梟とお蝶は永遠亭へ歩みを進めていると、近くで何かが落ちる音が聞こえた。
二人は音の出処を見ると、そこには首に矢が突き刺さった寄鷹衆が倒れ灰となって消えた。
さらに続々と地面に落ちる音が鳴り響き、やがて静かになる。
「...全滅したようだね」
「よもや...あの寄鷹衆がやられるとは」
「私達を狙わないのは...避けられるとわかっているからか」
「急ぐか、お蝶」
「そうだな、梟」
二人は歩みを早め、永遠亭へと急いだ。
てゐは永遠亭に逃げ込むと、息切れしながら庭で弓を構えている永琳の所へと辿り着いた。
「永琳!」
「無事だったのねてゐ」
「霧が...竹林の霧が」
「わかってるわ。勿論貴方のせいではない。恐らく敵の術よ」
「ど、どうする!?敵が」
「安心して。敵のほとんどは始末した」
「!」
「その子怪我してるわね。後で診るから重篤患者室へ急ぎなさい。あそこなら外から隔離されてるから奴等にバレない」
「わ、分かった!」
てゐは担いでるうさぎと共に永琳の言っていた重篤患者室へと急いだ。
永琳はゆっくりと息を吐くと、永遠亭を囲む壁を簡単に乗り越えてきた梟とお蝶を見つめる。
「いらっしゃい、ようこそ永遠亭へ」
「ほう...お主が矢を放った者か」
「部下達は全滅させたわ。後は貴方達だけ」
「元より寄鷹衆はついで。若殿に無理矢理任せられただけよ...消えても問題は無い」
「たった二人でこの永遠亭を落とすと?」
「ふふっ...造作もない」
永琳はどこから取り出したのか、二本の長矢を片手に弓を構える。
「人間如きが永遠亭に挑んだこと、後悔させてあげる」
梟も大太刀を構え、お蝶はクナイを構える。
重篤患者室では多くのうさぎ達が避難していた。怪我するものはてゐの指示で応急手当をして永琳が来るまでまった。
「ふぅ、これでとりあえず血は止まるよ」
「ありがとうてゐ」
「動かないようにね」
てゐは立ち上がり他のうさぎ達の怪我を見ると同時に固く閉ざされた入口を見る。
「...無事でいてよ永琳」
庭では二人の忍びと弓を扱う薬師の激戦が繰り広げられていた。
永琳の放った矢は弾かれ折れても、刃の部分は移動をし続け二人の喉元を狙う。
忍達の攻撃はどこも隙もなく、梟は近接で仕掛け、お蝶は遠距離からクナイを投げる。
そしてお互いに攻守を切り替え、怪物達が集まる幻想郷でも実力はトップクラスの永琳と渡り合っていた。
「飛んだり跳ねたり面倒くさいわね」
最初こそ永琳は二本の矢の同時撃ちを使っていたが、当たらない、弾かれるの連続で苛ついているのか、今じゃ十本の矢を放ちしかも同時に操っている。
空中には何十もの矢が地面に落ちず二人を狙い、流石の熟練の忍といえどキツくなってきたのか、矢を撃たせないため二人同時に近接を仕掛ける。
お蝶はクナイを握りしめて連続攻撃を行うが、永琳は矢を剣のように扱い彼女の攻撃を全て完璧に弾く。
「ただの矢ではないな」
「私が作ったの。頑丈でしょ?」
すると今度は後ろから梟が回転しながら跳躍し、兜割り仕掛けるも今度は弓で渾身の一撃を防がれる。
二人も流石に片手で自分の攻撃を防がれるのは初めての経験であった。
「ふん!」
梟は地面に降りると、懐から掌に収まる程度の大きさのある丸薬を取り出し火をつけて投げる。
すると丸薬は緑色の煙を放ち、永琳の全身を包む。
「うっ...」
永琳は直ぐに手で鼻と口を覆うも、お蝶の踵落としが邪魔をする。
「ケホっ...」
「梟の毒煙はよく効くだろう」
すると永琳はその場で高く飛び上がり、三十はあろう矢を雨のように二人目掛けて降り注いだ。
しかし二人は直ぐに避けてクナイ、手裏剣をそれぞれ投げる。
永琳は首目掛けて飛んでくる武器を、脚で蹴って弾く。
そして着地すると梟は爆竹をばら撒き、お蝶は白く光るクナイを十本程用意。
「むん!」
「はあっ!」
梟は火のついた爆竹が爆発すると同時に大太刀で炎を纏って薙ぎ払い、お蝶の投げたクナイには白く光る蝶が金色の粉を散らしながら共に永琳に襲いかかる。
「っ!」
梟とお蝶も確かな手応えを感じ、永琳から距離を取って様子を伺う。
爆竹の煙が晴れると、そこには腹から血を出し、左腕には数本のクナイが刺さった永琳が立っていた。
流石の彼女も着地時を狙われた二人の大攻撃は防げなかったらしい。
「自分の血を見るのは久しぶりね。それに」
永琳は血が止まらない自分の傷を見て、冷静に分析していく。
「イチイ、クサノオウ、トリカブト...あぁ、これはヒガンバナかしら?それと既に採れない薬草や毒草もいくつか混ぜてるか」
お蝶は何を言っているか分からなかったが、梟は額から一滴の汗を垂らす。
「中々の調合ね。あの煙を吸えば常人なら一瞬で意識不明に陥るでしょう...この私でさえ再生能力が遅れるほどの劇毒...」
「.....」
今永琳が言っていたのは全て梟が調合した煙玉の材料であり、臭いを吸っただけで何が入っているかを全て言い当てたのだ。
これにはいつも無表情の梟も驚愕した。
「ふぅむ...『歪み』を使ったにも関わらず...毒煙を吸っても、我らの一撃を受けてもまだ生きるか」
「蓬莱人とやらを甘く見すぎたようだね」
「人でも妖でもない不死の種族か...ふむ」
すると梟は背中に隠しているある武器を取り出した。
「!それを...使うのかい?梟」
「尋常なる術でも死なぬならば、これの使い時よ」
梟が取り出したのは、禍々しい黒い気を放つ両刃の刀であった。
永琳はその武器を見た瞬間、脳が警告を出した。
あれに触れてはいけない
不老不死であるはずの永琳が何百年振りに感じた恐怖が、眼の前の敵の持つ刀から発せられる。
「若殿から預かった『黒の不死斬り』...これで貴様を斬る」
梟は黒の不死斬りを構え永琳に襲いかかると、彼女は不死斬りに触れぬよう攻撃を避けて距離を取る。
するとお蝶は指を鳴らし、辺りに武器を持つ煙で出来た人間を数人生み出す。
「我が幻で、惑え」
お蝶が作り出した煙の人は一斉に永琳に襲かかり、彼女を押さえつけようとする。
「邪魔っ!」
しかし永琳は矢を放ってお蝶の幻をすべて消していく。
すると煙は光り輝く蝶の群れとなり、再び彼女へと襲いかかった。
蝶は的確に永琳の傷口に当たって彼女に血を出させ、彼女の表情は苦痛に歪む。
すると眼の前に不死斬りを振り上げた梟が現れ、永琳は素早く矢を彼の額に突き刺した。
「ぐはっ...!」
梟は後ろに倒れ、永琳はお蝶の方を向く。
「あと一人...!」
お蝶は弓を構える永琳を見て、笑い出した。
「ククク...まだまだ子犬よ」
永琳はお蝶の笑いにある確認を忘れたことに気づく。
「しまった!」
永琳は直ぐ様倒した梟の死体を見ると、彼の体から大量の蝶が吹き出し永琳の視界を防ぐ。
そして次の瞬間、永琳の背中は死んだ筈の梟の持つ黒の不死斬りによって斬り裂かれた。
「ああっ!!」
流石の永琳もこれにはたまらず声を上げ、弓を落として床に座り込む。
「はぁ...はぁ...」
「お蝶は本物と区別がつかぬ幻を操る...流石の腕よな」
「ククク...惑うお前は見ものだった」
永琳は床に自分の大量の血が流れ、ある疑問だけが頭をよぎっていた。
(毒を吸っても、斬られても、クナイで刺されても、私の体は再生するはず...現に腹の傷は治ってきている。なのにあの刀で斬られた箇所は何故か再生しない...)
梟は血を流す永琳を見て、黒の不死斬りを改めて見つめる。
「纏い斬りでも倒れなかった此奴が、不死斬りで斬ればこうも効果があるか。何とも奇妙で魅力を持つ刀よ」
「赤よりも余程使い勝手の良い刀よな」
二人は永遠亭に入ろうとすると、床に矢が刺さる。
「はぁ...はぁ...姫の元へは行かせないわ」
「無駄だ。もう決着はついておる」
「まだ私は死んでないわよ!」
「いや、貴様の事ではない」
梟とお蝶が永琳の方を向くと、永遠亭の中から一人の男が現れた。
髪をまとめ、ボロボロの鎧の上に橙色の袴のようなものを羽織り、左手には謎の素材でできた義手を装着している。
梟が戦場で拾い、忍びとして育てられた『狼』である。
そして右手には、紅く怪しく光り、刃毀れが酷い太刀を持っていた。
「為したようじゃな、狼よ」
「.....」
永琳はその男の持っている太刀についた血を見て、目を見開き驚愕した。
永遠に忘れもせず、二度と見たくないと思った己の仕える主の血。
永琳は震えだし、息が荒くなり、声を荒らげてその男に問いただす。
「姫様に何をした!!!!」
永琳は銀色に光る矢を手から出すと、狼の額目掛けて放った。
銀の矢は複数に別れ百を超える矢となり、梟とお蝶は直ぐに跳躍して避ける。
すると狼は矢が当たるその時、義手から縄で縛ってある黒い羽の束を目の前に出すと、彼はその瞬間羽を残し消えた。
捕まえたと思うても、手には羽しか握られぬ。
忍具 霧がらすである。
狼は永琳の前まで移動すると、持っていた太刀で彼女の肩から腹まで斬り裂いた。
「姫...様」
永琳は自ら吹き出る血に視界が染まり、意識がそこで途絶え地面に力なく倒れた。
梟とお蝶を同時に相手してみたい。きっと楽しいぞ!(白目)