メインヒロインにTS転生したらしいが、細剣じゃなくて刀握りたい   作:星宮ひまり

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 思ったより長くなってしまったので初投稿です。

 ミトさんの話し方に違和感があったらすまない……。
 ガバいところが多々あるかもしれんが申し訳ない……。


『二人の少女』

 

 

 その後、ディアベルの再号令の下、なんとか――或いは表面上だけかもしれないが――雰囲気を切り替えると、騎士(ナイト)様は先ほど決めたパーティーを数人程度メンバーを入れ替えただけで、タンク、サポーター、アタッカーなど役割別に纏めてしまった。他が六人パーティーであることに対し、その半分である俺たち三人だけの部隊は雑魚処理――ボスの取り巻きとして湧く《コボルド》を、ボスと戦うパーティーの邪魔にならないように倒す部隊の一つになった。もう一つの雑魚処理優先部隊はキバオウのパーティーなので、何か衝突がありそうで不安である。

 そして、ディアベルは明日の集合時間と場所、ボス討伐報酬の分配方針を指定すると、皆に見覚えのあるおヒゲマークの書かれた冊子を配り、解散を告げた。

 最後に配られた冊子――《アルゴの攻略本・第一層ボス編》を皆で合わせ読みせず、各々でよく読み込んでおくように、と締めたのは、さすがにあの雰囲気で《ベータテスト時の情報》と明記されたものを読み進めるのは余計な火種が生まれると判断したからだろうか。

 だが、俺たちのパーティーが「じゃ、これで解散で」とならなかったのは、ボス戦限定の新規メンバーの存在があったからだ。

 正しく読み方も《ミト》であると確認した後、俺たちは一度、軽く三人での連携確認をしておくことになり、町近辺のフィールドに出てきた。

 ベータ時代はともかく、デスゲームとなり最前線の人数が四十人あまりしかいない現状において唯一と言って良いだろう大鎌使いの女性は、とても正式サービスが始まって一ヶ月で鍛えられたとは思えないほどの腕前を披露してくれた。

 俺は半ば彼女が元ベータテスターであることを確信しているが、それを言葉にして確認することはない。先ほどの会議でもキバオウが怒りを露わにしていたように、元テスターと新規プレイヤーの溝は深く、自分が元テスターであることを不用意にバラすのは大変危険なことだ。あの《必要とあらば自身のステータスすら商品にする》情報屋アルゴですら、誰が元テスターであるのか、決して売ろうとしないほどなのだから。

 だが、それは彼女も同じことだろう。俺とアスナの動きは、新規プレイヤー達と――いや、元テスターと比べても、上位に入るだろうと自負している。頻繁にこちらを見ては何か言いたげな雰囲気を醸すミトの様子は、九割がた確信しているように俺の目には映った。

 ――と、俺は考えていたのだが。

 

「ねぇ、少し良いかしら」

 

 五体目のワスプ系エネミーを背後攻撃(バックアタック)かつ弱点(ウィークポイント)狙いで豪快に切り離したミトは、二つに分かれた蜂が硝子片になって砕け散る様を見届けることもなく、俺たちに声をかけてきた。

 彼女の腕前にGJ(グッジョブ)と親指を立てようとして中途半端になった手をヒラヒラと誤魔化しながら、俺は「なんだ?」と聞き返す。……アスナは曲刀を仕舞いながら、さりげなく俺を盾にしていた。

 ミトは俺、というよりアスナの様子に何かを言いかけて、しかし僅かな沈黙を置くと、おもむろに灰色のフードを取り去った。

 

「わ……すごい、美少女……」

 

 思わず、といった調子のアスナの呟きに、俺はほとんど無意識のうちに頷いていた。

 ――アスナと同レベル……いや、この次元になると比べることなんてできないか。恐らく染料アイテムで染めたのであろう紫の髪を靡かせた女性……俺たちと同じ年頃であろう少女は、赤い瞳を俺の背後に隠れるアスナへと向ける。

 そのポニーテール、どうやってフードで隠していたのだろう……と妙な疑問を抱く俺を置いて、大鎌使いの美少女は俺の後ろへ回ろうと歩き――アスナが反対側に逃げると、その形の良い眉を吊り上げた。

 ミトが九十度回って、同じ角度だけアスナも回る。俺を中心にくるくる回る二人の美少女に、俺は、非常に珍しい経験をしているな……という考えがぼんやりと浮かぶと同時、何やってんだこいつら……と呆れてもいた。

 やがて、フェイントを混ぜたり視線で誘導したり足を踏もうとしたりと、なかなかにハイレベルに発展した二人の少女の攻防戦は、最終的に中心の不干渉地帯であるはずの俺を弾き飛ばすことで決着した。

 俺は何か納得のいかないものを感じながらも、じっと見つめ合うことになった二人を静かに見守ることにする。

 

「フード、取ってくれない?」

 

 反論は許さないとばかりに硬い声色のミトに対し、アスナは小刻みに体を震わせながら、助けを求めるように俺に視線を向けてきて――すぐさまミトがアスナの顔を押さえ、強引に自分へ向けさせる。

 ああ、コミュ障に対してなんて残酷なことを……と戦慄する俺。同性同士ならハラスメント防止コードは出ないんだっけ、などと余計なことも考え始めていると、しゅん、という小さな音が耳に届く。もう一つの灰色のフードが持ち物欄(インベントリ)へ消えたのだろう。

 その美麗な素顔を晒し、至近距離で見つめ合う二人の少女。ここが宿の個室だったならば危ない雰囲気でも流れていたかな、と少しドキドキしていた俺は、途端に地面を濡らした雫にぎょっと目を剥くことになった。

 

「ぁ、あ……どうして、()()()、こんな……こんなことって――っ」

 

 涙の主は、紫の髪を持つ少女。彼女はトレードマークにすらなっていた大鎌を地面に放り、アスナをひしと抱き締める。

 震える体と声は、見ているこちらまで胸が締め付けられるほどに悲しみに染まっていて――。……いや、どこか嬉しさ……喜び、のようなものが見えるのは、俺の感性が未熟だからだろうか。或いは不幸中の幸い、安心……安らぎ、とは違うような……?

 

「ぇ、ぇ……と……?」

「ごめん、もうちょっとだけ、こうさせて」

 

 抱き締められ身動きの取れないアスナの顔に浮かぶのは、驚愕、困惑、疑問。若干顔が赤いのは、こういったことに慣れていないからだろうか。学校で女子同士がこういったスキンシップを取っているところを何度か目にしたことがある……気がするが、アスナの周りでは違ったのかもしれない。

 オロオロと腕を彷徨わせるアスナ。ここで抱き締め返せないのは、まぁ、彼女の性格的に仕方のないことだろう。

 しかし、ミトの様子からして、二人は知り合いだったのだろう。邪魔者たる俺はここから退散した方が良いだろうか……という考えは、次のアスナの言葉によって吹き飛ばされた。

 

「あの……だれ、ですか?」

「――は」

 

 時が止まった。

 そう錯覚するほど低い声。

 乾いた空気が俺の肌を撫で、パチッと小さく弾けた、ような気がした。

 まるで麻痺状態(パラライズ)にでもなったかのように目を剥いて硬直するミトに、拘束が緩まったアスナは弱々しくも体を押し返す。

 

「あなた、なに……言って」

「えっと……もしかして、リアルのどこかで……学校で話したことが、あったり……?」

 

 ――リアルの話……これは俺が聞いたら不味いのではないか?

 だが、俺が口を挟める雰囲気でもなく、また無言でここから去ることも、アスナとコンビを組んでいる以上できなかった。

 

「……、本気で言ってる?」

「え、っと……?」

 

 ギロリ、という効果音(SE)でも聞こえてきそうなほど鋭い目で睨むミト。対してアスナは小首を傾げるが、その表情は異様なほどに固まっている。

 

「……あなた、学校だと、私のこと完全に無視していたじゃない」

 

 ――おぉ、アスナとミトは同じ学校なのか……。

 やはりこの会話、俺が聞いて良いものじゃない気がするのだが。

 

「あの……」

「まさか、しらを切るつもり? まぁ確かに私も学校では意図的に人を遠ざけているし、あなたも似たようなものだと思って納得していたけど……いつもの場所にも来なくなるし、ちょっと、心配してたのよ。家のこととか、色々」

「え……?」

 

 まるでわからない、といった調子のアスナだが、ミトの声色からして、俺はどちらも嘘を吐いているようには思えなかった。

 いや、俺は人間観察に優れているという訳でもないのだが、(かた)や相棒であり、もう片方はあまりに真剣であるから、どちらも本人的には真実で話しているのだろう。であれば、何か勘違いがあるのかもしれない――。

 

「……というか私、あなたは正式サービスはログインしないって思っていたわ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って思ってたし」

「は、え……? なんで、須郷さんのことを……?」

 

 お、おぉお? 婚約者……??

 なにか別の世界の話でもしているのだろうか。とても俺の知っている常識からは離れた会話に、俺は一瞬理解することを放棄しかけた。

 

「そりゃ色々相談されて…………、あー、いや、ごめん。そういうことね」

 

 唐突に、ミトの視線が俺へと向いた。そして一度頷くと、何かを悟ったような声色で続ける。

 

「……茨の道だと思うわよ。特に、()()()()()()()()()()()、大変じゃない?」

「え、えっと……なにか、勘違いしていませんか……?」

 

 絶対に何か誤解している気がする。というか、さりげなく巻き込まれてしまったのではなかろうか。

 ひやりとしたものが背を伝うのを感じ、俺は咄嗟に口を挟もうとして――「そういえば」と思い出したかのようなミトの声に遮られる。

 

「明日奈……こっちでも《アスナ(Asuna)》だったわね。あなた、ロールプレイでもしているの?」

「え?」

「だってあなた、ゲームしている時はいつも、自分のこと《俺》って言っていたじゃない」

 

 ――なんだって?

 そう口から零れそうになって、ふと、SAOのベータテスト以前……モニターの前でゲームをしていた頃、テキストチャットで交わされた《めるく男爵Ⅲ世(アスナ)》との会話(ログ)を思い出す。

 確か、めるくさん(アスナ)は普段の一人称を《私》としていたが、時折……本当に偶にだが、《俺》と打ち込む時があった。ネット上での特殊な表現として変えていたのか、或いは現実(リアル)が男性だから素が出ているのかな、と思っていたが……果たして真相は、アスナの凍った表情からは読み取れなかった。

 

「あぁ、あっちがロールプレイだったってことも……いや、でもあの調子で、初めてゲーセンで会った時もずっと俺って……うーん…………まぁ良いわ」

 

 言って、ミトは地面に放置していた大鎌を拾い上げると、こちらへぱちりとウインクを一つ。思わずドキリとするが、そこに含まれた《何か》に、首の裏がひりつく感覚を味わった。

 

「さ、もう二、三度戦ったら、明日に備えて帰りましょう」

 

 

 

 迷宮区最寄りの町《トールバーナ》の夜に吹く風は、現実の気候をある程度反映しているのか、寝間着で浴びるにはやや冷たかった。

 俺とアスナが取っている宿は、とあるクエストをクリアした者だけが借りられる、通常の《INN》と表記された《最低限の宿》よりも上質な酪農家の二階全ての部屋だった。

 普通の宿よりも値が張るが、寝具の質やいくつかの特典を考慮すると、最下層の宿とは思えないほどに住みやすい。まだ一週間と使っていないが、アスナにも「ベッドが硬くないからギリギリ寝られる」と好評? であった。

 これをミトに伝えると、どうやら最前線組(フロントランナー)による《上質な宿屋争奪戦》に負けたらしい彼女は大層羨ましがり、半ば押しかけるようにしてアスナの借りている部屋に泊まっている。……勿論アスナは押し切られた。というかまともに発声すらできていなかった。「明日のボス戦で、私の調子が悪かったら不味いでしょ?」などと言っていたが、ミトがアスナと同じ部屋で寝泊まりしたら、アスナが明日死んだ眼でボス戦に参加することになる気がする。

 ――今日は色々あって疲れたな。

 思うところは色々あったし、確認したいこと、できないこと、沢山の事情が一気に襲いかかってきて、正直すぐには処理しきれない。

 元ベータテスターと新規プレイヤーの確執。

 俺の剣を買おうとしていたキバオウというプレイヤー、その主張と行動。

 ボス攻略のために加わった、新たなパーティーメンバー。

 そして――。

 相棒である曲刀使い、アスナの現実(リアル)の姿……その、一片。

 窓から月夜を見上げて黄昏れていた俺は、ふと――頬を突く感触に奇声を上げる。

 

「はうあ!?」

「にゃハハ! 面白い悲鳴だナ、キー坊」

 

 この特徴的な語尾と、俺の《索敵》スキルに引っかからないほど見事な《隠蔽》技術を使った無駄に高度な悪戯を可能とするのは、アインクラッド中を探しても一人しかいない。

 

「……心臓に悪いからやめてくれ、アルゴ」

 

 ある種の動物のヒゲを模した三本線のフェイスペイントや金褐色の巻き毛、その敏捷性(AGI)に特化した構成(ビルド)からか、誰が言い始めたか《鼠》の通り名を持つ女性プレイヤー。

 恐らくアインクラッド初であり、確実に元ベータテスターである情報屋の彼女との交流は、デスゲーム開始二日目からだ。俺もアスナも、そしてきっとアルゴも、全員が元テスターであることに気づいている。だがそれを指摘せずに――けれど、わかるように、さりげなくベータと違う所を伝え、最前線の情報を提供していた。ほとんど無償に近い形だが、それが俺たちのできる精一杯の罪滅ぼしだった。

 確実に俺たちの意図に気づいているであろうアルゴは、それでも彼女の情報屋としての矜持と天秤にかけて、最低限の報酬を渡してくる。そんな彼女だからこそ、俺もアスナも、信頼している――まぁ、会う度に悪戯されたりからかわれたりするので、若干の苦手意識も抱いているが。

 行儀悪く窓から部屋に乗り込んだアルゴは、さっと部屋を見回すと、「おや」と首を傾げた。

 

「アーちゃんは、お風呂カ?」

「知らないよ……そもそも同じ部屋を取っているわけじゃないぞ」

 

 この宿――酪農家の二階は、二人が借りるだけの部屋が揃っている。当然、ずっとパーティーを組んでいるコンビと言っても、年頃の男女である俺たちが、同じ部屋で寝泊まりするなどあり得ない。

 ……あぁでも、やむを得ず野宿をしたことも、部屋が足りずベッドとソファで分かれて寝たこともあったが……、いや、今は関係のない話だ。

 何か余計なことを言われて痛くもない腹を探られたくない。俺は咄嗟に浮かんだ話題で、アルゴの追撃を封じる。

 

「あぁ、一つ聞きたかったんだけど」

「なんダー、キー坊? オネーサンのスリーサイズを買うなら1M(メガ)コルだゾ」

 

 誰が買うか、と思わず出かけたツッコミを抑え、努めて冷静に問いかける。

 

「ディアベルがボス部屋を見つけたのは、自力か?」

「んー……まぁマップ情報を提供してくれたのはキー坊たちだし、言わないわけにはいかないよナ」

 

 アルゴは一つ溜息を吐くと、やや声を潜めて続けた。

 

「オレっちからマップデータを買って、ボス部屋を見つけたヨ」

「……、ならなんで、ディアベルはあんな……リスキーなことを言ったんだ?」

 

 自分たちがボス部屋を見つけたと主張し、会議を主催した。俺にはそんな風に聞こえたのだが……。

 俺とアスナがアルゴにデータを提供したのは三日前。その間にアルゴからマップデータを買うプレイヤーがいた場合、リーダーとして前に立ったディアベルの信頼を損なってしまうだろう。

 

「事前に相談できなかったのは申し訳ないんだけど……オレっちは今回、マップデータを売る相手を選んだんダ」

「……、どういうことだ?」

 

 情報屋が情報を売らない。今のところ思いつく理由は、情報の真偽が定かでない場合か、或いは情報を売るのが危険だと判断した場合だろう。俺たちが信頼されていないということになるので、さすがに前者だとは思いたくないのだが……。

 いや、アルゴは「売る相手を選んだ」と言った。これはいったい、どういうことなのか……?

 若干苦い表情になる俺に、アルゴは「ごめんナ」と一言謝罪を挟んで、続ける。

 

「理由があるんだけど……端的に言えば、一歩目を揃えるためだナ」

「……一歩目を、揃える?」

「ただの保険なんだけどナ。ネトゲプレイヤーの悪いところが出て、勇み足を踏むような馬鹿がいないように……ってナ」

 

 ――つまり「ちょっと一目見るだけ」とボス部屋に飛び込んで、そのまま引き際を誤り死亡……なんてことを起こさないため、だったのだろう。デスゲームになった現状、そんなことを起こす命知らずはいないと思いたいが、可能性を完全に排除することはできない。ゆえに、アルゴは情報を売る相手を選んだのだろう。

 果たして俺の考察は正解だったのか、鼠は妙に暗い顔で言う。

 

「提供……半ば強引に売りつけたようなものだけど、最前線の主立ったパーティーのリーダーには良く話をして、マップデータを渡したヨ。おかげで、無謀にボスに突っ込む輩は出なかっタ」

「主立ったパーティー……?」

「ディアベル、キバオウ、エギルだナ」

「な……っ」

 

 その三人は、会議で目立った人物たち――。

 すなわち、あの会議は全て、事前に流れが決まっていた……?

 険しくなる俺の表情から何かを悟ったのか、しかしアルゴは首を横に振ってみせる。

 

「別に、全て出来レースだったわけじゃないゾ。少なくとも、エギルがあそこで発言したことにはびっくりしタ。……ま、ディアベルとキバオウについては、何か二人の間で話があったのかもしれないけどナ」

 

 後半は呟くように言って、それから「失言だった、忘れてくレ」と吐き捨てる。

 真実か疑わしい情報は売らない、との信条を持つアルゴにしては珍しい、ただの推察……いや、この場合は邪推、だろうか。そんなものを零すほど、彼女は疲れが溜まっているのか……或いは。

 俺が何かを言うより早く、アルゴは表情の陰りを払い飛ばすように頭を振ると、「そうダ」と思い出したかのように言う。

 

「キー坊に伝言があったんダ」

伝言(メッセンジャー)? 取引依頼の続き、ではなく?」

「あぁ。そっちはもう諦めたみたいダ。……いや、ある意味では続きなのかもナ」

 

 どういうことだ、と眼を細める俺に、アルゴは真剣な表情で続ける。

 

「依頼主は、ディアベル」

「――っ」

 

 今日何度目の驚きだろうか。

 だが、それも仕方のないことだろう。

 取引依頼――俺の剣の買い取りを持ちかけてきた、キバオウの依頼。これの続きと言われて、どうしてあの騎士(ナイト)サマの名が出てくるのか――。

 そこまで考えて、俺の脳裏をある可能性が()ぎった。

 

「まさか……これまでの取引依頼は、アルゴだけじゃなく、キバオウを挟んで……ディアベルがしていた?」

「ま、そこら辺はキー坊が自由に推察してくレ。オレっちは回答を控えるからナ」

 

 半ば答えを言っているようなものだが、彼女としては断言するわけにはいかないのだろう。いや、ここまで親身になってくれている時点で、かなり優遇されているのだろうから、これ以上を望むのは不味いか。「貸した分、返して貰うゾ」などと言われた日には、全財産、身を守る剣はおろか下着すらもコルに変えられてしまう。

 などと考えていると、じとっとしたアルゴの視線が突き刺さる。どこか「オレっちは情報しか抜かないゾ」と言われたような気がして、俺は咳払いをして続きを促した。

 

「……まぁいいけどナ。さて……肝心の内容だけド」

 

 鼠はそこで言葉を句切ると、似ているような似ていないような、似せる気がないようなモノマネを披露する。

 

「おほん。……『次のボス戦、君たちには雑魚処理のサポートと言ったが、兼任して、全体の危ないところを補助して欲しい』」

「……、」

「『オレは、君たち三人が居れば、必ずボスを――このゲームをクリアできると信じている』……ってナ」

 

 これは――いったい、どういうことだろう。

 三人……恐らく俺、アスナ、ミトのことを指しているのだろう。だが、どうして余り物部隊である俺たち三人を名指しで……しかも、俺に対してこんなメッセージを……?

 ディアベルの言葉の理由を考えるも、俺には彼の真意がわからなかった。

 アルゴは理解しているのか――そう聞こうとして、恐らくはぐらかされるだろうことに気づき、口を噤む。

 そんな俺の様子に何を感じたのか、アルゴは小さく鼻を鳴らすと、一転、明るい調子で笑った。

 

「そういやキー坊、両手に花だナ!」

「うるせえ早く帰れ!」

 

 




 Q.なんでアルゴは、キバオウやエギルにもボス部屋までのマップデータを提供したの?
 A.キバオウは、ディアベルが伝えて良いかと聞いてきたため。「足並みを揃えるなら」と「マップデータの提供元(アルゴ、イッチ、キリト)を伝えないなら」の二つの条件付きでOKした。
  エギルは、キバオウが不安だったので、全体へのストッパーとしての期待。キリトとイッチが情報集めを頑張った影響でアルゴに余裕ができ、最前線メンバーの人物情報を集めることができたため、若干未来視に近い調整ができた。


 圏内で窓から部屋に入れるのかね? この二次創作では、部屋を借りた主が許可したら入れる、という設定でお願いします。
 あと、イッチたちが借りている宿は、原作でキリトが借りていた農家の宿とは違う場所です。まぁいくつか同じようなINNのついていない宿があるらしいし。

 なお、キリトがアルゴと密会している間、イッチはミトと二人きりで……。


「人違い、じゃない……の?」
「あなたみたいな人間が、二人もいるわけないでしょ」
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