彼女のライトブラウンの瞳を覗き込んだ途端、少女は「きゅう……」と可愛らしい鳴き声を零して、ふっと体から力を抜いてしまったのである。

 ……つまり、私と目を合わせて、気絶したのだ。

 

 

 

「――やー、すまんな。ちょっとびっくりしちゃって、眼を回しちったわ」

 

 近くの自販機横に設置されたベンチに腰掛け、カラカラと笑うのは、件の少女――結城明日奈。気絶していたのはほんの一瞬で、すぐに調子を戻すと、彼女は私を連れてゲームセンターから移動した。

 普段の氷の仮面からは考えられないほど快活に笑う少女に、私は言葉を忘れて硬直する。

 そんな私の様子から何かを察したのか、彼女は「ごめんごめん」と言って、続ける。

 

「校則のことだよな? 大丈夫、黙っておくよ。というか、()もあの場所にいたから咎められる側だしね」

 

 ――別に他人の一人称をとやかく言うつもりはないが、彼女が《俺》と口にするのは、どこか歪なものに見えた。

 ……ただの印象の問題だろう。学校で天使だの女神だの言われているせいだ。いや、むしろ天使と表現されているのなら、男の子っぽい一人称でも似合っているのではないだろうか。天使は両性具有らしいし。

 などと妙なことを考えていると、少女はこちらに缶コーヒーを差し出してきた。ホットの、カフェオレ。反射的に受け取ると、スチール缶の熱さに取り落としそうになる。

 

「お詫びのつもり。悪いな、記録更新を遮っちまって」

「え、っと……いつから見ていたのよ?」

「五連勝していた前の挑戦者を澄まし顔で完封したところから」

 

 つまり最初から、という訳か。

 くくくっと思い出し笑いをする彼女を見る私の目に、思わず力が籠もる。

 だが、睨み付ける私に怯んだ様子もなく、彼女は忘れていたと言わんばかりに名乗った。

 

「俺は、あす……結城明日奈。あんたは?」

「……私は、()(ざわ)()(すみ)

 

 一瞬、ああ、あの学年二位の、と言われることを期待して――同時に、恐怖して。

 けれど彼女――結城さんは特に指摘せず、手の中のスチール缶を空にする。砂糖の塊のようなココアを飲みきった結城さんは、近くのゴミ箱に空のココア缶を捨てると、こちらに向き直って言った。

 

「じゃ、兎沢さん。ゲームしようぜ」

「……は?」

 

 唐突な提案に、私はただ呆然と返す。

 ぎょっと目を剥く私に、結城さんは笑って続けた。

 

「中途半端に終わっちゃって、消化不良じゃない? 相手になるよ」

 

 

 

 五回対戦した辺りで「実はゲーセンで格ゲーするのは初めて」などと言い出したのだが、とてもそうとは思えないほどの腕前だった。しかも、対戦を重ねるごとにどんどん腕を上げていき、それなりに上手い方だと自負する私から何度も勝利を奪っていった。

 天は彼女に二物だけでなく三物も四物も与えていたのだろう。格闘対戦ゲームだけではない、襲い来るゾンビを銃で撃ち殺すゲームや太鼓を叩く音ゲー、レースゲーム、果てにはなぜかUFOキャッチャーやらメダルゲームまで素晴らしい腕前を披露した。

 対戦ゲームや、一人用のゲームだけではない。時には協力するゲームで、彼女は完璧なサポートをしてみせて――。

 いつの間にか私たちは、明日奈、深澄と呼び捨てで呼び合うようになり……。

 出会ったその日に暗くなるまで遊び(ふけ)った私たちの交流は、それから一年ほど続くことになる。

 ゲームセンターの近くで合流し、そのまま店か、或いは別の場所でゲームをして遊ぶ。華の女子中学生としては少々不健全な気もする交流を続けるうちに、いつしか私の中で、友達を越えて親友というカテゴリに明日奈は入っていた。

 この交友を他の人に知られたくないのか、学校では明日奈は私を無視していたが、私も校則違反がバレる可能性を考慮して、学校では話しかけないようにした。

 少々不思議だったのは、明日奈の家にお邪魔した際、彼女の家族から「明日奈を宜しく頼む」と言われたことだが――あのときの私は、ただ単純に「明日奈の初めての友人に対し過剰に反応しているだけ」だと思い、深く考えることはなかった。

 ――そんな生活が変わったのは、中等科三年の夏のこと。

《ソードアート・オンライン》のベータテストが開始する、その前日。

 

「悪い、明日から遊べなくなるわ」

 

 唐突に告げられた絶交宣言にも取れるそれに、口の中が干上がる感覚を味わう。喉が焼けたようで、漏れ出る息は言葉にならず、ただ魚のようにパクパクと口の開閉を繰り返す。

 

「あー、違う違う。ちょっとやることがあって、しばらく忙しくなるといいますか……」

「……、紛らわしいのよ!」

 

 ごめんごめん、と形だけの謝罪をする明日奈に、私は溜息を一つ。

 明日から――その言葉に、一瞬、SAOのことかな、と考えて。さすがに超幸運な千人がこんな近くにいるわけないか、と尋ねるのをやめた。

 恐らく、家のことだろう。であれば私が口を挟むのは憚られる。だから、当たり障りのない言葉を掛けた。

 

「そ。なら、落ち着いたらまた、遊びましょ」

「おう。九月からは大丈夫だと思うから、そしたら、またここに集合だな」

 

 ……やっぱりSAOのベータテストなのでは?

 再度浮かんだ疑問を私が口にするより早く、明日奈が口を開く。その表情は、私と二人で遊ぶ間は全く見せなかった、氷の仮面のようで――。

 

「……あんまり、俺の言葉を信用しない方が良いぞ」

 

 ――それが、私たちが現実世界(リアル)で交わした、最後の会話だった。

 

 

 

 そして、十二月上旬。

 浮遊城アインクラッドの第一層。一つ上の層へ繋がる迷宮区タワー、その最寄り町である《トールバーナ》にて、私たちは再会する。

 彼女の隣には、《キリト》というベータ時に聞いた覚えのあるプレイヤーネームの少年。終始彼に隠れるようにして私と接する彼女は、しかし戦闘中は戦乙女のように美しく敵を屠る。

 明日奈のVRゲームでの戦闘スタイルは見たことがなかったが、こんな風に戦うのだろうという信者じみた妄想をそのまま切り取ったかのような姿に、よく知りもしない男の子がいるにも関わらず、思わず己を隠すフード付きケープを取り去ってしまった。

 そのままの勢いで同じくフードで顔を隠す彼女に詰め寄り、その容姿を晒すように迫ったのはさすがにやり過ぎだったと思うと同時、ファインプレーだったと賞賛する自分もいる。

 そして、邪魔な灰色頭巾が持ち物欄(ストレージ)に消えて、見覚えのある可憐な容姿が露わになった時、私は感極まって抱き締めてしまった。

 だが――。

 

「あの……だれ、ですか?」

 

 彼女の困惑と緩やかな拒絶に、私は心臓を握りつぶされたような感覚を味わった。

 

「ん……ごめん、忘れて。――おやすみなさい、深澄」

 

 他人(キリト)の前だからしらを切ったのかと思った私は、半ば強引に彼女の泊まる宿に押しかけ――その夜の語らいの最後、異様な雰囲気を纏う彼女の言葉に、私は何もわからなくなってしまった。

 でも。

 だけれど。

 

「ボスは()()()たちがなんとかします。――大丈夫。この戦いは、勝てます。落ち着いて、一体一体を確実に処理していけば、あなたたちの問題にはならないはずです」

 

 その声で、姿で。

 どこか、この世ならざる魅力を醸して。

 人々を引きつけ、奮い立たせる少女は――あちらの世界(リアル)で何度となく目にした、孤高の少女であり。

 

「というか、ね……元ベータテスターって、あんな素人連中と一緒にしないでほしいのだけれど」

 

 冷然と悪を演じる姿すら、私は懐かしさ――或いは親しみを覚えてしまう。

 あくまで演技だからか、それともその役回りが存外に似合っていたのか。

「お()りはしないから、町の転移門を使うことをお勧めするわ」――そう言い捨てた彼女の口元が不敵に――或いはどこか楽しそうに歪んでいたことに、彼女は気づいていただろうか。

 その理由が、独りでないことにあるのなら――少しだけ、期待しても良いのかもしれない。

 彼女の心に触れるために。

 彼女の抱えるものを、一緒に背負うために。

 

「それじゃ、行こう、キリトくん……ミト」

 

 氷の仮面は、少しだけ……ほんの少し、ひと欠片だけ溶けて。

 淡い微笑みを浮かべた()()()は、私の記憶にあるどんな表情より、輝いていた。

 

 





 Q.ミトさん!? バカな、奴は協力ゲームのできない敗北者では……?
 A.イッチが誘って無理矢理やったらトラウマが吹き飛んでしまった。仲良きことは美しきかな。

 Q.どうでもいいけど、イッチはカフェオレよりココアの方が好きなの?
 A.ミトの好みはわからないけど、とりあえず自分が好きな方をあげよう、みたいな感じでカフェオレをあげました。つまりイッチはカフェオレの方が好き。もし嫌な顔されたらココアと交換するつもりだった。
  そしてミトは「この子にこの手の飲み物(インスタント系)は似合わないな……」とぼんやり思っていたり。


 次回こそはきちんと月夜の黒猫団編で、掲示板形式です。
 いつの間にか小説形式の方が多くなってたな……でもこれからも小説形式の方が多くなりそうなんだよな……まぁいいや。

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