メインヒロインにTS転生したらしいが、細剣じゃなくて刀握りたい   作:星宮ひまり

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 コペルの口調をうろ覚えで書いたので初投稿です。

 誤字報告ありがとうございます。助かります。

 クエストのクールタイムの設定がよくわからんのだが、調べる限り、そもそも花付きの出現が二十四時間に一体、実付きを割れば追加で湧くかもって感じ……らしい?

 手元に八巻が無くほぼ薄れた記憶と捏造設定で書いたので続きません。


『硝子の音』

 

 

 硝子の砕けるような音を散らして消滅する植物モンスター《リトルネペント》を尻目に、俺は剣に付いた汚れを振り払うような動作をして、背の鞘に戻す。

 

「百体目、っと……」

 

 呟き、思わず顔を顰めた。

 

「なかなか出ないね、《花付き》」

 

 背中に掛かる(ぎん)(すず)のような澄んだ声には、しかしいくらかの疲労の色が混じっていた。

 曲刀使いの相棒、プレイヤーネームをアスナという彼女――そう、プレイヤー手製の仮想体(アバター)を失いスキャンによる現実の体を再現された現在のSAOにおいて、非常に珍しい()()()プレイヤー――は、俺と同じように刀身の血を払うような動作を介して武器を鞘に収める。

 ゲームマスターである茅場のデスゲーム宣言から、すでに三時間。

《はじまりの街》でクラインと(しば)しの別れを告げた俺たちは、宣言通り次の村――はじまりの街から北西にある森にほど近い《ホルンカの村》に到着し、すでに狩りを始めていた。

 狙いは《花付き》と呼ばれる、頭頂部に花を咲かせたリトルネペント。そいつの落とす《リトルネペントの胚珠》というアイテムが、強力な片手直剣を報酬としたクエストのクリアに必要なのだ。

 だが、《花付き》の出現率は一パーセント以下と言われており、俺たちも狩りを始めてからちょうど百体目のネペントを倒したが、未だ《花付き》はお目にかかれていなかった。

 

「……悪いな、付き合わせて」

 

 片手直剣使いの俺とは違い、アスナはこのクエストをクリアする意味は薄い。

 

「気にしないで、パートナーでしょ。このクエスト、キリトくんの強化には必須だからね」

 

 可憐な少女の口から飛び出した《パートナー》という言葉に一瞬思考が停止しかけ、しかし自分もそれを口に出して肯定していたのだと思い直す。

 クラインには勢いで言い返したが、今になって思い返すと、我ながら大胆な発言だ。いやいやこれはアスナが最初に言い始めたことで、俺はそれに乗っかっただけであり……と誰にするでもない言い訳じみた思考を打ち切り、俺は《索敵》スキルを起動した目で周囲を見渡す。

 

「……近くにはいないな。少し移動――」

 

 言いかけ、視界の端に何かが掠めたことに気づく。

 咄嗟に背中の剣に手を伸ばし、その異物をじっと見つめて――俺が行動を起こすより早く、向こうが動いた。

 

「あ、待ってくれ! 僕はプレイヤーだ。オレンジでもない」

 

 犯罪者(オレンジ)――NPCやプレイヤーに何らかの犯罪行為を行い、頭上のカーソルがグリーンからオレンジ色に染まった者のことを指す。ゲーム開始から半日も経っていない現在、それを知っているのはよほど公式サイトを含む様々な媒体の情報を洗った者か、もしくは――。

 

「あんたも、ベータテスターなのか?」

 

 果たして、彼は俺の言葉に首を縦に振った。

 

「うん。そして、剣……《アニールブレード》を求めて狩りをしていた。君たちもそうだろ?」

 

 彼の質問に、俺は頷いて肯定する。

 俺の反応を見た彼は、「そこで相談なんだけど」と続けた。

 

「一緒に狩りをしないか? ほら、長いことやってると集中力が切れて、危ないかもしれないし」

「……あぁ、確かにそうだな」

 

 俺たちは二人だから、いざという時もなんとかなるかもしれない。だが彼は一人(ソロ)だ。不安なのだろう。

 周囲が暗く、視界の悪い森であることも含め、味方は多い方が良い。

 ――味方。

 首の裏で何か弾けたような感覚がして、俺は無意識に手を当てていた。

 

「……どうだい?」

 

 問われ、俺は咄嗟に肯定しようとして――一度、止まる。

 ……そういえば、さっきからアスナが静かだな。

 彼が現れてから無反応を貫く相棒の姿を探し、俺は視線を右に左にと踊らせる。だが、美しい栗色の髪は俺の視界に映らなかった。

 はて、彼女は《隠蔽》スキルでも持っていただろうか?

 そんな疑問は、しかし背後からの囁き声に吹き飛ばされた。

 

「……私は、キリトくんの決定に従うよ」

「うおぁ!?」

 

 思わず体が跳ね上がり、剣の柄に手が伸びた。

 だがこの震えた声の主は、つい先ほど俺が探していた件の人物である。

 ……そういえば、はじまりの街の広場でアスナが始めてクラインと話した時、彼女は俺の後ろに隠れていたっけ。

 街の外、それも暗い森の中で驚かせるようなことはやめて欲しい――と口に出すのは、彼女の怯えきった目を見て思いとどまった。

 表情は、凍ってしまったかのように眉一つ動かない。

 だが、そのライトブラウンの瞳には、隠しきれない恐怖が覗いて――。

 

「ええっと……?」

 

 背後からの困惑の声に、俺は弾かれたようにアスナの目から視線を逸らす。

 そして、答えを待っている少年剣士に向き直ると、やや温度の上がった気がする頬を指先で掻きながら、取り繕うように返事をした。

 

「あー……一緒に狩りをしよう。宜しく」

 

 

 コペルと名乗った剣士に俺たちは名乗り返し――俺は普通に、アスナは俺の背中に隠れながら小声で――、軽く打ち合わせをした後、五十体ほどネペントを狩った。

 三人もいれば、かなり余裕を持って狩りができる。回復ポーション(ポット)の使用回数も減り、それぞれの武器耐久値も、ソロやコンビで戦うより消耗していないだろう。

 だから、だろうか。

 数時間と探し続けた《花付き》の横に、赤い実を丸々と付けたネペントの姿を見つけた時も、さほど危機感を抱けなかった。

《実付き》と呼ばれるそいつは、《花付き》の花の代わりに頭頂部に実を付けたネペントだ。普通のネペントと戦闘力に違いはないが、厄介なのはその《実》で、少しでもその実を傷つけるとたちまち破裂し、中から溢れ出す臭いが周囲のネペントを呼び寄せてしまうのだ。

 範囲は――βから変更がなければ、だが――恐らく森の七割を包むほど。三人でネペントを狩りまくっていたとはいえ、それだけの範囲から敵が押し寄せてしまえば、少人数でどうにかできるものではない。

 だが、頭上の実を壊さないように気をつけさえすれば問題ない。そう判断し、俺は素早く相棒に声をかける。

 

「頼めるか、アスナ?」

「了解」

 

 相棒は素早く答え、腰の曲刀を引き抜き《実付き》へと突っ込んだ。彼女が《実付き》の胴体に刃を滑らせて敵対心(ヘイト)を奪うのを視界の端で捉えつつ、俺はコペルに向き直る。

 

「アスナが《実付き》を抑えている間に、俺たちで《花付き》を狩ろう」

「……、あぁ」

 

 少しだけ歯切れの悪いコペルに僅かな違和感を覚えるも、待望の《花付き》の魅力を前に些細な思考は押し流されてしまった。

 

「あれを狩ったら、あと一体倒すだけだ。大丈夫、すぐ見つかるさ」

「そうだね……」

 

《花付き》を素早く狩るために、片手剣基本突進技《レイジスパイク》を構えて――。

 俺より早く構えを取っていたコペルが、《ソニックリープ》で飛び出した。

 低い位置で完結する《レイジスパイク》と違い、《ソニックリープ》は若干の()()が存在する。アスナがターゲットを取って離してくれているとはいえ、《実付き》の近くでそれはあまりにも迂闊ではないか――。

 そんな俺の思考を、ぽしゅん、という気の抜けた音が打ち切った。

 

「なに、して」

 

 呆然としたアスナの声。

 そして。

 

「……ごめん」

 

 謝罪が欲しいわけじゃない。

 どうして間違って《実付き》に突っ込んだのか、《ソニックリープ》じゃなくて《レイジスパイク》なら大丈夫だったかもしれないのに、わざわざあんな跳び上がるようにソードスキルを放たなくても……いや、そんな思考を回している場合ではない。

 実が割れた。

 その実感が、嫌に甘い臭いが鼻先を(くすぐ)ったことで湧き上がる。

 

「――っ」

 

 苛立ちをぶつけるように地を蹴って、《花付き》の胴を左から薙ぐ。薄青いライトエフェクトで加速された剣は運良くクリティカルを叩き出し、《花付き》のHPを一瞬で刈り取った。

 技後硬直(ポストモーション)のもどかしさを誤魔化すように、俺は素早く周囲へ視線を滑らせる。

 実の割れた《実付き》を、曲刀の刃を(ねじ)り込むようにして斬り倒すアスナ。

 俺に背を向け、身を縮めて走り出すコペル。

 そして――木々の間を縫って、大きな口をニタニタと歪める植物の怪物たちが、まるでじらすような速度で迫ってくる。

 MPK(モンスター・プレイヤー・キリング)

 MMOにおいて悪質な迷惑行為とされるそれが、現状の真実か。

 徐々に体が透明になっていくコペルに、俺は酷く乾いた声で、言った。

 

「知らなかったのか、お前……ネペントに、《隠蔽》スキルは……効きにくいって……」

 

 ネペントは嗅覚で敵を察知する。

 ゆえに、視覚しか誤魔化せないであろう今のレベルの《隠蔽》スキルでは、ネペントから逃れることはできない。

 

「――ッ、アスナ!」

 

 背中は任せた。

 言葉に出すより早く俺は彼女に背を向け、近くのネペントを片手剣基本技《ホリゾンタル》で斬り払った。

 

「なんで、だって、死んだら死ぬって、言われたのに……?」

 

 背後から、絞り出したような声が聞こえる。

 ――あぁ。俺も、可能性を考慮していなかった。

 デスゲームになったSAOで、進んでPKをする奴なんていないと、そう思って――思いたかった。

 この世界でPKは、人殺しだ。

 あくまでナーヴギアが脳を焼き切るのだから、ゲームの中で誰がどんなことをしても関係無い――そんな言い訳は通らない。通ってはならない。

 コペルにはその考えが無かったのか。

 いや、デスゲームであるという実感が無かったのかもしれない。

 普通のゲームなら、PKしたところで現実には何ら影響は無い。迷惑行為であることに違いはないが、それでも、彼が抱く罪の意識は薄かっただろう。

 

「――っ、あぁぁああああ!!」

 

 少女が吠える。

 次いで鳴り響くソードスキルの効果音(サウンドエフェクト)とネペントの悲鳴に、俺は相棒が生存を諦めていないことを認識した。

 絶対に、生き残る。

 絶対に、生き残らせる。

 そう、強く誓って――。

 ぱしゅん、という音に、頭の中が真っ白になった。

 

「……なにやってるの」

 

 問い質す少女の声に、しかし返答は、硝子が砕け散る音だけだった。

 

 

 ――コペルが何を考えて再び実を割ったのか。最期にどんな顔をしていたのか。俺にはわからない。

 けれど、事実、俺たちは死に物狂いで戦って。

 都合三つの《胚珠》を手に、村に戻ったのだった。

 

 

 クエストNPCにクリア報告を完了した後、なんとなく動き出す気が起きなかった俺たちは、そのままクエストNPCの家で机と椅子を借り、休んでいた。

 

「……アニールブレード、三本も確保してどうするの?」

 

《胚珠》を煮詰めて薬を作成しているらしいNPCをぼんやりと目で追っていた俺に、向かいの席に座る相棒が、疲れた声で問いかけてくる。

 

「……まぁ、強化に失敗した時の予備……かな」

 

 或いは、売っても良いだろう。アニールブレードは片手直剣使いの必須とも言える武器だし、クエストの面倒臭さも合わされば、一万、いや一万五千コルは下らないはずだ。

《胚珠》を墓標代わりに一つ置いておこうかと一度考えたが、結局、俺はその行動を取れなかった。

 コペルへの恨みから、ではない。いや、恨めしい気持ちが無いとは言わないが、俺は自分たちの利益を優先した。

 前を見て、進むために。

 ……なんて、綺麗事を述べたところで、結局、俺が利己的な人間であるという事実は変わらない。

 

「というか、本当に一本も要らないのか?」

 

《胚珠》の数は奇数だから、分け合っても平等にはならないといっても、俺が全取りするのはパーティーとして否だろう。そう判断してアスナに分配の相談をしようとしたのだが、彼女は受け取りを拒否したのだ。

 俺の問いかけに、しかしアスナは溜息でもするように言葉を吐く。

 

「曲刀使いの私が持っていても仕方ないでしょ。転向する気もないし」

「でも、売ればかなりの金額になると思うぞ」

「キリトくんが代わりに交渉してくれるなら金額だけ受け取るけど。勿論、手数料は引いて良いからね」

 

 ……あぁ、そういう。

 店売りでは大した金額にならないだろうし、利益を上げたいのなら必然的にプレイヤー間の取引になる。人見知りらしいアスナはそれを嫌ったのだろう。

 納得した俺は、それ以上何も言わず、またぼんやりとNPCの姿を追い始めた。

 ……さすがに、天使もかくやと思わせるほどの美少女を真正面から見続けていられるほど、俺の心臓は強くないのである。

 そんな俺の心情を知ってか知らずか、アスナもまた、俺と同じようにぼんやりとNPCを眺めていた。

 ぱち、ぱちと鍋の火が弾ける音だけが、木造の部屋に響く。

 

「……ねぇ、キリトくん」

 

 ふと、アスナの声。

 視線だけ向けると、彼女はどこか虚ろな瞳をしていた。

 

「あなたはどうして、はじまりの街を飛び出したの? ……ううん、違うな。どうして、助けを待つんじゃなくて……剣を取って戦おうって思ったの?」

 

 俺が、クラインを置いてでも走り出した理由――。

 この世界で生き残るためには、強くなる必要があったから。

 ゲーマーとして、最前線から遅れることが怖かったから。

 ――或いは。

 

「現実に……あっちの世界に帰りたいって、思ったから?」

 

 アスナの問いに、すぐには答えられなかった。

 どれか一つの理由ではない。それら全てが合わさって、俺は剣を取り、この浮遊城の最上層を目指した。

 

「……そっか」

 

 俺の表情に、何を見たのか。

 アスナは抑揚の無い声でそう言って、それから溜息を一つ。

 彼女が何を思ってそんなことを聞いたのか、俺にはよくわからない。漠然とした不安か……いや、不安に思うのは当たり前か。デスゲームという非日常に突然放り込まれて、助けが来るのかもわからない。それでも剣を取って戦う選択をした彼女は、強いのだろう――。

 

「私は、ね――……」

 

 少女の声は、形を為さずに溶けて消えた。

 続きが気になってじっとアスナの横顔を見つめるが、その凍った表情は果たしてどんな感情を映しているのか、俺には読み取ることができなかった。

 

「……そろそろ、寝よっか」

 

 アスナの声に対し、俺は弾かれたように視界の右端に表示されるシステム時計を確認すると、二十三時五十五分を示していた。

 デスゲーム初日の、終わり。

 目を閉じて、眠って、また目を開けたら――現実の、あの部屋に戻って、ゲーム疲れした体で朝食を取って、部活に向かう妹の直葉を見送って、俺も制服に着替えなきゃなーなんて思いながらPCのメールチェックをして――……。

 そうなって欲しいという思いと、もし全てが夢なら、目の前の相棒は全て俺の妄想の産物ということになり――俺はフレンドを女体化させる趣味を持ったヤバイ奴ということになってしまう。

 だが、今の状況を夢だと思うのも、無理はないのではないだろうか。

 SAOがデスゲームになって、一番のフレンドは実は美少女で、しかもとんでもない人見知りで、……MPKされかけて。

 夢みたいで、夢であって欲しくて。

 

「じゃ、部屋借りよっか。一部屋で良い?」

「あぁ――…………あ、はぁああ!?」

 

 待て。今なんて言ったこの曲刀使いは。

 一部屋、つまり、なんだ、二人で同じ部屋に泊まる……ってことか? いや、いやいやいや……。

 思わず目を見開いてアスナを凝視すると、彼女は口に手を当てて上品な笑いを零した。――表情は全く変わっていないが。

 

「冗談。節約を考えた方が良いのは当然だけど、キリトくんの安眠を邪魔する気はないよ」

 

 ――真顔で言われても、あまり冗談に聞こえないのだが。

 そんな俺の心情など知らないとばかりにアスナは立ち上がり、クエストNPCの家を出る。

 ――直前、彼女の口がわずかに動き、何事かを呟く。

 

「――…………ない、かな」

 

 ギィ、という木の扉の開閉音が上書きして、彼女の声は俺の耳まで届かなかった。

 

 




 確か原作はコペルと合わせて三百くらい狩ってた気がするなぁ、と思いながら書きました。実が割れて呼び寄せる範囲ってどのくらいだっけ……わかんね。

 ところで、SAO世界ってマーケットボードというかマイショップというか、システム的なプレイヤー間の取引を総括する場所って無いのかな? 無いなら、ある程度進んだところでプレイヤーたちが自主的に取引所みたいなものを作り始めるんだろうけど。言及されてたっけ?

 Q.なんでコペルは、キリトが花付きを倒して胚珠を確保するより先に実付きを割ったの?
 A.イッチが先に実付きを倒してしまいそうだったから、焦っていた。
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