鬼刑部は妖精メイドを蹴散らしながら、紅魔館内部へと侵入しようとする。
先程美鈴との戦いにおいて数十人の足軽達が既に館内に侵入しているのは確認済みであり、最早この戦の勝利は確信していた。
普通ならば敵の本拠地に味方が入れば、総大将は足軽達に抵抗し囲まれた討ち取られるか、逃走するかの二択である。
だが彼は知らなかった。
敵の総大将はその普通から大きく逸脱した怪物であると。
鬼刑部が紅魔館に侵入する瞬間、鼻に強い血の臭いが入り異様な身震いを感じさせる。
それもその筈。
紅魔館内部は大量の血で塗り潰されており、常人ならば発狂すると所だ。
「こ、これは!」
数多の戦を駆け抜けた鬼でも流石に驚き、階段から垂れている血の川に恐怖を覚える。
「不思議ねぇ」
「!貴様が足軽共を...!」
鬼刑部が見つめる先には、服に多くの血飛沫が染み付き、頬についた血を舌で舐めとりゆっくりと味わう幼き少女が座っていた。
「貴方の部下、色々殺してみたり食べてみたりしたけど...命を失うその瞬間灰となって消えていく...人間ってそうだったかしら」
「物怪の類いか...!」
「それに外から鈴の音が聞こえたと思ったらスペルカードや弾幕も出せなくなった。貴方の仕業?」
レミリアは立ち上がると、ゆっくりと大階段を降りていく。
鬼刑部は十文字槍を構え直し、レミリアを睨む。
「名乗れ」
「私の名はレミリア・スカーレット。紅魔館の主にして最強の吸血鬼...」
「鬼庭刑部雅孝...国盗りの為、葦名の為、その首貰い受ける!」
「いいわ、遊んであげる」
鬼刑部は鬼鹿毛の手綱を引いてレミリア目掛けて突進を仕掛ける。
しかしレミリアは紅く光る目で鬼鹿毛を睨みつけると、馬は急に怯えだして暴れ始める。
「むおっ!?」
「ほらほら、お馬さんが怖がってるわよ?」
すると鬼刑部は手綱を緩め、大きな声で鬼鹿毛に呼びかける。
「落ち着け鬼鹿毛!奴を恐れるな!」
鬼鹿毛は暴れているが、鬼刑部の声に反応して徐々に落ち着きを取り戻していく。
そしてもう微塵たりともレミリアを恐れず、むしろ睨みつけているようにも見えた。
「それでこそ鬼鹿毛よ」
「いい馬ね。もう私を恐れないなんて」
鬼刑部は再び手綱を引くと、鬼鹿毛は突進を開始する。
そして十文字槍を思いきりレミリアの頭目掛けて振り下ろすが、彼女は両手で刃を受けとめ地面には亀裂が入る。
「見事!我が槍を受け止めるか!」
「人間にしてはかなりの馬鹿力じゃないの!」
レミリアは十文字槍を弾き返すと、馬の頭を踏み場にして自慢の爪で鬼刑部の体を切り刻み、彼の着ている鎧の一部が地面に落ちる。
「ぐおっ!!」
「私の力の前じゃ鎧なんて無意味よ」
鬼刑部は更に連撃してくるレミリアに、十文字槍を振り回して対抗するも彼女は直ぐ様距離を取って槍を避ける。
「ぐっ...」
鬼刑部は地面に剥がれ落ちた五本の爪の跡がくっきりとついている鎧の部分を見て鳥肌が立つ。
これ程の敵は一心や田村との勝負以来だ。
「血湧き肉躍るとはこの事よ...!」
鬼刑部は立ち上がると、十文字槍を再び分解して振り回し始める。
「っ!」
レミリアはその場で跳躍して攻撃を避けるが、刃は紅魔館の壁を破壊し回転しながら再びレミリアの首元まで返ってくる。
彼女は両腕で刃を防ぐも、鬼刑部の怪力と回転の勢いには流石の吸血鬼でも耐えられず後ろに吹き飛ばされた。
さらに彼は刃をすぐに回収して槍に戻すと、鬼鹿毛の手綱を引いてレミリア目掛けて跳躍させる。
「飛べいっ!!」
レミリアが立ち上がろうとすると、顔の横に十文字槍の刃が掠り地面に突き刺さる。
流石の吸血鬼といえども刃渡りが大きい十文字槍が突き刺さればただでは済まない。
レミリアは鬼刑部の攻撃を避け続け、階段に登り跳躍すると彼の顔に回し蹴りを食らわせる。
「!」
「甘い!」
しかし鬼刑部はレミリアの蹴りを片手で受け止め地面に叩きつけると、鬼鹿毛が全体重をかけてレミリアを2つの蹄で踏み潰して押さえる。
「ガッ...!」
さらに鬼刑部は十文字槍をレミリアの首目掛けて突き刺そうとするが、彼女はとっさに片手で刃を防ぐ。
「片手で受け止めるか...!なんという力!度胸!ますます気に入ったわ!」
「人間に...気に入られても嬉しかないわ...!」
刃はレミリアの掌を貫き、自分の血が顔や服ににかかっていく。
「殺すには惜しいが...これも葦名の為!」
鬼刑部は両手で十文字槍を掴みさらに力を加えると、段々とレミリアの腕が顔に近づいてくる。
「仕方ないわね.....!出来れば戦場に出したくなかったけど!」
レミリアは大階段の上に向かって大声で叫ぶ。
「フラァァァァン!!!」
その瞬間、大階段の上からフランドール・スカーレットが現れ鬼鹿毛の顔にドロップキックをしてきた。
鬼鹿毛は吸血鬼の全力ドロップキックに堪らず体制を崩して地面に倒れ込む。
「ぐおっ!?」
鬼刑部も鬼鹿毛が倒れて、地面に着地すると十文字槍を構える。
そして目の前にはレミリアに容姿は似ているが、髪は金髪で彼女とは違う狂気を全身で感じ身震いを感じる女が立っていた。
「もう一匹いたか...!」
「こんにちは♪あーそびーましょー...!」
鬼呼ばれた彼も流石に吸血鬼2体は分が悪いと判断したのか、鬼鹿毛の手綱を引っ張り立たせるとすぐに乗馬した。
「鬼鹿毛!」
すると鬼刑部は紅魔館の出口から庭へと向かう。
外にいる味方と合流すれば、あの吸血鬼二体でもこちらに勝機が生まれると予測したからだ。
しかし庭で待っていた光景は、彼の予測を裏切った。
「馬鹿な!?」
庭には味方が一人も居らず、残っているのは見たこともない鉄砲を装備した妖精メイド達と、二本の見たことがない短筒を装備した赤毛の女だけだった。
鬼刑部がレミリアと戦っている間に葦名軍は壊滅しており、彼はもう紅魔館は落とせぬと確信する。
すると館からレミリアとフランが現れた。
「私の切り札、小悪魔率いる近代兵器部隊よ。まだ訓練中だし幻想郷のパワーバランスを変える位強いから出したくなかったけど...」
「ぬぅぅっ!」
鬼刑部は拳を握りしめ、口からは血が垂れる。
「此度の戦は負けか...!だがこの屈辱忘れぬぞ!」
鬼刑部は鬼鹿毛の手綱を引いて門目掛けて突進し始めると、小悪魔と近代兵器部隊が鉄砲を彼目掛けて発砲する。
「撃ちまくれ!ここから逃がすな!」
しかし銃弾は彼の厚い鎧に阻まれ皮膚まで到達せず、鬼鹿毛も不規則に動いて照準をずらさせた。
「飛べっ!鬼鹿毛!」
部隊はすぐに銃のボルトを引いて次弾を装填し狙いをつけるも、鬼鹿毛は紅魔館を囲む壁を跳躍で乗り越えた。
「!!」
鬼刑部は壁を乗り越えると、そのまま葦名城へと急いで撤退した。
屋上でこの戦を見守っていたパチュリーはようやく一息つく。
「ふぅ...魔法が使えなくなった時は驚いたけど何とかなったわね」
パチュリーは魔導書を拾い、魔法が使えることに気づくとすぐに全員に命令する。
「皆良くやったわ。とりあえず防衛は成功よ」
パチュリーの言葉に妖精メイド達は歓喜の声を上げた。
「けどまた来る可能性もあるわ。負傷者はすぐに図書館へ運んで門を修復。見張りを増やして守りを固めるのよ」
「「はい!」」
妖精メイド達はすぐに行動を移すと、次々と負傷者が紅魔館に運ばれていく。
するとレミリアは壁に寄りかかる美鈴の近くに来る。
「珍しく怪我を負ったわね美鈴」
「...不甲斐ない姿をお見せして申し訳ありません」
「気にしないで。あんな人外モドキが来るとは予想できなかったもの」
「それでも...内部に侵入させてしまいました。こあさんが率いてる秘密の部隊まで出させてしまって...」
「実戦経験させたかったから丁度良かった」
美鈴は見るからに落ち込んでいると、レミリアは彼女に肩を貸して立ち上がらせる。
「お、お嬢様!」
「落ち込む暇はないわよ美鈴。あんたはいつも通り明るく振る舞って皆を安心させなさいな」
「.....」
「あんたが落ち込んでると調子狂うの。わかった?」
「...グスっ...はい!次こそは頑張ります!」
「...それでこそ私が認めた女よ」
紅魔館
鬼庭刑部雅孝率いる葦名軍を退け、勝利する。