異変の犯人である修羅の死亡により異変は解決した。
彼が行った幻術『歪み』により幻想郷の人以外の生物は気を失っていたが、彼が死亡後すぐに全員目を覚ます。
博麗霊夢、霧雨魔理沙、十六夜咲夜、魂魄妖夢が幻想郷の管理人の一人である八雲紫に、修羅の死亡ならびに異変の終結を伝えた。
すぐに霊夢達の治療が行われ、異変は解決を幻想郷全土に宣言される。
こうして幻想郷史上最大最悪の異変は幕を閉じた。
河童
九名死亡
天狗
白狼天狗、鴉天狗、大天狗含む三十六名死亡
永遠亭の兎達
六名死亡
その他の妖怪
名前の確認が取れたのは十七名 取れなかった者は三十四名
この異変で百ニ名もの死者が出た。
だが妖怪よりも遥かにか弱い人間が誰一人死ななかったのは奇跡である。
歴代の異変でここまで死亡者が出るのは間違いなく今回が初めてであろう。
紅魔館では異変解決により戦闘状態が解かれて、紅魔館の修理が急ピッチで行われ、虎の子部隊に関する隠蔽工作に頭を悩ませたとか。
十六夜咲夜は大火傷を負う怪我にもかかわらず、主人の忠告すら退け紅魔館復旧工事の総監督として働いている。
永遠亭では永琳や他の兎達が鈴仙の処置や看護もあって目を覚まし、今では人里で異変の被害者達を診ている。
戦死した兎達はてゐの主導の元、手厚く葬られた。
輝夜については鈴仙が葦名城から帰還すると、最重要患者室から消えており、どこに行ったかしばらく不明であったが、異変解決後には普通に帰宅しベッドに寝ていたとか。
鈴仙や永琳がどこに行っていたかと聞いても、『舞台を見に行ってた』『熱かったから冷たい飲み物持っていけばよかった』『もっと血みどろな結末じゃなくて残念』『あの人にハッピーエンドは似合わない』などと呟いているらしい。
藤原妹紅いわく、『またあいつの悪い癖の『自分の楽しみ優先』がでたのだろう』と言い放った。
妖怪の山は一番被害が大きく、死者も出ているため再建には一番時間がかかりそうだ。
河童達は同志たちを手厚く弔い、天狗達もトップである天魔の指導の元に大規模な葬式をやるとか。
そこに神奈子、早苗が関わっていないはずもなく、守矢神社再興の為にこれから彼女達は大変な日々を送るだろう。
太陽の畑では魔理沙とアリス、パチュリーの魔女達が畑修復の為に奮闘していた。
幽香が修羅死亡後目覚めて畑の光景を見て、幻想郷を崩壊させるのではというほどブチ切れたのだ。
あれだけ大切にしていた花畑が燃やされ、抉られ、斬られ、ボロボロになっては当然である。
なので魔女や八雲紫の協力で太陽の畑には向日葵を含む多くの花の種が埋められ、魔法の成長促進魔法により冬の季節におかしいかもしれないが、かつての満開の畑になるだろう。
これで幽香の機嫌が治ればいいが。
そして異変解決後の恒例である大宴会が博麗神社で行われていた。
死者も出ている異変だが、死んだ者が平穏に眠れるように、我々は同志の分まで生きるのだと酒を飲んで陽気に振る舞った。
なにより、辛気臭いのは幻想郷には似合わない。
今回は河童や天狗、守矢神社、人里、紅魔館、永遠亭までもが参加し、あまりの大人数の為に博麗神社へ繋がる階段にまで人や妖怪が宴をしている。
異変解決の功労者である魔理沙は酒のシャワーを浴びて気絶し、咲夜はレミリアのそばを離れずお酌をしている。
妖夢は主人である大食い幽々子の料理提供に忙しそうだ。
皆いつもと変わらない。
そして霊夢は神社の屋根に座り、一人酒瓶を片手にラッパ飲みしていた。
巫女とは思えぬ所業である。
すると霊夢の隣に紫がスキマを使って現れ、酒壺を持って座った。
「お疲れ様霊夢」
「まったくよ」
霊夢は飲み干した酒瓶を横に置くと、大きくため息をして寝っ転がる。
「今回の異変は...私も未熟だったわ」
「?」
「あいつがやったことは当然許せない。けどやっぱり...人は殺せなかった」
「...」
「半兵衛さんがやってくれたけど...私もまだまだね」
すると紫は霊夢の頭を撫でて、左右に動かす。
「それで正解よ。博麗の巫女は殺し屋なんかじゃない。異変解決屋」
「...」
「本来なら私がこの手でとどめを刺してやりたかったけど...」
「怖いこと言うんじゃないわよ」
「...私の幻想郷に喧嘩を売り、死者まで出させた奴に慈悲なんてないわ。実際今も腸が煮えくり返るほど怒ってるんだから」
すると紫はスキマから三本の刀を取り出し霊夢の隣に置いた。
それは修羅が使っていた楔丸、拝涙、開門であった。
「あいつの刀じゃない」
「これは不死すら殺す道具...幻想郷には危険すぎる物よ。私が保管してもいいんだけど、盗られたらまずいから外の世界に返すことにした。面倒な置き土産よね」
「外の世界に?」
「ええ。一緒に来ない?軽い散歩として」
「...しかたないわね」
八雲紫と二刀の不死斬り、そして楔丸を持った霊夢は外の世界でかつて葦名と呼ばれた山奥に来ていた。
雪が降り積もり、寒い風が吹いている。
「寒いわね...」
「ここが異変の犯人、修羅の住んでいた元葦名よ」
「とはいっても四百年も昔の話でしょ?何も残ってる訳ないわ」
「そうね」
紫は雪の上を歩いていくと、最早建物と呼ぶにはあまりにもボロボロで屋根すらない木の残骸を見つける。
二人はそこに入っていくと、残骸の奥には木で彫られた仏や錆びて頭のない小さな仏像等があった。
「んで、ここに置くの?」
「ここじゃなくてあの洞窟」
紫は右にある山の斜面のような場所を指差し、二人はその眼の前まで移動する。
「これが何なのよ。ただの岩や石ころばかりじゃない」
すると紫は地面にスキマを開き、坂に積まれていた多くの石をスキマ内に入れて別の場所へと移動させる。
すると山の斜面から洞窟が現れ、二人は入っていく。
「...こんな洞窟が隠されてたとはね」
「これはかつては葦名城に繋がっていた隠し通路だったらしいわ。そして...」
二人は洞窟の奥へと辿り着くと、そこには小さな石がいくつも積み重なっていた。
「これ...もしかして墓?」
「正解。かつてあの男が仕えていた九郎という男のね」
「!」
「ここを探すのに苦労したわ。阿求の持ってた資料を元にそれはもう...調査に調査を重ねてようやく見つけたんだから」
「...こんな寂しい場所に。しかも墓石もないとはね」
「病にて命を落とした...と聞いているわ」
「.....」
「こんな山奥には誰も近づかないわ。けど墓とわかるものがあるだけマシかしら」
「暴走した自分の部下を止められずに死んだなんて無念でしょうね」
紫は霊夢から三本の刀を受け取り、その墓の前に置いた。
「ここならあいつも喜ぶでしょ。会いたがってたんだし」
「...そうね。それに...九郎さんも自分の忍びがようやく止まって安堵してるわ」
二人は手を合わせて、九郎という少年と、それに仕えた狼に安らかな眠りをと祈った。
違う...そなたは...
そなたは修羅ではない!
かつての主人がそう叫んでいる。
目の前には己が刺した義父が倒れている。
後ろには強かった者と、女が死んでいる。
城が燃え、辺りには悲鳴が鳴り響いている。
斬れる者は、まだいる
さらに斬れば...さらに殺せば.....
どうなるのか
そして誰もいなくなった。
逃げ延びた者は血を吐き死に、向かってきた者は斬った。
全てを斬り尽くし、何もない時だけが残った。
ある日、斬る喜びに慣れ、飽きてしまった。
ふらりと立ち寄った雪に埋もれる荒れ寺にて、鈴の音を聞いた。
そして思い出した...かつての主人の最後の言葉を。
修羅ではない。
頭から離れぬその言葉の真意が聞きたい。
だがもうそれは聞けない。
ならば会おう。
用意は整った。
もう一度、主人に会い、真意を聞こう。
何故、あの時、修羅となった己に修羅ではないと言ったのか
あの月見櫓で
主人に再び仕かえる事となったあの場所で
修羅は立ち尽くしていた。
真っ暗な空間にただ一人だけ。
ここは地獄か
修羅になってあらゆる者の命を奪った己には相応しい場所だ。
そう思っていると、目の前にはかつて己が修羅になった時の光景が広がった。
エマを斬り、一心を斬り、義父を殺し、九郎を裏切ったあの時だ。
違う...そなたは...!
そなたは修羅ではない!
九郎が狼に向かってそう叫ぶと、彼は涙を流し、言葉を続ける。
そこからの言葉は彼は覚えていなかった。
修羅へと堕ち、既に心は染まっていたからだ。
そして今初めて、狼は九郎の言葉の真意を聞いた。
そなたのよう心優しき者が...修羅などになるわけがない...
幾度も我が身を案じ、救い出してくれたそなたが...
信じぬ...信じる筈がない!
狼よ.....そなたを...心より修羅に染めることなどさせはしない
私がそうはさせない
必ず戻して見せる
それが我が為す事だ
為すべきことを、為す
そう教えてくれたな、狼よ
狼はその言葉を聞いて、立っていることしかできない。
かつての己の忍びに元に戻す為、九郎は行動したのだ。
山奥の葦名に誰も来ぬように
狼がもう誰も斬らずに済むように
葦名を訪れよう人は止め、警告の詩を渡した
しかし気づいた時には残された時間は少なかった
かつての竜胤の御子であった丈と同じく、病にかかっていたのだ
そして最後に九郎は、荒れ寺にて鈴を置いた
狼の中に、己の記憶があると信じて
鈴の音で思い出せるよう祈りを込めて
修羅ではない...
眼の前で修羅に染まったあの時でさえ、彼は仕えてくれた忍びを信じていた
そして今、彼の悲願はようやく為されたのだ。
「九郎様.....」
狼は修羅に手を伸ばす九郎の幻影の手を取り、深く頭を下げた。
「.....遅くなったことをお許しください......今、貴方の忍びが戻りました」
すると九郎は灰となり、辺りは怨嗟の炎に包まれる。
狼はその中を身を置いて、やがて全てが炎に包まれた。
終
これが最終話です。
ここまで見てくださり、ありがとうございました!
後書きもあるのでよければどうぞ!