霊夢は城の最上階へと続く階段を登り切ると、雪や壊れた扉、ボロボロな畳がある天守閣へと辿り着いた。
そこには鎧を着込んだ弦一郎が待ち受けており、霊夢を睨む。
「...」
「あんたが親玉ね。さっさと退治されちゃいなさい」
「俺は葦名を黄泉帰らせるまでは死ねん」
「んなの私が知ったこっちゃないわ。さっさと倒されて私の平凡な日常返して頂戴」
「...平凡か」
「何よ」
「いや...懐かしいと思うてな」
「懐かしい?」
「...名は」
「博麗霊夢よ。幻想郷に喧嘩売ったこと後悔させてあげる」
弦一郎は刀を抜いて霊夢に向ける。
「ならば、ゆくぞ」
すると霊夢は天守閣入口に飾られている鎧と刀を見て、刀を取ると鞘だけを取った。
「何のつもりだ」
「私は博麗の巫女よ。人殺しはしない。突き落としたりはしたけど」
「...」
「あんたなんぞこれで十分ってことよ」
弦一郎は走り出すと下から上へと刀を振るい先制攻撃を仕掛けるも、霊夢はいとも簡単に鞘で弾いた。
彼女の持つ刀の鞘は一応は鉄でできているものの、刃を納める為に空洞ができているので振るった威力は木刀以下だ。
しかし霊夢は鞘を弦一郎の首に思いきり当てると、彼は少し蹌踉めいて刀を構え直す。
「くっ...」
「ほぅらさっさとかかってきなさい」
弦一郎は走り出すと背中にある大弓を構え矢を放つが、霊夢は簡単に弾いた。
そして彼は刀を構え腰を低くすると、高速で流れるような剣技に、回転の勢いも加えた八連撃の攻撃を仕掛ける。
流れるような動きと手数により敵を圧倒する葦名流の剣技ではあるが、葦名の外から来た者が伝えたゆえ異端に当たる技術。
浮き舟渡りである。
しかし霊夢は全ての連撃を紙一重で避け、鎧に覆われていない脇の下を鞘で思い切り突いた。
「ぐあっ...!」
「遅いわ。弾幕ごっこより簡単な動きね」
「まだだ...!」
弦一郎は刀を大きく振り下ろして回し蹴りを仕掛けるも、刀は鞘で弾かれ、さらに足は手で掴まれ蹴りの勢いを利用されて投げ飛ばされた。
合気にも似た技術に彼は驚き、すぐに立ち上がり刀を構え直す。
すると今度は霊夢が鞘を握りしめて弦一郎に攻撃し始めると、なんと先程彼が仕掛けた浮き舟渡りを完全に再現してきたのだ。
弦一郎は刀で防御するも、体幹はかなり削られ腕が痺れ始めた。
「こんなところかしら。似てた?」
「おのれ...!」
弦一郎は刀を振るい、霊夢は弾いて反撃するも、彼も弾いて反撃する。
二人の武器が何度も交差し、辺りには火花が散っていく。
弦一郎は一旦距離を開けると、跳躍して大弓を構えて矢を四連続発射した。
しかし霊夢は最初の三本は弾き、最後の矢を手でいとも簡単に掴むと投げ返して彼の胸に当てた。
「っ!?」
鎧の分厚さのお陰で矢は体に到達しなかったが、弦一郎は眼の前の敵に恐怖を覚える。
すべての攻撃が弾かれ、傷一つつけられないのだ。
「負けるわけにはいかぬ...負けられぬ...!!」
弦一郎は渾身の兜割りを仕掛けるが、霊夢には弾かれさらに突き攻撃をする。
「甘い」
「!」
しかし弦一郎の攻撃は霊夢の脚によって踏みつけられ、大きく体幹を削られた。
すぐに彼は刀を引いて構え直し、彼女の脚を狙い薙ぎ払う。
「単調過ぎる」
霊夢はその場で軽く跳躍し、空中で回転すると弦一郎の頭に踵落としをくらわせた。
「ぐあっ...」
弦一郎は片膝を地面につけて、霊夢を睨みつける。
「筋はいいけど、まだまだ修行が足りないわ」
「はぁ...はぁ...何者なのだ貴様は...」
「素敵な素敵な巫女さんよ」
「ふざけるな!」
弦一郎は浮き舟渡りを仕掛けるも、今度は全て完璧なタイミングで弾かれた。
さらに彼は彼女との距離を開けながら大弓を構えて矢を放った。
「!」
霊夢は矢を弾くと、弦一郎は大きく前転して刀を振り下ろしたが、完全に弾かれさらに反撃をくらってしまう。
「今のは良かったわ」
「貴様...!」
弦一郎は霊夢の首目掛けて突き攻撃を仕掛けるが、彼女は姿勢を低くして避ける。
そして彼の胸に掌底を打ち込み、蹌踉めいた瞬間回し蹴りを横顔にくらわせた。
「がぁっ...!」
弦一郎は吹き飛び、天守閣の隅にある柱に叩きつけられた。
「はぁ...はぁ...」
弦一郎は刀を支えに立ち上がるが、胸を抑え苦しそうにしている。
「ほらほら、今の一撃で呼吸苦しいでしょう?もうこんな茶番止めにしない?」
「茶番だと...!」
弦一郎は重い鎧を脱ぎ始め、身軽に上半身裸になった。
「葦名の為ならば俺は...どんな物であろうと従えてみせる...!貴様のような怪物でもだ」
「誰が怪物よ」
弦一郎の体の至る所には黒い痣があり、彼は刀を構えると辺りの天気が急変してくる。
そして雷、雨、小さな雹が辺りに降り注ぎ、彼の持つ刀に雷が当たり轟音が鳴り響く。
「きゃっ!ちょっとびっくりするじゃない!」
「巴の雷...見せてやろう...!」
弦一郎はその場で跳躍し、刀を空に掲げる。
すると空を降り注いでいた雷を刀で受け止め、雷を纏い巨大な剣を作り出した。
「っ!!」
弦一郎は雷を纏った刀で薙ぎ払うが、霊夢は逆に彼の足元へ近づき攻撃の範囲外へと出た。
「あっぶな!雷纏うなんてあんた人間!?」
弦一郎は地面に着地するとすかさず浮き舟渡りを仕掛け、続けて兜割りをする。
霊夢は冷静に対処するが、弦一郎は最後に全身全霊を込めた一撃を振るった。
霊夢は鞘で受け止めた瞬間雷にも負けぬ巨大な金属音が辺りに響き渡り、そして彼女の持っていた鞘が真っ二つに斬れて地面に落ちる。
「っ!」
流石の霊夢も武器が壊れてしまい汗を垂らすが、弦一郎はその隙を見逃さずに再び跳躍して刀に雷を纏う。
「踏みにじらせはせぬぞ!」
「や、やば」
弦一郎が雷を纏った刀を振ろうとした瞬間、水手曲輪の方角から大きな爆発音が鳴り響く。
「!!」
そして青色の光が葦名全体に広がるが、弦一郎は気にせず霊夢の頭目掛けて刀を振り下ろした。
刀が地面についた瞬間畳が舞い上がり、霊夢の姿が一瞬見えなくなる。
「!」
弦一郎は刀に手応えがない事に不審に思い、辺りを見渡した。
しかし彼の周りに霊夢の姿はない。
「!まさか!」
弦一郎は天井を見上げると、なんとそこには空中に浮かぶ霊夢の姿があった。
人間でありながら、幻想郷を自由に飛び回る孤高の巫女。
彼女の空を飛ぶ程度の能力が復活したのだ。
そして持っているお祓い棒には雷が纏っており、彼女は空中を浮遊しながら薙ぎ払った。
「ぐあっ...!!」
弦一郎は霊夢の振るう雷を受け、全身に痺れと衝撃が走る。
「ば、馬鹿な...なぜ飛べるのだ」
「...やったわね魔理沙。特上の大金星よ」
霊夢は爆発が起こった水手曲輪の方角を見て、ホッとしたような表情を見せる。
弦一郎は片手で祈り、歪みを再び起こそうとする。
「歪みよ起これ!敵に災いを!」
しかし霊夢は空中に留まり、弦一郎は何も起きない状況に明らかな焦りを見せ始めた。
「お、おのれ...!」
「残念だったわね。ほら見てみなさいな。貴方達の敗北が始まったわ」
霊夢がそういうと、葦名城のあらゆるところから爆発が起き始めた。