「さて...まず何から話しましょうか」
紫はテーブルに幽香が用意した紅茶を飲むと、扇子を広げてパタパタと扇ぐ。
「全て最初からお願いしますわ。そもそも貴方は誰ですの?」
「私はエマ。葦名の城にて薬師をしております」
紫は葦名城と聞いて少し眉間にシワをよせるも、すぐに幽香が話に入る。
「こいつは城の連中とは違うわ。なんせこの腕をくっつけたのもこいつよ」
「傷薬瓢箪と縫合だけでまさか繋がるとは思いませんでした。妖怪とは不思議なものですね」
紫はそれを聞くと、息を吐いてエマとの話を続ける。
「まず貴方は何を知っているの?」
「葦名城が突如現れた原因を、この戦の真実を、葦名の全てを」
「!」
「そもそも、貴方は葦名という地を知っておりますか?」
「...いえ、どれだけ調べても葦名という地はどこにも残っておりませんわ」
「私も幽香さんから聞いて驚きました。そして現代から計算すると葦名は約四百年程前に存在した国の名前です」
紫はそれを聞いて納得の表情になる。
「それであんな武装なのですわね。戦国時代の人達なら納得ですわ」
「そして葦名は滅びました。たった一人の忍びによって」
「...」
すると紫はスキマを開いて慧音と阿求が探し出した巻物をエマに見せる。
「これは」
「現代に残ってた葦名に関する資料よ」
「拝見します」
エマは巻物を読んでいくと、悔しそうに目を瞑ってため息を吐いた。
「鬼...彼の事ですね...」
「彼?」
「.....葦名を滅ぼした忍び...かつて狼と呼ばれておりました」
「狼...!それって巻物に書いてあった『鬼はおおかみ あけの神』の...」
「はい。彼は熟練の忍びでしたが、斬ることに喜びを覚え、何故斬っていたのかすら忘れた修羅となりました」
「修羅...ねぇ」
「主を裏切り、私を斬り、救い人を斬り、義父すら斬った。そして内府の軍も、葦名の兵も、民も斬り尽くした」
「!貴方も斬られた?なら貴方は...」
「はい。私は死人同然です」
「けどこうして目の前で生きているわ」
「後々説明します」
そのことを聞いて流石の紫も緊張の顔つきとなる。
「.....彼はその強さと竜胤によって不死の存在となっており、どんな強者でも彼を止められる者は誰もいなかった」
「不死...それに竜胤...長く生きてきた私も聞いたことがありませんわ」
「当然です。知っている者は皆彼に斬られたのですから」
「成る程」
「この葦名に関する巻物も残っていることが奇跡でしょう...書き手は斬られているでしょうが」
するとエマは巻物を紫に返し、立ち上がって窓から空を見上げる。
「すべてを斬り尽くした修羅は、やがてある後悔と願いに取り憑かれます」
「後悔?」
「それはかつて主である九郎という少年を裏切ったという後悔、そして再び相見えたいという願いも生まれたのです」
「...」
「修羅があらゆる者を斬っている最中に九郎殿は病にて亡くなっています。それに気付いた時には遅すぎました」
「裏切っておいて勝手ですわね」
「そこで修羅は葦名の地にあった『薄井の森』という霧が深く、幻が彷徨う場所で修行を積み、『歪み』と『現れ』という高度な幻術を編み出しました」
紫は歪みという言葉を聞いて目を見開く。
幻想郷の住人を苦しめた能力制限の術であり、紫もかなり苦戦させられた。
「歪み...修羅はそれを作り出した」
「まず『歪み』とは、広範囲の対象者の意識に己の意志を潜り込ませ、自分自身に制限をかけされる幻術です。例えば熟練の剣士に歪みをかければ、その剣士はこれまで学んだ筈の技術を使えないと認識させ、制限させてしまうのです」
「!じゃあ本当に制限されてるんじゃなくて、勝手に能力が使えないと思い込んでただけって事!?」
「そう心の底から思わせるのが『歪み』なのです。九郎殿の御守りに込められた力を真似て応用し、利用したもの」
紫は扇子を閉じて両目を手で抑える。
「なんとまぁ...厄介な幻術だこと。私もすっかりスキマが使えないと思わされたということね」
「次に『現れ』とは、修羅の記憶したあらゆるものを広範囲に出現させる幻術です。あくまでも幻術ですが、出現した人々は本物のように喋って動き、触れもします」
「!まさか」
「はい。葦名城...葦名一心、葦名弦一郎、梟、お蝶、そして葦名軍の全員は修羅の編み出した『現れ』によって生み出された幻術なのです。そしてこの幻術を使い九郎殿に再び会おうと彼は考えました」
紫はエマの話が信じられなかった。
これまで相手にしてきた葦名軍や、悩みに悩んだ葦名城が全て存在しない幻術と言われれば誰でもそうなる。
「そ、そんなことが可能なの?」
「かつて葦名にはお蝶という幻術使いがいました。彼女は幻術によって兵士を生み出し敵を襲わせるという戦法を使います。修羅はそこから案を得て長い年月をかけて発展させたのでしょう」
「なら...貴方も」
「はい。私は既に死んでおりましたが、修羅の『現れ』によってこうしてここにいます」
「...って待って...『歪み』や『現れ』が発動してるってことは、その修羅はこの幻想郷にいるってことよね」
「...それも今ご説明します」
紫は腕を組んで考え始めるが、エマは話を続けた。
「修羅はその幻術を編み出すために時間をかけ過ぎました。ようやく完成した頃には誰からも忘れられ、最早修羅の事など誰も覚えていなかった」
「!」
「幻想郷をお造りになられた貴方ならおわかりでしょうが...修羅は幻想郷に受け入れられる条件を満たしていました。誰からも忘れられ、思い出しても貰えない者が行き着く最後の楽園への割符を持っていたのです」
紫は再び頭を手で押さえて大きく息を吐いた。
「そして修羅はこの幻想郷にて九郎殿に会うために幻術を使いました」
「ちょっと待って。それならその九郎とか言う人を出現させるだけでいいじゃない。なんで城が出てきたのかしら」
「...そう。修羅の誤算は正にそれでした」
「!」
エマは悲しそうな顔で紫を見る。
「修羅が経験した葦名の記憶は既に朧気であり、九郎殿を思い出せなくなっていたのです」
UA10000突破!!
こんなにこの駄作を見ていただき感謝の極み!
最終話まであと少しなので、よければもう少しだけお付き合い頂ければうれしいです!