メインヒロインにTS転生したらしいが、細剣じゃなくて刀握りたい 作:星宮ひまり
キバオウの関西弁がおかしくてもユルシテ……ユルシテ……
(イッチたちが三人パーティーだと余り一になるというあまりに面白いネタが感想欄で出てきて笑いましたが、すまねぇ、イッチは途中から数えてないから四十人はおおよその数字なんだ……でも余り一が面白すぎて変えようか悩んでしまった。その場合、なんで原作より減ったのか理由付けすることになるけど)
四十五人。
それが、《第一層ボス攻略会議》に参加するプレイヤーの総数だった。
フルレイド――六人パーティを八つ束ねた合計四十八人にわずかに届かない。ベータ時の経験から語るなら、死者無しでフロアボスを突破するにはこの倍は欲しかった。
「……う、人が多い」
人の少なさを嘆く俺に対し、曲刀使いの相棒は吐き気を抑えるように口に手を当てていた。目深に被ったフードのせいで顔色は窺えないが、きっとその陶磁器のような肌は、青白く染まっていることだろう。
アスナの体調を
何とはなしに広場に集まる面子を見回し、記憶と照合。
知っている、或いは顔を合わせて会話した人間が数人程度。後は、ほとんど知らないプレイヤーだ。
これはダンジョンに籠もりっぱなしだったからではなく、人見知りな相棒への配慮だ。決して、自分も人付き合いが得意ではないからといって、これ幸いと避けていたわけではない。断じて。
と、誰に対してかもわからない言い訳を頭の中で並べていると、パン、パンと手を叩く音が広場に響いた。
「はーい、それじゃ、そろそろ会議――《第一層ボス攻略会議》、始めさせて貰います!」
良く通る声でそう宣言したのは、第一層では店売りしていない青の髪染めで彩られたウェーブ髪を流す、爽やかな男だった。現実世界と同じ容姿を再現されたSAOにおいて非常に珍しい美形であり、広場にちょっとしたざわめきが起こる。
「え……なにあのイケメン、やば……」
女子中高生のヤバイは褒め言葉だっけか、と俺は脳内辞書を
「今日は、俺の呼びかけに応えてくれてありがとう! オレの名は《ディアベル》、職業は……気持ち的に、《ナイト》やってます!」
「うわ、やば……」
どっと沸く広場の面子と正反対に、隣に座る相棒は二度目のドン引きをしていた。幸い、自称ナイト殿にはアスナの声は届いていないだろうが、ちょっと可哀想なのでやめてあげて欲しい。
「さて……会議の名目からしてもうみんなわかってると思うけど――」
彼は一度広場を見渡すように視線を動かして、一転、険しい表情を作ると、ややトーンを下げた声で続けた。
「今日、俺たちのパーティーが、迷宮区の最上階で、ボスの部屋を発見した」
途端、どよめきが広場のあちこちで起こる。
だが、そんな周囲の様子とは裏腹に、俺とアスナは落ち着いていた。
――そもそも、俺たちは三日前に、迷宮区最上階のマッピングを終えていたのだ。当然、ボス部屋の場所も確認している。準備もせずにその扉を開ける気はなかったが、マップ情報は全て情報屋――アルゴに無償で提供しているため、前線にいる全てのプレイヤーにその情報が伝わるのは時間の問題だった。
だが、《鼠》が纏めた情報を発信するより早く、ディアベルのパーティーはボス部屋を発見したらしい。――或いは、アルゴからマップ情報を買って、自分達の手柄にしたのか。真相は不明だが、恐らく前者だろう。後者を行っていた場合、会議を主催し、このボス攻略でリーダーの役を演じるディアベルの足を引っ張りかねない。
「ここまで一ヶ月もかかったけど……いや、だからこそ、オレたちは示さなきゃならない。このデスゲームも、いつかクリアできるんだってことを――はじまりの街で待っているみんなに伝えなきゃならない……。それが、今この場所にいるオレたちトッププレイヤーの義務なんだ! そうだろ、みんな!」
喝采、そして一部の雄叫び。彼ら全員が高尚な志を持っているわけではないだろうし、ディアベルの発言に心から同意しているとも限らない。けれど確かに、彼の言っていることは立派で、確かで、そして――本来、俺たち元ベータテスターがやらなければならなかったことだろう。
バラバラだった最前線のプレイヤー達をまとめ上げ、持ちうる情報の限り支援する。そうすれば、一週間、いや二週間は早く一つ上の層に上がれていたかもしれない――。
と、そんな思考は、彼の次の言葉で強引に打ち切られた。
「オーケー! それじゃ、早速だけど、まずは六人パーティーを作ってくれ!」
――はい、二人組作ってー。
何か嫌な記憶が蘇った気がする。
レイドを組むために、四十五人を八つのパーティーにしなければならないのは当然だ。勿論、役割分担をするためにも、身勝手に「俺はソロで行くんで」などと言うわけにはいかない。
……いや待て、俺はすでにパーティーを組んでいるではないか。
左端の二つ並ぶHPバーを眺めてそっと息を吐く俺に、しかし右耳に届いた声にはっとさせられる。
「四十五人、だから……六人ずつパーティー組んだら三人余るね」
アスナの口ぶりは、まるで自分達が余り物になる前提であるように思えた。
……いや、実際その通りなのかもしれない。彼女に
何目線なのかよくわからない考えを回す俺に、今度は左側から声が掛かった。
「あの……ちょっといいかしら」
透き通った女性の声。だが、アスナのものではない。
反射的に振り向くと、そこにはアスナと同じ灰色のフードを目深に被った、華奢なシルエットのプレイヤーがいた。特徴は背の大鎌だろう。威力とリーチの代わりに扱いがピーキーな武器をわざわざこんな序盤から持てるのは、恐らくベータテスターくらいか。……いや、決めつけは良くない。
彼女が声をかけてきた理由は、恐らく一つだろう。果たして俺の予想通りの言葉を彼女は投げてくる。
「パーティー、入れてくれない? どうやら周りはみんなお仲間だったみたいで、余ってしまったのよ」
「あぁ……良いぞ。こっちも二人だけで困ってたんだ。宜しく」
一瞬だけアスナに目配せするが、彼女は俺の体で隠れるように体を縮めている。その様子を見てか、大鎌使いはアスナにはわざわざ声をかけず、俺にだけ確認したのだろう。
そろそろ見慣れてきたが、相変わらずの相棒の様子に呆れつつ、俺は大鎌使いにパーティー申請を送る。ポップウィンドウを確認したのだろう彼女は慣れた様子でそれを承諾すると、Asunaの表記の下に新たな名前とHPバーが表示される。
Mito……そのまま《ミト》で合っているだろうか。
確認のために口を開きかけ、しかし俺が言葉を放つよりも先に、広場の中央から声が響いた。
「よし、全員パーティーを組めたみたいだね」
どうやら俺たちが最後だったらしい。
俺は大鎌使いへの確認を後に回し、パーティーで纏まっていることを選択したらしい彼女が俺の左隣に腰掛けたのを片目に映しながら、ディアベルの言葉を待った。
「それじゃ、ボスの情報なんだけど――」
「ちょお待ってんか」
広場のどこか遠足前のような雰囲気を断ち切って、低い声が響く。
発言主は、トゲトゲとした特徴的な茶髪を持つ、小柄ながらがっしりとした体型の男。彼は広場の人間の視線を一身に受けながらも嫌に堂々とした態度でディアベルの前まで歩くと、
「仲間ごっこを始める前に、こいつだけは言わしてもらう」
「意見はありがたいよ。でも、発言するなら一応名乗ってほしいな」
「……フン」
トゲトゲ頭は一つ鼻を鳴らすと、こちらに振り向き、まるで
「ワイはキバオウってもんや」
――瞬間、俺は声を上げそうになったのを咄嗟にこらえた。
彼の名を、俺は知っている。
以前から、情報屋アルゴを通して、俺が今装備している片手直剣《アニールブレード+6》を買い取りたいというプレイヤーがいた。相場よりも高い値段を提示してきたが、愛剣を手放す気がなかった俺は、二度目の取引依頼で値段が一・五倍につり上げられた際、迷わず相手プレイヤーの名前を買った。その時アルゴの口から出てきた名が、《キバオウ》だったのである。
自分の顔が険しくなっていくのを感じながら、俺はじっとキバオウの動きを見つめる。
そんな俺に、キバオウは一瞬、睨み返してきた気がして――果たして、彼はひりつく空気をさらに重いものへ変えながら、視線を全体に直し、一層ドスの
「こん中に、詫びぃ入れなあかん奴らがおるはずや」
「詫び? 誰が、誰にだい?」
「決まっとるやろ! 元ベータテスターどもが、今まで死んでいった二千人に、や!」
キバオウの怒声に、広場は静まりかえった。NPC楽団の奏でる町内BGMと、プレイヤー達の低い息づかい、僅かな衣擦れの音だけが風に乗って耳に入ってくる。
誰もが押し黙った中で、キバオウは今一度全体を睥睨すると、続けた。
「ベータ上がりどもは、こんクソゲームが始まったその日、九千何百のビギナーを見捨て、ダッシュで《はじまりの街》から消えよった! 奴らは美味い狩り場やらボロいクエストを独り占めして、ジブンらだけポンポン強うなって、その後もずぅっと知らんぷりや。……こん中にもおるはずやで、小狡いテスターどもが。そいつらに土下座さして、汚い手で貯め込んだ金やアイテムを吐き出してもらわな、パーティーメンバーとして命は預けられんし、預かれん!!」
糾弾の声が途切れても、広場の誰もが動かなかった。件のベータテスターである俺もまた、動けない。
ちらりと右を見ると、アスナは何事か呟いていた。風に乗って聞こえた声はしかし、「……主義……か、…み……なのか…………な」と、途切れ途切れだったが。
そして、左からも呟く声。こちらはもう少しはっきりとしていて、「私だって、……言い訳か」と、どこか諦めたような色。……これは、俺が聞いても良かったのだろうか。
俺も、アスナも――恐らく大鎌使いも――元ベータテスターで、キバオウの言う「ビギナーを見捨て、自分達の利益を追求した、小狡い」奴らだ。否定はできない。事実、俺はクラインを見捨て、ベータテスト時代の知識を活かして自分達を鍛え上げ、新規プレイヤーたちとの差を確実に広げてきたのだから。
――だが、元テスターたちに被害がなくて、完全に無視を決め込んでいたかと言えば、そんなわけはない。
アルゴに依頼した調査で、元ベータテスターの死者数が、およそ三百人だとわかっている。
そして――自分達が協力していたからこそ言いたくなるが、情報屋に流したマップデータや各地のエネミー、アイテム、クエストの詳細……それらはベータテストの知識と、実際に足を運んで調べたものなのだ。
「――っ」
無意識のうちに奥歯を噛みしめていたことに気づき、心を落ち着かせるように息を吐く。
と、その時。
「発言、良いか」
体の芯に響くようなバリトンが、夕日に染まる広場に響いた。
日本人離れした長身と彫りの深い顔立ちをした、スキンヘッドの戦斧使い。アバターのカスタマイズパラメータは実際の戦闘力に影響しないとはいえ、まさに「強そう」と感じてしまう風貌であった。
彼は前に進み出ると、四十数人のプレイヤーに軽く頭を下げ、キバオウに向き直る。
「オレの名前はエギル。キバオウさん、あんたが言いたいことはつまり……元ベータテスターが面倒を見なかったからビギナーが沢山死んだ、その責任を取って謝罪・賠償しろ、と……そういうことだな?」
「そ……そうやっ」
その身長差からか、威圧感のある風貌からか、一瞬気圧されたような様子を見せるキバオウだったが、すぐに攻撃的な態度を取り直し、エギルと名乗る大男を睨んだ。
だがエギルはその目に怯むことなく、懐から一冊の冊子を取り出して見せる。
「このガイドブック、あんただって貰っただろう。こいつに載ってる情報を提供したのは……その情報の早さからして、元ベータテスターたち以外にあり得ない」
戦斧使いの言葉に、広場が一斉にざわついた。ぐぅっとキバオウが唸り、その背後でディアベルがなるほどとばかりに拳を打つ。
「……わざとらしい」
ふと、酷く冷たい声が右の耳朶を叩く。
ぎょっとして振り向くが、生憎と曲刀使いの顔は、灰色のフードに隠されて確認できなかった。
俺がパートナーの顔色を
「いいか、情報はあったんだ。それでも沢山のプレイヤーが死んだのは……彼らが、SAOを他のゲームと同じ物差しで計り、引くべきポイントを見誤ったからだろう。オレたちがすべきなのは、その失敗を踏まえて、どうボスに挑むのか……オレはこの会議で、それが論議されると思っていたんだがな」
エギルの堂々とした態度と言葉に、キバオウは押し黙る。
それから「フンッ」と鼻を一つ鳴らして、「ええわ、ここは引いといたる。でもな、ボス戦が終わったら、白黒キッチリ付けさせてもらうで」と吐き捨てると、己のパーティーの元へ戻っていった。
Q.なんでキリトたちから受け取ったマップデータを、アルゴはすぐに公開しなかったの?
A.ボス部屋の場所を早々に公開して良いのか迷ったから。いないと思うけど、少人数で突っ込む奴らが万が一発生したら困るので、ディアベルや他の有力パーティーのリーダーにデータを売り、足並みを揃えるように調整していた。
Q.なんでキリトはもう交渉相手の情報を買ってるの?
A.原作より若干金銭的余裕があったのと、彼なりの危機意識のたまもの。
お気に入り、評価、感想ありがとうございます。なんかものすごい数のお気に入りが付いていてビビっていますが、これからも少しずつ更新していきたいと思います。
ただ、連続更新を続けていくのは厳しいので、一日、二日程度空くことはご了承ください。決してパルデア地方を旅しているわけではないからな。ああ、決して、だ。
また、感想返信が遅れて済みません。こちらもゆっくり返していく予定です。
すまないが、分断したせいで次回も小説形式なんだ。本当に申し訳ない。