メインヒロインにTS転生したらしいが、細剣じゃなくて刀握りたい   作:星宮ひまり

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 なぜか久しぶりな気がするキリト視点なので初投稿です。

 視点切り替えのために区切ったら短くなりすぎた。これ、前回とくっつけた方が良かったのでは……?



『月夜の黒猫団』

 

 

《月夜の黒猫団》の問題――前衛の不足を補うために、槍使いの少女・サチを盾持ち片手剣士に転向させる計画は、当初俺が考えていたよりも難航した。

「キリトくんが普段盾を持たないのがいけないんじゃない?」とアスナに突っ込まれたが、問題はそこではなかった。

 VRMMOであるSAOの近接戦闘は、数値的なステータス以上に、本人の性格、資質――凶悪なモンスターと至近距離で相対しても怯まず剣を向けるため、強い精神力が必要だ。

 サチはおとなしい性格で、モンスターと戦うときもおっかなびっくりという様子だった。「動きをよく見て盾の向きを合わせれば、大ダメージを喰らうことはない。見かけほど恐ろしい存在ではない」という俺のアドバイスも、「盾の後ろに隠れていれば良い」という黒猫団の励ましも、大してサチの恐怖心を軽減することはできなかった。

 手伝いの三日目、俺はギルドリーダーである《ケイタ》に、サチが前衛に向いていないことを伝え、他のメンバーが前衛に転向できないかと問うたが、答えは「難しい」というものだった。

 ステータスの振り直しが容易ではないゲームで大胆にビルドを変えるとき、普通は新しく《キャラクター》を作り直すものだ。だが、SAOは一人一キャラであり、ステータスの振り直しも現状不可能であるため、必然、中途半端になるが多大な時間と金銭をかけて変えていくことになる。

 前衛、特に盾役に必要なのは防御力であり、レベルアップ時に振り分けられるステータスでは高防御力の金属防具を装備できるように筋力(STR)を上げるのがセオリーだ。すでに前衛を務めているテツオはともかく、短剣持ちの盗賊スタイルであるダッカーはAGI優先、棍使いのケイタはバランスタイプ、残る両手槍装備のサチとササマルはどちらかといえばSTR重視だったため、スポットが当たった。結果、スキル修練度を比べて低かったサチが転向することになったが、この際、逆にした方が良い……という俺の考えは、他ならぬサチが否定した。

 

 ――頑張りたい。みんなの役に立ちたい。期待に、応えたい。

 

 黒猫団の皆と離れたところで想いを語ったサチに、俺は頷くことしかできなかった。

 転向計画六日目になると、盾での防御を重点的に鍛えたおかげか、サチはなんとかモンスターに立ち向かうことができていた。それが恐怖心をギリギリで誤魔化しながらのものであっても、彼女は「頑張りたい」一心で――或いは皆からの言葉ならぬプレッシャーを感じていたのか、ひたすら自分を鼓舞して、戦闘に臨んでいた。

 他の黒猫団のメンバーにはサチに負担をかけないような戦い方を教示し、ギルド全体での戦い方を安定させていく。――表面上、それは上手くいっていたと思う。俺が手伝わなくなっても、ゆっくりと経験を重ねていけば、いずれは攻略組に追いつくほどの技術を手に入れられるだろう。

 

 

 

 六日目の夜。俺は黒猫団が拠点にしている宿で部屋を取り、明日の計画を立てながらアスナたちとメッセージでやりとりしていると、扉をノックする音が来客を知らせてきた。

 続いて外から聞こえてきたのは、サチの声。

 

「ちょっと良いかな、キリト」

 

 夜に少し年上――黒猫団のメンバーは全員高校生らしい――の異性が訪ねてくるという状況にわずかながら心臓の鼓動を早めるも、俺はここ半年で鍛えられまくった精神力を駆使して平常を装い、扉を開ける。誰とは言わないが見目麗しい友人たちには速攻でバレる俺の偽装は幸いサチには通用したようで、黒髪の少女は(かす)かな笑みを見せて「ごめんね、中で話させてほしいの」と言う。

 現実世界では決してあり得なかったであろう状況に困惑しつつも、サチを部屋に招き入れる。パタンと扉が閉まる音が、静かな夜では良く響いた。

 手頃な椅子があったのでサチを座らせると、パーティーの女性陣(主にミト)によって鍛えられた《システム外スキル:おもてなし》を駆使して、俺はパーティー共有のアイテムタブ――かなり前、ミトの提案により共有物資の保管目的で作られたが、今では誰かが使うかもしれないという万能の言い訳のせいで汎用の素材やら珍しい道具やらでごちゃごちゃになっている――に適当に放り込まれていた未使用のマグカップを取り出す。《旧き神樹の黒壺(ポット・オブ・テオブロマ)》というアスナお気に入りのポット(そこそこ希少なのに三人とも持っている)を使って中身を注ぐと、零さないように気をつけながらサチに渡した。

 サチはマグカップを受け取ると、その香りにパチパチと目をしばたたかせ、それから恐る恐る口をつける。

 

「……ココアだ」

「ああ。結構美味いよな、俺のパーティーでもよく飲んでいるんだ」

 

 しばらくの間、サチと俺はほろ苦くも甘い味を楽しんだ。

 だが、俺のカップの中身が三割ほどまで減った頃、サチがぽつりと零した。

 

「ねぇ、キリト。どうしてキリトは、私が片手剣士に転向することを……黒猫団を強くすることを、手伝ってくれるの?」

「え? うーん……」

 

 サチの問いに、俺はしばし思考の海に沈む。

 あの時、俺は危なっかしいパーティーを見て……彼らが一つの戦闘に勝利した時の喜ぶ様子を見て……彼らの雰囲気を肌で感じて。もしかしたら、彼らの意志、目標を聞いて、期待したのかもしれない。

 ――閉塞的な最前線の雰囲気を、変えてくれるかもしれないことを。

 ――ディアベルが目指して、志半ばで折れてしまった改革を、再開させるきっかけとなることを。

 ……二十五層での事件以来、仲間以外の全てを疑い、常にヒリついた空気が充満する攻略組を、また昔のように――ALSとDKBが互いを意識しながら、競い合って、汚いビーターや中立派に出し抜かれて奮起したり、難しいギミックに対して情報交換しながら挑戦したり……そう、《みんなで攻略》していた、あの頃の先頭集団(フロントランナー)たちを思い出させてくれると、俺は期待したのだ。

 そんな、彼らには関係の無いことを勝手に期待するのは間違っているし、そもそも当事者の一人たる俺自身が動いてどうにかすべきことだ。それがわかっていても、期待することを止められなかった。

 ……素直にその想いを伝えることはできなくて、俺は誤魔化すように指先で頬を掻くと、極めてマイルドな答えを口にした。

 

「まぁ、攻略組の一員として、未来の戦力をこんなところで燻らせておくのが惜しかったから……かな」

「……そっか」

 

 果たして俺の答えに何を感じたのか、サチは小さく呟くと、薄く微笑んだ。

 それから、またしばらくの静寂。

 俺のマグカップから黒い液体が消え、舌の上に残っていたほろ苦いカカオの味も薄れた頃、不意にサチが指を振る。メニューを開く動作だ。彼女は中空に浮かんでいるであろう俺には見えない画面を操作すると、クリスタルが実体化される。

 

「それは……?」

「メッセージ録音クリスタル。記録されているのはメッセージじゃないんだけど……」

 

 サチはクリスタルを俺に見せながら、コツンと指先で叩く。起動したのだ。

 そこから流れ出したのは、俺にとって聞き覚えのある声――。

 

『――が危険域(イエロー)になっている人は纏まってHPを回復させて! 余裕のある人はエギルさんの指示に従って防御態勢。ボスは私たちが食い止めます。……結晶(クリスタル)の消費を惜しまないで。生きていればいくらでも巻き返せるんです。皆が力を合わせれば、必ず、どんな怪物だって倒せます――』

 

 聞いたことのある台詞。

 馴染みがあるようで、滅多に出さない声色。

 脳裏にありありと浮かび上がる情景は、闇を引裂く星の光――。

 約二ヶ月前、アインクラッド第二十五層迷宮区のボス部屋で。俺は、この声を、台詞を――強烈な閃光を、すぐ隣で、全身に受けた。

 鮮烈な光は心の臓を揺さぶり、脳を沸騰させるほど壮烈な感情を湧き上がらせる。第二十五層ボス攻略戦は、彼女によって体制を立て直し、全滅という最悪の事態を避けられた。

 ――あの地獄のような戦いを経て、それでもなお攻略組が足を止めていないのは、彼女の放った光があったから。俺は、そう思っている。

 

「……これは、アスナの……?」

「うん。《(せい)(りん)の剣士》アスナさん。信者……重度のファンの人達が付けた名称だけど、私は《(けん)()》が一番呼びやすいかな」

 

 本人が初めてその二つ名を耳にした時、「殺して……私を殺して……」とうわごとのように呟いていたなぁ……ミトは「あなた現実(あっち)でも天使だの女神だの言われてたんだから今更でしょ」などと溜息を吐いていたが、あいつもあいつで妙な二つ名を付けられていたような……いや《あんちくしょう》だの《腐れ外道》だのほぼ罵倒のような呼び方をされる俺よりはマシか……。

 と、変なことを思い出しかけていた頭を振って思考を戻し、俺はサチに問いかける。

 

「どうして、これ……ボス戦の音声を持っているんだ?」

 

 録音クリスタルは、当然だがその場にいて音声を記録しなければならない。あのボス戦に参加していた誰かが、録音していたということだろうが……それを、どうしてサチが持っているのだろう。いや、そもそも誰が何の目的で録音などしたのか……?

 俺の疑問に対し、サチは困ったように笑って言った。

 

「アスナさんって、ほんとにびっくりするほどファンの人が多くて。攻略組の人が最初だったみたいなんだけど、アイテムでアスナさんの戦う姿を録画したことがあってね。で、それを複製したものが出回って、段々とファンクラブみたいなものができて……私のこれは、とあるしん……ファンの人がボス戦で録音したものを、分けて貰ったんだ」

「そっ……な……は……?」

 

 それはなんらかの犯罪なのでは……? と言いそうになった俺は、キラキラとした目でクリスタルを見つめるサチを前になんとか口を噤む。

 アスナの人気は、パーティーを組んでいる俺も実感している。「アスナ様にふさわしくない」「剣姫は全体の先頭に立つべきだ」などと実際にパーティーの解消を迫るように他人から言われたことがあった。さらにアスナは、《最強の男》などと噂され始めたギルド《血盟騎士団(KoB)》のリーダー・ヒースクリフに「私のギルドで副団長(No.2)をしないか」と勧誘されたことがある。もちろんパーティー解散はしなかったし、ヒースクリフの誘いも――俺たち全員をギルドに勧誘していたので、パーティーを解散する必要はないと奴は言っていたが――断ったが。

 

「いけないことだって、ホントはわかってるよ? でも……これ、お気に入りなんだ。アスナさんの声を聞いていると、勇気が出てくる……私も頑張らなきゃって、思えるんだ」

 

 俺も、彼女に勇気づけられたことは、一度や二度では済まない。攻略組の、特にボス戦で会うことの多いメンバーも同じだろう。いや、サチの(げん)を信じれば、攻略組の中には信者と称されるほどのファンがいるらしいが――そんなものに発展するほど、彼女のここぞというときの存在感は凄まじい。

 一度アルゴに調査を依頼して、やばそうだったらおど……じゃなくて、話をしにいこう……と心のメモに書き込んでおく。

 そんな俺の思考など知る由もなく、サチは目を閉じてクリスタルから流れる声に耳を傾ける。

 大本のアイテムに編集機能が付いていなかったのか、状況を想像しやすいようにという配慮なのか、クリスタルに記録されていたのはアスナの声だけではない。攻略組精鋭の雄叫び、各種スキルの効果音、それに――俺やミトの声。

 

『右腕注意! アスナ、パリィ一緒に!』

『了解! キリトくん、攻撃お願い!』

『オーケー! アスナ、ミト、ミスるなよ……!』

 

「ふふ。これ、キリトだよね?」

「うぐっ」

 

 なんというか、こうして自分の声を聞くのは恥ずかしい。しかもボス戦では気分が高ぶって妙なことを口走っている可能性もあるし……できれば今すぐ止めてほしい。

 だが、サチの弧を描く口元を見ると、そんなことを言えるはずもなく……。

 結局、永遠にも思える――実際には五分ほどだろうが――時間が過ぎて音声が切れるまで、俺は苦い顔を両手で覆っていた。

 

 

 

 翌朝、六月一日。俺がサチを盾持ち片手剣士へ転向させる手伝いを始めてから、ちょうど一週間。

 気合いを入れて最終日に臨もうとした俺を引き留めたのは、一通のメッセージだった。

 

【サチがいなくなった。探すのを手伝って欲しい】

 

 送り主は《月夜の黒猫団》のギルドリーダーであるケイタ。

 ギルドメンバーに対する追跡機能を使えばすぐに場所が判明するのだが、どうやらサチは追跡不可の場所にいるようで、ケイタは《圏外》――それも迷宮区に探しに行くらしい。理由は二つで、一つは迷宮区が一番よく知られた追跡不可の場所だから。もう一つは、いつもの戦闘訓練及びレベリングを行っている場所だからだ。

 いつもの場所は、俺がいるからしっかりとした安全マージンを確保できていただけだ。ケイタと、彼を心配したテツオの二人だけで迷宮区に行くことに不安を覚えた俺は、アスナとミトに――リズベットを省いたのは、彼女が鍛冶と商売で忙しいと思い遠慮したからである――事情を説明し、手を貸して貰う。

 少人数パーティーであり、それぞれの気質もあってか、俺たち三人は全員《索敵》スキルを取得し、《応用能力:追跡》のModを使える。もしサチが某かの追跡阻害アイテムを用いていたとしても、最前線で鍛えた俺たちのスキル修練度であれば問題ないはずだ。

 頼れる二人にサチの追跡を任せ、俺はケイタとテツオを追いかけ迷宮区へ向かった。願わくば、アスナかミトが、或いは主街区で聞き込みをしてサチを探すササマルとダッカーが、早く見つけてくれますように……。

 

 この時、なりふり構わず、知り合い全員に助けを求めていれば――。

 後になっても、そのIFの答えは、俺にはわからなかった。

 

 





 アイテム名は適当なので突っ込んではならない。良いな?

Q.二つ名……草
A.イッチのは眼を灼かれた奴らが集まって呼び名を決めたため、ストッパーがおらず《女神》やら《星燐の剣士》やら《光の天使アスナエル》やら呼ばれるようになりました。その中で比較的マシな《剣姫》と《流星》が一般的な感性を持つプレイヤーにも使われる二つ名です。
 ミトは《紫苑の鎌使い》辺りが無難な呼び方。ただ、一部界隈では《お姉様》だの《百合の王子様》だの言われているとかいないとか。
 ちなみにキリトくんは《黒の剣士》《黒ずくめ》《ビーター》の他に、《ハーレム野郎》《両手に華のあんちくしょう》《百合の間に挟まるゴミ》など散々言われていたり。
 三人揃って《ビーター一味》と呼ぶ人は減りましたが、代わりに《剣姫と従者》《あの三人組》などと呼ばれている。あと《三つ星》《三星一剣(トリニティ)》と呼ぶ人が一部いる。

Q.二十五層ボス戦でなにがあったの?
A.KoBの登場に焦りを覚え、さらにDKBと関係が悪化していたALSは、偽情報に踊らされ、ボス戦で壊滅状態に陥る。遅れて駆けつけたDKBやKoB、その他攻略組の部隊もボスの強さと凶悪なギミックによって多数死者を出す中、イッチ、キリト、ミトの三人でボスを対処。一層ボスの時と同じようで、さらにハイレベルになった光景と、三人……特にイッチの強烈な光に攻略組は目を灼かれた……それだけの話。

Q.キリトくんも光ってる……ってコト!?
A.光は連鎖する。というか、キリトもミトも揃って三つ星なんやで。


 あ、そうだ。予想があっていた人はおめでとう。嬉しいかはさておき。
 最近感想返信ですっとぼけてばかりだぜ。あっているかはさておいてな!



「あ、すみませーん! そこの短剣持った兄ちゃん、この辺りで黒髪の女の子を見なかったか?」
「んー? どうしたんだ?」
「ちょっとギルドメンバーが行方不明でさー。あ、オレ、ダッカーってんだけど……」
「へー、それは大変。ギルドの追跡機能は使ったかぁ?」
「うん。でも追跡不可って出ちゃってさ……みんなで探してるんだけど、迷宮区にでも行っちゃったんか……?」
「……そかそか。で、その子はどんな特徴なんだよ?」
「黒髪のセミロングでー、オレと同い年でー、右目の下に泣きぼくろがあって……あと、片手剣と盾を持ってたはず」
「……、あぁ、その子なら見たぜ。ここより上の層だけど、確かに圏外に向かってたな。案内してやるよ」
「え、マジ? サンキュー!」
「いいっていいってェ。あ、キミその子と仲いい? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()けど、恋愛模様とかぁ、どうなってんだ?」
「え? 別に誰かが特別な仲ってのは……あ、でもリーダーはサチと家が近いみたいで、そういう意味なら一番仲いいんじゃないか?」
「ふぅん。……くっ。あのさぁ、なら、ちょっと二人の仲、後押ししねえ? 迷宮区でピンチの少女を、さっと助ける! みたいなぁ?」
「え?」
「あーでもリーダーだけ呼んでも意味ないか……いや、でも確かヘッドが…………そうだ」
「あの……?」
「んーなんでもないぜぇ。あ、オレそこそこ強いから、上の層の迷宮区でも大丈夫だぜ。さっさと迎えに行ってやろう! な?」
「あ、うん。ありがとう」



「……ボス。どうしてあんな、大した稼ぎでもない、ギルドを狙う……?」
「いやいや、もともとオレたちゃ金品目当てで襲う盗賊じゃねえんだからさぁ。今更殺しに実利を求めるのもおかしな話っしょ?」
「……お前には、訊いていない」
「コルが目当てなわけじゃねえ。ちっと見たいものが……確かめたいことが、あってな」
「へぇー、恋っすか?」
「……黙れ」
「いや……ハ、あながち間違いでもねえかもな」
「……は?」
「ひょ?」
「クク……(はかりごと)としては落第も良いところだが、さて、ブラッキーはどんな顔を見せてくれるかな」
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