地球から遠く離れた天の川銀河中心部――。
「間もなく、大型輸送船二隻が中立地帯を出て来ます」
「全艦戦闘配置を維持したまま、警戒を怠るな」
主力戦艦ハルナ艦長葉山は、白い手袋をきつくはめ直し、緊張の面持ちで艦橋の士官たちの働きぶりを確かめた。そして、ちらと頭上に表示された大スクリーンに映るほんの目と鼻の先に陣取るボラー連邦艦隊の様子を確認した。
「くそっ。奴ら、中立地帯を出た瞬間を狙っているな」
葉山は、唇をかみしめた。
主力戦艦ハルナを旗艦とする地球連邦の艦隊は、戦艦一、空母一、駆逐艦六、特務艦二隻の小隊である。対して、ボラー連邦が派遣して来た艦隊は、三〇隻程確認出来る。数の上では、かなりの不利な状況である。
それぞれ、中立地帯の取り決めで中には一隻しか入れない為、やむを得ずその外側で待機していた。
ボラー連邦とガルマン帝国は、先のガトランティス戦争で多くの星々が被害を受けた。母星と先の政権を全て喪ったボラー連邦、かろうじて母星を守れたものの、前政権を担っていた殆どの人々が死亡したガルマン帝国。その政治的な空白を突いて勢力圏のあちこちで反乱が起こっていた。それを抑え込もうと、両国はあちこちで戦闘を行っており、内情はかなりの混乱状態だった。その煽りを受け、両国の各地で難民と化す人々が多数溢れていた。
デスラー総統がガルマン・ガトランティス戦争終結時に宣言したイスガルマン・ガミラス帝国は、両国と中立地帯を挟んだちょうど反対側に既に建国されていた。デスラーと共にいるマザーシャルバートの再来と呼ばれるようになったスターシャの存在は多くの人々にとって大きく、希望の地として難民が移住を求めて脱出しており、彼らの勢力圏もじわじわと広がっていた。
しかし、イスガルマン・ガミラス帝国は、ボラー連邦、ガルマン帝国両国との間で新たな戦争の火種となっていた。再び戦乱に巻き込まれる可能性を恐れた人々は、中立地帯に逃れ、全く別の国家への移住の可能性を探っていた。そこで手を挙げたのが地球連邦政府だった。地球連邦政府が難民受け入れを宣言したことは、彼ら脱出先を悩んでいた人々にとって渡りに船だった。遠く離れた地球連邦へ行くことに躊躇する者も当然多かった訳だが、結局両国から数千人規模の希望者が出たのである。
とはいえ、地球連邦艦隊も先のガトランティス戦争に参加したことにより、多くの艦艇や人員が傷を負った。多くの船は修理中であり、まだ多くの兵士たちが病院の世話になっている状況だ。難民を乗せた大型輸送船二隻を護衛する艦隊の派遣に、少数の護衛艦隊しか出せなかったのもまた事実である。
「全く……。中立地帯の惑星アマールへ軍を駐留させる話が済んでからやればいいものを」
葉山は、政府への不満を口にして、慌てて口をつぐんだ。船務科の女性士官が苦笑いですぐそこに立っていたのだ。
気を取り直した葉山は、全艦に向けて指示を出す為、マイクを掴んだ。
「奴らは、難民が国内から脱出する事を許さん気だ。輸送船二隻が中立地帯であるサイラム星系を出たところで、奴らは仕掛けてくる。カイパーベルト天体を抜けた宙域で我々は輸送船団を囲み、その後直ちにワープでここを脱出する。全艦にワープ準備を通達」
その時、航海長が葉山に声を掛けてきた。
「艦長、二隻の輸送船は数千人規模が乗員可能な超大型船です。ワープに入るまで、五分程度かかるはずです」
「そうだな。我々はその間、輸送船を守ってやる必要がある、ということだ」
そう言っている間にも、いよいよ輸送船二隻は星系を離脱する位置まで移動し、地球艦隊の待機する座標に接近していた。この星系を抜けた先こそ、ボラー連邦でも、ガルマン帝国でも、中立地帯でも無い無主宙域となる。つまり、ボラー連邦艦隊が仕掛けて来るまで、もうあと僅かということである。
「ボラー連邦艦隊、動き出しました! 敵艦隊は約三〇隻。空母から艦載機が発艦しています!」
「対空戦闘用意! 空母イズモは迎撃機を緊急発艦急げ! イージスシステムオンライン! ハルナは、波動防壁を直ちに展開して輸送船とボラー連邦艦隊の射線に位置取りしろ! 駆逐艦は、輸送船の周囲を取り囲め!」
「艦長! どちらの船の前に出ますか!?」
葉山は一瞬だけ躊躇した。一隻はボラー連邦の難民、もう一隻はガルマン帝国の難民である。それぞれ、二千名程度の民間人が乗っている。
先のガルマン・ガトランティス戦争で地球連邦はガルマン帝国と友好関係を築いた。今回の難民の輸送は、ガルマン帝国も許容したことを確認した上で実現している。しかし、ボラー連邦は、先の戦争協力をせずに早々に多国籍軍を離脱した経緯もあり、未だ友好関係を結べていなかった。
「……やむを得ん。ガルマン帝国の難民の船の前に行け」
ハルナ以外に、せめてもう一隻、波動防壁を展開できる艦が居れば……。
葉山は、苦渋の決断をするしかなかった。
「輸送船団に敵攻撃機接近中」
「戦闘機隊、直ちに迎撃!」
ボラー連邦の攻撃機に対して、イズモから発艦したコスモタイガーとコスモイーグルの群れが向かって行く。双方入り乱れての戦闘が始まった。
「戦闘機隊が撃ち漏らした敵攻撃機三機、ボラー連邦の難民輸送船に接近!」
「対空戦闘始め!」
各駆逐艦のパルスレーザー砲台と、イージスシステムと連動した迎撃ミサイルシステムが、次々にミサイルを放った。
「やりました! 三機とも撃墜!」
「よし! 敵艦隊はどうなっているか!?」
「敵、複数の駆逐艦、及び巡洋艦が高速に移動しつつ、我々を取り囲んでいます。間もなく射程圏内に入ります!」
「射程圏に入り次第、こちらも砲撃を開始しろ! 砲雷撃戦用意!」
ハルナの三連装のショックカノン砲台は、移動中の敵艦隊へ向け、自動照準で追尾しながら回頭した。輸送船の周囲に展開する駆逐艦も、同様に砲台が動いて照準を合わせている。
「うちーかた始め!」
「一番、二番、主砲連続斉射! 続いて艦首魚雷全門発射!」
双方の艦隊は、砲とミサイルでの攻撃を開始した。光跡が飛び交い、互いに被弾する艦もあった。
「駆逐艦ハルカゼ、及びアサカゼ被弾! 戦闘継続可能です!」
「こちらも敵、駆逐艦二隻に命中! いずれも損傷軽微と思われます」
「敵、攻撃機隊に突破されました! 五機が輸送船に飛来して来ます!」
「弾幕張れ! まだ輸送船はワープ出来んのか!?」
「あと一分かかります」
葉山の問い掛けに、無情にもまだ少し時間が掛かるという。一分という時間は、今この時、あまりにも長かった。
「全艦、これよりワープに備えて増速!」
「一〇時の方向が敵の包囲網が手薄です。そちらに一斉に向かいます!」
「実行しろ! 敵攻撃機はどうなっているか!?」
その頃、ボラー連邦艦隊の艦載機のうち一機が、弾幕をかいくぐって抱えていた対艦ミサイル四基を放っていた。反転して離脱しようとするその攻撃機は、その直後、駆逐艦から放たれた迎撃ミサイルによって、粉微塵にばらばらになった。
「ミサイル四基、ボラー連邦の難民輸送船に接近! たった今一基撃墜しました!」
「直ちにハルナをミサイルの前に出せ! 急げ!」
ハルナは、スラスターを噴射すると、急回頭してボラー連邦の難民輸送船の舷側へと接近した。
間一髪、ハルナの波動防壁に弾かれた対艦ミサイル二基はその場で爆発した。しかし、残り一基がすり抜けて後部に命中した。
「輸送船、後部機関室付近に被弾!」
葉山は歯を食いしばって確認した。
「損傷を報告しろ!」
「大丈夫です! 輸送船、持ち堪えています!」
「ワープは出来るか!?」
「行けます! 輸送船あと五秒でワープ! 四、三、ニ、一……」
輸送船二隻は、その瞬間、ワープして消えて行った。
「よし、航空隊を至急帰艦させろ! 帰艦次第、我々も直ちにワープ! 奴らを振り切るぞ!」
地球艦隊は、ワープに突入し、次々にその場から航跡を残して消滅して行った。
しばらくして――。
先程の戦闘から離脱した護衛艦隊と大型輸送船二隻は、ワープアウトすると直ぐにそれぞれの損傷確認を行った。
「駆逐艦四隻が被弾しましたが、いずれも損傷は軽微で、航行に支障ありません」
「被弾したボラー連邦難民の輸送船ですが、機関室にいた数名の機関科の乗組員が負傷しました。機関室内で火災が起きていましたが既に消火済みです。しかし、一部のエネルギー伝導管が火災で焼けてしまいました。現在バイパスするよう応急処置を施していますので、終わり次第発進可能です」
報告を聞いた葉山は、ほっと胸をなでおろしていた。
「良かった。思ったより大したことは無かったようだな。応急処置が済み次第、連続ワープでここを離れよう。早くしなければ、追手が来る可能性がある」
報告した技術科の士官は、神妙な表情で葉山を見つめている。
「な、何だ? まだ何かあるのか?」
「連続ワープですが……。あくまでも応急処置なので、あまり無理はさせられません」
「しかし……。この場に長く留まるのは危険だ。やるしかないのだが」
「もちろん、出来る限りの事はやっております。本来なら、完全にエンジンを閉塞して、牽引して行くのがベストなのですが……。超大型船なので牽引した状態でワープするのは不可能です」
葉山は、それを聞いてため息をつくしかなかった。
「で? いつ応急処置は終わる?」
「間もなく終わります」
「よし、次のワープの準備に入ろう」
葉山は、ふと思いついて地球連邦防衛軍本部へと連絡を取ることにした。
「念の為、難民ら乗員を移送可能な大型輸送船を用意しておいてもらおう。あまり不安定なら、乗り捨てて難民を移乗させる」
葉山は、不安を覚えつつ艦長席に戻ると、膝がかたかたと揺れた。
貧乏ゆすりが止まらんとは……。
葉山は、頬を叩いて、自身の意識をもう一度集中させた。
「よし、諸君。ワープの用意を始めてくれ」
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。